CGアートディレクター / 中島聖

ライトハウス電子版アプリ、始めました

夢を実現するには、とにかくやってみることアメリカでは失敗を恐れる必要はありませんから

ハリウッドの老舗CG映像制作会社Rhythm & Hues Studios(R & H)に入り、200人ものスタッフを従え、社内でも数少ないアートディレクターの1人として活躍する中島さん。コンピューターを駆使する技術者が多い中、手描きのデザイン能力を発揮してきた。コカコーラのシロクマ、Geicoのトカゲ、映画『ALVIN』のシマリスなど、彼の手がけるキャラクターは、世界中の人が目にする作品も多い。これまでの軌跡から、ハリウッドのエンタメ業界の第一線で活躍する日本人として、その展望までを聞いた。

アメリカに来て発見するアートの魅力、日米の違い

トカゲに似た社名に合うものをという要望で考案したGeicoのキャラクターは、今もCMで健在

アートへの関心は幼少の頃からありました。オモチャを買ってもらえなかったので、レゴや粘土でいつも遊んでいました。作り出したら止まらないという子供でした。画家である父からは「絵は教わるものではない」と言われ、絵画のクラスなどは一切取らせてもらえませんでした。

 

見聞を広めるためと、親の知人のすすめで日本の高校を卒業後、私立のオーハイ・バレー高校に編入しました。英語は得意ではなかったので、最初は本当に大変でしたが、美術の担当教師にアート方面に行った方が良いとすすめられ、自分自身もアートの楽しさを知ることができました。日本とは違い、自由な発想を評価してくれるところが気に入りました。

 

その後、オレゴンのカレッジに半年くらい通って経済や法律を勉強しましたが、「ここは自分の土俵ではない」と気付いて。本当に自分のやりたいことを考えようと、しばらく休学して2カ月部屋にこもっていました。その間に、自分の感情を表現する手段として絵を描いていたんですね。自分の進む道はこれだと確信し、美術系の学校に入ることに。自分の作品を車に積み込み、30時間ドライブをして、ロサンゼルスの学校に乗り込んで交渉。英語の力は足りませんでしたが、やる気が認められ、入学が許可されました。

 

学校では2年生で専攻分野を学びます。僕は人物画のコースの多いイラストレーションを専攻しました。そして、卒業制作に描いた女性画の評価がとても良かったので、「これで食べていこう」と決心しました。そうは言っても、絵描きとして突然生活ができるわけではありません。悩んだ末、絵を描いて仕事になるのはアニメーションしかないとスタジオを探すことに。名刺をもらっていた教授の勤めるCG映像制作会社R & Hを訪ねてみました。その時に持参したのは、普段使っているスケッチブックだけ。独り言のようなメモ書きを見て、「これがいいんだ。人間性が見える」と雇ってもらえることになりました。

 

最初の見習い期間で基本をみっちり学びました。今はすべてデジタルですが、当時は手描きの部分も多く、線の決め方にしても日本とアプローチが違うのに戸惑いました。何となく柔らかく、といった表現ではダメ。アメリカでは、はっきりしないといけないんです。

キャラクターは交渉の末に誕生するもの

ところが見習いの3カ月が経ち、これからという時に僕を含むアート部門の全員がレイオフされたんです。路頭に迷いましたが、就職先を探し、ドリームワークスで雇ってもらうことに。ジュラシックパークの新作ゲームのデザインチームに入ったのですが、その仕事が軌道に乗ったところで、R & Hから再雇用されることになりました。

戻ってみると、デザイン担当は僕だけ。すべての仕事を1人でこなさなければならなくなりました。しかし、クビを切られたことがトラウマになってしまい、次は切られないようにと、がむしゃらに働きました。そのうち、ディズニーランドからキャラクターデザインの仕事が来て。ピクサー映画『a bug’s life』をモチーフにしたアトラクションのテーマパークを作るというのです。それが、キャラクターデザインの面白さを知るきっかけとなりました。

キャラクターを決める前に、まず脚本を全部読んでキャラクターをイメージするんです。脚本家やほかのスタッフたちもイメージを持っているので、みんなで話し合い、1つにしていきます。僕の場合は、アニメーションに使うキャラクターをデザインするのですが、例えば、『The Incredible Hulk』などは、元になるマンガが立体で描かれているので楽。ですが、線画で描かれた『Garfield』のような昔のコミックはCGに起こしていくのが大変です。

キャラクターデザインの仕事は、もう10年になります。CMでは自動車保険のGeicoのトカゲやKernsネクタージュースに付いているハチドリ、COXケーブルのマックスなどを手がけました。非常に有名になるものもありますし、逆に一生懸命作っても、クライアントさんに気に入ってもらえない場合もあります。

失敗を恐れていては誰も道を譲ってくれない

シマリス3兄弟を描いた『ALVIN』は、2009年末に第2弾公開予定

映画では『The Flintstones』や『Dr. Seuss’ Cat in the Hat』の中に出てくる魚のキャラクターなど。『THE MUMMY: Tomb of the Dragon Emperor』に登場する竜も作りました。また、シマリス3兄弟が登場する映画『ALVIN』は、昔の線画のアニメがあるのですが、あのキャラクターを再び蘇らせたいという作者の希望でCG化しました。

 

例えば、昔なら生きたネズミを目の前においてスケッチするところを、今は写真を撮って画面上で加工するんです。絵心があると強みになりますね。話し合いの時も、その場でデッサンを描いて決めていくことができます。

 

僕の関わるスタッフは、CMで20~30人、映画で200人くらい。作品を通して定期的にチェックし、指示を出します。実際、CGの作業は数学的な世界。そこに僕のようなアート系が入っていくことで、バランスが取れていくようです。アートディレクターは社内で4人。僕が1番若く、もちろん日本人は1人です。英語もできなかった自分が、こうしてこちらでやっていることが不思議ですね。ただ、僕は頑固なんです。諦めない。目の前にハードルがあったら、飛ばないと気が済まないんです。

 

これからもっと日本人としての感性を伝えたい。一昨年前、アメリカのロックを題材にしたゲーム『GUITAR HERO』の広告ディレクターをした時に、日本的なカッコ良さを伝えようと思ったんです。日本人の感覚からいうと、こちらのキャラクターは決めポーズが甘い。そこを主張したところ、そのモデルとなった元Guns N’ Rosesのスラッシュさんも気に入ってくれて。ツアー用のバスにポスターを貼ってくれています。アメリカがすごいなと思うのは、自分が正しいと思ったら正面からぶつかっていけるところ。これからも、自分がいいと思うものを世界の人がわかるように解釈して、きちんと伝えていきたいですね。

 

夢を実現するには、とにかくやってみること。目の前にあることをやってみる。その後は、それから考えればいいんです。日本社会は失敗を許さないところがありますが、アメリカでは失敗を恐れていては誰も道を譲ってくれません。自分を主張していくことに気後れする必要はありません。これから世界はもっとグローバルになっていくので、僕たちのような文化の違った人たちのアイデアが重要になっていくのではないかと思います。

なかしま・せい●1970年東京生まれ。日本の高校卒業後に渡米、オーハイ・バレー高校に編入する。オレゴン州のカレッジを経てロサンゼルスのデザイン学校Otis College of Art and Designでイラストレーションを専攻。95年Rhythm & Hues Studiosに就職、現在アートディレクターを務める。映画などのエフェクトデザイン、プロダクションデザインやキャラクターデザインを担当。ディズニー映画『a bug’s life』をモチーフにしたカリフォルニアアドベンチャーパークのアトラクションのキャラクターもすべてデザインした。
 
(2009年1月1日号掲載)

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