横山智佐子さん/フィルムエディター

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オスカー受賞のハリウッド映画に携わるイタリア人師匠が外国人の私にチャンスをくれた

【横山智佐子さんのプロフィール】

よこやま・ちさこ◎1963年生まれ。三重県出身。1987年渡米。UCサンタバーバラ校映画科卒業。『リトルブッダ』と『JFK』でアカデミー賞を受賞した実力派エディター、ピエトロ・スカリア氏のアシスタントとなる。代表作に『G.I. ジェーン』『グッドウィルハンティング』『グラディエーター』『ハンニバル』『ブラックホークダウン 』など。趣味は子供と遊ぶこと。

 

ロケ先のネパールに自費で飛び「無給でも仕事したい」と直訴

英語が好きで、短大の時に1カ月ロサンゼルスでホームステイしたんです。その時に、英語にも自信がつき、ロサンゼルスの大学には大好きな映画を学べる学科がたくさんあるのを知ったので、日本で3年間働いてお金を貯め、1987年に留学しました。
 
最初の2年間はサンタモニカカレッジに通ったんですが、その時から雑誌などで見つけたPA(プロダクションアシスタント)のボランティアをしていました。4年制に編入するつもりだったので映画のことはまだ全然勉強してなかったのですが、カタコトの英語で無謀にもあちこちに電話して、今考えると「よくやったな」って思います。それがその後の下地になりました。PAというのは要するに使い走りなんですが、英語の実力もついたし、多くの人と知り合えましたから。人と知り合うと、次に仕事がもらえるんです。グリップ(カメラの動きや影を作る)の仕事をしている主人と知り合ったのもこの時です。
 
UCサンタバーバラを出て1年ほど経った時、『地獄の黙示録』や『レッズ』でアカデミー賞を取った撮影監督、ビットリオ・ストラロ氏が、『ラストエンペラー』のベルナルド・ベルトリッチ監督の『リトル・ブッダ』の撮影でネパールでロケをしていることを知り、ストラロ氏の大ファンだった主人が自費で撮影に参加したんです。
 
すると『JFK』でアカデミー賞を受賞し、今ハリウッドで1番実力があると言われているピエトロ・スカリヤ氏が編集に雇われたが、アシスタントが1人しかいないと主人から連絡があり、私も自費で急きょネパールに飛びました。着くやいなや編集室へ直行し、「給料はいらないから仕事させてください」と直訴したんです。断られてもともと、と思っていたのですが、すんなりとOKが出て、ネパールで3カ月、シアトルで1カ月半一緒に仕事することができました。
 
その時に「よく働く」と気に入ってもらって、以来11年間一緒に仕事させてもらっています。実は35ミリの編集をするのはそれが初めてだったのですが、一緒に仕事している時はどんなにスローな時でも何もしていないところは見せなかったし、「帰りなさい」と言われるまでは決して帰りませんでした。
 
最初はインターンから始まり、『G.I.ジェーン』でセカンドアシスタント、『グッドウィルハンティング』からファーストアシスタントをしています。スカリヤ氏はイタリア人で、自分も外国人でハリウッドでがんばってきた人だから、同じ外国人である私にもチャンスを与えてくれたんだと思います。

 

幸運、不運の別はない、トライすれば道は開ける

今までスカリヤ氏と一緒に手掛けた作品の中で、クリエイティブな意味で勉強になったのは『グッドウィルハンティング』ですね。バンサント監督がオープンマインドの人で、編集は監督のポーランドの自宅で行ったのですが、毎週のように知り合いを集めてテスト試写をやり、ディスカッションを重ねてどんどん良くなっていったんです。
 
この映画を製作した時は、脚本を書き主演したマット・デイモンもベン・アフレックもまだ無名で、名の通った俳優といえばロビン・ウィリアムスくらい。まさかアカデミー賞まで取るとは予想していませんでした。
 
最初に観た段階ですでに「これはすごい」と思ったのは、『ブラックホークダウン』。撮影はモロッコの小さな町で行われたんですが、カメラが常時4台から11台くらい回っていました。また通常撮影中は台詞が聞こえなくなるので銃の音は出さないのですが、この時は撮影中から銃も音を出していましたし、使ったフィルムの量も80万フィートと今までで1番多かった。『グラディエーター』で60万フィートでしたから。150時間分を2時間半にまとめたんです。エディターという仕事は、切るのは基本的なこと。全体の構成をどうまとめるかが重要なのですが、脂が乗り切ったスカリヤ氏のまさしく実力作品で、この映画で彼は2度目のアカデミー賞を受賞しました。
 
今まではスカリヤ氏のアシスタントとして編集の仕事に関わっていましたが、これからは少しずつエディターとして一般の人にいい映画だと認めてもらえるような作品を手掛けていきたいですね。将来の夢は、スティーブン・ソダーバーグ監督(『エリン・ブロコヴィッチ』など)やコーエン・ブラザーズ(『赤ちゃん泥棒』など)と一緒に仕事をすることです。ネバーギブアップの精神で長い目で捉えてコツコツ努力していると、いつかは必ず道が開けてくると思っています。それはラッキーとかアンラッキーということではなく、トライしていると必ず運が向いてくるということだと思います。
 
(2003年1月1日号掲載)

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