働く
JOB

アメリカン・ドリーマーズ

アメリカの各業界で活躍する日本人・日系人に、渡米のきっかけから、大きな夢を実現するまでの軌跡をインタビュー。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

五嶋みどりさん/バイオリニスト

本物の音楽や音楽家がより身近な存在となるよう本物の音楽を通じて活動したい


10歳で渡米し、音楽の名門ジュリアード音楽院で学んだバイオリニストの五嶋みどりさん。 その同年にニューヨーク・フィルと共演し、「天才少女」と賞賛された。 年間 70 回以上の演奏活動をこなすと同時に、さまざまな社会貢献活動にも積極的な五嶋さんに聞いた。


【プロフィール】ごとう・みどり◎1971年大阪生まれ。82年に渡米し、ジュリアード音楽院で学ぶ。82年、 ニューヨーク・フィルとの共演でデビュー。以来、世界中で演奏活動を行う。2004年に は、南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校の「ハイフェッツ・チェアー」に就任、07 年より弦楽学部主任教授。また、コミュニティー・エンゲージメント活動にも取り組み、 07年9月より国連平和大使を務める。使用楽器はガルネリ・デル・ジェス「エクス・フー ベルマン」(1734年作)。公式ホームページ www.gotomidori.com/japan

色々な楽器の音が聴こえ
ワクワクした

「Midori & Friends」でニューヨーク市の小学校を訪れた際の1コマ
ⓒGil Gilbert

バイオリンを始めたきっかけ は、元々母がバイオリンを弾いた り、教えたりしていたので、家の中 に自然に溶け込んでいたからだ と思います。バイオリンを弾くこ とは、私にとっては当たり前のよ うな感覚がありました。バイオリ ンの前に、ピアノやチェロに興味 を持ったこともあり、少しピアノ を習いましたが、長続きしません でした。

バイオリンを学び始めてしば らくして、大阪で初めてステージ に立ちました。そして、私が8歳 の時、演奏を録音したテープを聴 いたニューヨークのジュリアード 音楽院からオーディションに招か れ、1982年に母に連れられて 渡米しました。当時は、アメリカ に行くこと自体、実感がなかった ので、不安などは特に感じません でした。ただ、どの子供もそうで あるように、母親が幸せそうだっ たので、私もうれしかったです。

その年の大晦日に、ニューヨー ク・フィルハーモニックと共演する チャンスを得ました。米国でのデ ビューでしたし、オーケストラと 一緒に演奏できるというので、も のすごく楽しみにしていたのを覚 えています。実際にオーケストラ の前で演奏すると、色々な楽器の 音が聴こえてきて、それだけでワ クワクしました。私が当時 11 歳で ニューヨーク・フィルと共演したこ とで、日本では「天才少女」と呼ば れたようですが、世間の評価につ いて、気にする歳ではありません でした。

プロのバイオリニストを志し た理由ですか?私の場合、「プロ フェッショナル」であることを意識 する前にデビューし、コンサート 活動を始めました。ですから「志 した」というのとは違っています が、「プロ」の演奏家としてやって いくことは、ずっと考えていた生 き方の一つでした。ただ、幼少の頃 から音楽活動を続けてきて、色々 なことを学び、経験して、初めて 「プロ」としてやっていこうと自覚したのだと思います。

プロとして活動して良かった と思うのは、国籍・人種を問わず、 色々な人たちとの出会いに恵ま れることです。各国の現地の人の 中に入っていくことで、多くのこ とを学ぶことができますし、自分 の知識や世界が広がるばかりで はなく、好奇心をかきたてられて、 考えたり調べたりするきっかけに なり、とても面白いです。


モットーは
health, dignity, honesty

国連事務総長の潘 基文氏と ⓒ2010 Courtesy of UN

ジュリアード音楽院時代から 今まで、本当に多くの方々に出 会い、皆さんから影響を受けてき ましたが、 95 年に音楽以外のこと も学びたいと思い、ニューヨーク 大学で心理学とジェンダー・スタ ディーを専攻しました。心理学で は修士号を取得しましたが、それ に限らず、ニューヨーク大学で学 んだことは、私の音楽活動に何ら かの影響を与えていると思いま す。それが何かを具体的にお答え するのは難しいですけれど。

もちろん大学での勉強だけで なく、これまで経験してきたあら ゆることが、新しい企画を考える 時の礎となっていると思います し、物事の捉え方や社会に対す るコミットメントは、大学で学ん でからと、それ以前とでは大きく 違ってきたと思います。

私が音楽活動で心がけている ことは、音楽と常に真摯に向き合 い、作曲家の思い(意図)を正確に 汲み取り、表現することです。そ の行為は自分自身の声に耳を澄 ますことでもあります。

2004年から教鞭を執ってい る南カリフォルニア大学ソーント ン音楽学校の私の研究室のモッ トーは「health, dignity, honesty」 です。どれも人間として、アーティ ストとして、生活を営む上で最も 重要なことだと思っています。健 康なくして、誠実に人生と向き合 うことはできませんし、誠実であ ると、自分自身の弱さや足らな いところに気付き、克服しようと チャレンジすることになります。 より良い自分を求めるようになると、他人や周囲への思いやりが 生まれ、ひいては社会全体を考え るようになり、良い時も悪い時も 常に謙虚に、思いやりを持った、忍 耐強い人間として成長していける のではないかと思います。

クラシック音楽を巡る環境は、 私がデビューした頃に比べると、 厳しくなってきています。これは、 社会的環境の変化にも要因はあ ると思いますが、音楽家にも音楽 業界に携わる人々にも責任のあ ることだと受け止めています。し かし、このまま手をこまねいてい ても仕方がないわけで、音楽業界 の方々も、敷居が高いと感じられ、 敬遠されがちなクラシック音楽 が、世の中により受け入れられる よう努力されていると思います。

私が日常指導しているのは大 学生ですが、マスタークラスでは、 もっと若い生徒を教えることもあ ります。本当に皆さん真剣に練習 されていて、親御さんたちも熱心 なのがよく伝わってきます。ただ、 昔のように「音楽」だけをやって いれば「音楽家」になれる時代で はありません。技術習得だけでな く、広い視野に立って活動できる ように、特に若いうちは色々なこ とを学んでいただきたいと思いま すね。


演奏家としての活動も
社会貢献活動も同じくらい大切

私は演奏家である前に、一人の 大人の人間として、自分が社会に 貢献できることは何かということ を常に考えています。音楽を通じ た社会貢献活動を始めて既に 20 年近く経ちますので、プロの演奏 家としての活動も、社会貢献活動 も、両方共が私にとっては同じく らい大切で、どちらも削ることが できません。

これまでに米国では、「Midori & Friends」( www.midoriandfriends. org)と「Partners in Performance (PiP)」(www.pipmusic.org)を、日本 では「ミュージック・シェアリング (旧:みどり教育財団)」(www. musicsharing.jp)を立ち上げま した。 06 年からはアジア圏でイン ターナショナル・コミュニティー・ エンゲージメント・プログラム (ICEP)を展開し、本物の音 楽を子供たちに届けると同時 に、若い音楽家たちに社会貢献 活動のトレーニングの場を提 供しています。また、「Orchestra Residencies Program(ORP)」 (www.gotomidori.com/orp) や 「University Residencies Program (URP)」といったプロジェクト活 動も積極的に行っています。

各団体やプロジェクトには、そ れぞれのミッションがあります ので、そのミッションとは別の活 動をしたいと思うと、新たなプロ ジェクトや団体を立ち上げること になります。ですが、どの団体・プ ロジェクトも、本物の音楽や音楽 家がより身近な存在となるよう な活動を、本物の音楽を通じて行 うという基本姿勢に変わりはあ りません。

また、 07 年から国連平和大使を 務めていて、国連活動や平和問題 などをアピールしていくことが求 められています。私が普段行って いる活動を、日米に限らず世界に 広げていくことで、私個人の活動 理念が世の中に広がります。それ と共に、国連の掲げるミレニアム ゴールが注目を浴び、1人でも多 くの方が関心を寄せてくださる 結果につながることが、私のコミュ ニティーの一員としての役割であ り、国連平和大使としての役割で あると感じています。

こういったコミュニティー・エン ゲージメント活動や国連の活動 を通して、普段のコンサート活動 では体験できない貴重な経験を、 たくさんさせていただいていると 思っています。人々との出会いや 触れ合いは、とても刺激になりま すし、それらの活動を通してイン スピレーションがわいたり、新し いアイデアが浮かんだりすること もあります。

今後は、これまでと同じように、 プロのバイオリニストとしての演 奏活動とコミュニティー・エンゲー ジメント活動、そして後進指導を 三本柱に、引き続き精力的に活動 していきたいと考えています。

プロのバイオリニストとしての 活動では、委嘱した作品の初演に 向けて練習を積むことや、これま で時代を超えて愛されてきたバ イオリン曲のレパートリーだけで なく、名曲でも世の中に知られて いない曲の数々も紹介していきた いと思っています。

コミュニティー・エンゲージメ ント活動では、Midori & Friends やPiP、ミュージック・シェアリ ングの活動をより充実させるだ けでなく、時代を先取りした活動 をしていきたいです。ミュージッ ク・シェアリングで行っている「楽 器指導支援プログラム」で、障害 を持った子供たちにバイオリンな どの楽器指導を行っていますが、 将来的には障害を持った子供た ちのオーケストラを結成して、演 奏会ができるように指導・支援し ていけたらなぁと、夢のようなこ とも考えています。またORPの ようなプロジェクトベースのもの も、アメリカだけではなく、南米 やヨーロッパでも展開しつつあり ますが、さらに世界の各地で行え たらいいなぁと思っています。

まず1月 30 日には、リトルトー キョーの全米日系人博物館別館 で語る会を開催します。2月に行 うヨーロッパツアーでは、ピアニ ストのアブラモヴィックとの共演 で、ブレッド・ディーンの新作の世 界初演を行います。その後は、3 月にコスタメサのパフォーミング アーツセンターでリサイタルがあ り、夏にはヨーロッパで 10 日間ほ ど公開レッスンも行います。今年 も盛りだくさんの1年になりそ うな予感でワクワクします。

私のさまざまな活動を、いつも ご支援・ご協力いただいている皆 様へ、この場をお借りして感謝申 し上げます。

(2011年1月16日掲載)


◉五嶋みどりイベント情報

「バイオリニスト・五嶋みどりと語る会」
1月30日(日)・2:00pm

at Tateuchi Democracy Forum
(全米日系人博物館別館)

「五嶋みどりバイオリンリサイタル」
3月9日(水)・8:00pm

at Samueli Theater
(Orange County Performing Arts Center)

チケット販売:
www.PhilharmonicSociety.org/JapanOC
☎ 949-553-2422