伊藤 比呂美 / 詩人

特別インタビュー 「海千山千人生相談」連載中・詩人 伊藤比呂美

本誌で「海千山千人生相談」を連載中の伊藤比呂美さん。実は、人生相談回答歴はなんと17年にも上るのです。そしてこの秋、人生相談をまとめた『女の一生』を刊行。びりびり響く愛の言葉に打たれた編集者が、サンディエゴの伊藤さんのお宅にお邪魔しました。

いとうひろみ◎詩人。1955年東京都生まれ。78年、第1詩集『草木の空』刊行。82年から1年間、留学した恋人を追ってポーランド暮らし。帰国して結婚し、娘2人を出産。出産・育児エッセーで人気を博す。91年離婚。カリフォルニアと熊本を行ったり来たりした後、95年三女出産。97年にサンディエゴに移住。『西日本新聞』で人生相談「万事OK」連載開始。2005年から12年まで、母と父の介護のために頻繁に日米を往復。14年10月『女の一生』(岩波新書)を刊行。現在本誌にて「海千山千人生相談」を連載中。

ライトハウス編集部(以下編集部):2014年1月1日号から本誌で連載していただいている「海千山千人生相談」も、もうすぐ1年です。

「海千山千」の相談は自分の状況に一番近い相談が来るのよね。『西日本新聞』の人生相談「万事OK」にも、海外に住んでいる人から相談をもらうことがあるのだけど、その人には分かっても、日本の読者にはその悩みは分かってもらえない。でも、こっちの人には分かってもらえるから、すごく面白い。

編集部:ここにいるからこその悩みがあります。ここに残るか日本に帰るかとか。

悩むよね。悩んでいる人の中には、子どものことで帰るに帰れない人もいると思う。実際、遠隔介護を経験した人間としては、やっぱり大変(伊藤比呂美さんは日米を往復しながら、09年にお母さんを、12年にお父さんを見送られました)。今一番考えているのは、私が日本に帰ったとして本当に老いたときに、アメリカにいる子どもたちが、自分もお母さんを看取らなきゃと苦労させるのがいや。

編集部:アメリカに暮らしながら、日本語で書いていくのは大変ではないですか?

最初に来たときは、仕事も自分のスタンスの取り方も違和感があったし、仕事も減ったよね。日本に住んでいる読者と同じ感覚を持ち続けるのも難しかった。渡米当初はワープロで仕事をしていたのが何年かしてからコンピューターを導入して、ネットで新聞も読めるし市場調査もできるようになったの。それで、ようやく日本語の崩壊が止まり、違和感を感じないでここに住めるようになったかな。

編集部:英語で思うように話せなくて、もどかしくなることがあります。

あるよね。アメリカに来て1年目に、講演をするために日本に帰ったことがあるの。そうしたらつっかえてつっかえて…。そのときから英語は読まない、書かないと決めたんです。でも、絶対読まないって決めたら、英語はなかなかうまくならないし、アメリカのコミュニティーに入れないわけ。日本語をしゃべっていたら何でも言えて、こんなに全能感があるのに、英語だとほんと惨めな移民のおばちゃんなのよね!それで苦節5年…。5年したら何となくこんなこと話しているって分かるようになってきた。

編集部:でも英語を読まなきゃいけないときもありましたよね。

うん。子どもたちが学校から宿題とか持って帰ってくるでしょ。しかも上の2人は英語の「え」の字も知らないで来た(伊藤比呂美さんは前夫との間の12歳と10歳を含む3人のお子さんを連れて渡米)。で、連れ合いがね、本当に役に立たなかったの!「何て書いてあるの?」って聞くと仕事に入っちゃうのよ(「連れ合い」とはイギリス人の画家の方で、97年から一緒に暮らしています)。父親って根本はとにかく掛け値なしの肯定から始まっていると思うの。そこから色々あって否定していくんだけど、ステップファーザーは子どもを「人間」として見ちゃうから、悪いところがいっぱい見えて、見えたら批判するわけ。でも私たち親は「うちの子に限って」というのがなかったら育てられない。一方、相手を立てないと家族ってやっていけないのよね。でも上の子はもっとかばってあげればよかったな。アメリカに来て、子どもたちには余計な苦労をさせた。

編集部:来て良かったですか?

分かんない。来なかったら、もうちょっと子どもたちは楽だったかな。でもいられなかったから来たわけで、しょうがないよね…。

編集部:アメリカに来て、楽になりましたか?

今はすっごく楽!日本にいたら巻き込まれていたような面倒な付き合いもなくて、自分のやりたいことだけやっていられるしね(笑)。でも、例えば駐在員の妻は妻でこっちの付き合いがあるから大変よね(伊藤比呂美さんは前夫と共にポーランドに滞在)。日本だと、妻は勝手に自分たちの生活を持っているでしょ。でも、こっちは夫に付いて回るじゃない?最近になってようやくそういうときにどうやって動いたらいいのか身に付いたかな。

編集部:どう動けばいいのでしょう?

日本人の妻は夫の陰にいなくちゃって思うじゃない?でも、こっちでは誰も要求していないのよ。自分が自分として振る舞っても全く平気。「あの奥さん、変わっているね」くらい。夫と妻の関係性が、アメリカと日本では全然違うんだって、始めからのうのうとしちゃえばいいの。でも、こっちに来てアメリカ風に振る舞っていると、自分のアイデンティティーがなくなっちゃうところもあるし、難しいとこよね。

編集部:ご自身の悩みをどうされますか?

友達に言い散らす(笑)。それと、今は悩みができると「人生相談ならこう答えるな」と自分で思うわけ。でも夫婦の間のこととか、それでも解決できないものがある。それは自分の詩の中に書いちゃうの。特に『とげ抜き新巣鴨地蔵縁起』(詩集ですが、小説のようにも読め、詩の世界では「これは詩か!?」と大論争になりました。萩原朔太郎賞、紫式部文学賞受賞)は、書いているときに親も倒れ、連れ合いともすごいケンカをし、娘も大変だったけど、やっぱり書くと客観視するのよね。書いたものを見直して推敲すると、そのときに距離を取るんですよ。詩だけじゃなくて、書いているもの全部だよね。何でも書くってことで生き抜いてきた。今もそれは一緒。それしかなかった気がする。悩みはさ、最終的には自分で解決しなくちゃいけないんだけど、人生相談は悩みのクッションみたいなもので、手伝いますって感じかな。

編集部:日本の女が、アメリカで楽しく暮らしていくコツってなんでしょう?

「あたしはあたし」。難しいなあ。はみ出し度が問題な気がするの。ここってそのための社会な気がする。それから、変人になること。詩人って変人だと思われているでしょ。すごく便利で、ゴミ出しの日を間違えても「伊藤さんは詩人だから」って。ほんと楽なのよね。あとね、ズンバ!(伊藤比呂美さん、身を乗り出しました)ズンバってお互いに紹介し合うのよ。踊りながら、「ハイ!アイム・サンディー」なんて。そうしたら人があたしの名前を覚え、あたしも覚えるでしょう。昔は比呂美で生まれてきたのに、なんで英語の名前がいるのって思ってたけど、サンディーって超楽。ズンバやってるから、最近体力もあり余ってるもんね。うーん、コツはもっとある気がするけど、個別のケースも多いから、相談ください、かな。

*「海千山千人生相談」では読者の皆さんからのご相談をお待ちしております。お名前(ペンネーム可)、年齢、ご連絡先と共に、Eメールでdokusha@us-lighthouse.com宛にお送りください。
 
(2014年11月16日号掲載)

 

伊藤比呂美の海千山千人生相談ライブ in Los Angeles レポート

去る2015年10月24日、本誌で『海千山千人生相談』を好評連載中の詩人、伊藤比呂美さんによる「ライブ!海千山千人生相談in Los Angeles」を開催しました。ご自身もたくさん悩み、考え、書いてこられた伊藤さんの、実感とユーモアと含蓄あふれる回答に、60人近くが集まった会場は大いに沸きました。

米国初の伊藤さんのライブ!人生相談開催

1997年のサンディエゴへのめ、の『西日本新聞』で人生相談を始め、20年近く回答してこられた詩人の伊藤比呂美さん。本誌『ライハウス』では、2014年1月1日号から「海千山千人生相談」が始まりました。そして、去る10月24日(土)には、初めての「ライブ!海千山千人生相談」を開催。いつもの人生相談が誌面を飛び出して、ライブで参加者の皆さんの悩みに回答していただきました。
 
日米で人生相談に答えている伊藤さんは、まず自己紹介を行われた後、日米における相談内容も、その相談をされる読者の姿勢も異なることを指摘されました。日本に暮らす女性よりも、アサーティブで、日に焼けていて、そして人の目を気にしないで生きられる、アメリカに暮らす日本の女たち。しかし、そんな異文化、異言語の中でのアメリカ暮らしだからこそ、伊藤さんも日本の女たちも同じように悩みを抱えています。
伊東さんは、平坦ではなく、今も奮闘を続ける自信のアメリカ生活を振り返りながら、「ずっと日本に向けて、『アメリカで生きている』ことを中心に物を書いているんですけれど、日本の人がどこまで私の環境を分かってくれるかは分からない。それを理解してくれるのは、ここに暮らしている日本人じゃないかという気がする」と、アメリカに暮らし日本人に向けて人生相談に答える喜びを語られました。

「あなただけじゃない。みんなそうですよ」

そして始まったライブの人生相談。夫に対する不満を訴える女性には「夫は金太郎飴。どんな夫もある一定の時間が経つと、同じような不満だらけになります。昔、不満は話し合えば解決すると思っていました。でも話し合えないから夫婦なんです。話し合おうとすると夫は攻撃だと受け止める。迂回すれな話せることも20%くらいある。でも早いのは自分の生き方、考え方を変えること。夫なんていなくても何とかなるという気持ちで外に出て、友達を作る。ズンバをやる(笑)」と伊藤さん。
 
ティーンエージャーのお子さんの子育てで悩む方には、「自分を親と思わない方がいいです。では、何か。我々は『野生動物保護センターの所長』なんです」と子供との向き合い方を提案し、突然大学を辞めてフリーターになった子どもについては、「放っておきます。でもとにかく一日一つは何かを見つけて褒める。こっちの子どもは褒めると確実に伸びます」とアドバイス。
 
ほかにも義理の家族との付き合い方、性の相談、家の片づけなどの多岐にわたる内容の相談に、「あなただけじゃありません。みんなそうですよ」と、ご自身や周りの女たちの経験、そして仏典をも引いて、明るく説得力のあるご回答を次々と繰り出された伊藤さんに、会場は大きくうなずいたり、笑い転げたり……。日頃は一人で向き合ってきた孤独な悩みに、伊藤さんをはじめ会場の皆さんが肩を差し出して支えてくださったような気がした、不思議で愉快な1時間半でした。
 
(2015年12月1日号掲載)

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