日米の入試制度改革

2016年は、日米ともに大学入試制度において大きな変革の年となりました。日本では、16年3月に文科省の諮問機関である「高大接続システム改革会議」の最終報告がまとまりました。これにより「大学入試センター試験」の廃止や「英語4技能試験」「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」等の導入に向けた準備が本格的に始動するなど、抜本的な入試制度の改革がスタートしました。
アメリカでは、16年3月にSATを高校の学習要領(Common Core)に沿った内容に変更して、学習到達度を評価するテストにリニューアルしました。また、全米の難関大学がCoalitionという新しいアドミッション・システムを採用し、入学者選抜における将来性評価が新たなステージに進みました。さらに、FAFSA(Free Application for Federal Student Aid)の提出時期の変更など、ファイナンシャル・エイドの制度にも一部変更がありました。

日米の入試制度改革の狙い

日本とアメリカの入試制度改革は、全く関係がないように見えますが、実は、両者が目指す方向性は非常に似ています。
日本の高大接続改革の中核は、「学力の3要素」の適切な評価です。学力の3要素とは
「1.十分な知識・技能」
「2.それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力」
「3.これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の3つです。
この学力の3要素は、社会に出た時に求められる力だと考えられています。そして、大学入試において学力の3要素をきちんと評価できるようになることが、高大接続改革のゴールなのです。
 
社会に出た時に求められる能力を基準に学生を評価できるようにするという高大接続改革の目標は、将来性評価を基本とするアメリカの大学のアドミッションに通じるものがあります。つまり、日本の大学入試は、アメリカのアドミッション制度に近づこうとしていると考えられます。
 
アメリカの大学のアドミッションは、将来性をより的確に評価するために、学力以外の評価も重視しています。エッセイを通じて人間としての成長を評価したり、スポーツやボランティア等の課外活動への取り組みを評価したりすることにより、受験生の将来性を多角的に判断します。将来自らの力で人生を切り開いていく能力のある学生を、アメリカの大学は高く評価するのです。日本の高大接続改革では、将来性を「生きる力」という言葉で表しています。日本が取り組んでいるのは、単なる入学者選抜改革だけではなく、高校教育改革と大学教育改革も併せた一体的改革です。そして、この一体的改革の目的は、高校、大学教育を通じて「生きる力」を育むことなのです。文科省は「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」を総合した力が「生きる力」だと定義しています。
 
日本では、社会で必要な能力を習得するための教育が大学や高校できちんとできていなかったり、大学の学習で必要な能力と、大学入試で問われる内容が整合していなかったりと、教育における一貫性の欠如が問題視されてきました。高校・大学教育を通じて「生きる力」を育むためには、高校と大学が連携して「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」を伸ばす教育を行うことが必要です。そして、入学者選抜においても「生きる力」を評価することが望まれます。

改革の今後の長い道のり

アメリカでは、高校において大学レベルの教育プログラムを提供するAP(Advanced Placement)を60年以上前から導入するなど、長い年月をかけて理想的な高大接続を模索してきました。SATのリニューアルやCoalition Applicationの採用も、よりシームレスで効果的な高大接続を目指した取り組みの一環です。
 
日本の高大接続改革が、アメリカのアドミッション制度を目標にするのは素晴らしいことですが、実現への道は容易ではありません。詰め込み教育から思考力重視型の教育への転換を目指した、いわゆる「ゆとり教育」は、どれほど素晴らしい理念に基づいた制度でも、そのフィロソフィーを教育現場に浸透させられなければ失敗するという顕著な例です。高大接続システム改革会議の最終報告には、高大接続改革は「幕末から明治にかけての教育の変革に匹敵する大きな改革」だと述べられています。改革の成否は、これから大学進学を目指す子どもたちにとって極めて重大であり、日本政府のリーダーシップが期待されます。
 
(2016年11月16日号掲載)

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