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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

Vol. 39 ゴルフの恨みは百年消えぬ。

これはスコットランドに伝わる格言で、この世に『恨み』は数多くあれども、
ゴルフの恨みが最もタチが悪く、何ともしぶといことに百年も消えないそうな。
日頃は仲のいい友人が、何故かゴルフになると険悪な雰囲気になり、
プレー中に発した他愛ないひと言から大喧嘩に発展し、絶交状態に陥った
ゴルファーを私も知っています。

一部のゴルファーは、同伴者のプレーを評価することが大好きです。
決して悪意は無いのでしょうが、パットがショートしたら「打ってない」、
大きくオーバーすると「それは強い」、短いパーパットを外すと「あーもったい無い」…  
大きなお世話ですよね!!!!! 誰が解説を頼んだ! 
わざわざそんなこと言われなくても、自分が一番分っているよ!!!

フー… 失礼しました。思わず興奮して血糖値が上ってしまいました。
私はそれらの発言に言い返したことはないですが、
腹の中では『イチイチうるさいヤツだな』と思ったことが何度かあります。
だから、(特にひと言多いと言われる御仁は)ご注意あそばせ。
悪気はなくとも、それどころか慰めたつもりでも、相手はそのひと言を
何年も根に持っているかもしれませんよ。

さて、私はその『ゴルフの恨みは百年消えぬ』の続編に、
『ゴルフの恥も百年消えぬ』を付け加えたいと思います。

ゴルフの世界で一度恥をかくと、百年(?)近くも繰り返してネタにされるので、
重ねてご注意を。
その恥とは、ひどいスコアだったとかOBを何発も打ったとか、そういう類いではありません。
それらは何も恥ではありません。
誰もが経験する『はしか』みたいなものですから。
今回お話しする恥とは、ゴルファーとして人間として許されない行為のことです。

これは今から二十年ほど前に日本で実際に起きた話です。
ある業界では、関連企業が百社近くも参加する大きなトーナメントが年に一度あり、
各社の社長はその日に向けて特訓し、自慢の腕を競うことで有名でした。
そしてA社のA社長は業界内でも有名なローハンディの実力者。
業界全体が注目するこのトーナメントで、ぶざまな大叩きはその強烈なプライドが絶対に許しません。

トーナメント当日のAさんは、いつものようにショット・パッティング共に素晴らしく、
前半9ホールを終えた昼食時のレストランでは、恒例の儀式のように参加者が
Aさんのスコアを尋ねに集まってきます。
「おっ!さすがAさん、また今日もべスグロ優勝だな」と、スコアカードを覗いた
皆から誉められ、ご本人も注目されているという優越感でご満悦の表情です。

そして後半も絶好調が続き、あるパー3ホールにやって来ました。
距離は短いのですが、かなりの打ち上げでグリーンが全く見えません。
ピンフラッグの先端が見えているだけです。
風を確認したAさんがショートアイアンできれいに振りぬくと、
ボールは青い空に美しい弾道を描き、ピン目指して一直線。
「これはナイスオンだ」と同伴者たちも賞賛しています。
そして全員が打ち終わると、Aさんは意気揚々と歩き出しましたが、
グリーンに到着した途端に唖然としました。
グリーン上に一つもボールが乗っていないのです。

「おかしい。ピンに絡んだと思ったのに…」
Aさんはそう呟くと、グリーン奥のラフや周りのバンカーでボールを探し始めました。
同伴者たちも一緒に探しました。
しかし何故かどこにも無い。
ルール上で認められている時間を過ぎても、「絶対にあるはずだ」とまだAさんは探しています。
同伴者が『確かに不思議だけど、ロストボールだからもうあきらめたほうが…』と
少し冷やかに思い始めた時、「なんだ、こんなところにあった」とAさんが声を上げました。

そこはグリーン奥のラフで、「いやあ、芝に埋もれていたから分らなかったよ」と
Aさんは笑いながら、早速アプローチに入ろうとしています。
そしてウエッジで見事にOKの距離に寄せました。
「うまい!」と声を上げた一人が、カップに近寄ってピンを抜こうとすると、
「あれ?」と叫んでカップの中を覗きこみました。
何とそこにはボールが一個入っていたのです。
そしてそのボールを拾い上げてみると、今日これまで何度も目にした、
Aさんのマークが記されていました。

Aさんと同伴者全員はすぐに状況を理解しました。
先程のAさんのティーショットは、見事なホールインワンだったのです。
だから当然グリーンに無かった。
するとAさんがアプローチしたボールは… 
ゴルフでは『卵を産む』という言われ方をしますが、ロストボールやOBだった時に、
周りに気付かれないようにそっとポケットからボールを落とし、「ここに有ったよ!」と
ごまかす不届きなゴルファーがいます。
そしてAさんも魔がさしたのか常習者なのか、ラフで卵を産み落とし、それがバレたのでした。
生涯の記念になるホールインワンだったのに、一転してこれまでの名声を
全て失う大恥をかいたのです。

その話は、あっという間にその業界内に知れわたりました。
それ以来Aさんをゴルフに誘う人は激減し、彼は信用に値しないとして仕事にも悪影響を与え、
それだけが原因とは思えませんが、数年後に転職して家族と地方へ引っ越していきました。
ゴルフの恥は怖いですね。
その出来事からもう数十年も経っているのに、いまだに私がコラムのネタにしているぐらいですから。
ゴルフの罪に時効は無いのでしょうか。

現在の米国PGAトッププレイヤーの一人に、若い頃にアジアツアーで
スコアをごまかしてそれが発覚し、長年にわたり後ろ指を差された選手がいます。
今でこそ尊敬に値する一人に挙げられますが、たった一度の過ちで何十年も
『スコアをごまかすヤツ』の烙印を押され、とても辛い経験だったようです。
もちろんスコア詐称に同情の余地は無いのですが。

ゴルフの恨み、恥、それらはスコアに固執しすぎるために生れる、
ゴルファー特有の煩悩であり、人間が本来持つ弱さなのでしょうか。
ゴルフとは、自分の人間性と対峙して自分の器の大きさを計測され、それを他人の前で
告知されるという、背筋がゾクっとするような恐ろしいゲームなのかもしれませんね。

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