アメリカでの老後生活

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上手に貯金し、賢く投資をすることで、老後にゆとりある生活を送ることができます。今回は、退職後の生活費の捻出方法について紹介します。

ソーシャルセキュリティー

アメリカで10年以上働いている場合、ソーシャルセキュリティー(アメリカの年金)の受給資格があります。給与の額面6.2%のソーシャルセキュリティーを、従業員と雇用主がそれぞれ納め、一般的なアメリカ人は退職までに総額20万ドル程度を納めます。ソーシャルセキュリティー受給額の計算方法は、次の手順で算出されます。
 
1.AIME (Average Indexed Monthly Earnings:平均標準報酬月額)
これまで受け取った給与金額の、高い方から順に過去35年分の総額を算出し、420カ月(35年×12か月)で割って月平均を算出します。35年間のうち、納めていない期間は0として平均値を算出します。
 
2.PIA (Primary Insurance Amount:基礎年金給付額)
AIMEの数値を3分割します。その数値は年によって異なり、毎年62歳を迎える方のために設定されています。2014年は①826ドル以下②826から4980ドル③4980ドル以上という分類になります。AIMEが6000ドルの場合は、①826ドル②4154ドル③1020ドルと3分割します。それに対して①90%②32%③15%を掛け合わせた数字がPIAです。①826ドル×90%=743.4ドル②4154ドル×32%=1329.28ドル③1020ドル×15%=153ドルで総額2225.68ドルです(①〜③はそれぞれ国が決めた数字)。
 
3.FRA (Full Retirement Age:満額支給年齢)
満額支給年齢は、生年月日で決まります。2014年に62歳になる方は、4年後の66歳から、PIAで算出した100%の2225.68ドルを受給開始できます。

貯蓄総額30万ドル以上の運用

退職金と貯蓄総額が、30万ドルのときの運用方法を紹介します。
 
[例1]30万ドルを有価証券に投資した場合、現在のS&P500の平均利回りは、14年11月では1.91%なので、毎年5730ドル程度の配当収入を見込めます。毎年ある程度の配当や利息収入による収入源を確保できるのに加え、株式の含み益などを見据えて多くの人がこの方法を実践しています。しかし、近年の不安定な経済状況下では利回りが低く、突然投資先が倒産してしまうというリスクを含んでいることも忘れてはなりません。
 
[例2]「4%の法則」をご存知でしょうか。利回りに加えて、毎年徐々に元本も売却することで初期投資額の4%を合わせて還元させる方法です。株式と債券を50/50の割合で運用して、1万2000ドル(30万ドル×4%)ずつ30年間生活費に充てていきます。1万2000ドル×30年間=36万ドルとなるので、余剰の6万ドルが資産運用とインフレによって賄われるという考えです。30年先を見据えて、どの程度の資産を切り崩していくかという長期計画を立てられるという利点がある反面、過去の利回りを基にしているので経済の急な変化には対応できません。それに加え、急な出費などがあった場合は計画を練り直さなければなりません。
 
[例3]一括支払い型個人年金保険に加入すると、本人が亡くなるまで一定額の受給が可能です。この保険は、毎月一定額の受給を保証してくれるのに加え、夫婦で加入ができ、夫婦どちらかが先に死んでも同額を受給できるのが魅力的です。しかし、途中解約には高額な罰金や手数料がかかるので、退職後に大きな出費を見込んでいる方には不向きです。30万ドルの保険に加入した場合は平均すると年間1万8000ドルの受給が見込めます。
 
(2014年12月1日号掲載)

老後の生活費(リバース・モーゲージ)

 

まだ若いうちは気になりませんが、歳を重ねていくごとに気になり出すのが老後の生活です。2013年の日本人の平均寿命は男性が80.21歳、女性が86.61歳と、ますます高齢化が進んでいます。アメリカでは、老後の生活を豊かに過ごすには退職前の所得の80%を維持するべきだと言われています。では、その資源はどこから得るのでしょうか。
一般的には、ソーシャルセキュリティーを10年以上納めて受け取る社会保障、個人で加入する個人退職年金の「Traditional/Roth IRA」、そして会社提供の「401(k)プラン」と呼ばれる確定拠出型年金などが定年後、老後の主な収入源でしょう。

リバース・モーゲージ制度

いろいろとある老後の生活資金捻出方法の中でも少々思い切ったものになりますが、アメリカでは住宅を担保に入れる逆抵当融資や住宅担保年金と呼ばれるリバース・モーゲージ(Reverse Mortgage)というものもあります。
 
これは、高齢者が所有する住宅や土地などの不動産を担保に、生活費や医療費などの資金を一時的/定期的に融資してもらい、死亡や転居の際に担保に入れた不動産、またはその他の金融資産で一括返済する仕組みです。
借主が担保に入れた家に住んでいる期間のローン返済は不要ですが、引っ越しなどで住居を変更した場合はその時点で担保を売却するか、その他の金融資産によって元本と利子を完済しなければなりません。また介護施設などに12カ月以上滞在して担保に入った家に滞在できなかった場合も、すぐに元本と利息を完済する必要があります。なぜなら金融機関の担保に入っている住居に、家主が住んでいることが前提となっている融資だからです。
融資を受けている期間中も固定資産税、住宅保険、その家の修繕費などは自身でまかなう必要があり、家を売却する場合は元金と利子全額をすぐに返済する必要があります。

住宅資産転換融資(HECM)

数種類あるリバース・モーゲージの中で最もよく使用されるものが住宅資産転換融資、Federally Insured Home Equity Conversion Mortgages (HECM)です。住宅事情の改善や都市再開発を扱う住宅都市開発省(HUD)が管理しているローンで、政府公認の金融機関や住宅メーカーから提供され、受け取った融資の使い道は問われません。
対象者は62歳以上で担保となる住宅を所有し、その住宅が主住居でなければなりません。さらに固定資産税(Mortgage Loan)や保険、住宅所有者組合費(Homeowners Association)を支払うゆとりがあり、HECMカウンセラーの承認を得なければなりません。
 
受け取り方法は、①一括、②月ごと、③融資枠を決めて不定期、④1から3の組み合わせです。基本的に借り手は担保の評価額の60%までの借り入れることができますが、最高借入可能額は62万5500ドルと固定されています。
例えば、ある夫妻が所有する不動産の評価額が10万ドルだったとします。この場合、最高借入可能額は担保評価額の60%で6万ドルです。しかし、4万ドルの住宅ローンが残っていたら、6万ドルから4万ドルを引いた2万ドルが借入可能額となります。
 
アメリカでは他にも、州や地方政府運営の住宅修繕や固定資産税支払いを補助するためのSingle Purpose Reverse Mortgagesという低所得者向けのものや、Proprietary Reverse Mortgagesという民間提供で政府提供のHECMが提示する厳しい条件よりも緩い条件で高額なローンを組むことが可能なものもあります。しかし、一般的に政府規制のものより高額な手数料と利子が発生するので慎重に選択するべきでしょう。
 
(2014年11月1日号掲載)

老後へ向けた株式の運用

 

老後へ向けた株式投資には、課税前の所得を用いる方法と、課税後の所得を用いる方法の2通りあります。それぞれの特徴を捉え、上手に使い分けましょう。

運用方法

株式の運用方法には、課税投資口座(Taxable Investment Account)と繰延税金口座(Tax-Deferred Account)を用いた2通りがあります。前者は税引き後の資産を投資して、発生する利益に対して毎年課税されます。後者は税引き前の資産を投資して、60歳になる半年前の、59.5歳まで引き出すことができません。そして、引き出す時に課税されます。

繰延税金口座

アメリカは累進課税なので、所得レベルが上昇するにつれて高い税率区分に入っていきます。ですから、繰延税金口座に入金し、所得レベルの下がった退職後に引き出せば、低い税率区分で課税されることになります。代表的な口座を紹介します。
 
1.個人退職金口座
個人退職金講座(IRA:Individual Retirement Account)は、個人で開設します。49歳以下は年間5500ドルまで、50歳以上は年間6500ドルまで入金可能です。一定額を超える高所得者は、入金可能額が減額されます。
 
2.確定拠出年金
確定拠出年金(401(k):Defined Contribution Plan)は、最初に雇用主が口座開設し、そこを通して従業員が入金します。49歳以下は年間1万8000ドルまで、50歳以上は年間2万4000ドルまで入金可能です。IRAよりも入金可能額が高く、所得によって上限がない他、雇用主のマッチングも魅力でしょう。これは、従業員の入金額と同額を雇用主が追加で入金するというもので、退職後の資産作りを推奨する狙いがあります。このマッチングは会社ごとに設定可能ですが、一般的には給与の3%程度です。

繰延税金口座の弱み

現行の法律では、投資関連の所得にはキャピタルゲイン税率と呼ばれる軽減税率が適用されます。これは最大20%なので、一般税率の最大39.6%のほぼ半分となります。課税投資口座で資産を運用して毎年税金を支払うと、この軽減税率を適用可能です。しかし、繰延税金口座を使用していると、引き出し時に全て一般所得とみなされ、最大39.6%の税率が適用されます。

ペナルティー

60歳になる半年以上前に引き出すと、自動的に10%のペナルティーが科されます。しかし、401(k)は一定額を超える医療費、学費、死亡時や障害を負ったときの積立の引き出しにペナルティーが免除されます。それらに加え、IRAでは初回の住宅購入(1万ドルまで)のための引き出しもペナルティーが免除されます。

ペナルティーへの対策

世界的に有名な投資格付け会社のモーニングスター社によると、大手企業の株を長期保有すると、毎年平均10%の利回りがあるとしています。
例えば、2015年に401(k)の入金上限額である2万4000ドルを大手企業の株を主に取り扱う商品に投資したとします。長期利率が平均9%であった場合、16年後には9万6000ドルになります。課税投資口座と繰延税金口座の大手企業の株を主に扱った商品に資金を50%ずつ投資すると、緊急時の引き出しにペナルティーが科せられない資金を捻出できるので、効率的でしょう。
 
(2015年6月1日号掲載)

石上洋◎米国公認会計士
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校を卒業後、大手監査法人、現地会計事務所パートナーを経て石上・石上越智会計事務所を設立。税務をメインに事業を展開。
アメリカでの会社設立・確定申告・タックスリターンは「石上、石上&越智公認会計士事務所」へ
米国公認会計士・石上洋さんのインタビュー

※本コラムは、税に関する一般的な知識を解説しています。個別のケースについては、専門家に相談することをおすすめします。ライトハウス編集部は、本コラムによるいかなる損害に対しても責任を負いません。

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