アメリカで起業・開業するには?

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アメリカはスタートアップがしやすい社会環境

世界最大の起業に関する調査機関「Global Entrepreneurship Monitor」の調査によると、日本は、世界の先進国の中でも、まれに見るほど「起業意識が低い国」という結果が出ています。中国や韓国、フィリピン、ベトナム、メキシコなどと比較すると、その差は歴然です。日本では、働くということは就職を意味することが多く、起業を奨励し、支援する社会体制が確立されていないことが反映されているのかもしれません。
 
起業とは、自らが事業主となってビジネスを運営していくこと。自分がオーナーであり、多くの場合は社長として、日々の事業の采配をふるうことになります。事業が成功すれば、経済的にも余裕ある暮らしが実現できるでしょう。時間や場所の自由も手に入れやすくなります。
 
アメリカ社会では、起業はアメリカン・ドリーム実現への第一歩。志を持つ人を支援し、起業家が安心して事業を始める体制が整っています。いつかは独立を、と考えている方にとっては、願ってもない社会環境だと言えるでしょう。
 
ITの進化に伴う経営管理の合理化、ブランド構築に最適なSNSの普及など、より低コストでスタートアップが図れる時代になってきています。今こそ起業について詳しく知り、未来の事業家を目指して計画を立てる最適な時期かもしれません。

過去3年に起業をしたいと考えた人の割合

1位:フィリピン(44.1%)
2位:ベトナム(24.1%)
3位:メキシコ(16.9%)
4位:中国(14.4%)
5位:フランス(12.6%)
6位:アメリカ合衆国(12.2%)
7位:韓国(12.0%)
8位:イギリス(7.2%)
9位:ノルウェー(5.2%)
10位:日本(4.0%)
※出典:Global Entrepreneur Monitor”2013 Global Report”(www.gemconsortium.org)より抜粋

起業・開業実現の方法はいくつもある

ひと口にアメリカでの起業と言っても、それを実現する形はさまざま。自らのビジネスアイデアを基に会社を設立し、資金を用意し、オフィスを構え、人を採用し、マーケティングや営業活動で集客をして、顧客を探していくのが典型的なパターン。
 
これまでのキャリアで培った知識や技術を元に独り立ちして会社を始めたり、オーナーからのれん分けしてもらって独立したり、あるいは資格を取ってゼロから特殊技能者として専門職ビジネスをスタートするなり、始まりの形は実にバラエティーに富んでいます。
 
また、既存のビジネスの資産を譲り受けたり、会社そのものを買収したり、フランチャイズの権利を購入したりして、自分の事業として新規スタートするのも、一般的な起業の形です。
 
かねてから独立して自分の店を出したいと願っているシェフであれば、ゼロから物件を探してレストランとして改修するよりも、アメリカで売りに出されている既存のレストランを買収する方が得策な場合があります。店の備品や設備、レストランとしての体裁が即、手に入ることになり、はるかに短い時間で、総コストも安く抑えながら、夢であった「自分の店」を始められるかもしれません。
 
さらに、初めにまとまった資金は必要となりますが、本部の支援を受けて、全国レベルの質の高い事業を始められるフランチャイズも選択のひとつ。ビジネスモデルや設備、教育システム、仕入れ、販売のノウハウが全てパッケージ化されており、経験がなくても短時間で軌道に乗せられるのが魅力です。
 
アメリカの『The Wall Street Journal』が提携するビジネス売買サイト「BizBuySell」には、売りに出されている事業情報が無数に掲載されています。ロサンゼルス・カウンティーのレストランだけでも実に200軒を越す既存レストランが売りに出されており(2014年11月時点)、価格は数万ドルから数十万ドルまで、事業によって開きがあります。ビジネスをゼロから起ち上げるほどのアイデアがなければ、ビジネス売買やフランチャイズ情報から探すと良いでしょう。

アメリカにおいて「今」が最も起業に適している10の理由

  • 1.テクノロジーの進歩で起業がしやすくなった
  • 2.現在の仕事に幸せを感じられない
  • 3.起業する人は、実は減少しているからチャンス
  • 4.競争相手との協業で可能性がより広がる
  • 5.リスクを冒さず、副業から始めても良い
  • 6.レイオフの心配から解放される
  • 7.グローバル化による安価な仕入れや市場拡大が可能
  • 8.スタートアップ企業で働きたい人材が増加
  • 9.多くの規制や縛りから免除される
  • 10.起業を先延ばししていても意味がない

出典:Inc.”10 Reasons Why Now Is the Best Time to Start Your Business”
 
具体的な起業・開業の流れについては、次の「アメリカ進出~会社設立・開業までの5ステップ」をご覧ください。

 

起業する前の心構え(特集「アメリカで起業独立する(開業準備編)」より)

お金儲けは起業の目的ではない

「ビジネスは君を表現するアートだ」と提言するのは、本誌でもおなじみのブランディング・コンサルタント、阪本啓一さんだ。「生きるということは、何かを表現することです。人として生まれた以上、子供でも、専業主婦でも、引退した老人でも、サラリーマンでも、生きている以上、表現しています。表現することを『アート』と呼ぶならば、仕事は、自分自身を表現するアートなのです」と阪本さんは話す。だから「お金儲けがビジネスの目的であってはならないのです」と言う。
 
「きれいごとに聞こえるかもしれませんが、お金儲けは結果であって、目的ではありません。ビジネスの成功の定義は、高層ビルのオフィスでも、高級外車でも、何億円もの資産でもなく、その先にある目に見えない精神的な満足にあります。それは、家族や友人・クライアントの大きな笑顔かもしれません。自分は何を成すためにこの世に生まれてきたのか、ということを学ぶための手段が仕事なのです」。
 
自分のビジネスを創業するにあたり、何より大切なのは「志」だと阪本さんは強調する。「志とは経営理念と言い換えてもいいでしょう。これがしっかり確立されていれば、成功の50%は約束されたようなものです。最近は企業の不祥事が新聞紙上を賑わせていますが、どれも皆、煎じ詰めれば志の低さに原因があります。自社ブランドを製品につけた以上、いかなることがあったとしても、顧客に向き合う時は自分のせいなのです」。
 
そのため、起業する際には、自分が何をしたいのかを考えて、紙に書き出してみるのがいいとアドバイスする。その際には、「××という商品(製品・サービス)を売る」というような「商品の販売による定義」をしないことが重要だとか。
 
「マーケティングの観点から言っても、これはビジネス領域を狭める結果になります。例えば豆腐の製造・販売をしたとすると、『この豆腐を年間10万個販売する』ではなく、『このとびっきりうまい豆腐を食べて、1人でも多くの人をハッピーにする』のが志なのです」。
 
例えば、誰かが始めた牛丼屋には連日お客さんが行列を作っているから、自分も牛丼屋を始めよう、というのは、競争を作っているに過ぎない。「競争」ではなく「共存」が、新しい世界の新しいビジネスルールだと阪本さんは語る。「市場がどんなに成熟して、もう入り込む余地はない、と思っていても、きっとそこにはまだ誰も手をつけていない白紙があるはずです」。その例として阪本さんが挙げるのは、ノンフロン冷蔵庫、紙パックの要らないサイクロン式掃除機、ドラム式洗濯乾燥機など。これらは家庭普及率100%に近い成熟しきった市場に新しい価値を提案し、市場を創造した例だ。周りを見渡すと、「ありふれたものなのに、新しい工夫がある」という日常生活品は少なくない。そんなちょっとした不満や不便を解決してくれる喜びと感動の中に、ビジネスチャンスは見つかると、阪本さんは応援する。

お金の代わりに知恵を出す

日本でも2006年に会社法が改正され、手元にまとまった資金がなくても会社を設立できるようになったが、アメリカではそれこそ100ドルの資本でも株式会社を設立することができる。資金がなくても起業は可能だが、注意したいのは「簡単に始められるビジネスは、他の人にとっても簡単で、すぐに参入できる」という点だ。特にウェブなどITを使ったネットビジネスは、ネットに接続したパソコン1台で誰でも始められる。だが、始まりの容易さが経営の甘さにつながらないようにしなければならないと、阪本さんは注意を促す。
 
一方で、「借金はしてはいけない」というのが、阪本さんの持論だ。「家計でも同じですが、借金は金額がたとえわずかでも、マイナスの波動が出ます。手元にある範囲、身の丈のビジネスをわきまえることが重要です。また借金すると、借金をした相手が口を出します。銀行であれ、企業であれ、個人であれ、志に背向くことを言われかねません。シンプルな経営のためにも、借金はせず自前主義で行くのが1番です」。
 
お金が今、ビジネスの流れのどこにいくらあるかを頭に入れておくためにも、支払いも入金もすべて現金主義が望ましいという。必要最低限の会計の知識を学ぶには、キャッシュフロー経営について、ていねいな説明をしている『実学入門 経営がみえる会計』(田中靖浩著、日本経済新聞社)がオススメとのこと。
 
また起業に際して、「清水の舞台から飛び降りるのは感心しない」と。ビジネスを始める時は、リスクは1つでも減らすことが肝心。そのためには、手元に1円もないという想定で始めてみるのがコツだとか。「私はこれをゼロスタートメソッドと呼んでいますが、お金を出す代わりに知恵を出す。小さく始めるに越したことはありません。美しいビルに入居したからといって、売り上げにはまったく関係ないのです」。
 
統括すると、自分を表現するアートを見つけ、そのアートを使って社会に還元する知恵を出すところから、起業はスタートする。

夢を事業にしていくには(特集「アメリカで起業独立する(経営・実務編)」より)

「今できること」から構想を立てるのが大切

事業を始めるにあたって、通常まず考えるのは資本の問題だ。事業を立ち上げるためにはいくら必要か、ということから始まって、事業が軌道に乗るまでは、多くの人が資金繰りで苦労する。事業が失敗する原因も、その多くは資本が続かなくなったためだ。だがアントレプレナー大学を創設するなど、さまざまなかたちで、起業家を応援するビジネスコンサルタントの福島正伸さんは、事業構想の立て方を変えることで、どんな夢も実現させることが可能になるという。
 
「1千万円あれば事業ができるという人は、1千万円あるという前提以降の構想はできていても、今から1千万円できるまでの構想ができていません。構想を立てる時に大切なのは、『今できること』に絞ることです。夢を実現させるためのストーリーを、今できることから具体的に描くことが大切です」。
 
ただ、起業家としての夢は、自分1人だけの満足で終わるものであってはならないと、福島さんは強調する。「事業そのものが社会に貢献するもので、会社が成長することで、より社会に貢献できるようになっていくことが大切です」。そのスタートが、社会に貢献する夢を持つことだとか。事業が難しいという人は、難しく考えようとしているだけだと、福島さんは言う。
 
「それは目先の自分の利益を優先して考えているからです。人間社会のルールとは、自分が他人のためにしたことが自分に返ってくるという単純なものです。利益よりも優先するものを持たなければ、利益は得られない、というのが、業種業界を問わない人間社会の原則です。売上げはお客様が決め、会社の存在価値は社会が決めます。だから社会やお客様のために何ができるか、どんな価値と感動を提供しようとしているのかを考えるだけでいいのです」。
 
「夢に可能性は関係ない」と福島さんは言い切る。夢がいつ実現するかどうかは、どれだけ本気で夢を実現したいと思うかによって決まる、というのが福島さんの考えだ。

構想を立てる際の6つの注意点

日本においてもアメリカにおいても起業を成功させるには、まず事業の核になる構想を立てることが欠かせない。事業の内容は違っても、構想を立てる際の心構えは共通だ。前述の福島さんが挙げる注意点は6つ。
 
第1は、「毎日考えること」だと前述の福島さん。「事業構想は、いわば将棋のようなもので、あらかじめ将来を見越して組み立てますが、何か1つ行動を起こすと状況が変わるため、もう1度そこから組み立て直さなければなりません。毎日考えて、毎日書き換える。書き換えれば書き換えるほど、構想は実現性の高いものになっていきます」。
 
第2は、1人でも多くの人に相談すること。福島さんは、1つの企画を立てると、必ず30人に相談する。「なぜかというと、自分が誰に対してもきちんと伝えることができるかどうかで、まとまっていない部分を見つけ出すことができるからです。30人に相談すれば、事業構想のレベルは飛躍的に高まっているはずです」。
 
第3は、あいまいな表現をなくすこと。そのためには、形容詞や副詞は使わないことだ。具体的なイメージができていないと、形容詞や副詞を使いがちだが、それでは行動に移せない。
 
第4は、必ず紙に書いて蓄積する。事業を考えている起業家にとって、忘れることは貴重な財産を失うことになる。思いついたこと、教えてもらったことは、その場で書き留める習慣をつけよう。
 
第5は、迷ったら夢に戻ること。そうすることによって、本来の目的である「何のために」「なぜ」この事業を始めようとしたのかを思い出すことができる。
 
そして最後は、前向きに考えること。考えるべきことは、「できるかどうか」ではなく、「どうしたらできるか」だけでいいと福島さんは断言する。「できるかどうかを考えると、結論は決まってしまいます。過去にできたこと以外は、『できない』という結論になるだけです。事業の構想化を阻む最大の壁が、『できないかもしれない』という心の迷いです。どんな課題に対しても、あきらめずに前向きに考えることが、構想化においてはとても大切な基本的姿勢です」。

起業して何が儲かるかではなく、何のために何をやるべきか

起業時の事業の構想化で最も重要なのは、時間や資金も限られることが多いスタートアップ期だと福島さんは強調する。経営資源を最大に活用して最短で成果を挙げられるように、一切無駄のない活動をする必要があるとか。
 
「そのためにも、事業の中で1番大切な『事業の核になること』から始めて、そこできちんと利益を上げるようにします。『ここで成功できなければ他では成功できない』と考えて、そこに労力を集中し、今自分にできることから始めます」。
 
また事業計画の中核をなすのが、ビジョンとポリシーだ。ビジョンとは最終的に目指すべき夢で、そのビジョンを達成するためのステップになるのが中間目標。これは3年後あるいは5年後までの目標だが、目標を達成するのは1カ月単位でも難しい。そのため、少なくとも1週間単位で目標を立案することが必要だとか。またポリシーとは、そのビジョンを実現するための日常の行動基準だ。
 
「事業において大切なのは、何が儲かるかよりも、何のために何をやるべきか、ということです。『生き残る会社』を目指すのではなく、『生き残る意味のある会社』を目指す。生き残れるかどうかは結果であり、社会的に存在価値のある会社ほど生き残ることができるようになるだけです」と福島さんは言う。
 
取材協力:株式会社アントレプレナーセンター
www.entre.co.jp

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