税務調査

「税務調査」という言葉を聞くと、あの人気ドラマ『半沢直樹』の片岡愛之助さんが演じたオネェ検査官、黒崎を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。しかし、多くの人が税務調査などドラマの中の話で、まさか自分が調査の対象となるとは考えないでしょう。確かに税務調査の対象となるのは全体のわずか1%だそうです。しかし、調査の基礎知識を持ち、いざという時に備えることは大切です。


調査対象の選択方法

◉コンピューターによるランダム選択
過去の確定申告書を比較し、変更点あるいは未申告の収入がある可能性有りと判断された場合、IRSが独自の方法で点数を付けます。高得点の場合に調査の対象となる可能性があります。
 
◉情報の照合
IRSはTax Transcriptと呼ばれるもので各納税者の情報を管理しています。それには各納税者が申告するべき「W-2(源泉徴収票)」や「Form 1099(支払調書)」といった情報が記載されており、Tax Transcriptと確定申告書の情報が合致しない場合は調査の対象となる可能性があります。
 
◉他の税務調査との関連
ビジネスパートナーや投資家が調査の対象となった場合、それが原因で自身も調査の対象となる可能性があります。また、IRSが独自で入手した情報を基に調査が入ったり、大企業には決まった頻度で調査に入ったりすることもあります。従って、しっかりと納税申告をしているから調査の対象にならない、というわけではありません。


調査方法

銀行口座や財務情報などを参照し、税法にのっとって確定申告書が正しく作成されたかを調査します。手紙による調査と直接、調査官とやりとりする調査方法があります。調査官と直接やりとりする場合は、IRSでのオフィス面接(Office Audit)か、対象者の自宅、オフィス、もしくは会計士のオフィスでの面接(Field Audit)が行われます。
調査の際は事前に手紙や電話で通告され、必要書類も事前通知されます。調査にかかる時間は内容や必要書類をきちんと管理しているかによって違いますが、迅速に書類を提出できれば比較的短時間で終わる場合も多いです。


記録管理

収支などの記録管理は税務調査が入った際の急場をしのぐためだけではなく、ビジネスの現状把握や個人の記録として役立つのは言うまでもないでしょう。これらの記録の管理方法は原本でも電子的な形でも構いません。
保管しておくべき書類は、個人の収入関連として「W-2」や「Form 1099」。資産関連は資産の取得・処分の日付と価格、その過程で他に費用が発生した場合はその書類も必要となります。
従って、株式など金融資産は売買の明細、不動産関連はその費用、修築や改善費用、使用目的が記載されているインボイスと契約書、関連経費の支払い済み小切手などを保管しておきましょう。
ビジネスの調査では特に、売上や経費をひも付けできる銀行やクレジットカードの明細などが必要となります。それらの書類が理路整然としていれば、調査も短時間で終わるでしょう。


記録の保存期限

記録の種類や条件によって異なりますが、確定申告書を提出した日から最低3年間はきちんと保存しておきましょう。他にもPayroll Tax(給与税)に関する情報は最低4年間保存することが義務付けられています。資産関連の書類は、減価償却の耐用年数は保存しておきましょう。
これらの年数は最低限の期間で、税法が定める期間を超えても情報提示を要求される場合もあります。従って、可能な限り長く記録を保存しておくことをおすすめします。
 
(2014年5月1日号掲載)

現金と税務監査

 
クレジットカードやデビットカード、銀行小切手、トラベラーズチェック、そして現金など、会社を経営していると、さまざまな形態による収入があることに気付きます。当然ですが、形態は何であれ、収入は全て税務当局に確定申告で報告し、収入額に応じた税金を支払う義務があります。
カードやチェックなどは換金する際などに銀行やカード決済会社を通す必要があり、会社の外に明確な記録が残ってしまいますが、現金収入の記録は基本的に社内で完結し、外部に出ることはあまりありません。その事実を利用すれば、脱税行為が可能に思えますが、税務当局も甘くはありません。
これから挙げる行為はいずれも脱税行為です。脱税や虚偽の確定申告は非常に重い犯罪で、それぞれ最大5年の懲役刑が課される場合もあります。


現金売上とその監査

クレジットカードが普及してきたとはいえ、いまだに現金で買い物をするお客様は大勢います。商品やサービスの対価として領収した現金を記録する際に、それを実際の金額よりも少なく記録すると、差額分は記録に残らない現金になります。この行為は消費税の過少報告につながり、発覚すれば追徴課税の対象となります。
 
税務当局は、この不正を暴くために「現金監査」を行うことがあります。これは、特定期間内の現金の受諾と納付の双方が正しく記録されているか、次いで手元に残る現金と記録上の値が一致するかを検査する方法です。
売上内のクレジットカード売上と現金売上の比率を業界平均などと比較して利用する方法もあります。同業種ではカード売上と現金売上の比率は似ることが多く、業界平均値から著しく外れている場合、現金売上を偽っているのでは、と目星が付きます。
直接的な監査として、監査官が秘密裏に店舗で大きな金額の食事や商品の購入の支払いを全額現金で行い、後でその取引が正確に記録されているかを確かめる方法もあります。売上の過少報告が常態化している場合、このような大きな現金取引は格好の標的となり、また監査官本人が支払うため、言い逃れもできません。


経費とその調査

商材や消耗品、事務用品等を補充する際に、現金で支払うこともあると思います。購入した事務用品の値段を実際よりも大きく記録することで、実際に支払った金額との差額分が出ます。しかし、これは収入の過少報告につながり、ひいては所得税の過少報告となるため罰則の対象となります。監査官はレシート、帳簿、支払いの実録を比べて、記録が正当かを調べます。


給与支払いと監査

雇用主は、連邦法・州法の双方で給与税を支払うことが義務付けられています。会計事務所等の手伝いの下、給与と小切手の発行をしている場合、給与税も同時に処理されてしまうことがほとんどでしょう。しかし、そういった手続きを取らず給料を現金で支払っている場合、外部に記録は残りません。そのため、支払った給与の額を過大、あるいは過少報告したり、そもそも給与として報告しなかったりすることも可能になってしまいます。
これらの行為を取り締まるために、監査官もさまざまな対抗手段を取ります。その一つに「Headcount」という手法があります。これは秘密裏に店舗に通い、実際に働いている従業員を数え、それが報告された人数と一致するかを確かめる方法です。また、帳簿上の給与経費とその年度のW-2が比較され、脱税行為が発覚することもあります。
いずれにしろ、当局の規定に従って通常通りの業務をし、正確に収支記録を付け続け、経営者として正しく税金を払う義務を怠らなければ問題視されることはありません。
 
(2014年3月1日号掲載)

不正会計のしくみ

 

国を代表するような名門企業でも、影を持っていることもあります。近年に明るみとなった、日本のあるトップ企業で長年にわたって行われていた不正会計とはどのようなものだったのでしょうか。

 

不正会計の概要

A社はリーマンショック以降、売り上げが激減して過去最悪の赤字に陥り、以来、利益をかさ上げする経理処理を組織ぐるみで常習的に行うようになっていきました。
例えば、ある事業では、広告費や物流費などの請求書を支払先に頼んで翌期に回してもらったり、翌期に予定している部品の値引きを前倒しで計上する「キャリーオーバー」と呼ばれる手法がとられたりしていました。
また、パソコン事業では、決算直前に、パソコンの製造委託会社に高値で部品を買い取ってもらい、一時的に利益を確保。決算後に完成品を買い戻して一時的に利益は減るものの、次の決算前に再び部品を高値で売り、見せかけの利益を計上していたのです。
もう一つ大きな問題点に、A社が買収した米国のB社をめぐる会計処理が挙げられます。B社は業績悪化に伴い、単体決算では巨額の減損処理(損失を決算書に反映させること)をしていました。A社はのれん代(買収額からB社の純資産を引いた差額)の減損処理をする必要があるにもかかわらず、買収後のB社の事業は堅調として連結決算で損失計上をしなかったのです。
A社が採用する米国会計基準では、「価値が失われた時点で減損処理を行う」のがルールです。これまで減損処理を一切行ってこなかったA社は、B社の会計処理で、今後、数千億円規模の減損が生じるとみられています。

 

不正会計の問題・ペナルティー

A社の行った不正行為では、事業が実際よりも利益を上げているように見せかけていました。税務当局に対してより多くの税金を支払うことになるので、税務に関する追及の可能性は低くなります。
この行為で問題なのは、株主、従業員らに不正な情報を提供して不当な損害を与えることで、A社も税務当局ではなく、取引を監視・監査する機構より警告を受けている状態です。
A社は世界各国で事業展開していることから、日本国内のみならず米国の監視・監査機構からも警告と調査を受けており、日本で科されたものとは別に、ペナルティーを受ける可能性もあります。こうしたペナルティーや警告は、不正の規模や金額によって大きく変化する他、上場企業であれば株主から訴訟を受けることもあります。

 

外部の目の大切さ

不正会計は、規模の違いこそあれ、どこでも起こり得ることです。
経営者の中には、事業が苦しく、不正を行ってでも…と思う方がいるかもしれません。しかし、不正行為はリスクの高過ぎる選択肢で、絶対に避けるべき行為です。たとえ一時の不正で困難を乗り切ったとしても、軌道に乗った数年後に不正が明るみになり、ペナルティーによって倒産・破産するケースもあります。
A社の不正は、外部の目で不正を防げなかったことも一因です。A社の外部監査委員会の多くは会計の専門家でない上、委員長はA社の財務責任者が務め、不正を止めることができませんでした。さらに、最後の砦、外部の監査法人は、不正会計を見過ごしたとして行政処分を受けています。
クリーンな企業会計には、社内の自浄作用はもちろん、外から経営改善を促すように働きかけることも必要不可欠なことなのです。
 
(2016年6月16日号掲載)

石上洋◎米国公認会計士
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校を卒業後、大手監査法人、現地会計事務所パートナーを経て石上・石上越智会計事務所を設立。税務をメインに事業を展開。
アメリカでの会社設立・確定申告・タックスリターンは「石上、石上&越智公認会計士事務所」へ
米国公認会計士・石上洋さんのインタビュー

※本コラムは、税に関する一般的な知識を解説しています。個別のケースについては、専門家に相談することをおすすめします。ライトハウス編集部は、本コラムによるいかなる損害に対しても責任を負いません。

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