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アメリカ医療保険

Lighthouse編集部

快適なアメリカ生活で頭を悩ませるもののひとつに、高額な医療費がある。しかも日本のような国民健康保険や社会健康保険制度がないアメリカでは、保険会社が提供する保険内容を吟味して、自分に合った保険プランを自分で選ばなければならない。そこで今回は、アメリカの医療保険の仕組みや内容について調べてみた。

(2005年11月16日号掲載)


医療保険のシステム

代表的な保険、PPOとHMO

 アメリカの医療保険は大きく分けて、インデムニティー(Indemnity Plan)、PPO(Preferred Provider Organization)、HMO(Health Maintenance Organization)、POS(Point of Service)の4種類があるが、ここでは、現在主流になっているPPOとHMOの2種類について紹介しよう。

 PPOとHMOは、それまで主流だったインデムニティーのシステムによる弊害で起きた過剰な医療をなくし、保険料の高騰を抑えるために始まった保険システム。PPO、HMOは、それぞれが医療機関と契約を結んで独自の保険システムを構築しており、PPOやHMOが構築したシステムを商品化して販売しているのが、保険会社ということになる。PPOやHMOを扱う代表的な保険会社に、ブルークロス、ブルーシールド、パシフィックケア、エトナ、カイザーなどがある。

 ではまず、PPOとHMOの基本的な違いは何か? PPOはどんな専門分野のドクターでもネットワークの中から自分で選べるのに対して、HMOは必ず主治医を指定して、主治医を通さないと他の専門のドクターに行けないという点だ。

 ちなみにアメリカの病院は日本のような勤務医制ではなく、開業医が病院の設備を利用できるオープンシステムと呼ばれるシステムを取っているところが多い。そんな中でユニークな総合病院がカイザー・パーマネンテだ。カイザー・パーマネンテは、日本の病院のように勤務医が治療にあたり、保険も独自のカイザー保険を持っているが、カイザー保険は基本的にカイザー・パーマネンテでしか適用されないため、この病院のシステムはHMOになる。ただ一般的に多いのはオープンシステムなので、ここではその場合について説明しよう。

 PPOもHMOもそれぞれ一長一短で、一概にどちらのシステムが優れているとは言い切れない。そのためネットワークの広さや自己負担額など、個別に違いを検証して、自分に合ったタイプを選ぶ必要がある。

 ダイワ・インシュランス・マーケティング社長の安岡忠展さんによると、「近年、保険料は毎年のように5%近く値上がりしています。そのため会社が負担する保険料を月額200ドルなら200ドルと設定して、社員に自分に合ったプランを選んでもらうというような形が増えています。例えばA社員が選んだプランの保険料が月額150ドルなら、予算内なので全額会社が負担し、B社員の選んだ保険プランが250ドルなら、差額の50ドルはB社員の自己負担になります。この方式ですと、会社もコスト管理ができますし、社員も自分の事情に合ったチョイスができます」とのことだ。

 自分で選ぶとなると、保険の内容を詳しく把握しなければならない。そこで次は、それぞれの特徴を個別に検証してみた。


PPOとHMO、徹底比較

「医療機関からの請求書は、間違っていることも
ありますので、保険会社の明細書と見比べた方が
いいですね」(安岡さん)

選択肢の多いPPO、自己負担の少ないHMO

 まずドクターのネットワークの広さだが、これは圧倒的にPPOの方が広く、ほとんどの医療機関はPPOのネットワークに加盟している。またネットワーク内の医療機関であれば、内科、外科、整形外科など自由に受診専門分野を選ぶことができる。また、最先端治療のほとんどが保険の対象になっている。ネットワーク外の医療機関であっても治療を受けることはできるが、その場合は一部しか保険が適用されない。

 一方、HMOは前述の通り、どんな病気であれ、まず主治医を通すのが原則。主治医を訪ね、主治医の許可を得ないことには外科や皮膚科などの専門医を受診できない。またネットワーク外の医療機関では、一切保険が適用されず、治療内容にも制限があり、特に最新医療は適用されないケースも少なくない。主治医、またはメディカルグループの許可が必要なために、複雑な治療を要する病気の場合は、実際に治療を受けるまでに時間がかかること、また治療内容によっては保険の適応を断られるケースもあるというデメリットがある。

 HMOのメリットは、自己負担額の少なさ。自己負担額とは診療時に支払う金額のことで、HMOの場合、ブルークロスやブルーシールドでは、自己負担額はたいてい10ドル程度に設定されている。PPOにおける自己負担額は保険プランによって大差があり、金額が設定されているプランもあれば、パーセンテージで比率設定されているプラン、または一定金額までは全額自己負担というプランもある。

 医療機関や治療内容の選択肢の多さではPPO、自己負担額の少なさではHMO、ということがわかったが、次に実際のプランを比較して、さらに詳しく調べてみた。各保険会社で数多くのプランが用意されており、それぞれ保険内容は異なってくるが、ここでは代表的なプランを比較した。


入院しても一切無料か、数千ドルの自己負担か

(表1)フルークロスで見る自己負担額の比較

 まず、表1を参照してみてほしい。オフィスビジット(通院時にかかる費用)における自己負担額は、PPOが30%なのに対し、HMOは10ドル。その下のプロフェッショナルサービスとは、X線やラボ、麻酔医、外科医などの専門医や専門技師による治療のことで、アメリカではこれらの専門医や専門技師による治療費は、オフィスビジットとは別途に支払わなくてはならない。

 例えば、入院すると入院費として病院から請求されるのは部屋代、食事代、手術室使用費、ガーゼなどの備品費用、投薬した医薬品費用などで、手術で執刀した外科医や麻酔医、検査をしたラボの費用などはすべてプロフェッショナルサービスにあたり、別途請求の対象になる。この費用がPPOでは30%自己負担なのに対して、HMOでは10ドル。

 入院費用はというと、PPOでは自己負担が30%なのに対し、HMOは無料になっている。その上、事故や急病で救急車を呼んだとしたら、さらに差は広がる。救急車は走行距離によっても請求額は変わってくるが、1回救急車を呼ぶと500ドル、場所によっては約1000ドル請求されることも珍しくない。PPOでは救急車の自己負担額は30%、HMOでは50ドル。しかもHMOはそのまま入院すると救急車代も負担なしになる。

 例えば急性の盲腸で救急車を呼び、手術して2泊3日入院した場合に、2つのプランでどのくらい自己負担額に差があるか表2にまとめてみた(ただし費用はあくまでも仮定で、現実にかかる費用とは異なっているので要注意)。


ネットワークと治療内容で検証

(表2)PPO・HMOの自己負担額比較

 自己負担額だけで見ると、断然HMOが有利だが、治療内容が限定されるのが最大の難点。またHMOに加盟していない医療機関も多く、特に専門的な治療になればなるほど加盟率は低くなる。HMOでも救急車を呼ぶような緊急の場合はどの病院でも使えるが、緊急でなければ最寄りの病院ではなく、遠くのHMO加盟病院まで行かなければならない。

 上の表にある盲腸の例では、運び込まれた病院がHMOに加盟しているという前提で、しかも盲腸というマイナーな手術という仮定だったが、治療が複雑な重病であったりした場合は、「保険会社と医療機関が治療内容を契約しているため、保険会社が『その治療は保険を支払えない』と言えば、医療機関は検査ができなくなります。またせっかくその医療機関に最新機器があっても、保険がカバーしていないために検査を断られたり、別の機器を利用させられる、ということもありえます」(安岡さん)とのこと。

 一般的な疾患なら圧倒的にHMOの方が経済的だが、ガンの疑いがあっても主治医を通さなければならないため、すぐに専門医に行けなかったり、保険会社の許可が出ないために専門医に診てもらえなかったり、というケースが少なからずあり、一時は社会問題にもなった。

 「最近ではHMOの問題点もずいぶん改善されました」と話すのは、フランク中川インシュランス・サービシズのフランク中川さん。「HMOはマイナーな治療や検査では使い勝手が良く、全額カバーされる場合もあります」。


一概に安いと言えないHMOの保険料

 HMOの問題点が改善された理由の1つに、訴訟がある。4、5年前まで、HMOを訴えることは法律上できなかったが、それが可能になり、保険内容は以前に比べると改善された。だが反対に弊害も生み、弁護費用がHMOの財政を圧迫したため、月々払う保険料がつり上がった。低い自己負担額と共に、安い月々の保険料もメリットだったHMOだが、現在では20代なら倍以上、40代でもPPOの方が安くなってしまい、50代でようやくほぼ同額、という結果になった。

 また先ほどの例では、HMOの自己負担額を単純に医療費の30%として計算したが、実際には比率の対象になるのは、医療費全額ではなくNegotiated Feeの30%。Negotiated Feeとは、保険会社が医療機関と交渉して設定した金額のことで、一般料金よりもたいてい30%から40%低く設定されている。先ほどの例では、例えばブルークロスを使ってA病院に入院したとすると、入院費用は4500ドルでもA病院のブルークロス価格が3000ドルとすれば、自己負担は3000ドルの30%になる。HMOと比べるとまだ高額だが、月々の支払いやその他の要素を加味すると、一概にHMOの方が安いとは限らないのだ。

 ただし、実際にPPOを利用する場合、「ネットワークに加盟しているかどうかは再確認した方が良いでしょう」と、安岡さんは注意を促す。「大きな病院でもたまに契約交渉がこじれると、契約が切れることがあります。それでも時間が経てば、お互いの不利益になるので折衝して再契約するものですが、たまたま契約が切れた時に治療を受けると、ネットワーク内のつもりだったのが、ふたを開けて見るとネットワーク外扱いになっていた、というケースもあり得ます」。

PPO &HMOそれぞれの特徴
【PPO】

□ 月々の支払いは安いが、医療機関を訪れた時の自己負担額は高い
□ 最新医療を含め、希望の治療や検査を受けることができる
【HMO】
□ 月々の支払いは高いが、医療機関を訪れた時の自己負担額は安い
□ 最新医療を含め、希望の治療や検査を受けられないことがある