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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

vol.21 真のリンクスはアイルランドに在り。(前編)

毎年2月になると、もう何年も前に訪れたアイルランドの、真の“リンクス”ゴルフコースを想い出してしまう。

ダブリンを中心とする北アイルランドは、
80年代に起きた政治や宗教の衝突といった緊迫感を連想するが、
著名なリンクスコースが幾つも位置する南アイルランドに行くと、
全く違う国に来たような牧歌的でのどかな光景が広がっている。
ひと言で言うと、南アイルランドは“丘の国”である。
威厳を示す鋭角的な山岳や、鬱蒼(うっそう)とした深く怪しい森林などはまず存在しない。
穏やかで優しい表情の緑の丘がどこまでも続き、点在する農家や羊の群れに、
この地の無骨だが暖かい国民性がうまく溶け込んでいる。

緯度が50度から60度前後だから、北海道よりもずっと北に位置し、
季節にもよるが太陽は真上に上らず、日の出からカニのように横に動いていく。
もっとも快晴という日は少なく、雲も低く、時おり雨が降ってきたかと思うと、
まるでスプリンクラーのように地面を濡らしただけでさっと上ってしまう。
その短い雨は打ち水をした軒先のように緑と草花を生き生きとさせ、空には絵本の挿絵のような虹が頻繁に顔を出す。
そんな童話の世界に迷い込んだような景色を目にすると、今でも妖精が住むと言われる神秘性も、
決して観光目的の宣伝文句ではない“真実性”を感じさせてくれるのだ。


古今東西において、イングランドがその発祥の地だと言われているものが沢山ある。
ウイスキー、ギネスビール、ゴルフ、等々。
でも本当はアイルランドが最初なのに(という人が欧州には多い。真偽は不明)、
口の旨いイングランド人があたかも自分達が最初に作り上げたかのように一気に世界中にふれ回り、
お人好しのアイルランド人は「まあ、いいか」と笑っている…。
そんなアイルランド人を嘲笑するかのようなアイリッシュ・ジョークが欧州人は大好きだ。
しかし私が接したこの国の文化や国民性は、そんなジョークなど一笑に付してしまうほど奥の深いもので、
そして息が止まるほどの美しい景観は崇高に輝いていたのだった。
そして本題のゴルフは…。本当に息の根を止められかけたほど厳しいものであった。

まずはアイルランド屈指の名門、“バリバニオン・ゴルフコース”へと向った。
かつてトム・ワトソンが、全英オープンに出る前に必ず練習に立ち寄ったことで有名になったコースだ。
1番のティーグランドに立ってみると、何とコースの右側には広大な墓地が静かに毅然と広がり、
ティーグランドをやや見下ろす角度でゴルファーを威圧している。
アイルランドは年中どんよりした空が多いので、ホラー映画のオープニングのような雰囲気の中、
ケルト人魂を彷彿(ほうふつ)とさせる十字架と円形が組み合わさったデザインの墓石が数十、
いや数百と、海外から来た異邦人を睨みつけていた。ティーショットをスライスしてOBを打てば、
間違いなくその墓を直撃、国境や海峡を越えて孫の代まで祟られそうな気配であった。


しかし私を本当に苦しめたのは墓ではなく、噂どおりの“タフなラフ”だった。
ボールが落下した位置を肉眼で確認できたのに、その場所に行ってみると見つからない。
そして見つかっても、場所によってはヒザぐらいまであるラフからは、ウエッジで出すのが精一杯。
誰もが最初に考えるのは、残りの距離や狙う方向よりも、「空振りしないだろうか?」という恐怖心である。
スタートする前はあれほど広大に見えたコースが、ホールを重ねる度に狭く長いトンネルのように思えてくる。
フェアウエイ・キープの重要さを、身をもって教えられる。
そして風。地元出身のキャディは「今日は穏やかだよ」と笑っていたが、大西洋の骨太で荒々しい海風は、
カリフォルニアの温室ゴルファーの弱々しいボールを、容赦なくハザードへと招き入れる。

ティーアップする度に、土の違いを感じる。カリフォルニアとも日本とも違う土。
そう、軟らかいのだ。まるで粘土に差し込むように、ティーがズブッと地中に入る。
こういう地質だと、アイアンショットの際に土がバラバラにならず、きれいな楕円形のターフが取れる。
よくワラジのようなターフと云うが、拾ってディポットに戻す度に、
青ノリをふりかけた少し小さめのお好み焼きを私は連想していた。
緑の芝と茶色い土の部分がそっくり! 
マイホームタウン・大阪への郷愁が胸中を駆け巡り、
子供の頃に通った近所のお好み焼き屋のおばちゃんの顔が浮かぶ。
『前略 おばちゃん、お元気ですか?僕は今、
ヨーロッパの最果ての地で真のリンクスと戦っています』と私はターフを拾い上げながら、
大阪に繋がる東の空を見上げていた。

強烈なラフ、荒々しい海風、感じたことのない土…。
激しいゴルフ・カルチャーショックを受けながらも、何とか18ホールを終えた私は、
ぐったりとしながらも不思議と爽やかな気分だった。妖精が住むと言われるアイルランド。
多くのゴルファー妖精たちが(本当に居るなら是非会いたい!)、ちょっと厳しく、
でもやっぱりアイルランドらしく温かく迎えてくれたのかもしれない。
明日はまた別のリンクスへの挑戦が続く。
気持ちが高揚しているのか、ホテルのバーでアイルランド名物のギネスビールを何杯飲んでも、
私には全く眠気が訪れなかった。(以下、後編に続く)

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