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ライトハウスの特集

アメリカでの教育・進学、ビザ・法律、市民権・永住権、観光・レジャー、求人・仕事、グルメ・レストランなど、現地情報誌「ライトハウス」の過去の特集をご紹介。

草の根で伝える文化

Lighthouse編集部


伝統文化を伝承するリーさん(左)と
キムさん夫妻

代々伝えられてきた
伝統パッチワーク

 政府のお墨付きがなくても、草の根で韓国文化の継承に励んでいる人がいる。メルローズ・アベニューとラブレア・アベニューの交差点の北側に位置する伝統アートギャラリー「カサミューヒャン」のオーナー、キム・アン・ボンファさんがその人だ。「カサミューヒャン」とは、スペイン語で「家」を意味するカサと、韓国語で「無臭」を意味するミューヒャンの合成語。韓国のことわざ「良いお茶には匂いがない」がその由来だ。

 キムさんはギャラリーを営む傍ら、同店の2階で、「ポジャギ」と呼ばれる伝統的なパッチワークや刺繍、染色などを教えている。キムさんは12年前に渡米したが、韓国にいる頃から、パッチワークや刺繍などのアーティストとして活躍していた。この技術は、代々母親から受け継がれてきたものだ。

 店内には、朝鮮王朝の淑女室や学者の書斎を再現した骨董品や芸術品が、品良く展示されている。淑女室の後ろに立てられている屏風は、見事な鳥の刺繍があしらわれているが、韓国の人間国宝が50年前に制作したものだそう。同店で仕事をしながら、キムさんにパッチワークの手ほどきを受けるクリス・チョーさんによると、韓国の芸術品には鳥をあしらったものが多いとか。

 「この屏風に描かれているのは、それぞれ夫婦の鳥とその小鳥で、鳥は家族愛を象徴しています」(クリスさん)。


淑女の部屋を再現。後ろにある屏風が、
人間国宝の作品

 書斎のテーブルには、セピア色に変色した朝鮮王朝時代の教本がさり気なく置かれており、その横には数々の石の印鑑が並べられている。これらの印鑑は、キムさんの夫であるリー・ソンさんの作品だ。リーさんはサウスベイロ大学で東洋医学の教鞭を執る一方、石や木を使った印鑑制作の第一人者で、今年1月にはロサンゼルス市宝賞を受賞した。この受賞を受けて、4月14日から28日まで、同ギャラリーにおいて展示会を開催する。

 「印鑑を彫刻する石は、硬すぎても柔らかすぎても適しません。石は自分で山に登って採取してきますが、アメリカには適当な強度の石がないため、ほとんど韓国で集めてきます」とリーさん。

 奥には、キムさん制作のパッチワークが展示されている。韓国のパッチワークは、主に食べ物や料理にかけるフードカバーや、物を包む風呂敷として使用されていたという。韓国文化は、どこまでも日本文化とオーバーラップしているのだ。

 店内を見学していると、「2階でお茶はいかがですか」とキムさんが誘ってくれた。お湯を大きめの器に注ぎ、手の平で温度を確認するキムさんに、韓国におけるお茶の歴史を聞いた。

 「高麗時代に、仏僧が茶道を確立し、朝鮮時代に入って宮廷に浸透しました。当時は、会議を始める前など、大きな決断をする時、その前にお茶を立て、精神を統一して挑んだのです。朝鮮時代の後半になると、中流階級にも普及しました」(キムさん)。

 キムさんは韓国の伝統パッチワークの伝承で、カリフォルニア伝統美術同盟に承認されたばかり。その一環として、10月にはコリアンカルチャーセンターで展示会も開催される予定だ。


書斎を再現したコーナー。
机の上にある本は、朝鮮時代の教本

キーワードは「次世代」
文化を子供に伝えたい

 店内を案内してくれたチョーさんは、13歳の時に両親と渡米した1.5世。大学での専攻はコンピューターで、韓国文化に興味を持ったのは、キムさんの作品に出会ってから。

 「韓国にいた頃は、韓国文化はあまりに身近すぎて、特に興味がありませんでした。ところがキムさんのパッチワークを見て、祖母が食べ物のカバーに同じような布を使っていたのを思い出したんです。今ではどの家庭でもラップを使用して、伝統的な布を使う人は少なくなりました。でも子供ができたら、『これがお母さんの国の伝統なのよ』と教えてあげたいと思って始めました」とチョーさん。チョーさんによると、このパッチワークは70年代まで、韓国の一般家庭では身近な日常品だったとか。

 キムさんのクラスはマンツーマンで、初心者コースは3カ月で400ドル。マンツーマンのため、週1回だが2時間で終わることもあれば、3時間以上かける時もあり、クラス以外でも質問があれば気軽に受け付けてくれる。

 この日の生徒は、チョン・ヤングさん。チョンさんは7年前、2世の夫と結婚して渡米した。チョンさんが伝統パッチワークを始めた理由も、チョーさんと同じだ。

 「韓国では、伝統文化の重要性に気がつきませんでしたが、これらの伝統的な作品の価値の高さが、最近わかるようになったんです。パッチワークは、子供や夫など、愛する人への贈り物なんです」。

 そういってチョンさんが見せてくれたのは、パッチワークで作った子供の伝統衣装。子供の学校のプロジェクト用に制作したとか。現在手掛けているのはフードカバーだが、針を持つ手を覗き込んで、その目の細かさに驚いた。まるでミシンをかけたようで、手作業だとは信じられないほど。


チョンさん(左)が制作している、
色合いもきれいなパッチワークはフードカバー

 「ひと針刺すたびに精神を統一して、心を込めて縫っていくので時間がかかるんです」とキムさんは言うが、気の遠くなるような作業だ。これだけ細かい手仕事を完成させようと思えば、心もこもるはず。

 帰り際、キムさんは優しい笑顔で「またお茶が飲みたくなったら、いつでもいらしてください」と見送ってくれた。

Casa Muhyang
743 N. La Brea Ave., Los Angeles
☎323-934-4992
www.casamuhyang.com
Mon-Sat : 10:00am-7:00pm
Closed on Sundays


 韓国に限らず、どの民族でも、伝統的な文化には人間性あふれる温かみがある。アメリカという多民族からなる国で、祖国の文化を学ぶことは、アイデンティティーの確立だけでなく、人間的な成長にも結びつくのかもしれない。
 今回の取材で、誰もが口にしたキーワードは「次世代」だった。文化を伝承することが、これからのアメリカ社会を担う若い世代の育成につながり、ひいてはコミュニティーの発展につながる。そう信じて実践しているところに、韓国コミュニティーの底力を見た気がした。

【取材協力】
■在ロサンゼルス大韓民国総領事館
☎213-385-9300

(2007年3月16日号掲載)