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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

Vol. 28 ゴルフと○○、どちらが大事?

ゴルフと家庭はどちらが大事でしょうか?

「そりゃあもちろん家庭でしょ。自分にとってかけがえのないものです。」とおっしゃる、
そこのお兄様。確かに家族は何にも代え難い大切な存在ですよね。
でも… 家庭を失っても平気に、いや逆に喜んで、
いやいや、とにかく立派に生きておられる方は沢山存じておりますが、
普通にゴルフができる体なのにプレー不可能な環境下におかれた方は、
皆さんほとんど死人のようになっていますね。
例えば、夏のごく短い間しかプレーできない地域へ転勤を命じられた、ゴルフ狂の殿方。
本当にお気の毒です。そういう意味では、一部の熱狂的なゴルファーに関しては、
ゴルフは家庭より大事かもしれません。

では、ゴルフと花嫁はどちらが大事でしょうか?

「そりゃあ花嫁に決っているだろう。新婚時代は誰でも自分の嫁が世界で一番可愛く見えるもんだよ。
しかも花嫁だから結婚式の時だろう。さすがのゴルフ狂いもその時だけは別だな。」とおっしゃる、
そこのおじ様。いやいや、世の中は広い。
スコットランドのモンテローズ侯爵の話を聞けば、果たしてゴルフと花嫁、
本当にどちらが大事なのか分らなくなってきますよ。
軍人であり、詩人であり、そして何より熱狂的なゴルファーであった、モンテローズ侯爵。
ゴルフ史に残る伝説的な出来事は、自分の結婚式を翌日に控えた、
親族だけの祝賀パーティから始まりました。
以下は1629年に実際にあった出来事に、筆者が推測で2割だけ加筆した、
セミ・ノンフィクション(?)物語です。


「おー、ポール、おめでとう~」近寄ってきた叔父のジョンは、
すでにかなりの量のワインを飲み、完全にデキあがっていた。
「いやあ、この前までよちよち歩きをしていたお前がもう結婚とはな…俺も本当に嬉しいよ。」
叔父から祝いの盃を勧められた若き新郎のポール・モンテローズ侯爵は、
「おじさん、有り難う。ところでゴルフの調子はどう?」二人は共に大のゴルフ好きだった。
「いやあ、最近はあまり行ってないな…でも今年の春からドライバーの調子が良くてね。
知ってるだろ、ライトハウス・カントリークラブの8番、距離の長いパー4。
昨日はあそこで、セカンドが残り100ヤードだったよ、フフフ…」とジョンが言うと、“
何だ、すごく最近に行ってるじゃねェか!”とポールは腹の中で叫びながら、
「へえ、あそこで残り100ってことは、300ヤード以上も飛んでいることになるよ。
そんなバカな、この17世紀に…タイガー・ウッズの登場にはまだ300年ほど早いよ。」と、
ポールは叔父の発言を全く信用しなかった。

「ウン?するとお前は何かい、俺がウソをついているというのか?」
目が据わって反論してくるジョンに、
「いや、ウソとは言わないけど、何かの間違いじゃない?…」とポールは軽く流したつもりだったが、
「冗談じゃない!」と興奮したジョンは、右手のワイングラスから中味をこぼしながら叫んだ。
「よし、お前とは前から一度、本気の勝負をしようと思っていたんだ。
明日やろう。俺には絶対に勝てないことを、お前の眼に焼き付けてやる!」というジョンに、
「バカなことを言わないでよ。明日は僕の結婚式ですよ。」とポールがあきれると、
「まあ確かに親戚も集まっているから、最初から居ないのはまずいな。
えーと…乾杯の後に弟、つまりお前の親父の挨拶がある。それを終えたら“ちょっと腹が痛くなった、部屋で少し横になる”と言って会場を抜け出せ。
同じタイミングで俺も出る。その30分後、ライトハウス・カントリークラブの1番ティーグラウンドに集合。
分ったな。来なければ、お前は永遠に敗者ゴルファーとしてらく印を押されるぞ。」
その捨てゼリフが、ポールのゴルファー魂に火を点けてしまった。

翌日、祝宴の真っ最中に突然の腹痛を訴えた花婿を心配する花嫁に、
ポールは「大丈夫だ、すぐ戻る。」と微笑み、トイレに行くふりをして外に出ると、
馬にまたがりゴルフコースへ一直線。
そして既に到着していたジョンが待つ1番ホールに着くと、
何と礼服のままでティーアップしたという。
そして二人の熱戦は日没まで続き、全くのイーブンで決着がつかなかった。
「叔父さん、こうなったら明日もつきあってもらうよ。」
すっかりゴルファーとしての闘争本能に火が点いたポールが言うと、
「おー、もちろんだ。明日こそ叩きのめしてやる。」と、若者に体力では劣るが、
技術で対等の結果を出しているジョンも眼がギラついている。
二人は召使に運ばせた料理を存分に食べ、ワインをたっぷり飲むと、
コース近くの山小屋で夜明けまでの仮眠を取った。

そして翌日は夜明けから日没まで一日中の大勝負。しかしまた引き分けに終わった。
その日は二人とも自分の城から召使いを20名ほど呼び、
1番ホールの横に仮説テントを建てさせ、睡眠や休憩に使えるようにした。
次にグルメのジョンは、自分の料理人5名をそのテントに待機させ、
二人が食事したい時にいつでも暖かい料理が出せるようにした。
そしてジョンとポールの二人は合計3日間、夜明けと共にゴルフを始め、
腹が減ると料理人に食事を作らせ、日没まで“ゴルフだけ”をしたのだ。
そしてその頃、新郎の家では一人ぼっちの哀れな新婦が、
シーツの端を噛みながら涙で枕を濡らしていたのであった。
結婚して3日が経過。しかし、披露宴の最中に姿を消した夫はいまだ戻らず… 


補足しますが、モンテローズ侯爵はスコットランドの歴史に残る勇敢な武将であり、
自然を描写する表現力に優れた詩人でもありました。
しかし常に革新的な態度と言動を発した彼は、それを煙たく思った当時の国王に、
まだ38歳という若さで処刑されてしまいます。
しかし、結婚式の途中から3日間も放置されたその妻も、
モンテローズ侯爵に勝るとも劣らない悲劇のヒロインでしょう。
ご夫婦揃って誠にご愁傷さまでした。

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