アメリカへの進出~会社設立・開業までの5ステップ

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日本でもアメリカでも、事業を始める際に必要となることは基本的に変わりませんが、会社の形態や登記など、法的な面ではアメリカのシステムを理解し、準ずる必要があります。アメリカで起業をするための流れとしては、①ビジネスプランの作成、②設立する会社形態の決定、③法人登記(会社設立)・ライセンス取得、④必要な人材の確保、⑤集客・営業というステップで考えると良いでしょう。以下、それぞれについて説明します。

 

①ビジネスプランの作成

起業・会社設立をする際に、まず必要となるのは、「ビジネスプラン」と呼ばれる事業計画書です。特に投資を募る場合、ローンを組む際、あるいは起業を通じてビザを申請しようとする場合には必ず必要となります。どんな製品やサービスを販売して収入を得ていくのか。どのような市場に販売をするのか、そこにはどのくらいの可能性があるのかなどが書かれている必要があり、この作業を通じて、事業の青写真が明確になっていくと言えるでしょう。

②設立する会社形態の決定

アメリカで人を雇用し、会社を設立して事業をスタートする場合、その形態にはさまざまな選択があります。後で変えていくことも可能ですので、それぞれの特性やメリット、デメリットを知って、まずは現状に適したタイプを選択すると良いでしょう。
 
【アメリカで設立可能な会社の形態】

Sole Proprietorship

個人経営。始めやすく止めやすい。独立初期に多い形。
個人の賠償責任回避可能…×
二重課税の回避可能(法人税と所得税)…◯
移民ビザ取得可能?…×
投資・売却価値…低め

Limited Liability Company(LLC)

日本で言う有限会社。株式会社ほどフォーマルではなく、賠償責任において個人の責任が追及されない中間的位置づけ。小規模ビジネス向け。
個人の賠償責任回避可能…◯
二重課税の回避可能(法人税と所得税)…◯
移民ビザ取得可能?…◯
投資・売却価値…低め

S-Corporation

株式会社だが、法人税と所得税の二重課税免除の措置がある形。外国人が株主になれないなどの制限あり。
個人の賠償責任回避可能…◯
二重課税の回避可能(法人税と所得税)…◯
移民ビザ取得可能?…◯
投資・売却価値…高い

C-Corporation

一般的な株式会社。ある一定のサイズや上場企業は全てこの形。投資を受けやすい反面、規則や規制が厳しくなる。
個人の賠償責任回避可能…◯
二重課税の回避可能(法人税と所得税)…×
移民ビザ取得可能?…◯
投資・売却価値…高い

③法人登記(会社設立)・ライセンス取得

会社の登記はウェブサイトで行うことが可能ですが、会社設立の背景によっては手続きが複雑になる場合もあります。税金を収めるためのTax IDや市からのライセンス(営業許可)取得も合わせて、会計士や弁護士に手続き全般を代行してもらうのが一般的です。

【会社設立の流れ・費用】(本誌特集「独立・起業マニュアル(開業準備編)」(2006年)より)
※最新の情報とは異なる可能性があります。詳細は必ずご自身でご確認ください。
 
「株式会社を設立するには、まずArticles of Incorporation(定款)を州のSecretary of Stateに提出します。定款に盛り込む内容は、①会社名、②設立の目的、③最初のAgentの氏名及び住所、④発行株数で、書類は発起人による署名が必要です」(ジョン・イニゲンバーグ弁護士)。 ただしこれは一般的な会社を対象にしたもので、医療や金融などのProfessional Corporationや非営利団体の場合は、定款の内容は異なる。Agentとは、会社が訴訟された場合、訴状を受け取る役目を担う人を指し、役員が兼任しても第3者でもかまわないが、州内に在住していることが条件。
 
次に申請書Form SS-4をIRSに提出してEIN(Employer Identification Number)を取得する。設立申請書には、①会社名、②会社の住所、③会社の電話・ファックス番号、④代表者氏名、⑤代表者のソーシャルセキュリティー番号、⑥会計の締め月、⑦1年以内に雇用予定の従業員数、⑧業種を記載する。 EINはインターネットや電話でも取得でき、即日発行が可能。ただネットの場合は、まれに最終処理の段階で番号が変わる可能性がある。2週間程度で通知が来るが、通知に記載されている番号が正式な番号となる。
 
「次に発起人が取締役を任命し、会社設立に関する最初の取締役会を開催し、それまでの決議内容を議事録に記録します。決議される事項は、①Bylawsの承認、②役員の任命、③住所の確定、④会計締め月の確認、⑤年次総会の開催日時の決定、⑥株式発行の決定、⑦Agentの任命、⑧口座を開設する銀行の決定などです」。 Bylawsとは、会社運営のアウトラインを記した規範になるようなもの。カリフォルニア州で要求されている役員は、CEO(Chief Executive Officer)、CFO(Chief Financial Officer)、Secretaryの三役だが、1人で全役兼任も可。 その後、銀行口座を開設する。この時、銀行が要求するのは通常Articles of IncorporationとEIN。だが銀行によっては取締役会の議事録を要求する場合もある。
 
「会社設立後、90日以内にStatement of Informationという書類をSecretary of Stateに提出します。記載内容は、①会社名、②会社住所、③役員の氏名・住所、④取締役の氏名・住所、⑤エージェントの氏名・住所、⑥業種です」。 こうして株式の発行に至る。出資があった場合は、その都度Notice of Transactionと言われる書類をDepartment of Corporationsに提出しなければならない。通常、弁護士に株式会社設立の依頼をすると、基本的に含まれるのはここまで。費用としては、1千ドルから2千ドルが目安となる。
 
【ライセンスや許可を取得】
一般にアメリカでビジネスを行うには、「ビジネスライセンス」が必要。市によってその呼び方は異なり、発行する課もさまざま。ちなみにロサンゼルス市ではOffice of Financeで発行している。またビデオレンタル、書店、古着屋などをオープンするには、商品が盗品でないことを証明する警察からのポリスライセンスが、物販の場合には州発行のSeller’s Permitが必要。これは消費税を徴収するためのものだ。またアルコール飲料を提供する場合には、リカーライセンスも必要だ。
 
ゾーニングも知っておきたい。例えば店を開店する場合、その土地(ゾーン)にその業種の営業が認められているかどうかを規定したものだ。また店を改装する場合でも、Building and Construction Permitが必要になる。ゾーニングや工事に関する規定や許可は、市によって事情が大きく違うので要注意。 これら業種毎に発生するライセンスの取得なども弁護士に依頼できるが、通常、それに費やす時間毎の別料金になる。いずれにしても弁護士が指示してくれるので、それほど難しくはない。 だが実は注意しなければならないのは、会社設立後だとイニゲンバーグ弁護士は警告する。
 
「会社設立は比較的簡単ですが、せっかく個人の資産を保護するために法人を設立しても、法律に則ってそれをきちんと維持していかないと、法人と見なされなくなります」。 株式会社を設立すると、年次総会を開き、それを議事録に残さなければならない。大きな決断をする時には、株主総会や役員総会を開いて承認を得る必要がある。また投資家などによる増資の際は、それが証券法に違反していないかも注意が必要だ。これらの義務を怠ると、万が一訴訟問題が起きた場合、法人であっても個人と見なされて、債務が個人の資産にまで及ぶ可能性があるとか。 アメリカは周知の通り訴訟大国。借地であっても、そこで誰かがケガをすれば、その責任は会社に及ぶ。また社名やトレードマークも、登録済みのものを使えば訴訟に発展してしまう。トレードマークも連邦と州の両方で調べる必要があり、連邦の場合はオンラインで検索可能だが、その情報は3、4週間遅れているため、これも専門家に依頼するのが賢明だ。

④会社運営に必要な人材の確保

人事関係については、アメリカは日本とは異なる義務や規則があります。訴訟に発展しかねない分野ですので、素人判断せず、労務を専門とするコンサルタントから学んだり、州の労働局で調べたりして、間違いがないように万全の体制でスタートしましょう。

【人事面での注意事項】(本誌特集「独立・起業マニュアル(経営・実務編)」(2006年)より)
※最新の情報とは異なる可能性があります。詳細は必ずご自身でご確認ください。
起業・会社設立を行った後、いずれ必要になるのが社員の採用。そこで人事コンサルティング会社HRMパートナーズ社の上田宗朗さんに、人事における注意点を聞いてみた。
 
○きちんと評価を話し合い署名を交わした書類を残す
「特に起業間もない時期に採用した人は、創業者が片腕とすべく、あうんの呼吸でいろいろなことを頼んでしまいがちです。創業期の、しかも会社に社員が2~3名しかいない設立初期は、お互いウマさえ合えば大過なくことが運びますが、会社が成長し組織化してくるにつれ、果たしてそのような蜜月時代がいつまで続くかが、課題となってきます」。 危険なのは、創業期を過ぎ、会社がさらに成長し、各分野で専門性を持った社員が入ってくるようになってからだと、上田さんは指摘する。また、たとえその段階で創業期からいた社員が自主的に辞めていったとしても、創業期の頃と同じく曖昧な人事管理しかしない状態のまま会社が大きくなっていけば、あらゆる理由で訴えられる可能性も高くなる。それを防ぐためにも、創業当初から各社員の能力評価を書面で残しておくことが、転ばぬ先の杖になるという。
 
「たとえ社員が1人や2人でも、闇雲に給料を上げるのではなく、各社員ときちんと向かい合い、今までの評価をフィードバックし、今後の目標を話し合うことです。給料を上げるのであれば、それが能力によるものか物価を反映したものなのかなど、理由を明確にしておくべきです」。 例えば、「現状のスキルのままでは会社の期待レベルに応えていない。エクセルを扱う技術の向上に努めてほしい」とか、「タイプミスが多い。あなたには、その英語能力を英文レターが作成できるまでに高めてほしい」など、良い点だけでなく悪い点も率直に伝え、それを書面に残して署名をもらうことが重要だとか。「評価の際に交わした会話や内容を書面に著し、お互いが署名しておくことで人事問題の大半は解決できるはずです。しかしながら、評価時にその従業員の悪い面、向上してほしい点を率直に言えないのであれば、たとえ記録に残したとしても本末転倒、評価しない方がましと言えます。仮に会社側が用意した書類に署名をもらうことに抵抗があるならば、評価ミーティングを始める前に『お互い話し合った内容を逐一メモにとる』という形で書き留め、最後に見せ合い、お互いのメモにサインを交わすようにされれば、それほど抵抗がないでしょう」。
 
上田さんによると、アメリカ・カリフォルニア州は採用にあたって必要となる書類が、最も多い州なのだとか。だが、十分な知識のないまま雇用契約書などを作ってしまうと、反対に問題になるケースも多いので、採用時に交わす書類の扱いには特に気をつけ、採用後は最低でも年に1度のフィードバックをするべきだと念を押す。
 
○日米の常識には差がある差別に対する認識
また労働法などの面でも注意しなければならないことは多い。特にカリフォルニア州は労働者を保護する法律が多いため、日本的な解釈をしていると落とし穴にはまるケースもある。 例えば「日本人マネージャー」として雇ったとしても、仕事内容が雑用にまで広がっている場合は管理職としては認められない。そのため、たとえタイトルがマネージャーであったとしても残業手当を支払う必要がある。
 
「仕事上のパートナーとして全幅の信頼を置き、かなりの仕事を任せていたとしても、特に起業間もない頃は、その社員に残業代を支払わなければならないケースの方が多い」とか。日本式に、夕食などに連れて行って「がんばってくれ」というのは通用しないため、働いた分はきっちりと払うべきだと、上田さんは強調する。また周知の通り、アメリカ、特にカリフォルニア州は差別に関して最も厳しい国であり州。差別とは、人種・国籍・宗教・性別・年齢・障害・性的志向を題材にしたものだが、差別に関する日本の常識とアメリカの常識の差はまだまだ大きいといえる。例えば「バリバリ働く20代の男性社員募集」という求人は法律違反になる。先日も、プライムリブで有名なレストラン「ローリーズ」が、サーバーを希望して就職できなかった男性に「女性のウエイトレスしか雇わないのは性的差別だ」と訴えられたが、上記の求人広告の場合、「20代の男性社員」だけでなく、「バリバリ働く」も場合によっては差別と取られる可能性も。 「『やる気のある』とか『エネルギッシュな』という表現も、営業の新規開拓などで、基本給与の他に『やる気』を出してがんばればコミッションを得られて給料が上がる、などの対価条件があればよいのですが、そうでなければ控えたほうがよいでしょう」。 「明るい人」「元気のある人」などの表現も、使い方を誤ると障害者に対しての差別になる可能性があると、上田さんは忠告する。
 
「セクハラも繰り返し行うからセクハラになるのであって、差別も累積して訴えられるケースがほとんどです。それよりも問題が起こった際、どのように対処したかが重要になります」。 とはいっても、具体的にどんな質問が差別につながるのかは、知っておいてほうが無難だ。面接で避けるべき質問は、生年月日など年齢に結びつくもの、未婚か既婚や子供の有無などプライベートなこと、「道、わかりました?」など、車の所有を誘導するような質問、「あのアパートにお住まいですか?」など、家の所有を誘導するような質問、など。思いがけない何気ない質問が、差別に結びつくこともあるので注意したい。 「面接の際は、仕事以外の質問は避けたほうがよいでしょう。『これくらいなら』という思い込みは通用しません。極端に神経質になる必要はありませんが、何が差別用語となるかぐらいは押えておいた方が賢明です」。
 
○離職率に直結する健康保険の有無
良い人材を確保する手段として重要なのが、さまざまなベネフィットだとか。特に良い人材を集められるかどうかを左右する要素の1つが、健康保険だと上田さんは指摘する。 「健康保険の有無は、会社の離職率に直結しています。会社が部分負担していても、従業員が自腹を切っていると『ベネフィットではない』という意識につながるので、その分の給料を削ったとしても、従業員の健康保険料分はできれば会社が全額負担するほうが良いでしょう」とアドバイスする。 また有給休暇や病欠などのベネフィットは、後からいくらでも上げられるので、最初は慎重に設定した方が良いとのこと。就業時間も「9時から5時」でなければ絶対にダメ、というのではなく、ベビーシッターなどの関係で30分ずらした方が働きやすいのであれば、そのように調整してあげるなど、本人が働きやすい環境に応じてあげた方が良いとか。「業種によっては定刻勤務で縛り付ける時代は終わった」というのが、上田さんの考え。
 
人を雇うのは難しい。特にアメリカのように多民族が集まる国ではなおさらだ。またアメリカでは企業の社会的責任が大きいのも特徴で、業種によっては、事前に求職者のバックグラウンドチェックが必要な場合もある。不明な点があれば、専門家に相談するのが最善策だろう。アメリカで事業を展開する以上、アメリカの法律を知り、それを遵守するのは社会人として当然。労働法もきちんと勉強して、適切な対処を心掛けたい。

⑤集客・営業

営業がスタートしたら、顧客を継続的に確保するための集客活動が不可欠です。媒体を使った告知や、SNSを駆使したマーケティング活動によって、潜在顧客に存在を知ってもらいながら、自ら営業活動を展開していきましょう。

参考書籍・WEBサイト
『リーンスタートアップ』エリック・リース著(日経BP社)

トレンドは投資を少なくしてリスクを避ける起業
少人数でお金をかけずにスタートし、試作品を世に出して検証しながら改良を加えていく手法を提唱。夢は大きく、しかしアプローチは着実に。刻々と変わる環境に対応して軽やかに起業したい人のための指南書。

雑誌『Entrepreneur(アントレプレナー)』(Entrepreneur Media, Inc.)

起業のアイデアやトレンドが満載の月刊誌
文字通り起業家(アントレプレナー)のための情報誌。成功者のインタビューから、最新の経営ツールの紹介、ビジネスモデルの事例集、トレンド情報など、アメリカにおける「起業の今」が満載。

既存ビジネス売買情報サイト「BizBuySell.com」

現在運営されている事業の売買や、資産譲渡、フランチャイズ案件が掲載されたウェブサイト。仲介してくれるブローカーのリストも閲覧可能。同様のサイトは複数あり。

参考:アメリカ・カリフォルニア州で会社設立・企業する際の流れとチェックリスト

※このリストはすべての必要事項を網羅しているものではありませんので、開業・会社設立の際には、弁護士など専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
 
□ 社名がすでに商標登録されていないかを調べてから登録する
□ 会社を設立する地域で許可されている業種かどうか(ゾーニング)を調べる
□ パートナーシップ、株式会社、LLCなど、会社の種類に従って書類を申請する
 (Secretary of State’s Office)
□ State Tax Formを申請する(Franchise Tax Board)
□ ライセンスや許可が必要かどうかを調べる(CalGOLDやDepartment of Consumers Affairs)
□ 必要に応じてSeller’s Permitを申請する(State Board of Equalization)
□ 燃料、アルコール類、タバコなど、特別な税や費用が必要かを調べ
 (State Board of Equalization)
□ 従業員を雇う場合は、州の雇用者番号を申請する(Employment Development Department)
□ 従業員を雇う場合は、Workers’ Compensationについて調べる
□ ビジネス保険について調べ、必要に応じて保険に入る
□ 見積税や従業員を雇用する場合の源泉徴収など、税金に関する情報を調べる
□ 銀行口座(ビジネスアカウント)を開設する
 
資料:California Secretary of State

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