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これからどうなる?
カリフォルニア 財政危機を考える(1)

Lighthouse編集部

世界中で不況の嵐が吹き荒れる中、カリフォルニア州の財政は危機的状態にある。そのニュースは日々メディアを賑わし、深刻な影響が各方面から伝えられている。そこで、4人の識者の話を交えながら、その原因と現状を分析。公共サービスや雇用、教育など、一般の日常生活の中で現れる影響を考察し、今後の展望を考える。


[経済危機の概説]

カリフォルニアで今、何が起きている?

カリフォルニア州アーノルド・シュワルツェネッガー知事は、今年1月、年頭の施政方針演説で、今後の18カ月間で州財政が420億ドルの赤字になる見通しであることを明らかにし、「2月中にも州の金庫は空っぽになり、支払い不能に陥る」と財政非常事態を宣言した。さらに、州会計監査官が35億ドルの支払いを30日間遅延すると発表。それ以降、カリフォルニア州が破産するのでは?という話題がテレビや新聞で一斉に報道された。かつて、誰もがあこがれた「黄金州カリフォルニア」に、一体何が起きているのだろうか。
 
実際に州が法的に破産することはなく、日本でいう財政再建団体指定などの措置も適用されない(ちなみに、市は状況が異なり、サンフランシスコ北部に位置するバレホ市は、赤字体質にサブプライム問題が決定打となり、連邦破産法第9条﹇チャプター9﹈を申請、破綻した)。
 
また、州財政は赤字を見込んで予算を組むことができない。つまり、歳入と歳出が一致する「均衡予算」が義務付けられているため、連邦政府のような赤字会計自体が許されないのだ。
 
それなら、歳入を増やし、歳出を減らせばいいと、さまざまな対策が講じられてきた。例えば、州職員に月3回の無給休暇を取得させたり、1日10時間・週4日の勤務を命じたり、残業・休日手当を実質的に廃止するなどがそれだ。これにより、職員は10%近い給与減を強いられているという。これに加え、DMVなど州運営のサービス機関は、金曜日休業が当然となりつつある。また、州からの予算を財源とする教育現場への打撃も深刻で、公立学校の教職員2万6千人が解雇通告を受け取った。
 
州議会では予算見直しが検討されているものの、各種福祉プログラムへの予算削減を最小限に留めようとする民主党と、一切の税率アップを拒否する共和党が真っ向から対立、予算審議は難航している。業を煮やしたシュワルツェネッガー知事が160億ドルの予算削減と地方自治体からの借り入れを提案するが、地方自治体からの借り入れには両党とも猛反対。特別予算の一部を一般予算へ移行する予算案も、住民投票で否決されてしまった。
 
そして、ついに7月、州政府の取引業者や税還付を受ける州民や助成金を交付される各自治体に対し、IOUと呼ばれる「期限付き借用書」が発行されるという珍事が起こった。実際、州税の還付にストップがかかった州民も多く見られる。IOUの総発行数は実に32万7千件で、総額20億ドルにも上るというから驚きだ。

カリフォルニア州財政危機 これまでの経緯

2008年9月23日
3カ月遅れでシュワルツェネッガー知事が予算案に調印
◆ 大幅な予算不足が発覚。見直しが検討されるものの、民主党と共和党が対立

11月
知事が州職員への要請書を提出
月1日の無給休暇取得、休日手当の実質廃止などが盛り込まれる

12月
知事が州職員へさらに要請を提出
◆ 月2回の無給休暇の義務化と、レイオフを含む10%の経費削減要求

2009年2月
州サービスの隔週金曜日休業を開始カリフォルニア州会計監査官ジョン・チャン氏が、35億ドルの支払いを30日間遅延発表

4月
州消費税を1%引き上げ

5月
自動車登録料が0.65%から1.15%へアップ

7月
州職員の月3回無給休暇取得を要請

7月2日
州政府によるIOU発行開始
5日後、各銀行がIOU受け入れ中止を発表

7月24日
1500万ドル削減の予算案を可決
◆ 09年9月のIOU発行停止。既に発行されたIOU総数は32万7000で、総額20億ドルと発表



[財政難の要因・分析]

「州財政の危機は、この不景気に起因する州税の
落ち込みが原因」と語る松田氏

景気後退による歳入の減少

今回の財政難の第一の要因は、2006年からの住宅価格降下とサブプライムローン問題の勃発に加え、昨年9月のリーマン・ブラザーズ破綻に端を発した世界同時株安で、一気に景気が落ち込んだことによる部分が大きい。
 
「カリフォルニア州の歳入の7割は、住民が支払う所得税、消費税、事業税だと言われています。昨年末からの急激な景気後退で、給与カット、人員削減、事業縮小が本格的に進んだことにより、これらの税収が大幅に減っていることは間違いありません」と、ユニオンバンク経済調査部長の松田慶太郎氏は解説する。
 
また、ロサンゼルス郡経済開発公社(LAEDC)のエコノミスト、ジャック・カイザー氏は、「カリフォルニア州は、財源を個人所得税に頼り過ぎています。景気が良い時は、州は十分な財源を確保できますが、景気が悪くなった途端、財政難に陥ってしまいます。ですから、今回の景気後退で、急激に歳入が落ちてしまったのです。今後もしばらくこの状態が続き、回復にはもう数年かかるであろうと、私たちは予測しています」と語り、前出の松田氏と同意見だ。


「今後、カリフォルニア州の優れたリーダー選ぶ州民の
確かな目が重要」と語るカイザー氏

09年前半に見込んだ赤字額は、240億ドルとも、260億ドルとも言われている。少なく見積もっても、この額の7割近くが州民が払う税金に匹敵することを見ても、景気の善し悪しが州財政に与える影響の大きさをうかがい知れる。
 
また、「春の確定申告前は、州の財政が毎年苦しくなる傾向があります」と松田氏が説明するように、季節的要因と景気後退による歳入激減が重なり、財政危機に拍車がかかったというわけだ。

州財政に見られる構造的欠陥

松田氏は、景気後退のみならず、州の財政難には色んな要因がからみ合っていると指摘する。「風邪をひいた場合、直接原因はウイルス感染ですが、不摂生のため免疫力が落ちていたり、酔っぱらって寒い中で寝てしまったなど、風邪をひきやすい状況にも起因します。それと同じことが、カリフォルニアにも言えるのです」。つまり、カリフォルニア州は慢性的に財政難に陥りやすい体質を抱えているようなのだ。その要因を、それぞれ分析していきたい。


問題要因1
複雑な州憲法でがんじがらめ

 
カリフォルニア州の憲法は、これまでに500回以上も改訂されており、世界的にも複雑なものである。その理由は、住民投票によって決議されるプロポジション(住民提議)が、毎年のように書き加えられることによる。そして、何百と存在するプロポジションの中には、その財源に合わせて用途を特定するものが数多くあるのだ。例えば、02年に可決されたプロポジション42では、「ガソリン税による歳入は道路や交通網整備だけにしか使えない」と定めている。
 
このように、特定の財源による特別予算は十分確保されてはいるものの、その用途が州憲法で定められているため、非常事態が起こっても議会で用途を変更することができない。元来、これらの条例は住民の意志に基づき、歳出を決定するという民主主義を反映するものだが、この度の財政難などの危機的状況では、州議会の手足を縛ってしまう原因となってしまう。結果、特別会計には十分予算があるものの、それを一般会計に補填することが法律上できな
]い事態を招いてしまう。

問題要因2
共和・民主党共に相容れない州議会

 
カリフォルニア州は貧富の差が大きく、それが州財政に大きく影響を与えていると松田氏は分析している。「カリフォルニア州議会は、他州に比べ、共和党は超保守的、民主党は超リベラルと、お互いに相容れない体質があり、これは貧富の差が激しい州経済を反映しています。今回の財政危機にあたっても、共和党は福祉プログラムへの予算削減や事務効率を良くする解決案を主張する一方、民主党は富裕層への増税と貧困層のためのセーフティーネットを維持することを重視し、両者共に譲りませんでした。またカリフォルニア州は、議会の3分の2の賛成がなければ法案が通らない「スーパーマジョリティー制」を、予算と増税の両方に適用している全米で唯一の州です。そのため、過半数を占める民主党も、共和党の賛同なしには赤字を埋める手を打つことができません。危機的状態では、両党の思想の大幅なズレとコミュニケーションの悪さが、対応を遅らせる原因となるのです」。
 
州議会議員の背景、支持層、思想の違いがもたらす州議会の二極化が、財政でもちぐはぐな結果を生んでいると言えるようだ。

問題要因3
強い経済への過信と長期ビジョンの欠如

 
色々要因があるとは言え、不景気にそれほど影響を受けていないエンターテインメント業界やテクノロジー業界の中枢を担う州であり、米国経済の8分の1を占めるカリフォルニアが、いとも簡単に財政難に陥ることには、少々疑問が残る。
 
「カリフォルニア州には、たくさんの長所がありますし、経済もとても強い。しかし、それに頼るだけではなく、政治家は将来をきちんと見据えた戦略を立てると共に、何よりも、優れたリーダーを選ぶ住民の賢い選択が絶対必要です」とカイザー氏は語る。
 
また、松田氏は「実は、01年から03年にかけても、カリフォルニア州の財政危機がありました。まさしく今回は、同じ問題が起こったわけです。今後また同じことを繰り返さないよう、構造的解決が求められています」と説明している。

カリフォルニア州は、景気の良い時に余剰金を積み立てたり、構造的なムダを省くなど、将来を見据えた長期的な財政計画を実施せず、財政難を一時的にしのごうとする傾向がある。また、景気回復によってできた余剰金はすぐに選挙区が喜ぶプログラムに使ってしまうなど、政治家の悪習がはびこっているのも事実のようだ。

問題要因4
投資家がソッポを向く信頼性の低下

 
前述のように、州財政は「均衡予算」を原則としている。そのため、1度組まれた予算は、通常月々の歳入と歳出を反映させながら1年半先まで予測し、修正を重ねていかなければならない。
 
しかし、実質的な短期の赤字補填として、州債を発行し乗り切ることは可能である。だが、カリフォルニア州のクレジットレーティング(格付け)は全米で最低。そのためカリフォルニア州債へのリスク感は高く、投資家たちからソッポを向かれる傾向が強い。このことから、州債の発行で危機を乗り切るのは、実質的には難しいと言わざるを得ない。松田氏も、「いざと言う時のために、投資家に魅力的な州になる必要があります」と語っている。

財政危機は知事の失策?


 
ご存知の通り、カリフォルニア州政府で最高権限を持つのが州知事である。それだけに、今回の財政危機が知事の失策として考えられてしまいがちだが、実はそうとも言い切れない。
 
「予算案や法案を可決するのはあくまでも州議会で、知事は最終決議案に調印したり、拒否権を発動したりと、レフリー的な存在意義を持っています。シュワルツェネッガー知事は、政界外からやって来た、いわゆるアウトサイダー。そのため、(財政難を招かないための)構造改革をしてくれると大きく期待されていました。しかし、かえってアウトサイダーであるがゆえに難しいところが、色々あったようです」と松田氏は話す。
 
今回の財政危機にあたって、シュワルツェネッガー知事は各地で、「カリフォルニア州は危機に瀕している」「公共サービスが止まっては州民が困る」「議会で早く解決案を出してほしい」と演説し、州議会に圧力をかけることに徹していた。「シュワルツェネッガー知事の功績としては、全米および世界に出て、カリフォルニア州への投資や貿易を推奨したことでしょう。何と言っても、世界一有名な州知事ですからね。そういう意味では、プラスの効果があったとは思います」と松田氏。
 
さらに、シュワルツェネッガー知事は、選挙区や任期の見直しにも積極的に取り組んできた。「カリフォルニアの選挙区の区割りは、共和党・民主党の支持エリアに合わせてねじ曲げられており、結果が固定化されています。これでは公平な選挙はできず、州議会が硬直化してしまいます。区割りをやり直すことができれば、両党共に柔軟性のある政治家が出てくると考えられます。また、任期が2期8年に限られるため構造改革がままならず、新人議員だけでまた一から議論しなければならないという問題もあるのです」。


カリフォルニア州の財源である
税収にまつわるデータ

カリフォルニア州は他州に比べて、消費税・所得税共に高水準である。連邦税、州税の総額も全米で第1位。人口が全米で最も多いだけに当然ではあるが、州民の税金は、政府へ十分貢献している。

2007年度カリフォルニア州の税収総額
●連邦税総額:3,140億ドル
※ 全米1位。アメリカ全体2兆2740億ドルの13.8%(全体の1/8)で、2位のニューヨーク州の1.4倍
●州税総額:1147億ドル
※全米1位。アメリカ全体7498億ドルの15%で、ニューヨーク州の2倍

各州における税率の比較
●消費税(州税のみ)
1位:カリフォルニア(8.25%)
2位: テネシー、インディアナ、ミシシッピ、オハイオ、ニュージャージー、ロードアイランド(7%)
3位:ワシントン、ミネソタ、ネバダ(6.5%)

●消費税(市・郡税を含めた最高基準)
1位:イリノイ(11.5%)
2位:アリゾナ(10.6%)
3位:カリフォルニア(10.25%)

●州所得税率
1位:ハワイ(11%)
2位:カリフォルニア(9.3%) (4万4814ドル以上の所得がある場合)
※所得税のない州:アラスカ、フロリダ、ネバダ、サウスダコタ、テキサス、ワシントン、ワイオミング(ニューハンプシャーとテネシーは配当・利息収入に限り課税)

●連邦税や市税と合わせた税率
1位:ニューヨーク市(45.50%)
2位:カリフォルニア州内(約45.3%)
3位:バーモント州内(約44.5%)
※最低水準は、シアトル、ヒューストン、ダラス、マイアミ(35%)