さようならボーイング747

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

日本とアメリカをつないだ往年の747

ボーイング747

1970年にパン・アメリカン航空(パンナム)が太平洋線に導入して以来、47年という長い間、日本とアメリカの間を飛び続けていた「ジャンボジェット」こと「ボーイング747型」がついに日米線から姿を消した。ユナイテッド航空の6月13日の「サンフランシスコ=成田」がラスト・フライトで、静かな退役となった。
 
日米を飛んでいる他の航空会社は、数年前に747の就航は終えている中で、最後のユナイテッドだけは、シカゴ線とサンフランシスコ線で、それぞれデイリー2便のうちの1便という形で747を残していたのだが、もう二度と乗ることはできなくなった。同社は「サンフランシスコ=仁川(ソウル)」で747の運航は続けるが、それも10月で終了するという。
 
太平洋線の機材といえば、2000年代に入ってからは777が主流となり、現在は787も増えてきている中では、全くもって自然の流れなのだろう。特に777や787と比較すると、747の後期モデルである「ダッシュ400型」でも燃料効率は劣るわけで、省エネ時代にはふさわしくないとして淘汰されるのは仕方がない。
 
ただ、全く消えてなくなると思うと、あの4発エンジンに2階建てという「ジャンボ」の威容は懐かしい。1990年代から2000年代のはじめ、東海岸在住の私はアジアへ出張する際にはサンフランシスコで乗り継ぐことが多かった。当時はまさに747の黄金時代で、アジア線の到着と出発が重なる正午前後には、ターミナルにはざっと20機ぐらいの747がズラリと駐機しており、その迫力はものすごかった。成田線だけでなく、香港行きや金キンポ浦行きにもよく乗ったが、アメリカ国内線の757などから747のダッシュ400に乗り換えると、巨大な機体に包まれる安心感を覚えたものだ。
 
そう考えると、今回のラスト・フライトがサンフランシスコ便というのは象徴的だ。そう言えば、1970年のパンナムによる「太平洋線ジャンボジェット初就航」もサンフランシスコ線だった。もっとも、当時の初期型(ダッシュ100)は航続距離が短く、ホノルル給油だったようだ。

日本ならではの747をめぐる風景

747がズラリということでは、往年の成田はサンフランシスコよりもすごかった。午後4時頃の太平洋線が発着する時間帯は、それこそターミナルのゲートは全て747で埋まっていて、ゲートが足りないので「沖止め」、つまりターミナルから離れた駐機エリアに機材を止めて、乗客はバスでターミナルへということもよくあった。ユナイテッドで言えば、太平洋線は全部747で、成田以遠も、北京、上海、ソウル、シンガポール、香港、台北などは747だった。ノースウエスト(現デルタ)や欧州系、アジア系、それに日系も含めると 成田には30機以上の747がひしめいていたことになる。
 
その頃のユナイテッド航空では、目的地に到着すると、こんなアナウンスをしていた。「当地を最終目的地とされる方も、この先ご旅行を続けられる方も、どうぞご自宅まで、あるいは目的地まで安全にご旅行をお続けくださいませ。そして、また再び空の上でお目にかかるのを乗務員一同楽しみにしております。それでは、ゴキゲンヨウ、サヨウナラ…」。パンナム時代からの「伝統」だったらしいのだが、直訳調の日本語が不思議に日米の「かけ橋」らしいイメージに聞こえたものだ。近年は、バイリンガルのアメリカ採用のクルーが乗っているから挨拶ももっと自然になったが、747がなくなるとなると、不思議にこの「ゴキゲンヨウ、サヨウナラ」が懐かしく思い出される。
 
この747が退役して、機材が小型化されるのかというと、そうではない。後継となる機材は、777-300ERで、実は全長も翼の幅も747より大きい。定員も、747の374名に対して、366名とほとんど変わらない。その一方で、燃料効率は25%ぐらい改善されるのだから、これはもう時代の趨すうせい勢としか言いようがない。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2017年7月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2017年7月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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