米国高等教育におけるトランプ政権の影響

米国の大統領選挙の予想外の結果は、高等教育の分野でも大きな波紋を呼んでいます。教育問題に熱心に取り組んできたヒラリー・クリントンの勝利を確信していた教育界では、驚きと落胆の声が上がりました。各地の大学では抗議活動が行われ、マイノリティーや移民、LGBTQの学生が絶望や疎外感を抱くなど、社会問題に発展しました。トランプ政権は、高等教育にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

大学の学費への影響

教職員組合を支持基盤に持つクリントンは、教育を重要な政策課題に掲げていました。その一つに、高等教育を無借金で受けられるようにすること、具体的には年収が最大12万5千ドルまでの家庭で公立大学の学費を無料化するという主張がありました。これは、民主党予備選挙で戦ったバーニー・サンダースの政策を取り入れたものです。年々高騰する大学の学費が家計を圧迫し、卒業後に多額のローンを抱える学生が増える中、8割の家庭で公立大学の学費が無料になるこの政策は、多くの賛同を得ました。
 
ドナルド・トランプは、高等教育については選挙戦の中で多くを語っていませんが、教育ローンと学費の低減についての政策を示しています。学生は支払い能力を超えるローンを負わされるべきではないという立場から、返済は借り手の年収の
12.5%に制限し、15年間返済すれば、残りの負債は免除するという主張をしています。また、多額の基金を保有する大学については、その資金を授業料の削減に投入することを求め、大学が応じない場合は非課税の特権を剥奪するとしています。
 
いずれの政策も、実際に導入するのは容易ではありません。大学の基金は、その用途が厳しく制限されているため、トランプの主張通り実現する可能性は低いと思われます。一方で、クリントンが主張した公立大学の無料化も、その財源をどうするかという問題があり、専門家の中には反対する人も多くいました。強引に無料化しても、公立大学の教育の質の更なる低下を招いたり、UCLAなど一部の人気州立大学が私学化したりする恐れもありました。いずれにせよ、学費の問題が今後議会で取り上げられる可能性があるので、成果を期待したいところです。

外国人留学生への影響

米国の大学では、100万人超の外国人留学生が学んでいますが、トランプ政権下で外国人留学生への影響が懸念されています。トランプは、イスラム教徒の入国禁止や不法移民の排除など、選挙戦を通じて排他的な発言を繰り返しました。今後、学生ビザの取得や大学進学後の就労ビザの取得がしにくくなる可能性はあるのでしょうか。
 
外国人留学生の存在は、米国の大学経営において極めて重要です。州外学生向けの高い授業料を払う外国人留学生は、州立大学の貴重な収入源であり、ファイナンシャル・ニードを考慮する必要がない外国人留学生は、私立大学にとっても重要です。地域によるビザ取得の難易差は拡大する可能性はありますが、例えば中東諸国からの留学生は、全留学生の約1割を占め、無視できる数ではありません。従って、米国の大学における外国人留学生への対応が大きく変わるとは考えにくいです。 米国の大学の強みの一つであるグローバル教育の価値は、多様性を尊重し、違いから学ぶことにあります。トランプの政策は、グローバル教育の価値観と相反するものであり、外国人留学生の減少のみならず、グローバル教育そのものにも悪影響を及ぼすのではないかと危惧する教育関係者は少なくありません。
 
人種差別主義的発言を繰り返したトランプの影響で、今後外国人留学生が減少する可能性は否定できません。また、若年不法移民向けの在留合法化プログラム(DACA)の存続が危ぶまれるなど、一部の移民への影響も避けられないかもしれません。しかしながら、高等教育で世界をリードしてきた米国の大学の経営理念に揺るぎはないはずです。
 
ケンタッキー大学教授で『アメリカ高等教育の歴史』の著者のジョン・サーリン氏は、米国の高等教育が有する強みや弱みは極めて深く、一人の候補者や一度の選挙に影響を受けるものではないと語っています。さらに、サーリン氏は、トランプはペンシルベニア大学ウォートン校で学位を得たことを誇りに思っており、大言壮語はさておき、米国の高等教育の価値を良く理解しているはずだ、とも言っています。政権交代直後の混乱は避けられないかもしれませんが、米国の高等教育の価値に影響はないと考えられます。
 
(2016年12月16日号掲載)

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