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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

Vol. 38 禁“高反発”法(後編)

はじめに:
08年1月1日より、高反発ドライバーがプロ・アマ・競技・プライベートラウンドを問わず
全て禁止になります。
どうやってそれを規制するのか、果たして定着するのか… 
本当はおかしいと思いながら法や条例が進む経緯は
1920年から始まったアメリカの禁酒法にそっくりです以下は禁酒法ならぬ禁“高反発”法が
発令中の、LAのゴルファーの出来事を仮想したフィクション・ゴルフドラマです。

前号のあらすじ:
ドライバーの距離を何としても伸ばしたいジェリーは、友人でショップオーナーのトムから
闇クラブ販売は違法と知りながら高反発クラブを購入した。
次のトーナメントでは信じられない飛距離増となり絶好調、最終ホールを迎えたが
作業員に化けていたR&Aエージェントが突然現れて違反クラブのチェックを始めた。
これでジェリーは1年間、米国全土でゴルフができず、友人からも見放され
クラブを売ったトムはライセンスはく奪で廃業に追い込まれることだろう…


エージェントがジェリーのドライバーにセンサーを当てている。
全て終わった、とジェリーは思った。
『俺は引っ越したほうがいいかもしれない。
妻や子供も、闇クラブ購入者の家族というらく印を押されてはこの街に住みにくいだろう。
叔父さんの居るシカゴにでも移ろうか…』
そして何としても、幼馴染で親友のトムのことだけは
エージェントに話すまい、と心に決めた。
エージェントの取調べは厳しく、隠すと更に立場が悪くなることは知っていた。
だが幼い娘を持つトムまで巻き込むことはできない… 
様々なことが頭の中を駆け巡り
ジェリーはエージェントが話しかけていることさえ気付かなかった。

「あのー、聞こえていますか!」
エージェントの大きな声でハッと我に返ったジェリーは
思わず直立して自ら叫び出した。
「はい!すみませんでした!実は私は無理矢理に買わされたんですぅ。
トムという男が売りつけました! これほど正直に言っているのに
ゴルフができなくなるなんて! それだけは勘弁して下さいよ、お願いですぅ〜」
となみだ目で訴えた。
エージェントはそのジェリーの姿をポカンと眺めながら
「あなた何言ってるの?わけの分らないことを… はいはい、チェックは終了ですよ。
では引き続きゴルフを楽しんでくださいね。さようなら」
と言ってエージェントは立ち去った。
「大変な仕事だな。ほら、また作業員の振りをして戻っていったよ」
というスティーブの言葉でジェリーはやっと正気に戻った。
そうか!エージェントが見落としたんだ。何というラッキー! 
なみだ目と安堵の笑顔で顔をクシャクシャにしながら
ジェリーは違法クラブを眺めていた。
でもどうして? センサーが壊れていたのだろうか? 
いずれにしても精神的にボロボロになったジェリーは
最終18番ホールで16打も叩き、念願の優勝はまたしても達成できなかった。

「すみません、もう閉店で…何だ、ジェリーか」
店の片づけをしていたトムは
右手にドライバーを持って玄関に立っているジェリーの姿に驚いた。
「どうしたんだ。こんな遅くに。トーナメントはどうだった?」
少し雰囲気が違うジェリーを用心深く眺めながらトムが尋ねた。
ジェリーはゆっくりと右手を突き上げて
「これは先日この店で、お前から買ったドライバーだ。
普通のテイラーメイドなら400ドルも出せば買えるが、これには1600ドルも払った」
と言うと
「何のことか分らんが… 妙な言いがかりをつけられては迷惑だな」
とトムは不快な表情で答えた。
「分っている。俺は何もお前を困らせるようなことはしない。
ただひと言だけ言いたかったのさ。闇クラブの商売をするヤツはワルだ。
だがお前はそのワルのひとつ上を行く、本物のワルだ。
一見は何の違いも分らない普通のクラブを、闇の高反発クラブだと偽って売っているだろう!」
と言い、昨日エージェントに抜き打ちで検査をされたが、何故か捕まらなかった話をした。
そして「まあ確かに、お前が騙したおかげで俺は捕まらずに済んだよ。
でも友達まで騙して商売をするお前をどうしても許せない!」と大声でまくし立てた。

トムは黙って聞いていたが、ジェリーの話が終わると
表情ひとつ変えずにカウンターにあった一通の手紙をジェリーに渡した。
そして「この手紙は君へ宛てたものだ。封印されており切手も貼ってある。
後でポストに入れようと思っていたが今ここで渡す。
だから君が来る前に、既にこの手紙を書き終えていたことは分るな?」と言った。
不信な表情のジェリーは、受け取った手紙を開いて読み始めた。

……親愛なるジェリーへ。
今頃は新しいクラブでナイスショットを連発していることだろう。
ところで君に伝えなければならないことがある。
実はあのクラブは普通のドライバーで、違反の高反発クラブではないのだ。
私は以前から君のゴルフの欠点を見抜いていた。
それは精神面がひ弱すぎること。
特にミスをクラブのせいにすること。
君は何かに責任転換しないと納得しない幼稚さを持っている。
幼馴染で、子供の頃から知っているからこその厳しいコメントを許して欲しい。
だから私はあの日、倉庫で咄嗟に普通のクラブに差し替えて君に渡したのだ。
おそらく闇モノの高反発クラブと思っているから
のびのびとしたスイングが可能になり、かなりの飛距離を出したことと思う。
どうだ、そのとおりだろう?
これを機に、人や道具に依存しないと何もできない癖を改めるべきだ。
君には充分に技術があり、自立心さえ高めれば素晴らしいゴルファーであることを
体で実感して欲しかったのさ。
なお、実際のクラブ価格と君が支払った額との差額をチェックで同封している。
トムより。

そうだったのか… 
確かにジェリーは、自分がいつも「クラブが合っていないから」と言い訳したり
ミスの原因を何かに負わそうとしていたことを思い出していた。
その悪い癖を取り払うためにトムは… 
「トム、君の言うとおりだ。俺は普通のクラブでもあの飛距離を出せたんだ。
問題は精神面にあったようだ。
何かひとつ壁を越えられたような気がするよ。本当に有り難う!」
そう言いながら笑顔で握手をするジェリーに、トムも優しく微笑んだ。
そしてトムはふと思い出したように
「そう言えば今日スティーブが店に来て、昨日のゴルフで
ジェリーがいきなり“トムからクラブを無理矢理買わされました”
と言っていたけど、何を売ったの? と聞かれたんだ。
先週ここで君がクラブを買ったことは、確か内緒のはずだったよな…」
と言ってじろりと睨んだ。
ジェリーはまた背中一面に汗が噴き出した。


高反発クラブ禁止の新ルール。とにかく来年開始です!

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