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Can You Change? オバマ改革の 成果と展望を分析する(2)

Lighthouse編集部

2008年11月、初のアフリカ系アメリカ人の大統領として華々しく当選した民主党のバラク・オバマ氏。今年1月の正式就任前から精力的に活動し、世界恐慌以来の不況経済を立て直すべく尽力してきた。しかし、医療制度改革やアフガニスタンでのテロ掃討作戦の泥沼化など問題は山積。国内経済にしても失業率は増加する一方で、支持率も最近は低下気味。

今回は3人の有識者に、オバマ政権の改革の成果と今後の展望について聞いた。


日本の2.5倍の医療費1人年平均6700ドル

一般的に医療費が高いアメリカだが、世界の国々と比べた場合、どの程度のものだろうか?

アメリカの総医療費のGDP比率は15%以上で、先進国で構成される経済協力開発機構(OECD)の加盟国平均9%と比較すると、その割合は群を抜いて高い(表 右上)。

また、国民1人当たりの医療費を比べると、アメリカはOECD平均の2倍以上、日本の2.5倍以上の約6700ドルとなっている。

日本の外務省の調べによると、アメリカでの初診料は一般内科で150〜300ドル、専門医にかかると200〜500ドルとされる。例えば、盲腸の手術・入院をした場合の総費用は、日本では40万円程度のところ、アメリカの大都市では200〜250万円にも上るという。

さらに恐ろしいことに、過去10年間のデータを見ると、他の先進国の医療費のGDP比率が毎年緩やかな上昇であるのに対し、アメリカはかなり早いペースで上昇している(表◆ ̄Σ次法


外交 - 対日政策とイラク・アフガン紛争

イラク撤兵とアメリカの信頼奪還

外交面での大きな成果は、予定より3カ月遅れではあるが、イラクからの撤兵を決定したことだろう。

「遅れた大きな理由は、国内経済が不安定で、内政に集中しなければならなかったこと。また、ブッシュ前政権で失墜した、世界におけるアメリカの信頼を取り戻すことに努めたことにあります。この方針は正しい選択でしょうし、具体的政策や成果は、2年目以降に期待しています」と山崎氏。

それでは、アメリカへの信頼回復のために、オバマ大統領はどんなことをしてきたのだろうか。まず、世界的にも人気のあるヒラリー・クリントン氏を国務長官に任命、世界中の国々に派遣し、良好な関係を築くのに一役買ってもらった。そして、オバマ大統領自身も機会あるごとに、得意の演説で訪問地の人々にブッシュ政権時代の方針との決別を強調した。

「演説外交に力を入れている点でも、オバマ大統領は、歴代の大統領とは異なっています」と山崎氏は語る。

冷泉氏は、海外での演説にオバマ流外交方針が現れていると解説する。

「今年4月にプラハでの核兵器削減・廃絶に向けた包括構想を提唱、6月にはカイロ大学でイスラム諸国との和解宣言をしたことが、その代表的なものです。これが国際世論にも非常に支持され、ノーベル平和賞受賞につながったのだと思います。もちろん、共和党からの批判はありましたが、経済対策もきちんと行っていたため信頼感があり、うまくバランスが取れていました」。

また、7月にはモスクワで戦略兵器削減交渉を行っており、今後も世界平和・協調を軸とした外交政策を取っていくと考えられる。


増派か否かのアフガニスタン紛争

オバマ大統領の外交(軍事)の大きな課題の1つが安全保障問題だ。ブッシュ前政権の負の遺産でもあるイラクからの撤退の目処は付けたものの、タリバン掃討のために、アメリカを主とする連合軍がアフガンに侵攻したアフガニスタン紛争は、11月中旬の時点で泥沼化している。

「2010年8月末までに、米軍をイラクから順次撤退させるシナリオを作り、内戦も収まるようにシーア派と旧バース党勢力を握手させました。撤退に異論のあった共和党もオバマ大統領が内政で頑張っているからと、それほど反対しませんでした。その一方、大統領は今年3月、アフガニスタンへ2万1千人の増派を決定。12月までに6万8千人規模に引き上げると発表しました。ところが、タリバンの攻勢が強く、米兵の死者が増えるなど、あまり成果が上がっていません。現場からは増派の要請が来ていますが、共和党の多数が賛成する中、バイデン副大統領らは反対。大統領としては勝つ見込みがないから増派はしたくないようですが、そうはハッキリ言えない面もあって、決断を引き延ばしている状態です」と、冷泉氏は分析する。

その後もアフガニスタンでアメリカ軍のヘリが相次ぎ撃墜されるなどで戦況が悪化。アメリカが望んだカルザイ氏が大統領に再選されたものの、選挙不正疑惑などで求心力がなく、政治体制も出口が見えなくなってきている。

11月中旬の時点で、山崎氏は、カルザイ大統領率いる現アフガン政権が立ち直らずには、オバマ大統領の増派決定は難しいと見ている。

「オバマ大統領は、クリントン国務長官をアフガニスタンに派遣したり、できる限りの努力を示してはいます。しかし、それだけでは軍部は納得いかず、年内中に増派決定か否かの明確な結論を出さないわけにはいかないでしょうね」。

いずれにせよ、当面のオバマ大統領の外交政策の明暗は、イラクからの米軍の安全な撤兵とアフガニスタン紛争への決着にかかっているようだ。

冷泉氏は、オバマ大統領の複雑な心境を察すると同時に、これまでの政策が良い方向に動き出すことを期待している。

「医療保険改革の進め方のまずさとアフガニスタンの状況悪化で、政局がかなり大変な時に、ノーベル平和賞受賞がありました。本人としては、シカゴにオリンピックを誘致できた方がうれしかったでしょうね。この秋から景気が徐々に上向きになってきていますので、その勢いと共にオバマ政権も良い方向に向かってくれることを祈っています。私の予想としては、『アフガンは大変』『イラクは何とか収まっている』『景気もこのまま行けば回復基調』だと思います」。


かつてないほどの知日家オバマ大統領の対日政策

オバマ大統領就任で、「日米関係に変化があるのでは?」「アメリカはより中国寄りに傾くのでは?」という懸念の声も聞かれるが、実際のところはどうだろうか。

「オバマ大統領が就任後初めてホワイトハウスに招いた他国の首脳が、当時の麻生首相であったこと、クリントン国務長官の最初の外遊先が日本であったことを踏まえると、オバマ大統領は日本を最重要同盟国と考えていると思います」と山崎氏は話す。アジアを最初の訪問先に選んだ国務長官はおらず、これはかなり日本を重要視していると捉えることができる。

そして、11月のアジア歴訪でも、テキサスの陸軍基地での銃乱射という予定外の事件が起きたにも関わらず、APEC会議出席前に、まず日本を訪れている。

「タイトなスケジュールの中、それでもまず初めに日本を訪れたことは、喜ぶべきことです」と山崎氏。また、同氏はオバマ大統領はかなりの親日家だと説明する。

「(インドネシアで暮らした3年間を除けば)オバマ大統領は、ハワイで生まれ育っています。その間、日系人コミュニティーに深く関わっていますし、当時の親友も日系人でした。小浜市が全面的に大統領を応援していることもあり、親日家なのは間違いないでしょう」。

また、冷泉氏も「オバマ大統領は、母親がインドネシア人と再婚し、インドネシアに移住する際、日本に滞在しています。富士山や日本の街にポジティブな印象を持っていると聞いたことがあります。今回の訪日でも、鎌倉で抹茶アイスクリームを食べた思い出を話していますしね。同時にインドネシアに住んでいた頃、過去の戦争で日本軍がしてきたことに対する反感みたいなものも、おそらく感じているでしょう。だとすると、私の個人的な想像ですが、沖縄にどうして米軍基地があるのがイヤなのか、住民感情がわかると思うんです」と、歴代の米大統領とは違い、より深く日本を理解していると考えているようだ。

そして大統領の生い立ちを知った上で、日本は賢くアメリカと付き合っていくべきだと冷泉氏は指摘している。

「日米関係にとって一番大事なのは、沖縄とか国防とかそういう話ではなく、環境ビジネスで敵対しないことだと思います。アメリカがその気になれば、日本の産業に不利になるよう規制をかけたり、キャンペーンしたりできるわけです。もちろん徹底的に闘っていくためノウハウを持ったり、法的保護をかけることもできますが、何らかの形で手を組むことが得策でしょう。オバマ大統領が、『日本のメーカーは非常に汚い手を使うし、日本人というのはこれからアメリカのパートナーとなるに足らない』と思った時、完全に日本企業を排除する可能性もなきにしもあらずです。最近でも、トヨタ車のフロアマット不具合による大量リコール問題で、『車体本体が悪いから修理せよ』みたいな方向に追い込まれていることに、私は非常に危機感を感じています」。

経済大国に成長しつつある中国に対してオバマ大統領は、共産国であることを認めながらも、世界と協調していくことを求め、国連常任理事国の一国であるが故に、諸問題を解決していくにも協力が必須と考えているようだ。

「中国は共産国でありながら、アメリカと良い関係を保っていますし、もはや無視できない存在になっているのも事実でしょう。一方、日本はアジア諸国の中でも安全保障条約を締結している数少ない国。(オバマ大統領が中国寄りと考えるよりも)日米関係は、中国とのそれとはまったく別物と考えるべきです」と山崎氏。
 
11月中旬に訪日したオバマ大統領は、アジアに対する戦略について、「あくまでも日米同盟が基軸。アメリカは太平洋国家であるが故に、アジア戦略に大きく関わっていくこと」を日本の国民に力強く語っている。

残念ながら、鳩山首相との会談では、円高阻止、エコカーの安全基準での合意、中国の核軍縮など、具体的な内容は話されなかったようだ。

オバマ政権の改革のまとめ
■内政
景気対策
就任と同時に7870億ドルの景気対策案を可決
金融機関、GM、クライスラーを救済
クリーンエネルギーの利用促進
住宅購入者支援を含めた個人や企業減税
金融規制改革 法案制定に着手
医療制度改革 下院案が可決、上院案も審議開始

■外交
核兵器削減・廃絶に向けた包括構想を提唱(プラハ宣言)
イスラム諸国との和解宣言(カイロ)
ロシアと戦略核兵器の削減交渉
日本を含めたアジアを歴訪(中国との関係改善)
イラクからの撤兵
アフガニスタンへの増派


オバマ政権総評

最後にオバマ政権の改革を総括し、評価できる点と今後の課題について、3氏にまとめてもらった。

冷泉彰彦氏
【評価できる点】
1年前の「一寸先は闇」の状況や、3月の恐ろしい株安をここまで戻したことを踏まえると、金融危機対策は効果があったと思います。また、アメリカの国際的なイメージアップについても成果は認めるべきです。

【今後の課題】
オバマ政権の最大の問題は、草の根の庶民感情を共和党に取られたままということです。

弱者層から「自分たちより弱い人間ばかりどうして助けるんだ? オレたちは損している」という憤りが湧き、それが政府不信になってしまう。それは、やっぱりオバマ大統領が持っているエリート臭さのようなものが災いしているんだと思います。だからと言って庶民的な振りをするのではなく、「極めて優秀な政治家だけど、自分の能力を庶民のために捧げますよ」という誠実さを忘れないで、庶民感情をしっかりつかんでほしいですね。でないと、政治的には苦境が続くことになります。


山崎一民氏
【評価できる点】
内政では、7870億ドルをかけた思い切った景気対策を実施し、アメリカ経済の後退にストップをかけたことです。外交では、3カ月遅れではありますが、イラクからの撤兵を決定したこと。また、機会あるごとに世界各地で得意の演説をし、アメリカの信頼回復に努めたことも評価できると思います。

【今後の課題】
気候変動対策、金融規制、輸出を増やすための貿易政策、イスラエルとパレスチナの紛争、北朝鮮・イランの核問題対策、ロシアとの戦略交渉、アフガニスタン問題(増派か否か?)など、問題山積みです。

今年前半は、国内の景気回復に集中していただけに、これからはほかの結果も求められるでしょう。そして、ワシントンで1番注目されているのは、史上空前の財政赤字をどうするかいうこと。2009年度だけで1兆4000億ドルの赤字になり、その金額はGDPの10%を超えます。医療制度改革などで、これからも赤字は増え続けると予想されており、景気が上向けば税収が増えるから大丈夫と、楽観はできないと思います。


井川智洋氏
【評価できる点】
医療改革案自体は、以前ヒラリー・クリントン氏が打ち出したものに準じていますが、就任後2カ月で素早く改革に取り掛かり、その内容を予算教書に含めるなど、国民にわかりやすいオープンな戦略は評価できると思います。

【今後の課題】
強力なパブリックオプション=単一国民皆保険の導入は、アメリカに皆保険制度をもたらすだけではなく、圧倒的な価格交渉力を背景に、長期的に医療費の上昇を抑制する効果が期待できます。しかしながら、大きな理想を掲げながらも、結局(医療改革は)骨抜き案となってしまい、国民皆保険の実現には近付いた一方で、医療費削減という点では課題を残すこととなりました。オバマ政権が医療費削減に対し、どのように取り組んでいくのか、今後の動向には注目でしょう。