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歴史が動く大統領選挙
新政権下のアメリカを考える(3)

Lighthouse編集部


米国労働者を守るオバマ氏

クレイグ・R・スミス博士
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校コミュニケーション学部教授で、カリフォルニア州立大学システム評議員。共和党でフォード元大統領やブッシュ元大統領のスピーチライターやクライスラー社でリー・アイアコッカ会長のスピーチライターなどを務め、公共政策のアナリストとしても有名

 それではここで、識者に今回の大統領選を詳しく分析してもらおう。

 まずカリフォルニア州立大学ロングビーチ校で、コミュニケーション学を教えるクレイグ・R・スミス教授は、オバマ・マケイン両候補の選挙キャンペーンの違いを、次のように分析する。

 「マケイン氏は、既婚女性と保守層をターゲットにキャンペーンを進めているように思えます。彼のキャンペーンの方程式は、ずばり『エネルギーと国土安全保障』。エネルギー問題は、原子力発電所を新たに作ったり、沿岸油田の開発を許可するなどして、中東の石油に代わる代替エネルギー開発を提供することでポイントを稼ぐ作戦です」。

 これに対して「オバマ氏は、彼の主要支持層であるマイノリティーとリベラルをターゲットにキャンペーンを進めています。その中心になっているのが、雇用政策と健康保険問題です」。

 だがスミス教授は、オバマ氏の掲げる健康保険政策には懐疑的だ。「オバマ氏が当選しても、はっきり言って国民健康保険を現実化することは難しいでしょう。と言うのも、彼の健康保険プランを実施しても、コー・ペイ(Co-pay。健康保険を持つ人が通院の度に病院で払う費用)のことを考えると、計算上うまくいかないのです」。オバマ氏は予備選の最中に、ヒラリー・クリントン氏を始め、他の民主党候補の健康保険政策を「非現実的」と批判していた。

 「オバマ氏の雇用戦略にも無理があります。中産階級への税金をカットすることにより、経済成長を促進させるのが彼のプランなのですが、国の財政赤字をどうするのでしょうか。いささか疑問が残ります」。


マケイン氏はヒーロー
オバマ氏はカリスマ

 マスコミが作った両候補のイメージはどうだろう。

 「マケイン氏は、信頼できる、経験のあるヒーローとして報道されています。しかし有権者とマケイン氏の感覚には、大きなギャップがあります。例えば、彼は『奥さんと2人で何軒の家を持っているか』という質問に答えられませんでした。また別の質問には、『金持ちは500万ドル以上の年収がある人』と答えています。多くのアメリカ人は、彼らが何軒の家を持っているかを知っていますし、一般国民の『金持ち』の定義は、500万ドルを遙かに下回りますから」。

 一方、マケイン氏に比べて遙かに露出が多いオバマ氏はどうか。「彼は若くて感情的で、カリスマ性があるというイメージを植え付けられていますね。その一方で、中身がないという批判もあります」。確かに、観念的で空疎だという批評も多い。

 40代のオバマ氏と70代のマケイン氏という年齢差についてはどうだろうか。「『マケインは大統領候補史上、最高齢の72歳』という報道には、健康面などで不利なイメージがつきまといますが、一部メディアでは、彼の年齢が有利であると報道しているところもあります。シニアの票を多く集める可能性があるということです」。

 スミス教授は続ける。「マケイン氏の年齢は、彼に『経験』というイメージを与えています。オバマ氏の若さはもちろん魅力ですが、その若さは経験不足で早まった行動をする、というイメージを与えることもあるのです」。オバマ氏の「経験不足」という批判は、ヒラリー・クリントンの陣営がしきりに行ってきた。その余韻が有権者の耳に残っていれば、オバマ氏の足を引っ張ることになるだろう。

 さて、気になる新政権の対日政策。スミス教授は、貿易を軸に解説をする。「共和党は自由で公平な貿易を好むので、マケイン氏が勝てば日本との関係は良好に推移するでしょう。一方オバマ氏は自由貿易に反対です。アメリカの労働者を守るという名目で、関税を引き上げることも予想されます。そういった意味で日米関係を傷付けるかも知れません」。


中国の興隆は
アメリカにも有益

 それでは、日米間の懸案の1つである北朝鮮問題についてはどうだろうか。北朝鮮の外交戦略は、明らかにアメリカと1対1で交渉をすることにある。これに関してスミス教授はこう見る。

 「マケイン氏は、ブッシュ大統領と同じように北朝鮮を含む3カ国以上と交渉をする方針を崩さないと思います。大まかに言ってマケイン氏は、ブッシュ政権初期のような対応を北朝鮮に対して取るだろうと私は思います。しかし、大胆な副大統領の選択を見てみると、意外な展開があるかも知れません。北朝鮮問題に関しては、オバマ氏は危険ですね。彼は直接交渉を模索していると私は思います」。

 五輪後の中国との関係はどうだろうか。この点についてスミス教授は非常に楽観的だ。「アメリカは北京五輪で大変良い成績を収めることができました。また中国から中継された映像も素晴らしいものでした。オリンピックを通じて、アメリカ人の中国への評価はアップしましたね」。

 五輪後の景気後退が一部で懸念されていることに関して、「私は中国の経済が悪くなるとは思いません。まったくその逆で、五輪が呼び水になって中国へ観光客が押し寄せるようになると思います。それによって米ドルと商品が普及するようになります。それは、アメリカにとっても非常に良い方向なのです」。

 マケイン氏が大統領となれば史上初の女性副大統領が誕生し、オバマ氏が勝てば初のアフリカ系アメリカ人の大統領となる。スミス教授は、この選挙は最後までもつれると見る。

「勝敗の鍵は民主党を支持する女性ですね。彼女たちの票が共和党に流れれば、マケイン氏が勝利するでしょう」。


通商に積極的なマケイン氏

ブライアン・ペック弁護士
クローウェル・アンド・モーリングLLPカリフォルニア支社に所属する、貿易・知的所有権を専門分野とする弁護士。米国通商代表部(USTR)での勤務経験があり、WTO(世界貿易機関)の会議で、知的所有権分野を担当。政府代表として米国代表団を導いた。日米企業で管理職をした経験もある知日派

 今度は、国際的な舞台でも活躍した貿易の専門家、ブライアン・ペック弁護士に聞いてみた。ペック氏の専門分野である両候補の通商政策の違いについて。「オバマ氏がキャンペーンで主張していることは、予備選の時期と民主党の正式候補に決まった後では、実は若干修正されているんですよ。いずれにしてもオバマ政権が誕生したら、アメリカは『守りの政策』に入るでしょう。

 第1に、すでに同意されている事柄に対して、その実行を相手国に強く求めるでしょうね。その結果、WTOでの論争やアメリカ単独の政策実行が増えると思われます。例えば、中国人民元に対する市場操作や、違法な輸出商品に対する補助金を獲得するための戦いなどです。

 第2に、WTOドーハ・ラウンドなどの多国間協定に注目するようになるでしょう。なぜなら多国間協定なら、アメリカの産業や雇用に対してマイナスの影響がないからです。

 そして第3に、現在のFTA(自由貿易協定)などの見直しを行うでしょう。例えばNAFTA(北米自由貿易協定)や、韓国、コロンビア、パナマとの未解決のFTAが対象になりますね。これらが大統領選後に議会で承認されなかった場合、オバマ政権は両国にとって敏感な部分について再交渉を挑むと思われます。例えば、韓国とのFTAに関しては、自動車の条項などですね」。

 そのほかの部分で、現共和党政権との違いはどこに現れるのだろうか。「オバマ政権下での新しいFTAに関しては、労働・環境保護関連の条項へ力を入れるでしょう。アメリカの産業と雇用を脅かす国とのFTAを結ぶ可能性は低くなります。また、貿易政策に対しては、民主党が強い連邦議会の権限を強めることになります。守りの姿勢が強い民主党議員が、貿易政策や貿易関連の法律制定へ大きく影響を与えるようになると思われます」。


マケイン氏は
落ち着いた貿易政策を

 それでは、マケイン政権の場合はどうだろうか。ペック氏は「落ち着いた」貿易政策の指針を持ち、その政策を積極的に実行すると言う。

 「マケイン氏が大統領になったら、第1に、未解決のFTAを追認するでしょう。第2に、WTOドーハ・ラウンドは大きく前進し、成功裏に結論を出すでしょう。WTOのメンバーの間で、農業関係の交渉における妥協の可能性が見えてきます。なぜならマケイン氏は、アメリカの農家に対する補助金に対応する意志と、それから生ずる問題点などを請け負う気持ちがあるからです。第3に、新たな双務的かつ地域的自由貿易への同意に取りかかるために、マケイン新大統領に対して新たな貿易促進に関する権限を、議会は認めるでしょう。第4に、既に存在する貿易協定への強力なテコ入れを行うでしょう。そして、日本のような経済的に重要な貿易相手とのFTAに力強く立脚し、新たな多国間、地域的、双務的貿易協定に着手すると思います」。


日米の経済関係は
再構成が必要

 それでは、日米関係への影響はどうだろうか。日本の識者の中には、マケイン氏は日米関係に言及しているものの、オバマ氏から「日本」という言葉は出ていないと指摘する人もいる。しかしペック氏は、基本的に両候補共に日米関係を含む、同盟国との関係強化の必要性を理解していると見る。

 「どちらがホワイトハウスの鍵を勝ち取ったとしても、両党および政策立案者の間では、経済的、貿易的に、日米関係をもう1度元気にする必要がある、という意見が強まっていることでは一致しています。私の見解では、日米間のFTAに関して言えば、マケイン政権の方が、日本を重視すると思いますが、オバマ政権になっても、双方の経済的関係の骨組みを再度組み立てることになるでしょうね」。

 では北朝鮮問題はどうだろう。「オバマ氏は核の増加に関しては厳しく取り締まり、条約を強化し、ルールを守らない北朝鮮のような国には制裁を課す、と断言しています。そして、朝鮮半島での核に関する緊張感を解決できるのであれば、金正日と直接対話をする準備ができていると述べています」。

 一方マケイン氏は、直接対話には批判的だ。「マケイン氏は、韓国などの民主的な同盟国と一致して対応すべきであって、『大統領訪問』で金正日をなだめる必要はないと述べています。党大会で共和党は、北朝鮮を『狂気の国』と位置付け、北朝鮮の核兵器やいかなるその他の核兵器関連の活動をも許さないという厳しい姿勢を崩していません。マケイン氏の北朝鮮政策は、それを踏襲することになるでしょう」。

 五輪後の米中関係についてはどうだろうか。ペック氏も重大な影響があったとは思えないと言う。しかし、「私たちは五輪の際に、警察官が日本人レポーターに対して暴力をふるったことなどで、中国の報道、インターネット、公での主張などに、相変わらず制限が加えられているということを目のあたりにしました。中国のIOCに対する約束は反故にされ、米国を含むほかの国々へ、中国の人権問題をあからさまにしたような気がします」。

 最後にペック氏に、率直に勝敗の予想を聞いてみた。「この質問は10月になったらまた聞いてください(笑)。今はまだ早いですよ。どちらかの候補者に関するマイナス報道や重大な誤りがない限り、このレースは最後の最後、投票日までもつれ込みます。ヒラリー氏を熱狂的に支持していた人たち、労働者層、女性の票をどちらが獲得できるか、ということが鍵になりそうですね」。


© Courtesy of John McCain 2008


平穏な日米関係が持続

© Courtesy of Barak Obama 2008

ジェームス・ファデリー氏
日米のビジネス協力を促進し、経済・通商問題の解決に貢献する日米経済協議会、そのアメリカ側の組織である米日経済協議会(US-Japan Business Council)の会長職を2002年から務める。同職就任以前は、商務省国際通商局、輸出入の企業などに勤務。連邦議会の貿易アナリストを務めるなど、貿易・通商分野の専門家

 最後に、日米経済協議会会長で、ビジネス分野の専門家である、ジェームス・ファデリー氏にうかがってみよう。

 「オバマ氏のキャンペーンは明らかに『変化』をテーマにしていますね。特にアメリカの外交政策の方向性の変化です。例えば、イラクからの撤退の時期や国際事情におけるアメリカの位置と役割、エネルギーや環境問題についてもそうですね」。

 オバマ氏が主張する変化は外交面だけだろうか。「いや、内政に関する主張にもそれが見られますね。中流社会とその上の人たちへのサポートとしての税金対策、教育面でのサポート、健康保険の拡張などがそうです。総合的に見て、オバマ氏はかなりポジティブな21世紀のアメリカについてのビジョンを持っていると言えるでしょう。だからと言って、彼の考えがすべて正解だ、とは言い切れないのですが…」。

 一方のマケイン氏は、「オバマ氏の『変化』へのポジティブな運動に呼応するように、マケイン氏もこのテーマにチャレンジしようとしているように見えます。彼は80年代からずっと連邦議会議員であった、いわゆる『コンサバ』であるにもかかわらずです。彼は、自分が『1匹狼』であることを強調し、共和党やホワイトハウスの責任を自分が背負うのだ、ということを演じて見せています。ペイリン・アラスカ州知事を副大統領候補に選んだのは、彼のこのような試みを、彼女もサポートしているという風に私は見ています」。


少しネガティブな
マケイン政策

 それではマケイン氏の政策もオバマ氏同様にポジティブなものなのだろうか。「マケイン氏のキャンペーンの土台は、オバマ氏ほど前向きではないですね。オバマ氏に対するネガティブキャンペーンに力を入れています。個人的なことや、人格、品性をターゲットとした批判ですね。率直に言ってマケイン氏は、自分自身が描くアメリカの将来像についてあまり話していませんし、彼の提案には大志が欠けていて、幅が狭いように思うのです」。

 それではビジネスの専門家の立場から、日米関係への影響について語ってもらおう。「2人共、将来の日米の同盟関係が、アジア太平洋地域だけでなくグローバルに大切であると考えています。私は両者共に、日本との外交関係をうまくやっていこうと考えていると思います。しかしだからと言って、日本が最優先とは限らないですね」。

 両氏のどちらが日本に有利なのだろうか。「どちらかというと、マケイン氏の方が日本へやや関心を持っているでしょうね。なぜなら、マケイン氏の外交政策顧問や、彼の取り巻きを見れば自然にそう思えます。ただ、それほど極端な差はないですね。現在日米関係は安定しています。2人共日米間の貿易や投資の重要性とその関係については理解しているように思えます。ただ、両者のキャンペーンの資料や声明からは、新たな重要なイニシアチブがあるかどうかははっきりしません。例えば、2国間協議に基づく貿易や投資を促進することについてがそうですね。ただし、そのような貿易関連のイニシアチブは、中国やそのほかのアジア市場の次になるので、日本との場合は多少低迷するでしょう」。


どちらの政権も
対中政策に変化が

 基本的に日米関係に波風はないと見るファデリー氏。では、政府間関係についてはどうだろう。「日米にとって今後は、安全保障と経済でハイレベルな対話を続けることが重要だと思います。と同時に、このキャンペーン中にも、日本との良い関係を維持することは重要ですね。そうすることによって、両国をさらに近付け、アジア太平洋における米中関係の問題、エネルギーや環境についての協力など、新たに起こる色々な課題について対応しやすくなるでしょう。北朝鮮問題についても、2人共日本を尊重すると思います」。

 ある意味日本のライバルである中国との関係はどうだろうか。「米中間にはたくさんの問題が山積しており、それらを再考し、解決する必要があることははっきりしています。民主党政権になっても、共和党のままでも、大きな変化があると私は思います。しかし、今はその変化がどのように発展するかについては、まだあれこれ言う段階にはありません」。

 それでは最後に、ファデリー氏にも勝敗の行方を聞いてみよう。「評論家は、今年は民主党の年だろうと言っています。確かに可能性から判断すると、民主党が上院でも下院でも議席を増やすと思います。でも党大会は成功し、資金面でもかなり有利であり、そしてオバマ氏が『変化』のメッセージを送っているにも関わらず、有権者の間でまだ彼に対する抵抗があるようです。もしもオバマ氏がうまくマケイン氏の攻撃をかわし、将来のアメリカに必要なことを説き、そしてその方向性を維持することができるなら、彼はギリギリで当選するでしょう。鍵は、オバマ氏のパフォーマンスが独立派(2大政党を支持しない有権者)、特にコロラド、バージニア、ペンシルベニアなどの「swing states」(選挙結果を左右する可能性がある州)の有権者、そして若い世代を選挙に呼び出すことができるかどうかでしょうね」。