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現地情報誌「ライトハウス」が過去に取り上げた、アメリカ芸能界ゴシップ情報や、著名人・有名人へのインタビュー記事など。

ライトハウス編集部
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ライトハウス創刊20周年 記念イベント第13弾
ビジネスセミナー報告 小林三郎さん 講演会

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ホンダ・スピリッツとエアバッグ商品化の秘話を語る
去る9月3日、ライトハウス本社にて、一橋大学大学院教授の小林三郎さんの講演会を開催した。「バカヤロー」というホンダ仕込みの檄を飛ばしながら、3時間にわたって叱咤激励し続けてくれた小林さんに、創業者の本田宗一郎の魂を感じない人はいなかっただろう。
16年かけても諦めなかったエアバッグ開発のリアルな体験談を紹介しながら、次世代の価値創造とイノベーションの必要性を熱く語っていただいた。


企業の目的は新しい価値の創造。
世の中どっちに行くかを予測するには現場で感じるしかない



イノベーションは多数決じゃ起こらない

ホンダでは、肩書きで呼ばれる人は3流で、そう呼ばせる人は4流。「小林さん」って言われて2流、「さぶちゃん」って言われて1流なんですよ。ちなみにホンダ創業者の本田宗一郎さんのことを、私は親父と呼んだりします。肩書きや建前なんかない方がいい。皆「そうだよな」って思ってても、やれない会社がいっぱいある。そんな中で、「そりゃそうだ」ってことをきちんとやった会社がホンダなんです。

かつては世界一になった日本だけど、ここ15年、20年は全然ダメ。だからイノベーションに再挑戦しなきゃいけない。「イノベーション」とか「創造性」とか言ってる人はたくさんいるけど、大部分はどこかで聞いたようなことをベラベラ喋ってるだけ。今日は、そういうニセモノが絶対言わないようなことをいくつか言います。だからといって、私の話を鵜呑みにしちゃダメだよ。そういう自立心のない人は話にならない。自分の考えをちゃんと持って聞いてほしいですね。

仕事には大きく分けて「オペレーション」と「イノベーション」があります。かけた時間に比例して結果が出るのがオペレーションで、これが会社の95%を占めます。逆にイノベーションは、最初何も出てこないし、その上、成功率は1割。論理的に追求していくオペレーションに対して、イノベーションに論理なんかありません。だって創造性のやり方なんて聞いたことがないでしょ。だから難しいの。

イノベーションをやる時に、10人中9人が賛成してたらtoo late〞です。9人が反対してる時に、見定めてやらなければいけない。10人中9人反対しますから、多数決ではイノベーションは絶対に起こりません。新しいことは1人が決断しなきゃダメ。これはイノベーションの鉄則なんです。

私は、1982年にエアバッグの3代目LPL(Large Project Leader)になりました。すると12人いたメンバーが4人に減らされた上、優秀な人は引き抜かれ、デキの悪い人材が残りました。次の週、担当役員に今後の展開計画を説明していたら、「これ止めよう。うまくいきそうじゃないし」と言われた。車を売ってる先進国で年間約10万人、1日300人が交通事故で死んでると言っても反対するので、怒鳴ったら、「そこまで言うならしょうがないけど、商品化しろよ!」と言われて。それで、5人でエアバッグ開発を続けました。

役員が反対するのは、イノベーションに収益性が見込めないからです。皆さんの会社で新しい長期研究のプロジェクトの可否を役員の判断だけで決めていたら、イノベーションは絶対に起きません。新しいことを提案すると、彼らはそれがいかにダメかってことを理路整然に話し始める。その時は聞いた振りをして、腹の底では「だから今までできなかったんだ。俺ならやってみせるぞ」と思える人が、イノベーションを起こせる人材です。SONYのウォークマンもバンダイのタマゴッチも、最初の企画で全役員が反対したけど、売り出したら爆発的に売れました。


心の痛みがわからない人に経営はできない

Japan as No.1.〞に貢献したSONY、キヤノン、ホンダなど、昔の小さいベンチャーから伸びていった会社の共通点は、ものすごくユニークなリーダーの存在でした。

私が現役で働いていた頃、狭山の組み立て工場で働いてるほとんどの人は、「ホンダは俺で成り立ってる」と豪語していました。と言うのも、親父(本田宗一郎)が年中、その組み立てラインに来ては皆の肩をたたき、手を握って「あんたが今組んでるこの1台が、お客さんにとってすべてなんだ」と言って回ったからなんです。私のイメージでは、組み立てラインの工員1人1人から出た赤い糸が、全部束になって親父の右手につながっている。その糸の上を、熱い「想い」が通ってるんだよね。経営っていうのは、人を扱うもの。人間心理がわからない人、人の心の痛みがわからない人に経営はできない。親父は小学校しか出てなくてすごく苦労してるから、その分、日陰の人の心がわかるんです。だって考えてごらん。会社なんて、ほとんどの人が日陰で頑張ってるんだから。

私は車を設計したくてホンダに入社したのに、安全研究室に配属されました。つまらないから辞めようと思ってた入社2週間目くらいに、会社の廊下で親父とすれ違って、元気良く「おはようございます!」って頭下げたら、私の肩を叩いて、「おい!お前名前なんちゅーんだ。今、何やってんだ」って聞くんですよ。「小林です。最近本田の研究所に入りまして、今、四輪の安全やってます」って言ったらね、親父がでっかい声で「おっ! お前、安全か。安全はクルマん中で一番大事なんだ」って。そして、浜松弁で「けっぱれよ!」って言っていなくなった。でもそこに残ったオーラに取りつかれちゃって、ホンダの安全に骨を埋めようと決心したんです。良いリーダーになるためには、そういう強いオーラがないとダメ。

そのオーラというのは自分が考え抜いたコンセプト、つまり、哲学から来るものなんですね。哲学といってもギリシャやローマのじゃなくて、お客さんのことを親身に考えるかどうかなんだよ。企業を良くしようとか、今の日本を世界水準に引き上げていくにはどうすればいいかとか、そういう哲学が必要です。坂本龍馬は20歳の時に50年後、100年後の日本のことを考えてたんだよ。自分の会社だけうまくいこうなんて、冗談じゃない!日本のためにも、将来の子供たちのためにも、日本を良くしよう。そういうことをきちっと考えておくと、世界で勝てるんだよね。



本質を理解してネバーギブアップの精神で

本質を熟慮することも大事です。ホンダでは「目的」のことをホンダ用語で、基本の要件である「A00(エーゼロゼロ)」と呼んでいて、どこに行っても、何についても、「A00(目的)は何だ?」と質問されました。仕事をする上で、目的と手段がわかってない人には、哲学のかけらもない。「我が社の目的は収益だ」って言う経営者がいる。バカ言ってんじゃない! 収益を上げながら何をするかが目的なんです。企業は新しい価値を作って、お客さんや世の中に喜んでもらうのが目的。収益を目標にしてでっかくなった企業なんて、すぐダメになっちゃうから。

親父はね、研究所は技術の研究をする所じゃなくて、人間を研究する所だって言ってました。お客様の心を研究して、お客様が求める10年後、20年後の価値は何か。その価値が見つかったら、手段である技術を使って達成するんだって。その価値は企業の本質、目的と手段を考えればわかること。

エアバッグの開発中、アメリカで故障率100万分の1のテスト走行を実施する許可を得るまでに、3度アメリカ・ホンダへお願いに行きました。最初の2回は「アメリカ人はエアバッグが大嫌いなので、絶対使いません」と断言されて、帰されました。その2カ月後に再びアメリカへ行ったんだけど、人生であんなにキツかったことはないね。これでダメならエアバッグ開発を凍結する以外にないんだから。今までやってきたこと全部が水の泡だから、責任取って辞めようと思ってた。

やっぱり継続は力。ネバーギブアップ。1度や2度やって、尻尾を丸めて帰るようじゃ、話にならない。仕事やってると時々倒されるけど、それでも立ち上がる。立ち上がるとまた倒されて、塩をすり込まれる。それでもまた立ち上がると、今度はトウガラシかけられちゃう。3度目に立ち上がった時に「挑戦」になる。頼むよ、若い人! 挑戦しないとイノベーションできないからね。

ホンダでは、自分の考えをひと言で言わないと馬鹿にされる。今から聞くことを5秒で考えて、ひと言で答えられる人いますか? 「あなたの人生の目的はなんですか」。「家族と幸せになりたい」とか、誰もが言うことじゃダメで、自分らしさが入ったことをピシッと言えなきゃ。こういうのを毎日考える必要はないんだけど、1年に1度や2度は考えた方がいい。「あなたの会社は何のために存在していますか?」って。

「愛って何?」ホンダでは、こういう正解のないことを「ワイガヤ」と言って、3日3晩議論するんです。愛がわからない人に人間相手の商品を開発できるわけがないからね。「人の心を思いやること」とか、くだらないこと言ってちゃどうしようもない。「愛とは矛盾です」とか「愛とは創造と破壊の連鎖です」とか、詩人がこういうこと言うけど、それは本質を捉えて何かを表現しようとしてるからですよ。皆さん、奥さんや旦那さんになぜ惚れたのか、ロジカルに説明できます?できるわけないでしょ。愛っていうのはロジックを越えちゃってるから。あばたもえくぼ。マイナスがプラスになっちゃうんだから。

本質論を議論する時は、自分と同じ仲間だけじゃダメなんです。発想が狭くなっちゃうからね。ホンダでは、若い人も役員も対等に議論を闘わせます。「ホンダの人と一緒に会議してると、どっちが上司で部下なのかわからない」ってよく言われる。それと、仕事に情熱を注ぐための活力の源泉、モチベーションの源泉って何ですか? それは気高さなんです。人間ってそもそも気高いんですよ。「世界の人々に貢献しよう、未来の子供たちに青い空を残そう」。そういうことを考えていると元気が出てくるのよ。お金とステータスで人を釣ろうと思ったら大変だよ。お金なんていくらあったって足りないし、ステータスだってたくさん作ったら皆が偉くなっちゃうから。だから気高さでいいの。親父は、こういうことをやったら皆が喜んでくれる、世の中のためになるんだって夢を語ってデキの悪い連中を引っ張って、超一流の技術者、ビジネスマンに育てあげたんです。


現場での原体験で世の中の価値を予測する

体験を通じて、自分の考えを作ることも大事です。自分の考えのない人に創造性はないね。人生観が変わる原体験からしか何も得られないし、本を読むだけで学んだ「知」はただの記憶です。「創造」は熱気と混乱から生まれる。だからイノベーションしたい、日本の企業を伸ばしたいって思ったら、創造性を学びに熱気と混乱の現場に行かなきゃダメ。シリコンバレー、NY、中国の上海、インドのデリー、タイのバンコクに1年に1度か2度行ってる程度じゃ話にならない。自分のお金を使ってでもそういう所を見てほしい。自分に投資しないような人が次のリーダーになれるわけないからね。

原体験はどこかに旅行に行くとかじゃなくてもよくて、大事なのは深さです。人が集まる所に行くだけでもいろんなことを感じられます。現場に行って、「世の中はどっちへ行ってるんだろう?」「人間の幸せって何だろう」、そういうことに対する感受性を磨くことが大事。そうすることで、イノベーションが完成する十数年後に、世の中の人がそれを必要とするかどうか予測することができるんです。

現場へ行く時は、必ずカメラを持ち歩いてください。人が集まるってことは、そこに必ず何か価値があるから。なぜそこに人が集まるかを探らなきゃいけない。それを写真に撮って、じっと見てると、何かが見えてくる。世の中はこういう風に動いてるんじゃないかっていう「価値のマップ」が作れない人に経営なんかできない。価値作りがビジネスの基本なんだから。
 
16年間の研究の末、87年にホンダのレジェンド、アメリカではアキュラのレジェンドにエアバッグを付けて売り出しました。1日に2台だった生産計画が月に5千台くらいになり、エアバッグが付いてないと売れない、エアバッグの時代が来たわけです。売り出して3カ月目くらいに、エアバッグ付きのレジェンドが事故を起こしたけど、お客さんにケガはなくて、またレジェンドを買ってくれました。その方は前橋にある厨房機器会社の社長さんだったんだけど、「ホンダのセールスマンが熱心だったのでレジェンドに乗り換えた。友達から、ホンダの車なんかに乗ってお前の会社うまくいってないのかとか、さんざん馬鹿にされた。でも今度のことでエアバッグもただの袋じゃないねと、皆ホンダを見直している」と、言ってくれました。売り出しから4年ほどの間には、合わせて200通の感謝状が来ました。本当にうれしかったね。

イノベーションを起こすために最終的に最も大事なことは、お客さん、世の中への「想い」。この「想い」が、今の12兆円企業、ホンダを作ったんです。今日私の話を聞いて理解しようと思った瞬間、あなたたちは間違ってる。ロジックじゃないことを理解できるわけない。でも本質的な部分を感じることはできるはずです。そして感じたことを基に、明日何か行動を起こしてください。


(2009年10月1日号掲載)