学ぶ意思を尊重するアメリカ高等(大学・大学院)教育の仕組み

ライトハウス電子版アプリ、始めました

国家よりも古い歴史を持つアメリカの大学。天才の代名詞ハーバード大学から、南カリフォルニアの名門・UCLAやUSC、各地にあるコミュニティーカレッジまで、アメリカには数え切れないほどの大学・大学院がある。日本とは異なる制度を持つアメリカの大学・大学院。今回は、カリフォルニアの大学システムを中心に、アメリカの高等教育の概要を解説する。
(ライトハウス・ロサンゼルス版 2008年9月16日号掲載)

●アメリカの大学への進学・留学については「アメリカ・ロサンゼルス留学~おすすめ大学・語学学校の最新情報」でも詳しく紹介しています。併せてご覧ください。

アメリカの大学の成り立ちと仕組み

アメリカにおける大学教育

アメリカ高等教育の仕組み

アメリカに最初の移民がやって来て、イギリスの植民地としての歴史が始まるのが1620年、独立宣言が1776年。実はその間に、開拓が行われたアメリカ東部では、既に大学が誕生していた。超名門私立大学・ハーバード大学もその1つだ。

その頃の大学とは、富裕層の子弟を教育し、聖職者や植民地のリーダーを養成するために、「リベラル・アーツ」を学ばせることに目的があった。独立後のアメリカにも、軍関係の大学以外の国立大学は誕生せず、名門私立と実学中心の州立大学に大別される高等教育システムが発達していく。

その後、多くの移民を受け入れていったアメリカは、社会の成長と共に、意思のある者ならば誰でも学ぶことができる、コミュニティーカレッジの教育を充実させていった。

日本の6・3・3・4の教育システムは、敗戦直後の占領期にアメリカによって構築されたものだ。しかし、現在のアメリカの教育システムは、州や教育委員会によって異なるが、日本とは違っていることが多い。

大学へは、12年間の教育を修了した後に進学するという考え方は日本と同じ。ただしアメリカの教育は、本格的な専門教育を大学院で行うという考え方であり、学部以下の場合、非常にフレキシブルに専門分野を変えることが可能だ。また、コミュニティーカレッジから4年制大学への編入も盛ん。

日本でもロースクール(法科大学院)の制度が開始されたが、アメリカの大学院は、スペシャリストを養成する教育機関として認知されている。ロースクールやMBA(経営学修士号)取得のためのビジネススクール(経営大学院)、メディカルスクール(大学院医学研究科)やデンタルスクール(大学院歯学研究科)などの「プロフェッショナル・スクール」と、その他の分野の「グラデュエイト・スクール」に大別される。

アメリカの私立大学と州立大学の違い

アメリカの私立大学の場合、いわゆるアイビーリーグ(ブラウン、コロンビア、コーネル、ダートマス、プリンストン、ペンシルベニア、イェール)やMIT(マサチューセッツ工科大学)、カリフォルニアではカリフォルニア工科大学、スタンフォード大学などの世界的に有名な超難関大学から地方大学まで、難易度には大きな幅があるのは日本もアメリカも同じこと。注意したいのは、高額な学費とディプロマ・ミルの存在だ。

それでは、州立大学はどうだろうか?主に州の税金で運営されるわけなので、州民の入学が優先される。学費や入学に関しても、州民か否かによって差があるのが現実だ。こちらも難易度は、カリフォルニア州の場合、UCバークレー校に代表される超難関校から、実学主体のカリフォルニア州立大学(California State University: CSU)各校までレベルもさまざま。

州立大が私立に比べると大規模校が多くなるのは日本とは逆の傾向。ただし州立は専攻の幅が広く、UCの場合、名門私立にも引けを取らない大学院を持つ学校もある。

一方、コミュニティカレッジは州立の2年制短期大学だ。4年制大学を卒業すれば「学士号」(Bachelor)が、コミュニティーカレッジを卒業すれば「準学士号」(Associate)が授与される。

カリフォルニア州の大学の仕組み~3つの大学システム

では次に、カリフォルニア州にある3つの大学システムを見ていこう。

CSU(カリフォルニア州立大学システム)

CSU(カリフォルニア州立大学システム)の第1号は1857年に設置されたカリフォルニア師範学校(現在のサンノゼ州立大学)。これに続いて誕生した23の州立大学システムのことをCSUという。学部課程と修士課程で構成され、カリフォルニア州高等教育制度基本指針(Master Plan for Higher Education)によれば、州内の全高等学校卒業生徒のうち、上位3分の1を占める者、一定の要件を満たすコミュニティカレッジ卒業生を受け入れる大学である。
 
現在、カリフォルニア州立大学の学費は年間約2500ドル、これとは別に各校ごとにサービス費が徴収される。留学生や州外からの学生の学費は約1万3千ドル。現在、学費増額が検討されており、学生の反発を招いている。

UC(カリフォルニア大学システム)

これに対してアメリカ国内で7番目の規模を誇る巨大州立大学群が、カリフォルニア大学(University of California: UC)だ。CSUと区別するために、「州立」とは言わない。最古のUCであるバークレー校は1868年に誕生した。最新にして最後のキャンパスは2005年に開校したメーセド校。サンフランシスコ校だけは医学系大学院とロースクールのみであるが、それ以外は総合大学である。
 
一般に実学重視のCSUに対して、UCは研究・大学院教育重視で、施設も充実している。難易度も比較的高くなっている。

コミュニティカレッジ

カリフォルニア州コミュニティカレッジ・システム(CCCS)は地域の住民なら誰でも入学できる州立の2年制大学。州内72の学区、110の学校が存在する。CCCSは世界最大のカレッジシステムであり、2500万人が学んでいる。学費が安く抑えられているので、一旦ここに入学した後で、4年制大学へ編入する人も多い。
 
お稽古ごとのような科目も存在する一方で、職業に直結した教育や大学への編入のステップとなる学問の基礎的な科目も多くある。学期ごとの集中講座などもあり、フレキシブルに学生を受け入れている。

コミュニティカレッジへの入学には成績証明書の提出が必要だが、成績そのものは関係がない。ただし、アメリカの高校を卒業していない場合には、TOEFL(Test of English as a Foreign Language)の受験が必須で、基準点未満の場合には、ESL(English as Second Language)の科目を先に履修しなければならない。一方、提携している英語学校での成績次第では、入学にTOEFLを課さない学校もある。

カリフォルニア州立大学(設立順)

サンノゼ州立大学(San Jose State University)
カリフォルニア州立大学チコ校(California State University, Chico)
サンディエゴ州立大学(San Diego State University)
サンフランシスコ州立大学(San Francisco State University)
カリフォルニア理工州立大学(California Polytechnic State University)
カリフォルニア州立大学フレズノ校(California State University, Fresno)
ハンボルト州立大学(Humboldt State University)
カリフォルニア・マリタイムアカデミー(California Maritime Academy)
カリフォルニア州立理工大学ポモナ校(California State Polytechnic University, Pomona)
カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(California State University, Los Angeles)
カリフォルニア州立大学サクラメント校(California State University, Sacramento)
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校(California State University, Long Beach)
カリフォルニア州立大学サンディエゴ校(San Diego State University)
カリフォルニア州立大学イーストベイ校(California State University, East Bay)
カリフォルニア州立大学フラトン校(California State University, Fullerton)
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(California State University, Northridge)
カリフォルニア州立大学スタニスラウス校(California State University, Stanislaus)
カリフォルニア州立大学ドミンゲスヒルズ校(California State University, Dominguez Hills)
ソノマ州立大学(Sonoma State University)
カリフォルニア州立大学サンバナディーノ校(California State University, San Bernardino)
カリフォルニア州立大学ベーカーズフィールド校(California State University, Bakersfield)
カリフォルニア大学州立大学サンマルコス校(California State University, San Marcos)
カリフォルニア州立大学モントレーベイ校(California State University, Monterey Bay)
カリフォルニア州立大学チャンネル・アイランド校(California State University, Channel Islands)

カリフォルニア大学(設立順)

カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)
カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA: University of California, Los Angeles)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California, Santa Barbara)
カリフォルニア大学リバーサイド校(University of California, Riverside)
カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego)
カリフォルニア大学アーバイン校(UCI: University of California, Irvine)
カリフォルニア大学サンタクルーズ校(University of California, Santa Cruz)
カリフォルニア大学メーセド校(University of California, Merced)

ディプロマ・ミルにご用心!

近年日本でもアメリカでも、有名大学の教授や公務員などが、昇進のために「ディプロマ・ミル」による卒業証書や学位を利用していたことが問題になり、「学位汚染」という言葉も生まれた。

ディプロマ・ミル(Diploma Mill)とは何か? 直訳すれば「学位製造工場」。これは、州政府などに公認されていない、正規の大学ではない「教育機関」のことである。

どうしてこういうものが存在できるのだろうか?例えば、ある大きな宗教団体が、独自に宣教師を養成するための学校を作り、その卒業生に対して、自分たちの間だけで通用する「神学博士」の称号を授与する、といったケースがそれだ。これには何の問題もない。なぜならそれは、組織内だけの称号だからだ。

ところが、昨今の学位汚染問題では、「ユニバーシティー」や「カレッジ」という名前を使い学位を販売している、ディプロマ・ミルから授与された学位を、公の学位として悪用するケースが見受けられる。

ディプロマ・ミルの中にも、肩書きを買いたい人に学位を販売しているところや、名誉教授を斡旋するような「確信犯」もいれば、それなりの教育を施しているところもある。こういった無認可の「教育機関」の教育内容は、外から見ればわかりにくいことも多く、せっかく入学して学問に励んでも、卒業後に公的にはただの紙切れに等しい卒業証書をもらっていた、ということもあり得る。そういった意味で、州政府の認可制度が複雑なアメリカでの大学選びには、十分な注意が必要だ。

アメリカの大学の入学から卒業まで

アメリカの大学入試SAT

アメリカでは日本のような入学試験はない。その代わりに、SATという民間の試験を利用することがほとんどだ。そのため、毎年アメリカでは、200万人の受験生がSATを受験している。
 
その中心になるのがSATリーズニング・テスト(SAT Reasoning Test)。国語(英語)の読み書きと数学で、今まで勉強してきた能力を計るだけでなく、今後、アメリカの大学での教育に耐えうるかどうかを見極めることが目的である。一般的には11年生(ジュニア)または12年生(シニア)の年に受けることになる。
 
かつてSATⅡとして知られていた科目別のテストは、現在、SATサブジェクト・テスト(SAT Subject Test)に名前が変更になっている。その目的は、受験する大学に対して、国語、歴史、数学、理科、外国語の能力を示すことにある。この試験は特定の教科書や教育方法とはまったく関係なく、独自のものであり、出題内容も毎年変わるが、出題範囲は現行のカリキュラムに沿っている。大学によって要求される科目が異なるので、事前に調べておくこと。
 
他にもACT(American College Testing)と呼ばれるテストもあるが、受験する際にどのテストが必要なのか、こちらもしっかり調べておく必要がある。

アメリカへの留学の第1関門・TOEFL

一方、アメリカへの留学生に必要なのが、TOEFL。これは1964年に、英語を母国語としない人々の英語力を測るテストとして、アメリカの非営利教育団体であるEducational Testing Service(ETS)が開発したもので、アメリカの大学では留学生の英語能力を測るテストとして、広く認知されている。
 
2005年9月から導入された新形式の「TOEFL iBT」は、英語でのコミュニケーションに必要な「読む」「聞く」「話す」「書く」の4つの技能を総合的に測定するものとなっており、英語をどれだけ「知っている」か、ではなく、「使える」かに焦点を当てている。
※詳しくは、国際教育交換協議会のサイトを参照。

大学卒業までの長く険しい道のり

日本の大学は入学が難しく、アメリカの大学は卒業が難しいとよく言われる。実際には、アメリカの大学も学校によっては入学も難しい。確かに黙って講義を受けて、ノートを取っていれば単位がもらえるというわけではないアメリカの大学は、難易度の問題もさることながら、講義に積極的に参加するシステムに慣れない日本人にとっては、卒業はさらに難しく感じられるだろう。

また、入学式があり、丁寧にオリエンテーションがある日本の大学とは違い、ある程度のナビゲーションはあるものの、万事自分で行わなければならないアメリカの大学では、自分が注意していないと、卒業に必要な単位を取り損ねていたというケースも出てくる。

大学の卒業式は5月。実際、その年の8月までに単位が揃えば、その年度での卒業ということになるので、いわば「卒業見込み」で卒業式に出席することが可能だ。正装して卒業式に出席し、仲間たちと大騒ぎしたものの、必要単位が足りなかったので卒業には至らず、10年以上経ってから昇進などの際に、卒業証明書がないことがわかり、実は「中退」だったことが判明するという悲喜劇もある。

アメリカの大学や大学院は、日本のように4月に入学して、4年後の3月にその多くが卒業するというような画一的なものではなく、卒業の時期は学生が単位を履修・習得したスピードによって大きく異なる。

また、入学した学校と卒業した学校が違ったり、途中で複数の学校から単位を取ったりすることはざらで、そういった場合、ますます自己管理が重要になってくる。もちろん大学側でも学生の習得単位は管理しているが、学生がどんな履修計画を立てるべきか、ということまでは教えてくれない。専攻を変更する時、編・転入学する時には、自分が習得した単位数だけではなく、その単位が編・転入に使えるのかどうかを事前に調べておく必要がある。特に、コミュニティーカレッジから4年制大学へ編入する際には要注意だ。大学によっては、認めない単位があるし、編入先によっては成績も重視されるからだ。履修計画を立てたり、編・転入をしたりする際には、各校のカウンセラーに必ず相談しよう。

日本人留学生:正規留学への道

アメリカに住んでいても、日本国籍で、日本の高校を卒業していれば、アメリカの大学では留学生になる。留学準備に必要な期間は、一般的に大学・大学院への留学の場合には約1年半前から、語学留学の場合でも約半年前から準備をすることが望ましい。特に、ビザ取得は年々難しくなっている。既にアメリカに住んでいる場合には、移民法弁護士に相談することをすすめする。

留学の事前情報に関しては、日米教育委員会が両国間の教育、文化、学術交流を推進する目的で設置した「留学相談サービス」の利用が便利だ。電話での相談(103-3580-3231、月~金・午後12時~5時)の他、東京にある資料室では、アメリカの大学のオンライン・カタログ、留学計画や大学選択に役立つ参考図書などを閲覧することができ、大学・大学院留学に関する説明会を東京、札幌、仙台、名古屋、京都、大阪、福岡、沖縄などで実施している。メール(eas@fulbright.jp)での問い合わせも可能だ。

また、アメリカ大使館領事部(☎03-5354-4033)では、ビザ取得に関する24時間音声・FAX情報サービスを有料(クレジットカードによる課金制)で行っている。メールによる回答サービスも有料で行われているので、詳細は大使館ビザサービスのウェブサイトで確認のこと。

生涯一学生:リカレント教育

リカレント教育とは、1973年にOECD(経済協力開発機構)が発表した「リカレント教育–生涯学習のための戦略–」に基づいている。それによれば、「リカレント教育とは、血液が人体のなかを循環するように、教育が個人の生涯にわたって循環すること、すなわち、労働等他の諸活動と交互に教育を行うこと」となっている。日本では、92年の生涯学習審議会による「4つの課題」などによって、言葉だけは知られているが、残念ながらそれは、厳しく言えば社会人を対象にした入試制度の改革やサテライト・キャンパスの設置等にとどまっている。

アメリカの場合、基本的に入試がなく、さらに、労働市場の流動性が高いため、社会人になってからも大学に戻り、キャリアアップを図ったり、ステップアップのために資格コースを履修したり、まさに「リカレント」が盛んに行われている。MBA取得講座などはその好例だ。大学側も、セメスターの枠にとらわれない集中講義や夜間クラスを豊富に準備し、単位互換も盛んに行うなど、ニーズに応えている。

あるコミュニティーカレッジで行われている、夜間集中コースの日本語講座上級クラスをのぞいてみると、昼間や夜中に職を持つ30~60代の生徒が十数人、日本人の先生から熱心に会話や文法を学んでいた。日本が好きで学ぶ人もいるが、コミュニティーカレッジ卒業のための単位を揃えている人、大学中退後20年目にしてUCへの編入学を目指して単位を積み重ねている人など、目的はさまざまだ。

コミュニティーカレッジでは、そのような授業に入学を希望する外国人にも、TOEFLなしで門戸を開いている。自分の興味がある講座だけの受講も可能なので、チャレンジしてみてはどうだろうか。ただし、英語と数学の能力テストを受けることが義務付けられている。

アメリカの大学の学費と奨学金

アメリカでは「贈与」が中心の奨学金

一般的なアメリカの大学の学費は、年間8千ドルから4万5千ドル。それ以上かかる大学も多い。大学進学資金は、多くのアメリカ人にとって進学の大変な障害となっている。保護者に学費を頼らない(頼れない)学生も多いので、高校卒業後に数年働いて、お金を貯めてから進学するということも多い。

また、政府機関や各種団体による奨学金や学生ローンもさかんに利用されている。奨学金(scholarship)と言えば、日本では返還が必要な「貸与」が中心だが、アメリカでは返還不要な「贈与」を意味している。州立・私立を問わず、一定未満の収入水準の場合に贈与される奨学金は各種あるが、学費を無料にすることを決めたスタンフォードやハーバード大学などの例も、大学独自の奨学金と言えるだろう。その他、企業や同窓会団体などが、数多くの奨学金や資金援助の制度を提供している。

これらの奨学金制度は、日本と同じように学生の年収と成績によって判断されるが、貸与ではなく贈与なのでハードルは高く、学費免除などの場合には、卒業生として大学と同窓会の名誉を高めてくれることを期待される、天才的な才能やプロ選手レベルのアスリートでないと受けられない。

一方、カリフォルニア州では「Cal Grant」という一般的な奨学金制度もある。ただしこれは、基本的には生活に恵まれない学生に対してのもので、いくら成績が良くても、年収が高い場合には受けられない。

カリフォルニアの主な大学の比較

※クリックすると拡大できます

 

留学生の奨学金は日本学生支援機構へ

こういったアメリカの奨学金に一般的な日本人学生、特に留学生扱いとなる日本の高校を卒業した、日本国籍を持っている学生が割り込むことは難しい。しかし、その一方で、留学生はビザを取得する前には、学費の支払い能力があることを証明しなければならない。そのため何らかの資金援助が必要なケースも多いだろう。フルブライトの奨学金に申し込むこともできるが、こちらもハードルは高い。

一般的に言えば、日本学生支援機構(JASSO)による「第2種奨学金(海外)」の貸与を受けることが現実的だ。これは、海外の大学・大学院進学予定者を対象に(短期大学は対象外)、進学をする前に申し込む「予約制度」となっており、申込書類の請求・提出先は、日本国内にある高等学校となる。

募集受付は留学をする前年度の6~10月で、貸与月額は3~12万円の5段階の選択制だ。申込資格は、留学の前年度に日本国内の高等学校、専修学校高等課程を卒業見込みの者、もしくは、募集受付時においてそれらの学校・課程を卒業後2年以内の者となっている。

対象となるのは、勉学意欲がありながら、経済的理由により進学に困難がある者、学位取得を目的として積極的に海外の大学に進学を希望する者、海外の大学を卒業する能力を有することについて在学学校長の推薦がある者、となっている。英語力が不足しているために、ESLコースなどを受講する場合は、奨学金の貸与対象期間とはならないが、語学コースを終え、予約の年度内に正規の課程へ進学できる見込みがあれば、予約候補者として対象になる。正規の課程へ進学した月以降、奨学金の貸与が開始される。

留学の前年度に日本国内の高等専門学校、短期大学又は専修学校専門課程を卒業、または卒業後2年以内の者で、海外の大学の正規の課程に編入学を希望する者も対象となる場合がある。所得による基準やそれを証明する書類などが必要になるので、早めの準備が必要。提出書類については、出身校に問い合わせて遺漏のないようにしたい。

大学院対象の奨学金についても受付期間は同じだが、申し込み書類の請求先は日本国内に在学中の大学または出身校になる。貸与月額は5~15万円の5段階の選択制。その他の条件も、大学進学の場合とは異なる。

また在学中に短期留学をする、専修、専門、高等専門学校(4、5年のみ)、短期大学、大学・大学院に在学する学生を対象とする奨学金もある。詳しくは日本学生支援機構のウェブサイト(www.jsso.go.jp)で確認しよう。

日本で学生ローンと言うと、ネガティブなイメージがあるが、アメリカでは学費を支援する目的の一般的なローンを意味する。連邦政府による学生資金援助プログラム(Federal Student Aid Programs)が有名。学生ローンは他のローンに比べて金利が低く、在学期間中は返済不要となっている。

例えば、シティ・バンクが提供する学部生向けの「Federal Stafford Loan」は、連邦政府からの支援があり、最高で1万2500ドルまでの借入が可能。利子は6.0%~(2008年8月現在)、返済期間は最長で25年となっている。他にも保護者が借りるタイプのローンもあるので、興味がある人は、Student Loansを参照してみよう。オンラインでの申し込みも可能だ。ただし一般的に学生ローンは、米国市民や永住権保持者、またはそのプロセスにある者に限られている。

親子で見る、アメリカ大学進学体験記

大学受験は、あくまでも本人の問題。でも、学費や下宿、将来、帰国のことなどを考えれば、本人の問題で片付けられるものではない。ここで、長女・絵里さんが実際にUCサンディエゴ(UCSD)で学んでいる、亀山順子さんに、親としての大学受験について、具体的な話を聞いてみた。

カレッジツアーに参加。受験校を絞り込み

亀山順子さん

長女・絵里さんがUCSDに通う、亀山順子さん

娘がアメリカに来たのは1994年のこと。米国内で数回の転居の後、2003年8月にサンノゼに落ち着きました。

シニア前の夏休み、そろそろカレッジを考えよう、カレッジツアーにも行こうと思っていた矢先、日本にいる私の父が倒れ、それ以降日本を行ったり来たりするようになりました。突然そのような状況になってしまって、色々調べる精神的な余裕もなく、カレッジカウンセラーに相談の電話をかけました。お陰で2週間に1回ほどのカウンセラーとの話で、大学情報を得ることができるようになりました。

大学の選択ですが、まず費用です。寮に入る場合、生活費も含めると年間費用がUCで約2万5千ドル、CSUで約2万2千ドル、私立の場合には4~6万ドルと聞きました。予算に関しては、アメリカの場合は奨学金、ローンなどのサポートがあるのですが、娘が多少の奨学金を得ても、私立大の費用を4年間捻出するのは難しいと考え、これは対象から外しました。州外の大学については、最初から考えませんでした。というのは、夫の仕事の関係で今後の住まいも決定していない状況の下、娘に続いて大学受験を迎える2人の息子のことも考え併せると、日本からも1番便利なカリフォルニア州以外は考えられませんでした。

私たちがカレッジツアーに行ったのはUCだけでした。サンディエゴ、サンタクルーズ、デービス、サンタバーバラの4校に、9月に入ってからバタバタと出かけたので、大変忙しいスケジュールになってしまいました。シニアになってから動き出すのでは、やはり遅過ぎでしょう。カレッジツアーに行くつもりがあるのなら、早めに計画を立てることをおすすめします。

願書に記入ミス!親子でハラハラ

願書提出は慎重にというのは、当たり前のことですが、私たちは大きな間違いをしてしまいました。願書の最初の項目である出生地に、なぜか現住所がある「サンノゼ/カリフォルニア」と書いてしまっていたのです。記入間違いは出願無効になると聞いていたので、それに気付いた時は、親子共々大いに慌てました。

早速カウンセラーに連絡をしましたが、これといった対策はなく、各大学に電話をかけろとだけ言われました。娘はいくつかの大学に電話をかけ、センターへは訂正のメールを送り、各大学へ訂正文を郵送しました。一応手は尽くしましたが、大丈夫だという保証はなく、合格通知が来るまでは、ハラハラしました。

こうした経験からも、結局、大学受験は、本人が自分の意思で自分の力で責任を持ってするもの。先生やカウンセラー、親はそのほんの手助けをするだけだと、心から思います。

高校に期待できること・できないこと

娘の高校では、先生やカウンセラーはほとんど何もしてくれませんでした。はっきり言って、高校に期待できることは、ほとんどないような気がします。公立高校でしたが、生徒各自がチューターや外部のカウンセラーのところ、あるいは塾などに通い、マニュアルに則って大学受験の道を歩んでいました。

私たちがカレッジカウンセラーに頼ったのは、賢明だったと思っています。大学のシステムそのものを一から教えてくれ、娘に合った大学情報を提供してくれました。自分で何もできなかったのに、こんなことを言うのは気が引けますが、今から考えれば、カウンセラーが教えてくれたことは、ちょっと調べればすぐにわかることばかりでした。知識がまったくなかった私たちには強い味方でしたが、私立や州外の大学を目指す人以外には、カウンセラーは必要ないかも知れません。

また、人にもよるのでしょうが、彼らは受験を成功させるために、課外授業、ボランティアやアクティビティーなどでも、フルに活動することを強くすすめます。娘はシニアイヤーからのカウンセリングでしたので、それほどプッシュされることもなく、自分がやりたいと思うことだけをして高校時代を過ごせました。カウンセラーのノウハウは確かなものだと思いますが、画一的な指導には疑問が残ります。

娘は今UCSDで、とても充実した日々を送っている様子です。娘の専門分野は就職に有利だとは思えません。今後、彼女の将来がどうなっていくのか、皆目見当がつきませんが、自分の道は自分で拓いていこうという心意気だけは、大学受験を通じて身に付けたように感じます。

現役大学生の生活:亀山絵里さん(UCSD人類学部在学中)

亀山絵里さん

亀山絵里さん

高校3年生まで、自分が何を専攻したら良いかわからなかったのですが、カウンセラーのアドバイスに従ってリサーチした結果、段々興味を持つようになった人類学を専攻に選びました。アメリカの大学は3年生まで専攻を変えることが簡単にできるので、気軽に選択しました。

UCSDは家族とキャンパスツアーをした際に、「ここだ!」と思いました。他の学校と比べて具体的に何が良かったとは言えないのですが、雰囲気がとても良く、私を歓迎してくれた、と感じたのです。

大学では最初の2年は、どのような専攻でも必要な基礎教育(一般教養)をたくさん取らなければなりません。ただ私は、AP(Advanced Placement:高校在学中に受講できる大学の授業)の単位や、SATの日本語の単位を持って入学したお陰で、数学や外国語などの授業を取る必要がなく、選択科目の幅もとても広がりました。

大学で最も大切なことは、時間の管理だと思います。具体的に言うと、遊ぶことと勉強のバランスです。それから、良い成績を取るために必要なことを知っておくことです。これは何に集中しなければならないか、ということを学ぶことです。

社会科学系の授業は、読むことと書くこと、とりわけ宿題が大変です。長いものでは10ページのレポートを課されることもあります。社会科学系を専攻するなら、英語力は非常に大切です。私は3年で学部を卒業することを目指していますが、その後は大学院へ進んで博士号を取り、大学で教えたいですね。

アメリカの大学を目指している皆さんには、「Where there’s a will, there is a way」という言葉を贈りたいと思います。特に日本から来た留学生は、まずは英語をしっかり学ぶこと、恥ずかしがらずに話すことにチャレンジしてください。

油利文絵さん(UCLAコミュニケーション学部在学中)

油利文絵さん

油利文絵さん

小学校の時から英会話を始めたこともあり、英語だけでなく、他の言語にも興味を持っていました。言葉や身体の使い方は国や場所によって違いますが、万国共通しているのは、私たちはみんなそれを使って何かを伝えようとしていること。自分たちの生活にあって当たり前のようで、とても大きな役割を果たしているコミュニケーションを学びたいと思いました。なかでも個人間のコミュニケーションからマスメディアまで、幅広い授業を提供し、研究も進んでいるUCLAに編入する決意をしました。

アメリカの大学の難しいところは、読む量がとても多いことです。それからコミュニケーションのクラスはエッセイテストが多いので、内容をしっかり理解し、自分の言葉で書けないといけないので、テスト前はそれが大変です。

日本人にとって1番大変なところは、教授が生徒に発言や授業参加を求めていることです。実はこれが、私がアメリカの大学に来た理由でもあるのですが、講義を聞いて、受け身で学ぶことが多い日本の学生にとって、たくさんの学生がいるなかで自分の意見を発言するのは、抵抗のあることではないかと思います。日本人にとって難しいことではありますが、これがアメリカの教育の素晴らしいところであると思います。

卒業後は日本で就職したいと思っています。UCLAで視野が広がったので、今はメディアに限らず企業のPRなどにも興味を持っています。

アメリカの大学の良いところは、自分さえ準備ができていれば、思い切り勉強できる環境が整っていることです。やるかやらないかは自分次第。大変なことも多いですが、「自分でやる」ことは「自分を成長させる」ことだと思います。まだこれが学びたいとか、これについて研究したいなど、具体的なことは決まっていなくても、最後までやり抜くという強い意志を持ってください。

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2008年9月16日号」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

海外に暮らす学生のための「日本の大学への進学&留学ガイド」サイト

「アメリカでの教育」のコンテンツ