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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

vol.22 真のリンクスはアイルランドに在り。(後編)

前編のあらすじ: 毎年この時期なると、真のリンクスを味あわせてくれたアイルランドのゴルフ旅行を想い出す。古い記憶を呼び起こし、アイルランド・リンクスの素晴らしさを改めてお伝えすることにする。初日は名門、バリバニオン・ゴルフコースの強烈な先制パンチを受けて、ぐったりとしながらも爽快感を味わった私は、翌日もまた次の“名門リンクス”へと向った。

2日目は、アーノルド・パーマーの設計による“トラリー・ゴルフコース”を訪れた。
前日のバリバニオンが、伝統と重厚さを感じさせる男性的なコースとすれば、
このトラリーは少し明るい女性的な印象を与えてくれる。
しかしそれは決して易しいコースという意味ではない。
相変わらずヒザあたりまである深いラフ、そして昨日以上に力強い海風は健在で、
私が女性的と感じたのは視覚的な要素によるものだろう。
以前、某社のゴルフクラブCMでも使用されたこのコースは、
独特の白く背の高い草が風になびいて常に美しく舞っており、
そして横には石を積み上げただけの、牧場のサイロのような可愛らしい建物が点在していた。
しかし海のほうへ目を向けると、見事に『青い海、黒茶色の崖・緑の芝生』の3層で区切られた、
力強い“色”のコントラストである。
『断崖絶壁とゴルフコースは、
意外ときれいにマッチするコンビネーション』と少し驚かされたことをよく覚えている。
白昼夢へと誘(いざな)う、恍惚の絶景である。


そして昨日のバリバニオンもこのトラリーも共通している点は、
そのラフの放置ぶりとは対照的に、見事に整備されているグリーン・コンディションである。
昔の日本のゴルフコースで、豪華なクラブハウスを構えながら、
ゴルフで最も重要な場所の一つであるグリーンの手入れを怠っているコースを何度か目にした。
グリーンはその維持に高い技術と経験が必要で、短期で簡単に状態を改善したりできる場所ではない。
一方で、付帯施設は質素な快適さを維持しながら、
グリーンの状態が素晴らしいゴルフコースに行くと、
そのオーナーや経営者の“ゴルフ好き具合”が見えてきて、思わず嬉しい気持ちになってしまう。
そしてこの日も、ゴルフの本当の面白さを無言で伝授してくれるグリーンに立ち、
その完璧なコンディションを見た時に私は思わず一人で微笑んでいたのだった。
しかし、スリーパットをしてすぐに鬼のような形相になった。

プレーしながら常に吹いてくる強い海風。昨日18ホール、
そして今日の前半9ホールを終え、その頃まではその風が嫌で仕方なかった。
風も計算に入れ、自分で完璧だと思ったティーショットが、
その計算以上の風で一気にフェアウエイからラフへとボールを吹き飛ばすのだ。
そりゃあ、嫌な気分にもなるというもの。
それが毎ホール続くのだから。ところが不思議なもので、27ホールも終えると、
ずっと吹いている風にもさすがに慣れてくる。
そして最後の9ホールは自分なりにかなりの好プレーができた。
人間って、いやゴルファーって不思議な感情を持っている。
さっきまであれほど嫌だった風が、自分の狙ったとおりの風の道にうまく乗せられると、
まるで自分の仲間のように思えてくるのだ
(たまたまこの日だけで、また次回は痛めつけられると思うが…)。
厳しい状況を克服してうまく融合できた時の達成感は、
言葉にできないほどの快感が背中を走るような錯覚を覚える。
いつもは冷たい態度の美女やクールガイが、珍しく自分の眼を見て微笑んでくれた時のように。


2泊3日のアイルランド・ゴルフ紀行を終え、私はロンドンへ移動する片田舎の空港で、
すっかり好物になったギネスビール(本当にアイルランドのどこに行っても旨い)で喉を潤していた。
確かにタフなリンクスは心身ともに私をぐったりとさせたが、同時に妙な清々しさも感じていた。
それは単に異国での旅情が生んだ観光気分だろうか? 
いや、そうは想わない。
リンクスは確かに厳しいが、同時にあれほど、本当の自然の力を感じさせてくれる場所はないと思う。
空も海も、風も土も… 今回のゴルフ場で接したすべてが、
自分を大きく包んでくれているような気持ちにさせてくれたのだ。
基本は厳しく。時に優しく。
イングランドがゴルフの父なら、アイルランドはゴルフの母か…。 
ではアメリカは? もちろん、ゴルフのプロデューサー。
儲けたり、流行らせたりすることが上手い!

忘れもしない光景は、2日目のトラリーでのプレーを終えた直後。
その日の午後もどんよりとして、確か小雨が降っていた。
あれ程ゴルフが好きで、それこそ毎日でもゴルフがしたいと思っていたはずなのに、
たった36ホールでその厳しさに疲れ果てクラブハウスに戻ってきた私の横を、
おそらく友人同士と思われる地元の初老ゴルファーが笑いながら、
暗くなり始めた空と強風の中をスタートしていった。
晴天微風を常とするカリフォルニアのゴルファーと、
苛酷な天候と厳しいラフでのプレーに楽しさを確立しているアイルランドのゴルファーの間に、
相関性を探すことは無意味である。
しかしゴルファーである限り、ゴルフが自然と闘うスポーツであることに同意し、
全身でその本物の自然の力強さを感じながらのゴルフを一度経験したければ、
迷わず南アイルランドへの旅をお勧めしたい。
妖精と、ギネスビールと、そして自然界に一歩近づける真のリンクスゴルフが、
初日から常連客を迎えるように温かく歓迎してくれるだろう。

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