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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

Vol. 31(続)2057年。ロサンゼルスにて。

VOL.20で、フーチャリスト(下記注)として未来のゴルフシーンを予測する短編を書きましたが、
好評でしたので今回はその続編を書いてみます。

注: ハリウッドに“フーチャリスト”という、未来を舞台にした映画の設定を考える職業がある。何千年も先なら何でもアリだが、数十年後の近未来は辻褄が合っていないと観客は白けてしまう。プロのフーチャリストは、加速度的に進化するであろう通信機器や自動車、逆にあまり今と変らないと分析する衣服や食品など、見事に近未来都市像を描写する。

・・・・・ 2057年7月4日。独立記念日にも拘らず、
ジェリーからの急なゴルフの誘いに即答で了承したトムは、
買ったばかりの音速自動車でライトハウス・カントリークラブに到着した。
時間は午後8時20分。
500ヤード先まで認識できる発光カバーで覆われたボールや、
ボール地点からピンまでの実写映像と風の状態を、美しい立体画面で映し出すカートの登場など、
夜間プレー用アイテムの登場により、
今は“トワイライト”よりも“ムーンライト”タイムの人気が急上昇している。
いつも仕事が忙しい二人は、会社帰りに存分にプレーできるムーンライトが好都合だった。
さすがに独立記念日の今日は仕事も休みだったが、もう一つのお気に入り理由である“涼しさ”から、
今日もムーンライトでプレーすることにしたのだ。


ピアスのように耳たぶに付いた小さな携帯電話は、本人にしか分らない微かな振動で、
トムに電話がかかってきたことを知らせた。
登録したパスワードを本人の肉声で発することで、自動的に電話が繋がり会話ができる。
「やあ、スーザン。今、ジェリーとゴルフやってンだ。え?ウーン、そんなこと言ったって…」
困ったような表情のトムをジェリーがチラリと見た。
「わかったよ。後で電話するから。」と電話を終えたトムに「スーザン、どうかしたの?」とジェリーが尋ねた。
スーザンはトムの彼女だった。
「いやぁ、最近はゴルフばっかり行ってるから機嫌が悪いんだ。
今日はJuly・4thなのに、どうして一緒に居られないの…ってね。」
「フーン、そうだったのか。」と急にゴルフに誘ったジェリーも少しバツが悪そうである。
「でも大丈夫。あと30分ほどで… えーと今は何時かな?」と、
トムは自分しか聞こえない小さな声で「今の時刻」と言った。
ピアス式携帯電話はすぐに反応し、質問と同じ音量で「午後8時36分21秒」と返した。
「OK」と頷くトム。

スカイブルー色の発光ボールを選んだ、ジェリーのアイアンショットが見事にグリーンを捉えると、
そのボールに反応してグリーンの地下に仕込んであるセンサーが作動し、
グリーン全体が美しいスカイブルー色で5秒間輝いた。
「このグリーンに乗った瞬間がたまらないよ。ムーンライトゴルフは本当にきれいだな」とジェリーが嬉しそうに言った。
負けじとグリーンを狙うオレンジ色ボールのトム。
プレイヤーから半径20ヤード以内にある時は普通の白いボールだが、
ショット後20ヤードを越えるとすぐに発光してオレンジ色に変り、
蛍のように夜空を鮮やかに飛んでいった。かなりいいショットだったが、
数秒経ってもグリーンがオレンジ色に変らない。
「チッ、外したか。」とくやしがるトム。

見事にバーディパットを決めたジェリーは、「独立記念日万歳!」と叫んで小躍りした。
一方、グリーン横からのアプローチが寄らず、パーパットも入らずのトムはボギー。
「ほう、珍しく調子が悪いようだな。」といつもトムに負けているジェリーは、
今日は勝てそうな展開にご機嫌の様子である。
トムはそんなジェリーを無視して、再度「今の時刻」とつぶやき、何度も時間を気にしている。
「何かさっきから落ち着きがないなァ。あ、そうか。スーザンのことが気になってるんだ。
今日はやっぱり帰るか?」と言うジェリーに、「バカを言うな。勝負はこれからさ。」
とトムはニヤリと不適な笑いで返した。
そして「あと5分ぐらいだな…」と一人でつぶやいた。


その頃、スーザンは一人で自宅のテレビを見ていた。トムは今日もゴルフ。
「彼は私よりゴルフのほうに夢中のようね。」と寂しそうにつぶやいた先には、
画像が飛び出る3D式のテレビがニュースを流している。
アナウンサーは、まるで部屋の中央にいるかのようにリアルに投影されており、
その大げさな語り口と仕草をスーザンはぼんやりと眺めていた。
「…さて独立記念日といえば何と言っても花火ですが、今日はあるベンチャー企業が、
この日に最適な素晴らしい発明品を紹介してくれます。
では開発者でもある社長のトムをご紹介しましょう。」
「え?トム!」何も聞いていなかったスーザンは、いきなりテレビに自分の恋人が登場し、
椅子から転げ落ちるほど驚いた。
どうやら録画らしく、トムは落ち着いた表情で「花火も新しい時代に入りました。
私が開発した花火は、夜空からメッセージを送ることができるのです。
本日7月4日、午後9時にその第一号を打ち上げます。LAの皆さん、東の空をご注目下さい。」と言った。
スーザンは急いで庭に出て空を見上げた。時刻は8時58分だった。

トムは切れ味最高のアイアンを打ちナイスオン、見事にグリーンはオレンジ色に輝いた。
「素晴らしい!」と誉めるジェリーに、「さあ、ちょうど9時だ。東の空を見ていろよ…」とトムは言った。
「何のこと?」とジェリーが首を傾げた瞬間、花火特有の破裂音が鳴り響いた。
空にはオレンジ色の鮮やかな花火が大きく広がっていく。
そしてその中央に巨大な右手の映像が浮かび、その手に持つペンでスラスラと夜空に文字を書き始めた。
そこには「スーザン、心から君を愛している。結婚しよう!トムより」と夜空いっぱいにメッセージが広がっていたのだ。
唖然と口を開いたままのジェリーを横目に、
「メッセージ花火、大成功!これは売れるぞ!」とトムは満面の笑みで、
強く握った右手を空に突き上げた。
そしてスーザンも自宅の庭で同じ空を見ていた。
「…トム」美しく夜空に輝いた、自分へのプロポーズの言葉。
彼女は頬を流れ落ちる涙を拭うことさえ忘れ、いつまでも東の空を見つめていた。

・・・・・ いつの時代も、ゴルフに狂う殿方と置いてきぼりにされるレディー達。
でも男性陣を代表して言おう。
オトコはただゴルフがちょっと好きなだけなんだ。
半日だけ仲間と遊びたい、永遠なる少年の心という名のDNA。
もちろん家族や恋人のほうが大切に決っているんだ。
そこのお嬢さん、まあそう怒らずに。
いつの日か夜空がオレンジ色に輝く時を、貴女ももう少しだけ待っていて下さいね。