帰国後も英語力を保持・伸ばす学習方法

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Q. ネイティブ並みの子供の英語力、帰国後も伸ばす機会を与えたい

渡米して5年。3年生と5年生の女の子の母親です。この夏に日本帰国です。ネイティブの子供と一緒に勉強している英語力を、日本帰国後も伸ばす機会を作ってやりたいと思います。帰国後にどんなチョイスがあるのか教えてください。

A. レベル・目的別にさまざまな学校。英語で学べる中高一貫校も登場

松本輝彦(INFOE代表)

小・中学校での英語教育

アメリカの学校での学習に問題のない小・中学生の英語力を、日本の学校での英語学習を通じて伸ばしていくことは、現実的に期待できません。

小学校では、総合学習の中で、週1回程度の英語活動の授業があり、本当に簡単な会話や英語の歌を歌ったりする程度です。英語教育に熱心な私立小学校でも、英語による活動が中心です。

中学校になると、ABCからの英語の学習が始まりますが、公立で週4時間、私立の多いところでも週6時間くらいの授業です。また、最近の日本の学校での英語教育は特に会話中心の学習なので、帰国した子供にとっては、ほとんど得るものはありません。

英語教室・個人指導

数多い英会話教室や学習塾の中に、帰国子女のための特別クラスを設けているところがあります。しかし、読み書きまでを含めたカリキュラムをネイティブの先生がしっかり教えているところは、あまりありません。お子さんの英語でも学力を伸ばすものか、事前によく調べることが必要です。

外国語保持教室

海外子女・帰国子女教育のサポートを公的に行っている海外子女教育振興財団が、「帰国子女のための外国語保持教室」を開いています。30年ほど前から開かれているこの教室は、帰国子女が海外で獲得した語学力の保持を目的としており、首都圏・関西・名古屋地区で小・中学生を対象に開かれています。内容は、会話から読み書きまで総合的な内容を、15名程度の少人数クラスで、ネイティブまたはバイリンガルの講師が指導します。

帰国子女受け入れ校の英語教室

帰国子女受け入れ校の日本の子供を対象とした英語教室の中に、帰国子女のためのレベルの高いクラスが設けられています。千里国際学園(大阪府箕面市)が初めて開設した「土曜学校」では、カリキュラムのしっかりしたイマージョン形式の英語クラスを、小学生を対象に年間30回、土曜日ほぼ終日、提供しています。このプログラムへの帰国子女の子供の入学が多くなり、それに対応したネイティブレベルのクラスを開いています。

同様なプログラムは立命館宇治中学高校(京都府宇治市)、同志社国際中学高校(京都府宇治市)、広尾学園(現:順心女子学園・東京都港区)でも開かれています。

英語補習校

アメリカの現地校の英語や社会の学習内容を、レギュラークラスと同じレベルで学ぶプログラムです。海外の日本語補習授業校と同じコンセプトで、毎週土曜日に授業をしています。その目標は、言葉(英語)の学習に留まらず、英語による教科学習を通して、日本の教育では得られない、現地校でのアカデミックスキルをトレーニングすることにあります。現在、首都圏の2校が、この英語補習校のプログラムを提供しています。
ABCD学院(東京都新宿区)
EFFECT(東京都多摩プラーザ校)

英語で学ぶ中学・高校

今年の4月から、ほとんどの授業を英語で行い、中学や高校の卒業資格が得られるコースを、首都圏の2校が開講します。どちらの学校も、国際的に認定されたカリキュラム(インターナショナル・バカロレア)を取り入れた、中高6年一貫教育です。

この2校のコースの意義は、文部科学省によって決められた学習指導要領に準じた学習内容の授業を6、7割英語で行って、しかもインターナショナルスクールでは許されない中学・高校の卒業資格が取得できる学校という、海外帰国子女にとっての新しいチョイスが生まれたことです。
・玉川学園 国際学級(東京都町田市、7年~12年)
・広尾学園(現:順心女子学園)インターナショナル・コース(東京都港区、7年~12年)

「日本帰国後、日本語での学力を伸ばすためにも、英語での学習を続ける必要がある」ということをしっかり認識してください。

また、言葉としての英語力だけではなく、子供が現地校で苦労して身につけてきた英語による学力を、日本帰国後もさらに伸ばす機会を子供に与えてあげるのは、親の責任です。

(2007年2月16日号掲載)

Q. 関西に帰国しますが、小学生が英語力を保持する教室は?

 

A. 帰国児童向けの英語クラスで、「読み書き」の指導を受ける。

松本輝彦(INFOE代表)

帰国後の英語力保持

日本帰国後も、子供が海外で苦労して身に付けた英語力を保持(力を落とさないように保つ)、または伸長(さらに伸ばす)させてあげたいのは、保護者の願いです。

しかし、「家庭内は日本語、外は英語」という恵まれたバイリンガル環境から、「内も外も日本語」の環境に変わった後も、英語力を保持・伸長するのは容易ではありません。

それでも、なんとか英語力を伸ばしたいと願う子供や保護者を応援するために、海外・帰国子女教育に詳しい団体・帰国子女受入校が、英語のプログラムを開講しています。

今回は、関西で受講可能な、主要な帰国児童向けの英語プログラムの紹介です。

帰国生英語プログラム

4つの英語プログラムを下の表にまとめました。


 

これらのプログラムは、次の共通点を持っています。
①子供の学齢・英語力などでクラス分けし、少人数で授業
②授業内容は、英会話だけではなく「読み・書き」、さらにはレポートやプレゼンテーションの指導もある
③帰国時よりも、「英語力をさらに伸ばす」ことを目標
④ネイティブ教員やバイリンガルのアシスタントが指導
⑤帰国児童だけ、あるいは帰国児童中心のクラスで指導

「読み書き」が重要

「小学校低学年なので、英会話だけでも忘れないように」と、希望するお母さんが多くおられます。実は、英会話の力をさらに伸ばすためにも、「読み・書き」の学習が必要なのです。

小学校低学年であれば、生活に必要な日常会話ができれば十分でしょう。しかし、その英会話力では、中学・高校、さらには大人になった時に「英会話ができるね」と評価はされません。大人としての英会話ができるように、単語や英語での知識を増やす必要があります。そのためには「読み」の学習が、そしてよりレベルの高い会話やプレゼンテーションのためには、さらに「書き」の学習が欠かせません。 紹介したプログラムが「読み・書き」の学習を含めているのは、英語力を「保持」するだけではなく「伸長」させるために、欠かせないからです。

(2010年12月1日号掲載)

Q. 帰国後の英語の学習。学校や教室以外で伸ばす方法は?

滞米5年の5年生の娘を連れて、日本へ帰ります。帰国後もネイティブレベルの英語での学習を続けさせたいと思っています。しかし、地方都市に帰りますので、学校や英語教室でレベルの高い指導が期待できません。何か良い方法はないでしょうか。

 

A. 伸ばす鍵は「会話」ではなく「読書」。本を揃えて協力する環境作りが大切

松本輝彦(INFOE代表)

日本帰国後、英語力の保持だけではなく、より高いレベルへの伸長を目指した英語学習の機会に恵まれない子供が多くいます。私は、そのような子供のために、「帰国後の英語での読書の継続」を強くすすめています。現地校で一緒に勉強したアメリカ人のクラスメートが読んでいるのと同じ本の読書です。

読書が英語力向上の基礎

現地校での学習期間が4、5年を過ぎたお子さんは、英語がネイティブ、あるいはそれに近いレベルに達し、レギュラークラスでサバイブできるようになっていると思われます。その子供の英語力を、日本帰国後もさらに伸ばす鍵は、「会話」ではなくて「読書」です。

そのようなお子さんの日本帰国後の英語学習の目標は何でしょうか?お子さんが大学生や社会人になった時に、読み書きも含めた総合的な英語力を獲得していることです。仕事の内容や学問のテーマについて議論し、相手の意見を聞いたり読んだりして理解し、そして、自分の意見を話したり書いたりして表現することです。これが本当の外国語の力です。そのためには、アメリカの子供たちが成長とともに身につけていく英語力を、日本で生活していても、わが子に習得してもらうことが理想です。この目標のために、日本に帰国した子供にとって現実的に可能な方法が「英語の本の読書」です。

読書のメリット

どんな言語で書かれた本であっても、学年相当のレベルの読書には、「単語力が向上する」「読解力が向上する」「文化理解が深まる」などの、数多くのメリットが考えられます。

アメリカの学校は「自分で学べる」子供を育てるため、「読書」を強く指導します。このようにして現地校で身につけた読書習慣は、帰国後のお子さんにとって「宝」です。読書は、英語・日本語のどちらで勉強しようと、非常に大切なことです。日本の子供たちの読書量の少なさを見ると、アメリカでせっかく身につけた読書習慣を帰国後も維持させ、さらに伸ばしていくことは、大きな意義があります。

また、英語の読書を続けることにより、欧米流のものの見方や考え方、さらには表現方法も身についていきます。日本語の読書で習得する日本流の見方・考え方と合わせて、二刀流、文字通りのバイリンガル・バイカルチャーのレベルに達することさえ、できるのです。

まず、読書の環境作り

帰国直後からの英語の読書の環境作りが、お父さん・お母さんの仕事です。子供に読書を無理強いするだけでは長続きしません。日本の学校の勉強や生活は忙しく、英語の本をゆっくり読む時間も必要もありません。そんな生活の中で、英語の読書を続けるためには、家庭での読書環境が必要です。

まず、本を揃えなければなりません。5年生で日本へ帰国したのなら、現地の子供たちが6年生で読む本を揃えることです。アメリカの学校には、学年の推薦図書のリスト(Core Book List)があります。このリストは学校区(School District)や図書館で作られており、容易に入手できます。このリストの本を、帰国前に購入して、帰国後子供に読み続けさせればいいだけです。現地校の先生の推薦と子供の興味を考慮して、帰国時に購入していくのもひとつの方法です。

さらに重要なのが、保護者の参加です。お父さんやお母さんも、子供の本を一緒に読むことが、小学生の成功例の秘訣です。お母さんが、子供にあらすじを聞いたり質問をしたりすることで、海外での親子関係を保つことができ、子供の帰国適応にも大きなサポートになります。

このように、「英語での読書」は、どこに帰国されても可能です。読書は、単純で根気の要る作業です。その作業を支える環境を作り、海外で身につけた英語力を、本当に「宝」になるレベルまで伸ばす機会を、お子さんに与えてあげてください。

■INFOE Book Club

「帰国後の本選び」「読書内容の定着」、さらには「読書をベースにエッセイやレポートの指導」を通して、子供の英語での学力向上を目指したプログラムです。子供のレベルで興味のある内容の本を選んで、毎月、アメリカから日本の自宅へ送ります。子供がその本を読み、2、3ページの質問に答え、解答用紙をアメリカへ返送すると、現地校の先生と同じように採点・評価された解答用紙と次の本が返送されます。このプログラムは10年以上続いており、日本全国の地域に帰国した、小学生から高校生まで数多くの子供たちが英語力を伸ばしています。
Webサイト:www.infoe.com

(2007年3月1日号掲載)

Q. 日本帰国。子供の英語力を測るには?どんな試験を受ける?違いは何?

 

A. 試験により目的や対象が異なる小学生には英検がベスト

松本輝彦(INFOE代表)

現地校で学んでいる、小学校高学年以上のお子さんの英語力を客観的に知るには、英語能力試験の受験をおすすめします。

受験結果を日本帰国後に活用できる英語能力試験には、それぞれの目的や対象となる受験者があります。

英検

「英検」は1962年に始められた「実用英語技能検定」の略称で、日本で最大規模の英語検定試験です。試験は下の表に示したような7つの級に分けられて、筆記、リスニング(聞き取り)、スピーキング(会話)の力を測定し、各級ごとに「合格」「不合格」の判定を下します。


 

5級および4級は、1次試験のみで合否の判定が行われます。3級~1級では2次試験があり、1次試験で合格した受験者が受けられます。1次試験では筆記試験とリスニングテストが、「本会場」(日本、NY、LA、ロンドン)と補習校や塾などの団体が設ける「準会場」で受けられます。2次試験は「面接委員」との個別面接方式で行われます。

英検は海外子女にとっては比較的簡単な試験とみなされています。質問が日本語で書かれていますが、簡単な文章なので、小学生でも事前に過去問で慣れておけば大丈夫です。

トーイック / TOEIC (Test of English for International Communication)

TOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)は、「英語を母語としない者を対象とした、英語によるコミュニケーション能力」を検定するための試験です。試験は、リーディング(読解)が100問(所要時間45分間)とリスニングが100問(75分間)の計200問の構成となっています。評価はそれぞれのセクションで5~495点、合計で10~990点のスコアで評価されます。

設問は、身近な事柄からビジネスに関連する事柄まで含まれています。

トーフル / TOEFL (Test of English as a Foreign Language)

TOEFLは、「外国語としての英語のテスト」です。現在の主要なテスト形式は、2005年より開始されたiBTと呼ばれる、インターネットを介して受ける試験です。

試験は、リーディング、リスニング、スピーキング、ライティング(作文)の4つのセクションに分かれており、試験時間は約4時間です。満点は120点で、最低点は0点、それぞれのセクションの満点は30点です。TOEIC同様、スコアで英語力を示します。

TOEFLは、「非英語圏の出身者のみを対象」としており、英語圏の大学などによる入学希望者の英語力判定のために用いられています。

大学生活を想定したテストであるため、高校生以上でないと好成績を上げるのは困難です。

チャレンジ!

これらのテストの結果は、中学や高校の入試、さらには日本の大学や大学院で受験生の英語運用能力の判定材料に用いられる場合が急激に増えてきています。特に、英検は滞米3年未満の現地校の5年生でも、2級に合格する子供が多くいます。また、準1級と1級がアメリカでも受験できるようになりましたので、英語で生活しているアメリカ在住中に受けさせてください。

参考:
・英検:www.eiken.or.jp
・TOEIC:www.toeic.or.jp(日本)
・TOEFL:www.ets.org

(2012年8月1日号掲載)

Q. 帰国後、子供の学力を伸ばす、効果的な方法を教えてください。

4年の滞在を終えて、5年生と7年生の子供を連れて日本へ帰ります。帰国後、子供たちの学力を伸ばすためには、どんな方法があるのでしょうか?

A. 海外で身につけた「英語での学習」を続けることです。

松本輝彦(INFOE代表)

「グローバル・リテラシー」

「21世紀を担う子供たちに、今世界が求めている能力」として、東京学芸大学の佐藤郡衛教授は「グローバル・リテラシー」を提唱しています。それは、「基本的な読み書き能力(リテラシー)、自国の文化や価値観に対する理解(ナショナル・リテラシー)に加えて、異文化圏に生活する人と偏見や先入観なしに付き合え、自分の意見を言えて、相手を説得できる能力」としています。

この新しい学力観提案の背景には、OECD(経済開発協力機構)の国際的な学習到達度調査(PISA)で、基礎力となる「読解力」の国別順位の8位(2000年)から14位(03年)への急激な下落があります。この調査で調べているのは、先のグローバル・リテラシーの目指す能力の評価です。すなわち、日本国内の子供たちにも、日本独自の学力ではなく、グローバルなスタンダードの学力が求められ、それに基づいた教育が始まっているのです。(「Newsweek」日本語版、07年7月25日号より)

変わる大学入試

「受験地獄」という言葉で大学受験の厳しさが表現された時代から、長期にわたり、日本の教育改革が叫ばれ、試みてこられました。しかし、大きな成果を生みませんでした。不成功の大きな理由として、「大学入試が変わらなければ」という理由が上げられてきました。小学校から高校までの学校教育の直接的な目標が「良い大学に入る」ためだったからです。

最近、その大学入試が大きく変わり始めました。大学が入試を大きく変えるのは、ズバリ「少子化」です。大学の生き残りをかけて、入試に工夫を凝らし、多様な基準で新入生を取ろうとする動きです。最近は、筆記試験の成績中心で合否を判定する「一般入試」合格者の割合が、大都市周辺の大学、特に私立大学では全合格者の半数程度まで落ちてきました。残りの半数は、自己推薦、公募推薦、学校推薦など多くの推薦入試、また学業成績だけではなく活動実績などを総合評価するAO入試など、もちろん帰国子女入試も含めて、多様な選抜方法で受験しています。

この大学入試の変化は、大学とその卒業生を受け入れている企業や社会が求めている能力の変化にあることは明白です。英語で卒業できる学部の新設などの大学自体の多様化を進めるために、その能力を身につけた高校生を探そうと、大学入試が多様化しているのです。

変わる小・中・高の教育。なぜ、書けないのか?

大学教育の多様化が、大学入学を目標とする日本の教育の特徴を示して、高校・中学校での教育にまで大きな影響を及ぼし始めました。中高一貫教育の広がり、6年一貫の中等教育学校の新設増加がその好例です。今や、私立の高校で附属中学校を持たない学校はほとんどありません。また、公立の中等教育学校の新設は、大都市圏よりも地方自治体が非常な努力を払っています。それらの学校の特徴は、最終目標は大学合格ではあるものの、「筆記テストで高得点を挙げられる力」が「学力」と、捉えられてきた考え方から、佐藤教授が提唱する「グローバル・リテラシー」に近い「学力観」に基づいた教育の実践です。

これらの学校の入り口となる中学入試では、自分の考えを表現する力を評価するために、小論文や面接が重視されるようになってきています。その中学入試で求められる学力の指導が、小学校での勉強に求められ始めました。社会や大学が求める「学力」の変化が、義務教育段階の教育や高校教育に大きな変化をもたらしています。

やはり、海外子女の「宝」

ご相談のあった2人のお子さんは、ここで述べた「新しい学力」を現地校での教育で実につけてきたとは思いませんか?帰国後も、海外で身につけた学力を伸ばすことが、お子さんたちにとっての「宝」になるとは思いませんか?

そのために、帰国後も絶対続けなければならないのが、「英語での学習」です。英語の勉強ではなく、お2人が身につけた英語での「English / Language Art」「Social Studies」の学習です。どうぞ、考えてみてください。

(2007年9月1日号掲載)

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