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これからどうなる?
カリフォルニア 財政危機を考える(2)

Lighthouse編集部

世界中で不況の嵐が吹き荒れる中、カリフォルニア州の財政は危機的状態にある。そのニュースは日々メディアを賑わし、深刻な影響が各方面から伝えられている。そこで、4人の識者の話を交えながら、その原因と現状を分析。公共サービスや雇用、教育など、一般の日常生活の中で現れる影響を考察し、今後の展望を考える。


[現状〜一般市民への影響]

財政危機脱出!?
大幅減の補正予算

7月下旬、補正予算案が州議会を通過し、シュワルツェネッガー知事が承認した。総額260億ドルと言われる赤字がひとまず予算上では埋められたわけだが、その内容は一体どんなものだろうか。
 
「補正予算は大別すると、―7法解釈の見直し、特別予算の一部を一般予算へ充てるなどの処置と事務の効率化、各種プログラムの見直し、縮小による予算削減を中心とした歳出削減、州サービスの手数料の値上げによる歳入増、という3つの柱から成っています」と松田氏は解説する。

この中で、特に私たち一般市民に最も影響を及ぼすのが、各種手数料の値上げだろう。わかりやすいところでは、今年4月から州消費税が1%上昇、5月には自動車登録料も価格の0・65%から1・15%へ引き上げられた。


「財政危機は、コミュニティーだけでなく、治安の悪化
につながるかも知れません」と語る水谷氏

ジェトロ・ロサンゼルスの調査部長、水谷剛氏は、「今後、ビジネス関連の税金が引き上げられることになれば、日系企業へ大きな影響を与えることになります」と懸念を示している。

さらに、補正予算にからむ増税や地方自治体への予算削減は、州経済の回復にも悪影響をもたらす可能性があるという。「世界的な不況の中、連邦政府が色んな景気刺激策を実施しているにもかかわらず、それらを打ち消すような州の政策が、カリフォルニア経済の回復を遅らせることが心配されます」と水谷氏は続ける。
 
またカイザー氏は、州の財政難は、州内での新たなビジネスチャンス、さらにはカリフォルニア経済の発展の手かせ足かせになると説明する。「財政難による各種手数料や税率の引き上げにより、他州からカリフォルニアにビジネス展開しようとする企業が躊躇してしまい、計画を白紙に戻しています。カリフォルニア州は、もっとビジネスをしやすい環境を提供しないといけません」。

サービス低下
治安を危ぶむ声も

何と言っても、直接被害を被っているのが、カリフォルニア州の職員たちと各種サービスを必要としている州民だ。前述のように、州職員には給与10%減に匹敵する、月3日の無給休暇取得が義務付けられ、DMVを始め州関連サービスは、金曜日の休業が当たり前となってしまった。
 
消防、警察、医療など、緊急を要する分野への予算は削減しないとするものの、地方自治体へ充てられる予算自体が減っているため、ロサンゼルス市などでは消防への予算削減を決定している。「今回のロサンゼルスの山火事で、緊急事態に対応する予算が年度末を待たずして底をつく可能性があります」と水谷氏は指摘する。松田氏も「市や郡が提供する公共サービスでも、その財源は州政府に頼っている場合が多くあります。地方公共団体も財政的に苦しいので、地域内の公園の清掃スタッフがいなくなったり、市民が集うコミュニティーセンターが閉鎖されたりという変化が起きるかもしれません」と語る。
 
また、刑務所運営の経費削減のため、刑期を短縮し、囚人の数を減らそうという動きもある。「本来は刑期中のため刑務所にいるはずの囚人が釈放されることになれば、治安面への影響も心配されます」と水谷氏。17万人といわれる囚人に費やす年間経費が100億ドルというものの、州民の安全な暮らしと天秤にかけるのはいかがなものかと疑問が残る。

未来を担う
若者たちにも負担

「州内のほぼすべての分野で予算削減が実施され、基本的に影響のない分野はありません。なかでも、特に打撃を受けているのが幼稚園から高校、コミュニティーカレッジ、そして州立大学などの教育関連です」とカイザー氏は力説する。
 
幼稚園からコミュニティーカレッジへの予算は、現況の1割強が削減されるという厳しい現実に直面している。生徒数が増えたものの教職員が減ったクラスでは、高い質の授業を遂行することがますます難しくなる。なかには学校の統廃合が進み、遠方の学校に通わなければならない子供たちも現れてきた。特に低所得者層への歪みが大きいと、松田氏は指摘する。


州立大学の現状

大幅な予算削減で多大な影響を受けているのが教育現場。その中でも州立大学(California State University、以下CSU)への打撃は著しい。1960年、「すべての子供に高等教育を」をスローガンにまとめられた「California Master Plan of Higher Education 1960」に逆行する事態が次々起きている。

CSUのプロフィールと共に、今、学生や大学職員が何に苦しんでいるのかデータをまとめた。

CSUプロフィール
www.calstate.edu
●キャンパス数:23
●学生数:45万人
●教職員数:4万7000人
●年間平均卒業生数:8万2000人
●学生がコミュニティーのために奉仕する時間数:3500万時間
●卒業生が携わる仕事数:20万7000件
● 卒業生が従事する州の仕事:看護婦、エンジニア、IT、教師、警察官、建築家、その他専門職
●1年間に及ぼす経済効果:136億ドル

CSUへの経費削減による影響
●今年度の経費削減:5840億ドル
●学費上昇率:32%
●職員の給与減少率:9.23%
● 資格があるにもかかわらず、入学できなかった学生数(2008年):1万人
● 09年、10年に受け入れ拒否される学生数(コミュニティーカレッジからの転入生を含む):4万人

そのほかの影響
●経費削減のため、何千ものクラスが閉講となる
●1学期に取得可能なクラス数が減り、卒業までの時間が長くなる
●教職員が月2回の無給休暇を余儀なくされる
●学生は高い学費のために仕事量を増やさなければならない
● 教職員の労働時間縮小のため、学生が十分なサポートを得られない

協力:テリー・ヤマダ教授


「政府の援助がなければ、学生の在学期間が伸び、
勉強時間も減ります」と懸念するテリー・ヤマダ教授

もちろん州立大学も例外ではない。州政府からの奨学金や助成金がぐんと減るだけではなく、1人当たり平均1千ドル上乗せという学費の高騰に、親や学生たちは苦しんでいる。「これまで高等教育を受けることができていた若者たちも、経済的事情からそれを断念しなければならないケースもあるでしょうね」と松田氏は心配する。
 
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で教鞭を執るテリー・ヤマダ教授は、この状況では、年間に受け入れる学生数を極端に減らさなければならないと指摘している。「08年度、カリフォルニア州立大学(CSU)は、例年なら入学が許可されたはずの学生1万人を受け入れることができませんでした。09年、10年は、さらにその数が増えて、合わせて4万人に達するだろうと言われています。やる気のあるすべての子供たちに高等教育の機会を与えようとする計画『California Master Plan of Higher Education 1960』の約束は、一体どこへ行ってしまったのでしょうか。CSUは、全米でも広く開かれた教育を実現してきました。しかし、残念ながらもうその力はないようです」と失望を隠せない。

多くのクラスが閉講し、教職員の勤務時間が減らされる今、学生への負担は経済的なものばかりではない。「開講しているクラスが減れば、卒業までの時間が長くなることになります。すると学生たちは、学費を稼ぐためにアルバイトなどの仕事を増やさなければならず、逆に勉強の時間が減ってしまいます。また私たち教職員も、爐茲蠧かないこと〞を要請される。そんな状況で、彼らがきちんと学べているのか、彼らの将来が輝かしいものであるのか、とても心配でなりません」とヤマダ教授は語る。
 
卒業生の中には、看護婦、エンジニア、コンピューター関連、教師など、州が運営する機関の仕事に携わる若者が多く、州財政が傾くことで、専門分野を活かした雇用機会が減少することも危ぶまれている。「将来を担う人材を育てることは、カリフォルニア州経済の明るい未来につながります。優秀な学生が学ぶ機会を持てないばかりに、その才能が開花されないとすれば、州にとっても大きな痛手でしょう」と松田氏。


納税者に実際に送られてきたIOU

州政府が州民に借金!?

各種予算を大幅に削減しても、赤字は免れない。そこで、州政府はついに、IOUなる期限付き借用書の発行に踏み切った。

「州政府は、毎月予算と実際の歳出入を比較し、1年半先までの収支予測を立てています。その過程で、近い将来資金不足に陥ることが発覚してしまいました。できるだけ手元に現金を残そうと、期限付き借用書であるIOUの発行に踏み切ったというわけです」と松田氏は語る。

一方、カイザー氏は「州には十分な現金がなかったために、IOUを発行したのだと思います。州の収支計算は、すでに合っていないのではないでしょうか」と語り、州の金庫が既に空なのではと予想している。

この借用書は、09年7月から発行が始まったが、現在は発行されていない。当初は10月2日以降の期限付きだったが、現在は少し早まり9月4日には換金できるようになった。また州は、年率で3.75%の利息を払おうともしている。

主なIOUの発行先と金額

●奨学金など学生助成金:1億5900万ドル
● 高齢者や身体障害者への助成金:5億9100万ドル
● 福祉サービスの事務費、職員への給与など:6400万ドル
● 身体障害者へのサービスセンター運営金:3億6300万ドル
●ア ルコール、ドラッグ中毒プログラムへの助成金:1億2700万ドル
●地方裁判所運営金:4100万ドル
● その他、地方自治体への助成金:2億2900万ドル
● 州政府取引業者への支払い金:4億2400万ドル
●個人への税還付金:1億4000万ドル
●企業への税還付金:5800万ドル

補正予算案に含まれる主な予算削減事項

● 幼稚園から高校、コミュニティーカレッジまでの教育関連:61億ドル(総予算580億ドルの10.5%)
●その他、州立大学など高等教育:20億ドル
●州職員の無給休暇による収入減分:13億ドル
● 州職員の給与支払日を翌年度に遅らせる:12億ドル
●医療関連費:13億ドル
●市やカウンティーへの予算:47億ドル
●地方再開発事業:17億ドル予算削減事項