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現地情報誌「ライトハウス」が過去に取り上げた、アメリカ芸能界ゴシップ情報や、著名人・有名人へのインタビュー記事など。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

小林三郎・エアバッグ開発までの死闘-その4

最新USトレンド

一橋大学院・客員教授の小林三郎さんを迎えて、講演会を開催します。
それに先立ち、小林さんがホンダに入社してから、エアバッグ開発までの道のりを6回シリーズで連載します。

ライトハウス20周年記念イベント第13弾
「ホンダ・スピリッツと
エアバッグ商品化の秘話を語る」
小林三郎さんセミナー開催
9月3日(木)
5:30pm開場 6:30pm開演

場所:ライトハウス・セミナー会場
2958 Columbia St., Torrance, CA 90503
セミナーは終了いたしました>>



(その4)
「量産に向けての死闘」


アメリカから学んだ信頼性とは?

アメリカでコンサルティングを受けた帰路の飛行機の中でレポートを書き始めた。しかし、教えてくれた事実は書けるものの、結論がまったく書けない。日本に帰ったら鬼のK社長(前専務)が「高信頼性の本質は何だ?」と言うに決まっている。高信頼性とはいったい何だったのか? 何を教えてくれたのか? メモを読み返した。何回読み返しても何も新しいことはなかった。当たり前のことばかり。一緒に行った2人は仕事が終わったし収穫もあったと、ワインを飲みながらフライトアテンダントと話をして楽しんでいる。大金使ってくだらないことしか得てこなかったら怒るだろうなと、K社長の顔が浮かんでくる。
 
あと1時間で成田に着く時間になり、かなり焦ってきたが何も出てこない。「なんて当たり前のことしか言わなかったのだろう?」と、最後にもう一度メモを見た。突然何かがヒラメいた。「あっ、高信頼性というのは当たり前のことを徹底的にきちんとやることなのか!」。

K社長はこの報告を聞いて、予想以上にあっさり納得してくれた。人間にとって当たり前のことをきちんとやるのは、実はとても難しく不得意なことである。愚直にねらい通りにひとつひとつきちんとやることが大切であり、これが高信頼性の本質であることが実際に開発をやってみて確認できた。



アメリカ・ホンダCEO との闘い

エアバッグの仕様が固まってきて、高信頼性を証明するために実車での試乗走行確認テストが必要になった。日本の火薬取締法ではエアバッグとダイナマイトが同類であり、試乗走行ができなかったので、テストが可能なアメリカに協力を求めた。再びロサンゼルスに出向いたが、アメリカ・ホンダのCEO、Aさんにそっけなく断られた。「アメリカ人はエアバッグが嫌いですから、テストを行う必要性はありません」。

帰国し、研究担当役員のSさんに相談したら、「諦めたら終わりだよ。君がまたAさんの所に行ってお願いするしかないだろう」と冷たい返事。私は、SさんがA・CEO に電話してくれるのかと思ったが、そういう甘い考えはホンダでは通用しない。一度つらいことを他人任せにして逃げたら、逃げ癖がついて自立できない。自分のことは自分で解決するのだ。ここで引き下がると研究を中止せざるを得ないので、再度アメリカに出かけて行ってお願いした。
 
「またですか」と相当嫌な顔をしながら、A さんは秘書に言って3人のEVP(Executive Vice President :筆頭副社長)を呼んできた。この3人のEVP は「アメリカ人はエ
アバッグが嫌いです。絶対に使わない」と言い切った。Aさんは「ほらね、私だけじゃなく皆不要と思っているのだ」と言い、会議は終わった。
 
帰国してS研究担当役員に報告したが、「また、行くしかない」という結論に至った。将来のターゲット市場であるアメリカの親分が絶対要らないと言うのに、研究開発する意義はあるのかと本当に悩んだ。そんな時はいつも、昔、オヤジ(本田宗一郎)が私に言った、「安全は車の中で一番大切なんだ」という言葉を思い出し、これを信じるしかないと心に決めた。3回目で駄目だったら、エアバッグの研究開発を中止し、責任を取ってホンダを辞めようと思っていた。実際には書かなかったが“辞表を胸に” という心境でアメリカ・ホンダに飛び込んだ。
(次号へつづく)



ライトハウス2009年7月16日号


連載その5「エアバッグ搭載車の誕生」 を読む>>