佐々木かをり/株式会社イー・ウーマン代表取締役

ライトハウス電子版アプリ、始めました

「ダイバーシティー=女性活用ではない。」

働く女性向けサイト「イー・ウーマン」を主宰し、「国際女性ビジネス会議」の企画・開催や多くの企業で社外取締役として活躍する佐々木さん。日本における女性活躍推進の先駆者が語る、本当のダイバーシティーとは?佐々木さんにお話を伺いました。
(2016年12月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

ささき・かをり◎上智大学外国語学部比較文化学科卒業。1987年、(株)ユニカルインターナショナルを、2000年に(株)イー・ウーマンを設立。Webサイト「イー・ウーマン」(www.ewoman.jp)を通して働く女性の知恵を集め、企業のブランドコンサルティングやコンセプト提案、商品開発を行っている。1996年から、プロフェッショナルな働く女性が、ビジネスで必要な知識や技術を習得するための「国際女性ビジネス会議」の企画、実行委員長を務める。

―2013年、安倍晋三首相は、全ての上場企業が、執行役員、取締役などの役員のうち一人は女性を登用するよう経団連などに要請しましたが、実際に改善されている実感はありますか?

佐々木かをりさん(以下、佐々木かをり):ありますね。今まで女性に扉を開かなかった役員室の門戸は、確実に広がってきています。最近では社外取締役で女性を採用する会社も増えていますし、私自身、現在5社で兼任させていただいています。データで見ても、アメリカでは女性役員が3名以上いる企業の業績がそうでない企業より高いといった結果が出ており、経営上さまざまなメリットがあると、数値でも証明されています。

―では、どういったメリットがあるのでしょうか?

佐々木かをり:私は、ダイバーシティーというキーワードで企業コンサルティングをしていますが、私が思うダイバーシティーの本質は、「視点のダイバーシティー」のことです。すなわち、ひとつの物事を多角的に捉えた組織が健全で強いのではないかと。例えば、商品を売り出すとき、バックグラウンドの似通った日本人男性が集まって議論を重ねても、一方向でしか商品の性質を捉えていない可能性があります。もしそこに25歳の独身女性や30歳の既婚女性、50歳の子どもがいる女性、LGBTや外国の方といったように、違う背景や立場の視点が加われば、同じ商品でも多角的な魅力を引き出すことができるのではないかと思うわけです。最近の例ですと、味の素さんから「イー・ウーマン」に、働く女性に向けた商品開発の依頼がきました。忙しく働く女性をターゲットにするということは、価格の安さではなく、高くても利便性や機能性を追求した商品が良いのでは、という点に着眼しました。たくさんの案が出ましたが、最終的にたどり着いたのは、粉状のドレッシング「トスサラ」です。瓶詰めの液体ドレッシングは冷蔵庫でかさばるし、いろんな味を試したくても一本さえ使い切れない。三角形の小さなテトラパックに入った粉状ドレッシングなら、レタスひとつで無駄無く使い切れるし、調理も簡単です。しかも、お弁当に持っていけたりと携帯にも便利。「トスサラ」は、こういった働く女性の視点や主婦の知恵など、さまざまな女性のアイデアから生まれました。実際に発売されたと同時に、大ヒット商品となり、一時期は生産が追いつかないほどでした。このケースは、経営メリットの分かりやすい事例ですが、こういった女性ならではの多様な分析・評価を反映させることで、より良い商品やサービスが生まれると思うのです。ダイバーシティーは、「プロダクト・イノベーション」あるいは「プロセス・イノベーション」が図れるだけでなく、さらには「この会社はガバナンスが効いていて、多様な意見を取り入れる風通しの良い会社だ」と対外的な評価も高くなります。ダイバーシティーは、多くの相乗効果をもたらすわけです。

―女性登用の促進とともに、女性の働く意識は高まっているのでしょうか?

佐々木かをり:確実に変わってきています。私は、国際女性ビジネス会議を主催して20年以上になりますが、参加する女性を見ていても、年々管理職を望む人や起業する人が増えており、意識の変化を感じます。でも、私は女性が全員、役職を目指して頑張ってほしいと言ってるわけではありません。一番重要なことは自分がこの道を選択している、自分が主体的に動いているという意識があることだと思っています。専業主婦であれ、会社員であれ、自分が納得した選択ならば、満足感があり、それが自己の幸せへとつながると思うからです。ただ、その選択に迷いがある場合は、その解決の手助けができればと思っています。例えば、現在の上司を見て、長時間労働したくないから昇進したくないという方がいれば、「だから、あなたがなる意味があるのよ。あなたがその上司の下でいる限り、その体制は永遠に変わらないけれど、あなたがそのポジションに就けば会社のルールを変えられる」と言います。専業主婦の方にも、本当は働きたいのに子どものために諦めたと言われるのなら、「それは健全ではないので働いた方が良いのでは」と言います。社会貢献の喜びは、子育てにも大いに役立つし、経済的に自立しているということは、何が起きるか分からない未来において、大きな安心につながりますから。

―女性を職場に受け入れる男性の意識については、どうですか?

佐々木かをり:女性に役員室の門戸が広がっているといっても、まだまだ女性登用に消極的な男性経営者の方々は多いですね。高学歴の女性が増えた昨今でもなお、5年10年経つと、なぜか社員のほとんどが男性になってしまう。年功序列や残業時間の長さで給料が決まり、成果主義でない点など、さまざまな制度の問題もありますが、何より男性の意識の変革が必要なのではないかと思います。以前、ある男性経営者が「我が社は平等です。デキる女性は役職に就けますが、別にデキない人を、あえて女性だからと言って昇格させる必要はないでしょう」とおっしゃる方がいました。私は、デキない女性って?と疑問に思うわけです。女性には、いまだに一般職が存在し、入社当時から男性と差があることで、入社後その格差を埋めることができないでいます。男性には社内教育や営業経験といった強化訓練をしておきながら、「別に男性と同じ能力があれば、誰でも昇格させますよ」というのは、かなりアンフェアな話ですよね。男性経営者の方々にはぜひ、組織内の多様な逸材を見出し、正当な評価をしていただきたいです。ダイバーシティーにおいて女性を起用することの意味は、社会的な人権や平等の観点から言ってるのではなく、経営的なメリットがあるからです。ただ、男性経営者に説明するときは、説得のアプローチを考えます。というのも、頭ごなしに「女性を役職に就けなさい!エイエイオー!」と攻撃されると、鍵は二重にロックしたくなるもの。私だって誰かに攻撃されたら、身構えてしまいます。そうではなくて、「多様性が成長の源泉となるダイバーシティーに富んだ組織は、経営的に飛躍しますよ」と説明すると、鍵は内側から開くものなんですよね。「北風と太陽」の太陽ではないけれど、もし変革を望むなら、女性たちも彼らが自ら鍵を開けたくなるような、そんな太陽のアプローチを考えてほしいなと思います。
 
※このページは「2016年12月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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