アメリカで離婚の手続きをする

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日本ではお互いに納得済みなら離婚届を出すだけですが、アメリカでの手続きは複雑。離婚までの書類の手続きや裁判の手順、親権や養育費の問題など、その概要を挙げてみました。個々の事情により違ってくるので、あくまでも目安としてください。

※このページの参考記事よりも前の内容は「ライトハウス 2023年春夏の増刊号」掲載の情報を基に作成しています。

離婚理由が問われないアメリカでの離婚

離婚申請をするには、例えばカリフォルニア州では、夫婦どちらかが州内に6カ月以上、申請するカウンティーに3カ月以上の居住が条件。ニューヨーク州では、離婚申請までの過去2年間に、夫婦どちらかが州内に継続して居住、または過去1年間に、夫婦どちらかが継続して州内に居住し、かつ州内で挙式をしたか、夫婦として共に州内に居住していたことがあるかが条件です。
 
アメリカでは、配偶者に明白な落ち度(浮気など)がなくても離婚を請求できる「Nofault Divorce」も認められています。また、カリフォルニア州では、落ち度(DV:家庭内暴力は除く)があった場合でも財産分与、子どもの養育費や扶養費の額で不利な裁定が下ることはありません。
 
具体的な手続きは、州によって異なります。まず夫婦どちらかが「申請書(Petitionfor Dissolution [divorce]of Marriage」や「召喚状(Summons)」 などの必要書類を裁判所に提出します。裁判所で書類が受理された後、「第三者(Process Server)」がそれらの書類を相手に手渡します。ここで言う「第三者」とは、申し立てた本人やその親戚以外の18歳以上の人(カリフォルニア州では18歳以上なら親戚でも可)を指します。
 
離婚相手がニューヨーク州に住んでいる場合は、申請者本人以外の州内に住む18歳以上の人が、「被告宣誓供述書(Affidavit of Defendant/ニューヨーク州の場合)」を含む書類を直接届けます。離婚の手続きに入ったら終了まで、子どもを州外には連れ出せません。
 
召喚状を受け取った人は、30日以内に召喚状送達証明書(Response)を裁判所へ提出します。30日以内に返答をしない場合は、申立人の要求通りの判決が下ります。ニューヨーク州では、申し立てに異議がなければ、Affidavit of Defendantを記入、署名し、州内居住者は20日以内に、州外居住者は30日以内に返送します。離婚書類の内容に異議があり、「Notice of Appearance」を相手側が申請した場合、弁護士を雇い離婚裁判となります。
 
カリフォルニア州、ニューヨーク州ともに両者が、それぞれ「資産と負債の明細書(Schedule of Assets & Debts)」および「収入と支出の申告書(Income &「 Expense Declaration)」と、その2種の書類の開示申告書を、相手に開示し、財産分与、子どもに会う権利、養育費などを協議します。財産分与などで合意できなければ裁判に、親権で合意できなければ家庭裁判所での裁判(ニューヨーク州の場合)になり、かかる時間も費用も増えます
 
協議、調停などで合意に到ることができたら、「離婚合意書(MaritalSettlement Agreement)」「離婚判決書(Judgment)」「離婚判決の告示(Notice of Entryof Judgment)」を裁判所へ提出。資料に判事が署名し、離婚相手がこの資料一式を受理すると離婚が成立します。
 
ちなみに、カリフォルニア州では、結婚5年以下、子どもがいない、不動産を持ってない、自動車を除く共有資産が4万7000ドル以下、夫婦どちらかの個人資産が4万7000ドル以下、自動車ローンを除く夫婦の負債が6000ドル以下、夫婦が離婚に同意している、双方とも生活費の援助が必要ない、財産の分配に同意している、などの条件を満たす場合、手続きが簡素な「Summary Dissolution」ができます。他州でもこれらとほぼ同じ条件で、「Summry/Simple Divorce」の手続きが取れます。このように弁護士を雇わずに全ての手続きを双方で完了できる場合には、離婚費用がセーブできます。
 
なお、アメリカでは相手に落ち度がなくても離婚を請求できるため、「慰謝料」の概念が存在しません。財産分与、子どもの養育費や扶養費については状況により異なりますが、明確なガイドラインがあるため、両者が合意しない限り、それを大幅に外れる裁定は下りません。

親権の種類はさまざま 訪問権は詳細を合意書に

「親権(Child Custody)」や「子どもに会う訪問権(Visitation Right)」は、カリフォルニア州では調停裁判所(Family Court Services)で弁護士や裁判官抜きで仲裁人を交えて話し合い、調停(Mediation)でも折り合いが付かない場合は裁判所の法廷審問(Court Hearing)で裁判官に判断を委ねます。
 
親権には、「養育権(Physical Custody)」と、子どもがアメリカ生まれの場合、人生における決定権を有する「親権(Legal Custody)」があります。そして親権の行使には、父母共に親権を持つ「Joint」と、どちらか一方のみが持つ「Sole」に分かれます。
 
訪問権の合意書には、子どもと会う頻度、面会時間、時間の過ごし方、誕生日や祝日、長期休暇をどちらの親と過ごすのかなど詳細なルールが盛り込まれます。虐待などのよほどの問題がない限り、子どもと一緒に暮らさない親に対し訪問権が与えられることがほとんどです。訪問権を与えられた場合、指定の時間内で子どもとの面会が許可されます。それ以外の時間に子どもを勝手に連れ出すと、誘拐とみなされることもあります。
 

監修(カリフォルニア州情報)/Law Offices of Miyuki Nishimura(https://www.lawofficeofnishimura.com)

 

参考:〜 納得のいく選択のために 〜 アメリカで離婚を考えたら。(2022年6月16日号掲載)

日本とアメリカでは大きく異なる離婚の制度。さらにアメリカでは、州が法律を定めているため、州によっても多くの違いがあります。今回はカリフォルニア州における離婚制度のほか、専門家のアドバイスや、離婚経験者の声など、離婚を考えたときに役立つ知識をお届けします。

領事館&リトル東京サービスセンターに聞く、夫婦トラブル&離婚の現状とサポート

はじめに、南カリフォルニア・アリゾナ州を管轄する、在ロサンゼルス日本総領事館・法月(のりづき)さん、そして同領事館と提携し、日本人の支援を行っているリトル東京サービスセンターの加藤さんに、夫婦トラブルや離婚の現状、困った時に相談できる機関などについて伺いました。

— 在米日本人夫婦のトラブルや離婚についての相談を受ける際、どのように対応していますか?

法月信明領事(以下、法月):領事館としては、直接夫婦間のトラブルや離婚手続きに係る対応ができるわけではなく、やはり専門的な知識が必要になりますので、相談を受けた場合は弁護士などの専門家への相談を案内するのが通常です。当館は、相談先の一つとして、リトル東京サービスセンター(以下、LTSC)を紹介しています。LTSCは長年、家庭内暴力(以下、DV)、およびそれに起因する離婚の相談にも対応しており、領事館が、海外で生活する日本人DV被害者の支援業務を委託している機関です。

加藤由佳さん(以下、加藤):LTSCでは、離婚の相談は、DVに付随する問題の一部として受けています。離婚そのものは、領事のお話と同様、弁護士の紹介をするのが通常です。また低所得で弁護士を雇うのが難しいという方には、Legal Aid Foundation(低所得者向けの法律サポート団体)などの機関を紹介することもあります。LTSCが専門とするのは、DV、児童虐待・育児放棄の予防や、ストレスを感じる親や子どもへの精神的サポートなどです。夫婦間のトラブルや離婚の裏には、こういった問題が多数隠れていることがありますから、相談を受ければそのようなトラブルがないか、注意深くお話を聞きます。LTSCの中にも日本人のカウンセラーもいますし、離婚に関わるトラブルに対しての道筋をお伝えすることもできると思います。悩んでいる方は、まずはご相談ください。

— 実際に、どのような支援が受けられるのでしょうか?

加藤:LTSCとしては、先ほども挙げたように、カウンセリングを行ったり、米国の離婚に関する法律・裁判制度の情報や日本語が通じるリーガルサービスの紹介といったサポートを提供しています。行政的な支援は、アメリカの制度を案内することになりますから、各人の状況、住んでいるカウンティーなどによっても、制度が細かく異なります。その人が受けられる、当てはまる制度を案内します。

ただ、これらはアメリカの制度ですので、利用できるのはアメリカ市民や、永住権を持っている人に限られることもあります。もし離婚して、ビザやグリーンカードなどの滞在資格を持たない、いわゆる「Undocumented Immigrants」となってしまうと、厳しい現実に直面するかもしれません。

単に「離婚をして職がない」というだけではサポートを受けられない場合もありますし、受けられたとしても、結婚していた時と比べると、想像以上に厳しい生活環境になるかもしれません。現実を見る心の準備をしておくことは必要です。

— 次に、ハーグ条約について教えてください。在米日本人として知っておくべきポイントはありますか?

法月:正式名称は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」、通称「ハーグ条約」と呼ばれていて、国境を越えた子ども(16歳未満)の、不法な連れ去りを巡るトラブルに対応するための条約です。原則は子どもの権利を一番に考えることで、不法に子どもが国外に連れ出された場合に、もともと住んでいた国に連れ戻す申請ができます。

日本では2014年に発効しました。発効して直後の時期は、条約を知らないまま、アメリカから、日本を含む国外連れ出していたというケースもありましたが、現在では多くの方に認知されるようになっており、理解も進んでいるように思います。

加藤:離婚のケースに留まらず、例えば日本に帰省するといった場合でも、片方の親が子どもを国外に連れていくときには注意した方がいいです。事前に、「他方の親の同意」と「どのくらいの期間、アメリカ国外に出るのか」といった内容を、書面(もしくはメールなどでも、記録に残る形)で残しておくことをお勧めします。航空会社も、搭乗の前に、同意の書面があるか確認することもあると聞いています。英語の書式はLTSCにもありますのでご利用ください。

なお、ハーグ条約はあくまで子どもの保護を定めた条約なので、連れ去りをした親への直接的な罰則は定められていません。しかし離婚の際に、過去に子どもを国外に連れていったことを持ち出して、自分に有利な条件を引き出そうとする、といったケースもあると聞いています。

法月::ハーグ条約に限らず、アメリカは子どもの連れ去り自体に非常に厳しい国です。片方の親の許可なくカウンティーを越えるだけでも問題になることがありますから、留意いただくとよいでしょう。

— 最後に、読者に伝えたいことはありあすか?

法月:冒頭でもお伝えしたとおり、離婚の実際の手続きは弁護士に、というのが原則ですが、お困りの場合は、遠慮なく領事館にご相談ください。実際の支援・サポートは、今回同席いただいたLTSCにお願いすることになるかと思いますが、LTSCはたくさんのリソースを持っていますから、助けになれることがあると思います。

加藤:離婚を考え始めたら、「今、離婚をしたらどうなるだろう」とまずは考えを巡らせてみてください。また、弁護士事務所の中には、初回は無料で相談できるところもありますから、まずそういったものを利用してみるのも手です。また、お子さんがいる場合、離婚後どちらかが100%の親権を持つことは、アメリカではまずありません。婚姻関係の有無にかかわらず子どもが生まれた時点で、両親ともが責任を持つと規定されていることは、子どもを持つ以前に考えておいていただきたいです。

今回は厳しい現実もお話ししましたが、実際に夫婦トラブルを抱える当事者の方からご連絡いただいたら、まずは一人一人の気持ちに寄り添ってお話を伺います。夫婦関係に悩む方、離婚を考えている方、離婚をされた方の中には、不安に押し潰されそう、また誰に相談したらいいか分からないという方も少なくないと思います。先にもお話ししたとおり、当センターには日本人カウンセラーも多数いますから、一人で悩まず、まずはご連絡ください。

 

【子どもの利益を守る「ハーグ条約」について、さらに詳しく!】

正式名称は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」。1980年に制定、日本では2014年に発効。日米いずれも、この条約が発効しており、日米間の夫婦とその子どもも適用対象です。国境を越えた子どもの「連れ去り」は、子どもの生活基盤を急変させ、一方の親や親族・友人との交流が絶たれ、異なる言語・文化環境への適用も求められるとして、
1. 原則として、親のどちらかが無断で子どもを国外に連れ出した場合は、元の居住国に子どもを迅速に返還させること
2. 締約国間での、国境を越えた親子の面会交流を促進すること

の2つを定めており、どちらの親が子の監護をすべきかなどは、子どもの元の居住国で判断されるべきとしています。

在米邦人の中には、アメリカでの離婚を機に子どもを連れて日本に帰りたいと思う人もいるかもしれませんが、アメリカ国内で前述の判断がなされる前に日本に連れ帰ってしまうと、「連れ去り」と見なされ、請求があれば返還の義務が生じる可能性が非常に高いです。

片方の親のみの判断で子どもを連れて国外に出ると、誘拐と判断される場合もあるので注意が必要です。

各種申請件数の実績(外務省データ。2014年〜2021年度)

ハーグ条約 各種申請件数の実績

 


在ロサンゼルス日本総領事館・領事 法月信明さん 代替画像

◎ 在ロサンゼルス日本総領事館・領事
法月信明さん

ダッカ(バングラデシュ)、北京、ワシントンDC、ニューデリーでの勤務を歴任。現在は、パスポート、ビザ、証明、戸籍国籍、邦人援護、在外選挙等を担当する領事警備班所属。


カリフォルニア州公認心理セラピスト 加藤由佳さん

◎ カリフォルニア州公認心理セラピスト (LMFT # 47312)
加藤由佳さん

セラピスト兼ソーシャルワーカーとしてLTSC勤務歴15年。現在は社会福祉部で、主に邦人家庭を対象とした、子どもと家族支援・邦人DV支援プログラムコーディネーターとして、心理カウンセリング、子育て教室、セミナー、DVサポートグループなどを日本語で提供している。電話相談はTEL : 213-473-3035(平日9:00am 〜 4:00pm)。

 

夫婦間のトラブルの際やDVに困った時、相談できる窓口

◎ リトル東京サービスセンター
TEL : 213-473-3035
https://www.ltsc.org/

離婚により生じる精神的ストレス全般に対応。現在は日本語家庭に向けた「子どもと家族支援プログラム」を提供し、専門家によるワークショップや、30分のオンライン無料法律相談などを展開しています。上のQRコードまたは下のURLからメルマガに登録すると、最新情報が届きます。
https://forms.gle/U9Mf8jza2h1VT7Kq9

◎ Center for Pacific Asian Families
TEL : 1-800-339-3940
DVに関する相談を24時間無料で受け付けているホットライン。日本語を含む、30以上の言語で対応しています。カウンセリングのほか、金銭・食料面などでの支援を受けられるかの相談も可能です。

◎ Legal Aid Foundation of Los Angeles
TEL : 800-399-4529 /(日本語ホットライン)TEL : 323-801-7913
月〜金9:00am-12:00pm・1:00pm-4:30pm
https://lafla.org/

政府や州の寄付により運営されている法律事務所で、低所得者向けに、無料法律相談を提供。日本語での相談も受け付けているので、自身の収入が対象となるか、まずは問い合わせてみてください。

 

離婚弁護士に聞く、離婚の手続きと注意点

実際に離婚を決意したとき、どのような手順を踏めばいいのか、また離婚の手続き上の注意点を、離婚弁護士に伺いました。

Q1. 離婚を決めた、もしくは考えている場合、まず何から始めればいいでしょうか?
共同財産がある、あるいは子どもがいる場合は、まずは離婚を専門とする弁護士に相談することをお勧めします。ご自身の権利などを理解し、相手側と話をすることで、平和な形で離婚できるかどうかを判断できます。

Q2. カリフォルニア州での離婚の一般的なプロセスは?ケースごとの一般的な費用も教えてください。
まず、大きく分けて二つの離婚のタイプがあります。一つ目は協議離婚です。二つ目は法廷闘争離婚で、こちらのケースになると、弁護士費用は時間によって決まります。相場は1時間あたり300 〜 500ドル前後。ケースの長さによって弁護士費用は決まりますので、当然長引けば長引くほど費用も大きくなり、数千ドル〜数万ドルになることも珍しくありません。

協議による離婚のプロセスとしては、まず、裁判所にPetition( 離婚の申し立て)を出し、裁判所に受理されたPetitionを相手側に渡します。次に、基本的な財産の公開を行います。協議離婚の場合は、協議書と離婚命令の要請を出し、裁判官のサインをもらえれば、そこで離婚が成立します。

一方、法廷闘争離婚の場合は、さまざまな書類・証拠提出の要請をされるほか、調停のための会議に出る必要があります。お互いが納得して和解に至る場合と、和解に至らず裁判で判決が下される場合があります。

Q3. カリフォルニア州の離婚制度で特徴的なこと、特に日本人が注意すべきことは?
カリフォルニアでは、離婚の申し立てがされると離婚の手続きが始まります。離婚をするのに理由は問わない「無過失離婚(No Fault Divorce)」を認めていることが、カリフォルニア州での離婚の特徴です。

なお、離婚の届けを出してから裁判所が判断を下し成立するまでの期間も州によって異なり、カリフォルニア州では最短で6カ月という規定があります。スムーズに進めば、最短6カ月で離婚が成立します。法廷闘争離婚となると、かかる時間も費用と同様に、ケースによってさまざまで、何年もかかるケースも珍しくありません。

Q4. 離婚の際に、両者の間で決めるべき項目について詳しく教えてください。
大きく分けると、「共有財産」と「養育権・教育費」です。結婚後に築いた財産と負債は「共有財産・共有負債」と見なされますので、この分配を決めます。協議でお互いの納得できる分配ができればそれで良いですし、決められなければ裁判所が判断します。

子どもがいる場合の養育権・養育費については、非常に細かく決めることになります。子どもと普段一緒にいる時間のほか、祝日や子どもの誕生日をどちらの親と過ごすかまで決めます。

日本の慰謝料に当たるものはアメリカにはありませんが、養育費として、配偶者にお金を渡します。養育費の額は協議によって決める、もしくは法律に則って裁判所が判断を下します。

Q5. 特にトラブルになりやすい、揉めやすいケースはありますか?
日本人同士か、アメリカ人と日本人かといった国籍や人種の違いによる争いの大小は、経験上あまりありません。争いになりやすいケースは、やはり資産が多い場合、子どもがいる場合です。大きな資産があればあるほど、感情だけで割り切れないものですし、実際に決め事も多くなります。また、子どもという、守りたいもの・戦うべきものがあると、両者の主張が強くなるのは当然と言えるでしょうか。こういったケースほど、手続き完了までに時間がかかることが多いです。

Q6. 子どもがいる場合の養育権の決め方について詳しく教えてください。片方の親だけが完全に養育権を持つことはありますか?
子どもの養育に関して、カリフォルニアの法律では一つの理念が定められています。「the best interest ofchild=子どもの最大の利益のため」という一文があり、子どもの成長には両親と平等に接することが大切だと、カリフォルニア州の法律は定めています。そのため、片方の親が完全に養育権を持つということはほぼ不可能です。

例外として、養育権を放棄した場合、子どもを虐待しているなど親としての責任を果たしていない場合は、養育権が剥奪されることがあります。

子どもはやはり、両親の離婚で最も傷付く可能性が高い存在です。離婚に踏み切る前に、子どもともきちんと話をすることを強くお勧めします。

Q7. 最後に読者に伝えたいことやアドバイスはありますか?
何より、自分のケースをよく理解し、また自分の権利についても理解して臨むことが大切です。できる限り相手と話し合いをしましょう。二人の間だけでの話し合いが難しいという場合は、先に離婚の申請を裁判所に出してから、調停を求めるという方法もあります。この調停によって、二人の間で決めた条件で離婚できることがほとんどです。


まお法律事務所 Mao Wang弁護士

◎ まお法律事務所
Mao Wang弁護士

http://maolawoffices.com/
金沢大学法学部卒業・大学院修士課程修了。留学生として渡米し、UC Davis School of Laws卒業。その後弁護士として10年以上の経験を持つ。家庭法のほか、移民法や民法なども扱っている。

 

離婚後にアメリカでの滞在資格は維持できる?気になるビザの問題

もしも離婚してしまったら、アメリカを離れなければいけないのでしょうか。 移民弁護士に詳しく聞きました。

ケース1
グリーンカードで滞在

所持しているグリーンカードが、アメリカ市民や永住権保持者との結婚によるものである場合、もし結婚後2年を経過していなければ、所持しているのは2年間の「条件付きグリーンカード」です。この2年間のうちに離婚をした場合、その後もグリーンカードを維持するためには、USCIS(米国移民局)に対し、結婚が正当なものだったと証明し(できるだけ多くの証拠を提出する)、配偶者無しで申請することの承認を得る必要があります。

一方、既に「条件付きのグリーンカード」ではなく、10年間有効なグリーンカードを所持している場合、または離婚の時点で結婚期間が2年間以上継続していた場合は、そもそもグリーンカードの維持に配偶者のサポートは必要ありませんから、そのままアメリカに滞在して問題ありませんし、次回以降の更新の際も、単独での申請が可能です。

ケース2
就労ビザ所持者の配偶者として滞在

「H-4」「E-2」「L-2」など、就労ビザを持つ人の配偶者・家族としてアメリカに滞在している場合は、主たるビザの保持者のステータスに依存しています。つまり、離婚した場合にはこのステータスは維持できなくなりますので注意が必要です。

また、これは離婚のケースからは少し離れますが、日本の企業の駐在員として家族にアメリカに来て、帰任の要請が来たけれども、子どもが現地の学校を卒業するためにアメリカに残りたいというケースも聞きます。しかし、ビザが維持できなくなった時点で、家族全員がアメリカを出る必要があります。場合によっては、「I – 539 」という書類を提出することで、Vi si t or /Touristとして滞在を延長し、帰国の準備をすることは可能です。しかし、Visitor / Touristのステータスになった時点で、子どもは学校に通い続けることはできなくなるので注意してください。


カズミ&坂田法律事務所 クリフ坂田弁護士

◎ カズミ&坂田法律事務所
クリフ坂田弁護士
https://www.ksvisalaw.com/
カズミ&坂田法律事務所所属弁護士。米国司法省サンディエゴ移民局裁判所での勤務、米国国務省(ロサンゼルス)でのインターン、石川県七尾市役所国際交流課公務員の経験を持つ。

 

お互いの納得いく形で離婚を収める「調停」の専門家に聞きました

最終的に裁判官による許可が必要となるアメリカでの離婚。とはいえ、必ずしも争わなければいけないわけではありません。両者の中間に立ち、納得のいく着地点を探す「調停離婚」。その調停人(Mediator)を務める、ロッキー森さんに、調停手続きの進め方や、そのメリットをお話しいただきました。

— 調停人の仕事について、簡単に教えていただけますか?
離婚のケースでは、調停人は夫婦の間に入って双方の話を聞き、納得できる着地点を探す役割を担います。弁護士はクライアントからお金を受け取って弁護をするので、依頼主を守ることが仕事です。ですから、片方が弁護士を雇えば、他方も弁護士を雇わざるを得なくなるのが一般的です。一方で調停人は、どちらかの「肩を持つ」ということはなく、双方に公平でないといけないと定められています。両者の話し合いの間に入って、いわばレフェリーのように進めていくとイメージしていただけばいいでしょう。

ちなみに調停人資格、弁護士や判事の資格とは別ですが、実際には弁護士や判事経験者が調停人の資格を取得した後、調停人を務める場合も多いです。

— 実際の調停を利用した離婚手続きは、どのように進められるのですか?
調停はまず、両者が揃わないと進められないのが大原則です。そして場所を選ばず、話しやすい場所で行えるという特徴があります。裁判は裁判所で行われるわけですが、調停は決まった形はなく、私たちの事務所やどちらかの自宅、ホテルの会議室やレストランで行ったこともあります。

離婚調停を行う前に、離婚両者にはお互いの財務書類を提出して、財産や負債の分割について、調停の席で調停人を前に話し合い、配偶者への支払額や未成年のお子さんがいる場合は養育費の支払額を決めます。

配偶者や養育費の支払額は、カリフォルニア州のガイドラインがあり、この金額は「DissoMaster™」と呼ばれる専門ソフトで算出されます。裁判所でも使用されているこのソフトは、私共のオフイスにもありますので、調停の席には配偶者への扶養料や養育費などの金額が算出された書類を用意して、実際に支払われる金額を話し合います。

また、未成年のお子さんがいる場合、最も大事なのは親権問題です。裁判となった場合には扶養料や養育費などのほか、親権も裁判官が決めることになります。一方、調停では親権問題、そして、面会や訪問なども両親同士が調停の席で話し合い、お互いが納得いく条件で決めることができます。

私の取り扱った離婚のケースですと、全体の90%ぐらいは調停で合意書の作成に至っています。提案した条件が受け入れられない、ということで裁判所の判断を求めるに至ったケースは10%ほどです。

— 調停で離婚手続きを進めるメリットはどのようなところでしょうか。
裁判では、どちらかが勝ち、どちらかが負ける、というような結果になりますが、調停離婚であれば、けんか別れでなく、友好な関係のまま離婚できることが多いです。裁判ですと最終的に判断を下すのは裁判官ですから、条件についての駆け引き・交渉はできません。一方、調停であれば、お互いの望む条件の真ん中に収められるよう、話を進めることができます。結果的に、お互いがWin-Winで離婚できる場合は多いことが、調停の一番のメリットです。

また、費用の面でも、弁護士を雇って争う場合に比べれば非常に低く抑えられますし、時間も短時間で終わるケースが多いです。「どうしても本人同士が話すのが難しい」という状況でなければ、調停の中で同意書をまとめ、離婚に至るのが、お互いにとって最も望ましい形だと考えています。

— 実際に扱ったケースで、印象に残っているものはありますか?
非常に裕福なエリアにお住まいで、資産も8億円ほど持っていたご夫婦から依頼を受けたことがありました。日本人女性とアジア系男性の夫婦でしたが、これだけ資産がある場合、弁護士を雇って裁判で争う場合が多いので、少し驚きましたね。結果的にはほぼ女性の希望に沿った条件に落ち着きました。

他にパイロットとCAのカップルなども印象的でした。いずれの場合も、調停で決着できると、離婚後も良好で友人同士のような関係を維持できていて、これも、調停をお勧めする理由です。

— 離婚を考えている方に伝えたいことはありますか?
離婚に至る場合も、離婚せずに留まる場合でも、やはり話し合いは必要です。しかし、当事者同士で話すとなると、どうしても「自分の考えが正しい」と思って話してしまう、感情が前面に出てしまうため、解決できない場合が多いのです。第三者の視点から見るほうが、何ができるかが見える場合があります。どちらの肩も持たず、公正な立場から見られる人に相談することをお勧めします。そういった方が周りにいなければ、私たちのような調停人に相談することも、一つの選択肢として考えてみてください。

特にお子さんがいる場合、「その子にとってのお父さん・お母さんは自分たちしかいないのだ」と念頭に置いていただきたいです。


調停人 ロッキー森さん

◎ ロッキー森さん
1960年渡米。リムジン業やラジオ・テレビ放送の事業に携わったあと、2005年カリフォルニア州公認の調停人の資格を取得し、協和コミュニテイー調停サービス社を設立。民間の離婚調停と民事調停などを執り行う傍ら、Small Claims Courtにおいては民事裁判の調停人として、活動を行っている。

 

アメリカでの離婚体験談

体験談1
結婚3年後に夫婦関係に不和。離婚成立までには合計7年間を要しました

<日系アメリカ人・男性、息子3人>

27歳で結婚し、相手も日系アメリカ人の女性でした。結婚して3年ほど経ったころから別居生活が始まり、そこから離婚手続きが完了するまでは7年ほどかかりました。

私はエンジニアなのですが、結婚当初から仕事でアメリカ国内を飛び回っていて、家を空けることが多くなったことが、夫婦関係の不和が生まれた最初のきっかけだったと、今振り返って感じています。車にメンテナンスが必要なのと同じように、夫婦関係も、意識して維持しないとほころびが出てきます。また、自分が無職になる期間もあり、その間は元妻のお金で生活せざるを得なくなりました。彼女を経済面でリードすることができなくなったことも、夫婦関係にヒビの入る理由になりました。

また、私たちには共通する趣味がありませんでした。私はアウトドア派ですが、彼女はインドア派。こういった要素も積み重なって、気質が合わず、ズレが生じてきていたのだと思います。こういった不幸を防ぐためにも、結婚前からマリッジカウンセリングに通ったり、長く時間を一緒に過ごしたりして、相手を見極めるといいと思います。やはり交際を始めてすぐのころは、お互いに「ブラインド」になっている可能性がありますから、しっかり地に足を着けて、お互いの人生のゴールを知り、サポートできる相手かどうか、見極められるとよかったなと感じています。

離婚が決着するまでに7年間という時間がかかったのは、資産の配分を決めるのに長い時間がかかったからです。結婚前・結婚後に得た資産や不動産を、どちらの(もしくは共有の)資産か判断するのに長く時間がかかりました。特に資産が多ければ多いほど大変になります。

また、私たちには3人の息子がいるのですが、子どもに成功してほしいと思うなら、子どもの前で夫婦げんかは見せないようにするべきですね。子どもの前で両親がけんかをしてしまうと、子どもの成長に大きな影響を与えると思います。

離婚を進めている期間中はいろいろ大変ですが、友人関係はできるだけ維持しておくのも大切だと思います。離婚が成立し、身の回りが落ち着いたころ、それまでずっと仲良くしてくれていた友人がグループイベントに誘ってくれて、それで心が救われたことがありました。

 

体験談2
相手の浮気が原因で離婚を決断!復縁を試みるも叶わず、2度の離婚手続きを行いました

<日本人・女性、息子1人>

日本で出会ったアメリカの軍に勤めていた男性と、2004 年に結婚し、渡米しました。

離婚に至った理由は元夫の浮気。結婚して5〜6年経ったころに発覚しました。11年に離婚の手続きを始め、その後、私は息子を連れて一度日本に戻りました。しかしその後も、お互いに修復をしようと試みて、私が日本に帰国して1年ほど経ったころに、「よりを戻そう」ということになったのです。離婚の手続きもキャンセルし、アメリカに戻りました。しかしその3日後に、同じ女性と交際が続いていると分かったのです。彼はそれでも私との婚姻を維持したいと、LA 郊外に家を用意するとまで提案してきました。でも、私としては「これはもうだめだ」と、再度離婚手続きを最初から行うことを決断しました。

12年、再度弁護士に依頼して、離婚手続きのやり直し。協議自体は揉めることはなかったので、弁護士は私の側だけが立て、親権や資産をどうするかなどは自分たちで話し合って決めました。話し合いの内容で大きな摩擦はなかったとはいえ、やはり、離婚をする相手、話したくない相手と話をするのは苦痛でしたね。

2回目のケースをファイルした後、私は再度日本に帰国。17年にまた仕事でアメリカに戻ってきたのですが、その年のタックスリターンを提出する際に、なんとまだ離婚手続きが完了していないことが発覚しました。元夫の対応が悪く、手続きが途中で止まっていたのです。こんなこともあるのかと本当に驚きました。最終的に裁判所から離婚を認められたのは18 年でした。

私が離婚手続きを始めた時、まだ日本はハーグ条約に加盟していませんでした。しかし、ちょうど締結するかどうかという時期だったので、弁護士からのアドバイスで、息子を日本に連れていくことに関して元夫の同意を得ていることを、書面にしてもらいました。

離婚手続きを進める期間は、精神的に参っているし、閉じこもってしまうと思います。私自身、離婚協議中は、そのことはほとんど周りには話しませんでした。「段階を経て、時間と共に解決するしかない。今はこういう時期なんだ」と割り切って、手続きを乗り切りました。

 

「〜 納得のいく選択のために 〜 アメリカで離婚を考えたら。」は「2022年6月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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