FATCA(外国口座税務遵守法)とは

2010年3月、オバマケア成立で世間の声がかまびすしいなか、外国口座税務遵守法(FATCA)が議会を通過しました。賛否両論の法案で、長期にわたる施行延期期間を経ましたが、ついに今年7月1日から施行されます。これにより米国内外の金融機関には大きな波紋が広がっています。このFATCAとはどのような法律なのでしょうか。
 
FATCAは、オバマ政権の掲げる政策の一つであるTax Gap対策として、09年に議会へ提出されました。TaxGapとは、政府が実際に徴収している額と納税者が本来納税しなければならない額の差のことで、政府はこの原因は「米国居住者の資産海外移転による課税逃れにある」と指摘しています。そしてその資産海外移転を管理するため、海外の金融機関に対して国内納税者の資産情報の提供を呼びかけています。
 
この法律は国際法ではないため、効力範囲がアメリカのみで、海外の銀行をはじめとした金融機関への強制力がありません。しかし、FATCAの条文には、「米国から海外へ米源泉所得を送金する際には、例外を除き強制的に30%の源泉課税する」という規則が盛り込まれています。当然、米国外の金融機関はこれを避けようとしますが、回避には米国側と「税務当局が規定したルールにのっとり、個人、法人にかかわらず、全納税者の口座について情報を開示する」という契約を結ばなくてはなりません。ただし、これは各国の金融機関に多大な業務負担を強いるだけではなく、個人情報保護法に抵触する恐れがあるなどの問題もあります。
 
いずれにしても、今後はFATCAの影響により、今まで以上に海外の金融資産に対する取締りが厳しくなることが予想されます。以前は、海外の金融資産に対する調査方法に制限があり、税理士などから開示を伝えられても自発的に行った人は少なかったようですが、今後は気を付けなければ高額な罰金が科せられる可能性があります。
 
FATCA施行後は、以下の一定の条件を満たす人は、確定申告と共に「Form 8938 (Statement of Specified Foreign Financial Assets)」を提出し、米国外の金融資産を開示する必要があります。「Form 8938」は、11年度から開始されましたので、既に何度か提出済みの人もいるかもしれませんが、今後は次の①~③全ての条件を満たす人の提出が必要になります。①米国市民権所有者または税法上の居住者、②米国外に以下の資産を所有している:銀行口座(アメリカの銀行の支店は除く)、米国外で発行された株式や有価証券など、米国人以外と取引した金融商品あるいは投資契約、③米国外資産が以下の金額を超過している:米国在住者で独身/夫婦個別申告ならば、年度終了時の残高が5万ドル以上、または年間最大残高が7万5000ドル以上、米国在住者で夫婦合算申告なら年度終了時の残高が10万ドル以上、あるいは年間最大残高が15万ドル以上、海外在住者で独身/夫婦個別申告なら年度終了時の残高が20万ドル以上、あるいは年間最大残高が30万ドル以上、海外在住者で夫婦合算申告ならば年度終了時に40万ドル以上、あるいは年間最大残高60万ドル以上。
 
ただし、条件を満たしていても、確定申告提出義務のない人は「Form 8938」の提出義務はありません。
また、確定申告同様、正確な情報を期日までに申告できない、過少申告したなどの場合には最大で1万ドルの追徴金が課されます。さらに、IRS(内国歳入庁・米国国税庁)からの通知に対して90日以内に対応できなかった際は、通知日から30日ごとに最大1万ドル(最大総額5万ドル)の追徴金が課されます。例えば、IRSからの通知から150日後に対応すると、1万ドルの追徴金と、60日超過分の2万ドルの追徴金で最大総額3万ドルが徴収されます。
 
(2014年7月1日号掲載)

海外金融資産の開示申告(FBAR・FATCA)

 

2003年にFBARと呼ばれる海外金融資産の開示義務が開始されました。また、11年からはFATCAと呼ばれる別の開示義務も開始されました。今回は、年々取り締まりが厳しくなる外国金融資産の開示について説明します。


FBAR

FBARの申請義務は、海外金融資産を総額1万ドル以上保有しているUSPersonに発生します。US Personとは、市民権保有者、アメリカ居住者、アメリカでビジネスをしている人(個人納税者だけでなく、パートナーシップ、コーポレーションを含む)を指します。また、海外金融資産とは、海外の金融機関が管理する預金、株や債券の口座、投資信託などを指します。申告期限は6月30日までです。

 

FATCAによる開示義務

海外金融資産が総額5万ドル以上ある独身者、または総額10万ドル以上ある既婚者は、FBARとは別に、「Form8938」「Statement of SpecifiedForeign Financial Assets」というフォームをタックスリターンとともに提出する必要があるのがFATCAによる開示義務です。締め切りは確定申告と同じです。
あくまでも開示義務のみのため、税金等は課せられませんが、この開示義務を怠ると、1万ドルを超える罰金が科されることがあります。

 

海外金融資産自己開示プログラム

今まで開示を怠っていた人はどうすればよいのでしょう?
2012年、米国国税庁(IRS)は、海外金融資産自己開示プログラム(OVDI)を発表しました。今まで開示を怠ってきた人が自発的に開示すれば、低額の罰金で済むという妥協案です。一般的に上限額は海外金融資産の27.5%ですが、12.5%や5%に軽減されることもあります。また、多くの場合は、このプログラムを利用すると刑事罰を避けられると言われています。しかし、IRSが既に海外銀行から未開示口座の情報を入手していた場合、このプログラムの利用を断られることもあります。
開示を怠ったとIRSから摘発された場合、10万ドルか海外金融資産の50%どちらか高い方に未開示年数をかけた額が罰金として科されるので、自らOVDIを利用した方が、高額罰金を避けられる可能性が高くなります。対象は過去8年分で、悪質と判断された場合は刑事罰も科されます。
OVDIは、故意に開示をしなかった人もそうでない人も区別がなく、同等に罰金を科される傾向にあるので、故意に開示報告をしてこなかった人には有効なプログラムでしょう。

 

不注意で開示しなかった場合

しかし、不注意で開示報告をしなかった人は、OVDIを利用しない方が罰金が低くなる可能性があります。IRSは14年から「Streamlined FilingCompliance Procedures」という、不注意で開示をしなかった一部の人に向けたプログラムを発表しました。適用となるのは以下の方です。
 
●米国に過去3年住み、米国籍または永住権を保持していない人以下が必要です。①3年分の修正申告、②海外口座開示(FBAR)、③プログラムの利用資格証明、④①と②の申請証明書、⑤過去3年、税金に未払いがないことの証明、⑥罰金として海外資産の5%の支払い
●米国籍または永住権の保持者で外国に3年以上住み、その間330日以上米国にいなかった人①から⑤まで必要ですが、⑥の罰金を払う必要はありません。
 
以上のような方法があるので、未開示の方は専門家に相談してみるといいでしょう。
 
(2016年6月1日号掲載)

石上洋◎米国公認会計士
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校を卒業後、大手監査法人、現地会計事務所パートナーを経て石上・石上越智会計事務所を設立。税務をメインに事業を展開。
アメリカでの会社設立・確定申告・タックスリターンは「石上、石上&越智公認会計士事務所」へ
米国公認会計士・石上洋さんのインタビュー

※本コラムは、税に関する一般的な知識を解説しています。個別のケースについては、専門家に相談することをおすすめします。ライトハウス編集部は、本コラムによるいかなる損害に対しても責任を負いません。

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