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現地情報誌「ライトハウス」が過去に取り上げた、アメリカ芸能界ゴシップ情報や、著名人・有名人へのインタビュー記事など。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

小林三郎・エアバッグ開発までの死闘-その3

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一橋大学院・客員教授の小林三郎さんを迎えて、講演会を開催します。
それに先立ち、小林さんがホンダに入社してから、エアバッグ開発までの道のりを6回シリーズで連載します。

ライトハウス20周年記念イベント第13弾
「ホンダ・スピリッツと
エアバッグ商品化の秘話を語る」
小林三郎さんセミナー開催
9月3日(木)
5:30pm開場 6:30pm開演

場所:ライトハウス・セミナー会場
2958 Columbia St., Torrance, CA 90503
セミナーは終了いたしました>>



(その3)
「高信頼性確保に向けての戦い」


熱意とやる気が試された時

研究担当役員のSさんから呼び出され、エアバッグの展開計画を説明すると、「これ止めよう。ものになりそうもないから・・・」と突然言われた。顔から血の気が引いた。以前からエアバッグ研究中止の噂はあり、チームメンバーもどうなるのかと心配し、扉の隙間から様子をうかがっていた。ここで引き下がってはいけないと、安全がそのうち重要な価値になることや、世界の交通事故死亡者が増えていることなどをあれこれ言ってその場をしのいだ。

説明の途中でも、「やっぱりエアバッグ止めようよ」と合計10 回あまり言われた。しかし、皆のためにも引き下がってはいけないと抵抗し続けると、最後にSさんが少し怒りながら、「そこまであんたが言うなら続けよう。しかし必ず商品化しないと許さねえぞ。人も増員するから」と言ってくれた。メンバー4人は5人に増えた。結局私の熱意とやる気が試されたのだと思う。

次々と新たな技術課題が出てきた。未経験分野なので先輩に聞くこともできず、研究はなかなか前に進まなかった。「あれはものにならない、かわいそうに・・・」と言う声も聞こえてきて、ある日、はっきり物を言う先輩から声をかけられた。「さぶちゃん、エアバッグが2大テーマに選ばれたよ」。よく聞くと、研究所の2大役立たずテーマだと言うのだ。「Sさんのレーダブレーキと、小林のエアバッグ」とのこと。少し腹は立ったが、そう思っていることがよくわかった。この2大役立たずテーマが、20年を経た現在では量産、市販されている。技術を予測することが、いかに難しいかを示す良い例だと思う。


高信頼性の目標値・シックスナイン

エアバッグの技術で最も難しかったのは、実は袋や袋を膨らませるインフレータではなく、高信頼性技術だった。エアバッグの2大故障である暴発・不発を可能な限りゼロにしたいが、ゼロに近付くほど課題解決が困難になる。宝くじの1等より少なければ、お客様も納得していただけると考え、故障率を100 万分の1に決めた。具体的に言うと、100 万台の車が平均寿命の15 年間走行して、暴発と不発合わせて1件以下である。それまでの機械・自動車技術に比べ、2〜3ケタ高い信頼度、99.9999%、通称シックスナインヘの挑戦が始まった。

高信頼性の技術は当時あまり一般的でなく、日本の専門家はどちらかというと理論ばかりで、具体的にシステムをどう設計すればよいのか教えてくれなかった。アメリカにはNASA のアポロ計画で築いた高信頼性技術があったので、私とチームメンバーのHさん、品質保証部のMさんの3人で、ロサンゼルスのM社を訪れコンサルティングを受けた。

コーチングスタッフ全員、約30 人の博士たちを紹介され、毎日2、3人がいろいろなことを指導してくれた。最新のデータは入手できたが、日本で修得したものに比べて何ら新しいことはなく、2週間で約4000 万円の費用を払った。

私にとっての最大の収穫は、夜のディナーでのやりとりだった。「宇宙開発では現場での事前実験ができないから、信頼性をどこまでやったらOK とするのか?」と聞くと、「確信(Confi dence)には2種類ある。数値的確信( Statistic Confi dence)と精神的確信(Emotional Confi dence)である。自分で納得できるまでやったら、あとは神に祈るんだ」。宇宙開発という科学の先端にいる人も最後は神に祈ると聞いて、心の重荷がずいぶんと軽くなったことを覚えている。
(次号へ続く)

ライトハウス2009年7月1日号


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