日本とアメリカの大学比較

将来のキャリアステップであるアメリカ大学進学について、教育コンサルタントが解説します
 
「アメリカの大学は、アドミッションが複雑で学費も高い。奨学金もどれだけもらえるかわからないので、日本の大学に進学した方が良いのではないか」という質問を受けることがあります。将来、日米どちらの大学に進学するのか迷っている子供たちも多いと思います。「日本の大学なら帰国生枠で有利に進学できるし、学費も安いのでお得」という考え方は一見理にかなっていますが、果たしてメリットはあるのでしょうか。今回は、日本の大学の現状と課題についてお話しします。

留学生頼みの日本の大学中身の改革が先決のはずが…

今、日本の大学が持つ共通の課題は、「いかに外国人留学生を獲得するか」です。年々受験者数が増えているアメリカの大学とは異なり、"大学全入時代"を迎えた日本では、生き残りをかけて学生の争奪戦が行われています。特に近年は、優秀で学習意欲の高い海外からの留学生を確保しようとする動きが活発化しています。
  
文部科学省は、2020年を目途に日本全体で30万人の留学生の受け入れを目指す「留学生30万人計画」を進めています。これに伴い、日本の大学では英語だけで学位が取れるコースが増え、また外国籍の学生に手厚い奨学金を授与するなど、新たな制度が導入されています。
このように、海外の学生にとって日本の大学の魅力が増しているように見えますが、現実には課題が山積しています。なぜなら、制度を作るだけで肝心の教育の中身を魅力的に変革する努力がおざなりにされているからです。

9月入学は競争力強化にはならない!?

東京大学が秋入学への変更を進めています。日本国外では秋入学が主流であり、それに合わせることで国際的な学生の動きを促し、競争力を付けるのが狙いです。能力の高い外国人留学生を集めて、留学生と日本人学生が切磋琢磨する環境を日本国内に設けるという狙いはすばらしいですが、残念ながら効果は期待できません。なぜなら、9月入学や英語の授業を導入したところで、そのような大学は世界中にたくさんあり、"競争"が激しくなるだけでが増すわけで"競争"はないからです。秋入学によって東大の競争力が高まるというのは妄想です。
 
アメリカの大学では、進学後に学部や学科を自由に変更できたり、取得した単位を大学間で互換できる制度があったりと、学生本位の学校運営が行われていることが魅力ですが、日本の大学では、そのような取り組みは一切議論されていません。東大医学部出身の大学教授である和田秀樹氏は「ソフトやハードの競争力を付けることなしに、外形的なことだけで競争力を高められるという発想はあまりに甘い」と指摘しています。
  
外国人留学生を優遇する日本の大学政策は、本来であれば海外で学ぶ日本の子供たちにとっても役に立つはずです。しかし、このように制度をいじるだけで肝心の中身がまったく伴っていないため、魅力に欠けてしまっています。

大学に大切なのは目的意識を持った留学生

外国人留学生を増やすのは歓迎すべきことですが、その方法を疑問視する大学関係者は少なくありません。英語の学位を充実させれば優秀な外国人留学生を集められるという発想は短絡的です。英語だけで学位が取れるコースには、楽に進学できるというだけの理由で日本に来た学生もいます。「日本語をまったく学ぼうとせず、英語での対応に少しでも不備があると、すぐに自国の大使館を通じて抗議をする学生がいる」と、ある国立大学の担当者が嘆いていました。学力不足で自国の主要大学に進学できない海外の学生に、日本の補助金を投入してただ同然で進学させてあげることが、大学の繁栄につながるのでしょうか。
  
英語で学位が取れるようにすれば外国人留学生が押し寄せるという発想で導入したプログラムが、結果的に学力の劣る留学生を増やし、大学の質の低下を招きつつあります。この実態に危機感を持つ大学関係者は多いのですが、表沙汰にすると大学のイメージを損なうこともあり、手をこまねいているのが現状です。
  
一方で、本気で日本に留学しようとする学生の多くは、自国で日本語を学んでいます。なかには、専門学校等で日本語力をさらに鍛えてから大学に進学する学生もいます。将来自国と日本の架け橋となって活躍することを目指す留学生にとっては、日本語で学ぶことこそに意味があるのです。
  
目的意識を持った留学生や帰国生こそ日本の大学にとって大切なのですが、彼らへのサポートは十分とは言えません。外国人留学生や帰国生を、大学の国際化に利用するだけで、彼らを日本の将来を支える人材として育てていこうという戦略が欠けている大学も少なくありません。日本の大学を目指す学生は、大学がどう自分を育ててくれるかまで踏み込み、教育プログラムの中身をしっかり検証することが重要です。

アメリカの大学の魅力は専攻が変えられること

アメリカの大学生は、在学中に平均2回専攻を変えると言われています。大学に進学して学んでいく中で、自分のやりたいことが見えてくる学生は数多くいますが、大学にアプライする17歳前後で将来の目標が決まっている学生は多くはありません。また、高校時代から明確な目標を持っている学生でも、大学進学後にもっと興味のある分野が見つかることもあります。そのような学生にとって、専攻を決めずアプライでき、進学後も自由に専攻が変えられるアメリカの大学制度はとてもありがたいものです。
  
大学はその後のキャリアのスタートですから、そこで何を学ぶかは極めて重要なポイントです。アメリカの大学は専攻の種類が膨大で、学生のあらゆるニーズに対応できることで知られています。ただし、すべてを網羅する大学はありません。また、規模の小さな大学は提供できる専攻も限られています。
 
明確なビジョンを持つ学生は、将来の目標を実現するために大学で何を学ぶべきかわかっている場合が多いので、学びたい専攻がある大学を選ぶと良いでしょう。しかし多くの学生は、大学の専攻や将来の進路で悩んでいます。このような場合、大学選びで専攻にこだわり過ぎると選択の幅を狭めることになるため、良い方法とは言えません。進学後に、より興味のある分野が見つかる可能性が大いにあるからです。

自分専用の専攻も見つかるリベラルアーツ・カレッジ

以前、「リベラルアーツ・カレッジ」への進学を希望する学生が増えているという話をしましたが、将来の進路が定まっていない学生へのサポートが充実していることも、その魅力の一つです。多くのリベラルアーツ・カレッジでは、各学生に進路カウンセラーが付き、授業の履修方法から専攻の選び方、将来の進路に至るまで、親身になって相談に乗ってくれます。
  
リベラルアーツ・カレッジの大半は小規模な私立大学で、提供するプログラムも限られています。しかし、他大学との単位の互換制度が充実し、自分の大学にないクラスを他校で履修することが容易です。また、自分にぴったりの専攻がない場合は、新たに専攻を作ってもらうこともできます。
このように、学生のニーズに合わせて柔軟に対応するのがアメリカの大学の強みです。日米で悩んだ結果、アメリカの大学進学を選んだ学生にその理由を聞くと、「将来の進路が決まっていなかったから」という返事がよく返ってきます。
 
日本の大学は、学部や学科ごとに定員を設けて学生の選考を行いますが、アメリカは基本的に大学全体で一本化されたアドミッションを行っています。日本のように既存の組織に合わせて学生を集めるのではなく、学生のニーズに応じて大学のプログラムを変えるため、このようなフレキシブルな対応が可能となります。

大学教育は「生きる力」会得の場

「リベラルアーツ・カレッジは知名度が低く、就職活動で心配」という話をよく聞きますが、心配無用です。私は大学生のキャリアサポートにも長年取り組んできましたが、知名度の低い大学の学生が不利になったケースはありません。むしろ、「有名大学に進学したから何とかなる」と考え、将来のキャリアに向けた準備を怠った学生が、就職で苦戦しています。
  
今は日本でも、有名大学に進学すれば将来が約束されている時代ではありません。『13歳のハローワーク』の著者の村上龍氏は、「いい大学に行って、いい就職をすれば安心という時代が終わろうとしているのに、親や教師は未だに勉強していい大学に行き、いい会社に入りなさいと言い続けている。それは、彼らがそれ以外の生き方を知らないからだ」と述べています。
  
子供にとって、夢を実現するために自ら未来を切り開いていく力、すなわち「生きる力」を身に付けることが大切であり、そのための手段の一つとして大学教育を考えれば、失敗のない大学選びができるはずです。
  
(2012年3月16日、2012年4月16日号掲載)

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