タロウ・ソリジャ(Taro Zorrilla) / アーティスト・建築家

ライトハウス電子版アプリ、始めました

アートは新しい価値観を感じられる場所

全米日系人博物館で現在開催中の「トランスパシフィック・ボーダーランド:リマ、ロサンゼルス、メキシコシティー、サンパウロにおける日系ディアスポラのアート」展。招待作家の一人で、メキシコの日系二世であるタロウ・ソリジャさんにお話をうかがいました。
(2017年11月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

タロウ・ソリジャ◎1980年、メキシコ・メキシコシティー生まれの日系二世。建築作品に在メキシコ日本国大使館広報文化センターなど。写真集『きおくのなかのくに』(はぎのみほとの共著)を近日刊行。https://tarozorrilla.wordpress. com/japanese

―ご自身について教えてください。

タロウ・ソリジャさん(以下、タロウ・ソリジャ):僕はメキシコシティー生まれの日系二世です。8歳の時にメキシコ人の父が交通事故で他界し、日本人の母に育てられました。メキシコの日本人学校に通った後、中学2年生の途中からアメリカンスクールに進学し、大学は早稲田大学理工学部で建築を学びました。知識としてしか知らなかった日本に住んでみたかったのです。卒業後はメキシコに帰国し、建築事務所で建築家として働き始めました。

―今回の展覧会に展示されているメキシコ移民をテーマにした作品「DREAM HOUSE」は2007年「リスボン建築トリエンナーレ」にメキシコ代表として出品されました。

タロウ・ソリジャ:メキシコの田舎をドライブしていると、何もない荒野や平屋ばかりの村に突然アメリカ風の家が次々と現れるのです。その異様な風景に惹かれて人に聞いたら「アメリカに行った移民が故郷の家族のために建てた家だよ」と。なぜあんな家を建てるのだろうと興味を持ち、そうした家に住む人々に話を聞きビデオに撮り始めて、メキシコ人が移住する理由に「家を建てる」という行為が共通してあることに気付いたのです。彼らが思い描くのは「故郷に残した家族に良い暮らしをさせたい」という夢。でも多くは不法移民で自由に国境を行き来できないので、アメリカで見て憧れたアメリカ風の家を家族のために建てようと、稼いだお金や資材と一緒に、家の写真が載った雑誌の切り抜きなどを故郷に送るのです。それで次々とそんな家が建つ。でも残された家族にはシャワーや便座など家の使い方が分からないから、その中で昔ながらのメキシコ風の生活が行われる。しかも残された家族もやがてアメリカに移住したりして多くの家が空き家になります。皆「自分の家を建てたい」という欲求で建てるので、空き家があっても他人の家に住みたいわけじゃない。それでがらんどうの家がいくつも村に残っていくのです。それなら「そもそも人はなぜ家を建てるんだろう?」。そういう問いかけがこの作品にあります。

―その作品を作る中で日系移民の子どもという自身のルーツを考えることはありましたか。

タロウ・ソリジャ:直接的にはなかったですが、人が移民した時に何を思うかというところは強く共感しました。僕はパスポートがあって自由に移動できるけど、不法移民である彼らはできない。その中で抱える強い気持ちがこのような家を作っていくのです。ポリティカルコレクトネスを求められる現代社会では、「自分の家がほしい」という自己中心的な欲望は隠されています。でもそれが移民をはじめとする「行動の原動力」になっていることを再認識してもよいと信じています。

―移民ということでは、まもなく日系メキシコ人111人にインタビューをした写真集『きおくのなかのくに』が出版されますね。

タロウ・ソリジャ:このプロジェクトは最初「プロジェクト・ハポン」という名前でした。メキシコでは時に驚くほど礼儀正しい、昔ながらの日本的なふるまいやアイデンティティーを保つ日系人に出会います。彼らにインタビューをしたいと思ったのがプロジェクトのきっかけでした。しかし彼らは必ずしもビジネス的に成功した人だけではありません。ですからパワーゲーム的な一面のある日系社会から彼らはだんだん離れていき、その姿は見えにくくなる。僕は、よく話されるような移民の成功物語ばかりじゃなくて、そういう日系人の価値観もすごく大切だと感じ、彼らの考え方を次世代へ伝えるべきだと思ったのです。それでメキシコ全土に行って、電話帳で日系の苗字を探し、突撃インタビューを行ない、合計で111人の日系メキシコ人にお話をうかがいました。でも彼らが話す母国の話を聞いているうちに、本当に日本の話をしているのか、メキシコの話をしているのか、それともどこにも存在しない国のことを話しているのか、彼らの中には境界線がないと気付いたのです。それで最終的に彼らの話す「母国」はどこか実在する国に結びつくものではないと、本の中からは国の名前を消し、個人の名誉よりも集団としての名誉に着目するためあえて人の名前も隠し、「きおくのなかのくに」というタイトルにしました。僕たちの世代はまだ日系のアイデンティティーがあります。でも次の世代には、より多様な人種や民族が混じっていきます。その時にはどこか実在する国の価値観で物事を判断するのでなく、いろいろな国の価値観が共有できる場所を見つけて暮らしていかなくてはならない。アートはそういう新しい価値観を感じたり、客観的に見たりできる場ですし、特に現代アートというのは美学的なものからそれて、物事の成り立ちや本質に近付こうとするものだと考えています。この「DREAM HOUSE」もそういう根源的なものが見られる一つのケースです。ぜひ見に来てください。

「トランスパシフィックボーダーランド」展

ペルー、ロサンゼルス、メキシコ、ブラジルの日系ラティーノ&日系ラテンアメリカ人のアートを紹介する展覧会。

会期:~2/25/2018(日)
場所:Japanese American National Museum(100 N.Central Ave.,Los Angeles)
Taro Zorrillaアーティスト、建築家タロウ・ソリジャアートは新しい価値観を感じられる場所

※このページは「2017年11月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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