アメリカの「マグネットスクール」「ギフテッドクラス」とは何ですか?

Q. 「マグネットスクール」「ギフテッドクラス」とはどのようなものですか?

「マグネットスクール」とか「ギフテッドクラス」という言葉を耳にしますが、どういうものなのでしょうか?誰もが希望すれば入れるものでしょうか?学校区によって、あるところとないところがありますか?

A. 才能を広げ、学びのチャンスを広げる公立学校の英才教育システム

松本輝彦(INFOE代表)

小中学校に多いGATEプログラムとクラス

「マグネットスクール」「ギフテッドクラス」は、公立学校で行われている英才教育の一部です。カリフォルニア州の公立学校には、「GATE(Gifted and Talented Education)プログラム」があります。これは、「同じ学年の他の子供に比べて、ずば抜けて高い成果を挙げられる才能や能力を持った子供を対象に、よりレベルの高いカリキュラムや指導を提供する教育」と定められています。

ここで言う「才能・能力」は知的能力だけではなく、学習能力、リーダーシップ、美術、パフォーミングアート(音楽・ダンスなど)などでの能力が含まれます。GATEのクラスを受けるには、その子供が特定の分野に才能があると、事前に学校区に認定される必要があります。

認定のプロセスは通常、子供のずば抜けた才能や成績に気づいた先生の推薦で始まります。先生から推薦を受けた学校区は、児童心理の専門家に依頼し、様々なテストや面接をしてもらいます。才能があると認められれば、GATEの児童・生徒として認められます。先生だけではなく、保護者や児童自身が申し出ることも可能です。小学校低学年が圧倒的に多く、小学校高学年でわずかに見られますが、中学以上ではないようです。1度認定されると、義務教育が終わるまで有効です。現在、州で約50万人の児童・生徒がGATEに認定されています。

小・中学校では、GATEの子供だけが参加できるクラスが開かれます。1つの学校の中にGATEクラスを作る場合や、いくつかの学校から子供たちを決められた曜日・時間にバスで1つの学校へ集めてクラスを開いたりします。夏休みに特別クラスが組まれることもあります。通常の授業よりレベルの高い内容を学びますが、現在の学年よりも上の学年の内容というのではなく、コンピュータ、美術、エッセイなど、幅広い様々な分野の学習をします。

高校段階では、「Advanced Placement (AP)」「Honors」「International Baccalaureate (IB)」などの、通常クラスよりもレベルの高いクラスやプログラムがGATEプログラムとみなされます。受講の条件を満たせば誰でも受講できますが、GATEに認定された生徒は優先的に受講できます。

GATEの教育には州政府から財政援助がありますが、各学校区の財政状態により内容は大きく変わります。GATEに認定された児童・生徒の数、学校区の規模によっても、大きな差が出ます。

特定分野の学習に重点、マグネットスクール

生徒数が多く、GATEの生徒も多い大きな学校区では、理数・医学・アートなどの特定の分野の学習に重点を置いた学校「マグネットスクール」を設けています。例えば、美術のマグネットスクールに通い、午前中は普通の学校で学習する内容を勉強し、午後の時間すべてを絵や彫刻に費やします。

南カリフォルニアではロサンゼルス学校区がこのタイプの学校を作っていますが、カウンティーも独自に設立しています。最近は、理数の教育に特化したチャータースクールなども生まれています。このような学校に入るには、学校区の様々なルールを満たし、学校独自の選考にパスすることが必要です。入学希望者が多く、入学の1、2年前から準備が必要なようです。

これらの英才教育は、エリート養成が目的ではありません。「才能や能力の高低にかかわらず、児童・生徒1人1人が自分の能力をより高いレベルに伸ばす」という教育の平等の考えを基礎としています。

「横並びの平等」の日本での教育を受けた保護者の方々には馴染めないシステムですが、お子さんの学びのチャンスが広がる可能性もあります。校長先生に、「GATEのテストをしてください」と申し出てみてはいかがですか?

(2004年12月16日号掲載)

Q. 公立学校の特別クラスは自分で選べますか?

公立学校にある、「オナーズ」「ゲート」「マグネット」「AP」というクラスの種類を詳しく教えてください。またそれらは、自分で選ぶことができるのでしょうか?

A. 特色あるクラスは特色ある選抜で

松本輝彦(INFOE代表)

ご質問にある公立学校における特別なクラスの種類は、アメリカにおける公立学校教育の特色をよく表しています。それぞれの言葉の意味を紹介しましょう。

オナーズ:高校のハイレベルクラス

アメリカの高校は希望者全入ですから、通学区域に居住する者が、入試などで選考されることなく進学します。高校によっては1学年700~800名、4学年で3千名以上の大規模校もあります。

生徒数が多いので、学力の異なる生徒に、同じ学習内容を同じクラスで教えることは不可能です。そのため、習熟度別クラスが編成されます。一般的に、習熟度の低い方から「シェルター(shelter)」「レギュラー(regular)」「オナーズ(honors)」と呼ばれます。英語力の低い生徒のために「ESLクラス」を設けている学校もあります。一部の中学でも似たような習熟度別クラスを設けています。

どのクラスでも学習する最低限の内容は同じですが、レベルが上がるに従って、学習進度が速かったり、内容を深く掘り下げたりして、生徒の学力に応じた指導がされます。どのクラスを受講するかは、カウンセラー、科目担当教員の推薦や生徒自身の希望に基づいて決められます。しかし、どのクラスを履修しても、高校卒業資格の取得に差はつきません。

ゲート:一種の英才教育

ゲート(GATE=Gifted and Talented Education)プログラムは、学校教育の早い段階で、さまざまな能力に恵まれた子供を見出し、その才能に応じた教育を与えようという、全米の公立学校で実施されている英才教育です。

授業中の成果や学力試験の結果などで、子供に特別な才能を発見した担任が学校区(school district)に推薦します。学校区では、教育心理学などの専門家を含むチームが、試験やインタビューなどを実施して、才能の有無の判断を行います。保護者が認定審査を希望することも可能です。

その子供が才能に恵まれていると認定された場合、ゲートスチューデントとなり、学校区が提供する通常クラス以外のゲートプログラム(マグネットの学校やクラス)に参加することができます。

ゲートの対象となる才能は、算数や英語などの教科だけではなく、美術や音楽など幅広い分野が含まれます。幼い時期に才能を見出し伸ばすという考え方から、4年生くらいまでに認定されるケースがほとんどです。

マグネット:優等生を引き寄せる

マグネットスクールは、ゲートスチューデントや学業成績が優秀な子供を、磁石で引き寄せるように集めて、よりレベルの高い学習内容を厳しく指導する学校で、中学や高校が一般的です。ゲートスチューデント、先生の推薦の他、定員に余裕があれば希望者から選考して、入学が許可されます。

ロサンゼルス学校区(LAUSD)のように、児童・生徒数も多く規模の大きな学校区では、数学・科学、音楽・芸術、医学などの分野でマグネットスクールを設けています。学校を作るほどゲートスチューデントがいない比較的小さな学校区では、マグネットクラスを設け、週に何時間か、近隣の学校のゲートスチューデントを集めています。例外的に、英語力の十分でないESLの子供だけを集めた、英語のマグネットクラスもみられます。

AP:大学の単位を先取り

AP(Advanced Placement)は、高校在学中に大学レベルの授業を受け、試験に合格した場合、大学の履修単位として認めるという、全米規模のプログラムです。

AP試験のために、オナーズクラスの上にAPクラスが設けられます。受講生はそれまでの成績を基に決められます。英語、数学、アメリカ史など高校卒業の必修科目を、大学教養課程レベルの学習内容で学び、毎年5月に全米で実施されるAP試験を受験します。それに合格した場合、大学入学後にその科目を修得したものとして、単位を認定され、高校卒業と大学卒業の単位を同時に得られることになります。合格したAPの科目数と種類によっては、大学入学時点で、大学2年生になることも可能で、全米で毎年約3万人の大学進学者がこの制度を利用しています。保護者の立場で考えると、大学の1年分の授業料や寮費が節約できることになります。

日米の学校教育における公平観の違い

日本もアメリカも、公立学校では「フェア」な教育を目指しています。しかし、日本では「すべての子供に同じ教育」が、アメリカでは「子供1人ひとりの能力に応じた教育」 がフェアだと考えられています。ですからアメリカの学校では、多様なクラスやプログラムが設けられているのです。

(2006年7月1日号掲載)

Q. 中学生の娘に、より優れた教育を受けさせたい

現地校に通うもうすぐ中学生の娘を持っております。中学校に通うにあたり、ただ学校区の定められた中学校だけでなく、より優れた教育を受けられる選択肢が多くあると聞きました。こういった情報はどうやって得られるのでしょうか?

A. 「一人ひとりの力を伸ばす」をモットーに公立学校にも様々な選択

松本輝彦(INFOE代表)

現地校は校区制を採用しています。まず、あらかじめ決められた学校の通学区域に居住する児童生徒が、その学校に通学できます。次に通学区域内に住んでいなくても、保護者の勤務先がその校区内にあれば通学できます。

「児童生徒一人ひとりの力を伸ばす」がモットーのアメリカでは、様々な個人の能力に応じた教育が見られます。ご質問の「優れた教育」は様々な意味に取れますが、ここでは公立の学校でも提供されている「該当学年のレベル(grade level)を越えた教育」を中心に紹介します。

小学校の英才教育、GATEプログラム

小学校段階の子供たちを対象とした、公立の学校の英才教育の1つがGATE(Gifted and Talented Education)プログラムです。学校の日々の教科活動の中で、「この子は特別な才能がある」と担当の先生が認められた子供が、教育心理の専門家の評価を受けて、学校区によりGATEの子供として認められます。

GATEクラスは、1つの学校の中にそのようなクラスを作ったり、決められた曜日・時間にいくつかの学校から子供たちを1つの学校へバスで集めてクラスを開いたりします。夏休みの間に特別クラスが組まれることもあります。しかし、クラスの内容や方法は、その学校区の財政状態により大きく変わります。

教科ごとに設けられた習熟度別クラス

習熟度が進んでいる子供の指導は日常的に行われます。小学校の場合、例えば、3年の算数のクラスの中に4年生以上の内容をすでに学んでいた子供がいると、同じ算数の時間に教室内で別のグループを作り、進んだ内容の教科書を使わせたりして、別途に指導をします。

中学、高校になると、同じ教科のクラスでも習熟度別クラスがあり、子供の実力に応じた、よりレベルの高い学習をさせています。中学校では、一般のRegular Classに対してAdvanced Classなどと呼ばれます。高校ではRegular、Honors、AP(Advance Placement)クラスとレベルが高くなります。

前の学年のその科目の成績や先生の推薦などを元に、受講許可の是非が決められます。小学生の時にGATEと認められた場合に、受講が許可される場合もあります。

特定分野の学習に重点、マグネット・スクール

ロサンゼルス学校区(Los Angeles Unified School District)のように大きな学校区では、理数・医学・アート(美術・音楽・演劇など)などの特定の分野の学習に重点を置いた学校、主に高校を設立しています。私の教え子は、美術のマグネット・スクール(Magnet School)に通っていました。午前中は普通の学校で学習する内容と同じものを勉強しますが、午後の時間中、絵を描いたり彫刻を作ったりして美術に費やします。

このような学校に入るには、学校区の様々なルールを満たしたり、学校独自の選考をパスすることが必要です。この形式の学校やプログラムは大変人気があり、希望者のウェイティングリストがあるのが普通です。入学希望の1、2年前から準備が必要のようです。

地域住民で運営する、チャーター・スクール

地域住民が自分たちの子供のニーズに合った教育をするために、設立・運営するのがチャーター・スクール(Charter School)です。学校区などの公的組織が設立しないので私立学校のようですが、授業料を州政府が税金から捻出しますので、公立学校の性格も持っています。設立の動機は、保護者の地元公立学校での教育への不満が主です。そのため、公立校以上のアカデミックな実績を目指す学校、公立校では法律等の制約があり提供できないバイリンガル教育を目指す学校が、多く見られます。

チャーター・スクールは、カリキュラム、実績、財政状況など、非常に多様性に富んでいます。そのため、選択に当たっては、十分調べることが必要です。

(2004年6月1日号掲載)

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