新型コロナウイルスの流行の影響を最も大きく受けた分野の一つが学校教育。今回は、コロナ禍を経て、アメリカの学校教育がどのように変化しているのか、学校現場や学校区職員として働く教育のプロに、お話を伺いました。
今回特にフォーカスを当てたのは、「K-12」と呼ばれる、キンダーガーテン(5歳児クラス)から12年生まで、アメリカで義務教育となっている期間。義務教育であっても、個々の学校区や学校の裁量が大きく、それぞれのニーズに合わせて方策を立てています。スピード感を持って変化を続けるアメリカの義務教育の、今の姿をお伝えします。
※アメリカの学校制度は、州や市、学校区によって大きく異なることも多く、掲載内容は全ての学校区・学校に当てはまらない場合もあります。
コミュニティ・リエゾンに聞きました!
充実した教育を子どもたちに提供するために、どのような方策が進められているのでしょうか。まずは、アーバイン統一学校区に勤務するChiaki Nanbuさんに、同学校区で実施している方策や、日本人・日系人の家庭へのアドバイスを伺いました。
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Chiaki Nanbuさん
Irvine Unified School District Community Liaison: Japanese/Language Development。
アーバイン統一学校区で、日本語環境の家庭のサポート、日本語での情報発信を担う。問い合わせなどは下記ウェブサイトより。
Web: IUSDウェブサイト、IUSD日本語コミュニティーサイト
【ポイント①】家族・学校・学校区がチームで子どもを育てる
【ポイント②】メンタルケアのフォローが今後の大きな問題
【ポイント③】人種や文化を超えた平等な教育機会を
日本語家庭の言語サポートと情報発信を担う
私は、アーバイン統一学校区のコミュニティー・リエゾンとして勤務していて、大きく分けると二つの業務があります。一つは日本人家庭で言語サポートが必要な生徒をフォローし、ELD(English language development)の案内や、家庭と通訳との仲介の仕事。もう一つは、学校に関する最新の情報を、正確に、必要に応じて発信することです。最新の情報自体は統一学校区のウェブサイトにいち早く掲載されるのですが、そういった情報を、必要に応じてJBA(南カリフォルニア日系企業協会)のような日系の団体や、各種エージェントと連携して発信しています。アーバイン学校区では、72言語が使用されており、6カ国語のリエゾンがいます。日本語のリエゾンがいるのは、南カリフォルニア近辺ではアーバインのみではないでしょうか。非常に多様性の高い学校区です。
全米でも指折りの学校区を支える充実した体制
州内はもちろん、全米でも高い評価を受けているアーバインですが、それを支える一番の要因は、充実した生徒へのサポートだと思います。欠席をしがちな生徒や成績向上の見られない生徒に対して、先生・学校・学校区・私たちリエゾン・そして家族がチームになって手を差し伸べるという体制ができています。働いている先生やスタッフたちも、より高みを目指すという意識を持った人たちが非常に多いです。また、保護者の方の意識も非常に高く、この学校区で学ぶために引っ越してくるという家族も少なくありません。
コロナ禍でも教育の質を下げないという意識
コロナウイルスのパンデミック後、まず当然ながらCDC、そしてカウンティーのガイドラインを遵守し、その上で、オンライン授業でも教育レベルを下げないということを目指し、対応してきました。オンラインのプラットフォームの使用は、慣れている先生からそうでない先生まで、差があったことは事実ですが、IVA(Irvine Virtual Academy)というプラットフォームを使用して授業を展開してきました。現在、そして今後も当面は、このIVAと対面のどちらでも同じレベルの教育を提供する方針です。こうしたオンラインでの授業は、コロナ禍を受けて導入したものですが、やはりもともと、学習進捗を確認できるデジタルツールというのは、アメリカは日本に比べると進んでいたようには思います。
トレンドはメンタルケア、ソーシャルジャスティス
近年特に注目されているのが、「メンタルウェルネス」です。メンタルのコンディションが、子どもの成功に大きく関係している、ということが分かってきて、この点に非常に力を入れてケアをするようになっています。アーバインでは、全小学校に、学業カウンセラーに加えてリソースカウンセラーと呼ばれるメンタルのカウンセラーも配置しました。生徒の心が病んでいるといったことがあれば、リソースカウンセラーにアクセスできる体制になっています。
また、「ソーシャルジャスティス」もキーワードです。人種・言語・文化、いろいろな違いがありますが、それを越えて公平さを提供していく、というのは教育における大きなテーマです。アーバインではリエゾンにアフリカン・アメリカンが加わりました。少数派を無視する、置いていくというのではなく、どういったグループが何を必要としているのか、平等に教育を提供していけるかということを、より意識していくようになるでしょう。同時に、このことに対する先生方の理解も重要と考え、ソーシャルジャスティスに関する研修なども提供しています。
アメリカの学校ではコミュニケーションを大切に
日本語家庭の保護者の方には、何より学校やリエゾンとのコミュニケーションを大事にしてほしい、ということを伝えたいです。情報が古いまま止まってしまっている方は少なくありません。英語がハードルになるというのは理解できるのですが、気になることがあれば、まずは連絡・相談ということを意識していただきたいです。先生は優しい方が多いと感じます。褒めながら、生徒に深く関わっていく、その生徒にとって一番いい方法は何かを求める意識が高い先生が多いです。
日英バイリンガル教育を目指している家庭も多いと思いますが、母語で習得した学習スキルは、言語の壁を越えても活用できますから、ぜひ継続してほしいです。もし将来日本への帰国、日本の大学などへの入学を考えている場合は、その日本の学校の求める条件をよく確認して、学習を進めることが大切です。
また、サマースクールは、ぜひ活用していただきたいです。夏休みのうちに学力を強化できるものがたくさんあります。学校区が主催のものだと、学区の生徒のみというケースも多いですが、例えばアーバインだと、IPSF(Irvine Public Schools Foundation)という財団の提供しているものであれば、学校区外からでも参加は可能です。機会を生かして、いろいろなものに参加してみるといいと思います。
アメリカの学校では、出席日数が非常に重要視されています。何か問題があればまず出席日数に表れると捉えられていて、欠席日数が全体の日数の10%を超えると問題と見なされますので注意が必要です。
言語能力の問題から「学年を落として入学させたい」という相談を受けますが、EL(English Learner/英語学習者)だからという理由で学年を落とすことは一般的には非常に難しいです。言語プログラムは州標準カリキュラムと統合して進行するため、ELであることは学年を落とす理由にはならないのです。ですが、各学校の判断で対応される案件のため、学校に交渉してみてもいいと思います。
近年では、「Parent Portal」や「Canvas」といったデジタルツールを使って、成績や進行状況を把握することが容易になっています。まずは、保護者の皆さんが気付いたことがあれば、先生や私たちリエゾンなどに伝えてください。そこから学校、またそれ以外に必要なエキスパートがいれば、協力を仰ぐことができます。英語で「Same Page」と表現しますが、全ての人が同じ目線で子どもを見ることができている、そういったことを意識していただけたらと思います。
現地校の先生に聞きました!
続いて、実際に学校で働く現役の先生がたに、現在の学校の様子や今後どう変化していくかなどを伺いました。
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【現地校】
Rudy Ramirezさん
1997年から教員。キンダー・1・3・4年生の担任、教頭を務めた後、校長となり、現在はパサデナ統一学校区のSan Rafael Elementary Schoolの校長として12年勤務。2019年、「Principal of the Year, Pasadena Unified School District」に選ばれる。
【ポイント①】Dual Languageで多言語・多文化教育推進
【ポイント②】保護者や地域の声を最大限教育に反映する
Dual Language Programで多言語・多文化教育を進める
私が今勤めているSan Rafael Elementary Schoolは、創立104年の公立小学校で、キンダーから5年生まで、1クラス25人の3クラス、1学年75人ずつが在籍しています。地区でも最も人気のある学校の一つで、毎年入学の抽選が行われています。
本校の特徴はDual Language Programを行っていることで、英語と、スペイン語・中国語・フランス語との2言語クラスを展開しています。1年生では「90ー10」(母国語を90%、英語を10%)からスタートし、学年が上がるとともに「80ー20」「70ー30」と英語比率を上げていくという学習法です。このDual Language Programは、もともと移民のために2005年ごろから始められた施策ですが、現在では子どもを多様な文化に触れさせたいという裕福な家庭に高く評価されています。子どものころから他者との違いに触れ、なぜ違うのか、そしてそのどちらも美しいのだということを理解できるプログラムです。パサデナ統一学校区でこのプログラムが行われている小学校は全体の3分の1程度。学校数も対応言語数ももっと広げたいですし、州としても全学校の50%を目標に拡大を進めています。
それ以外の本校の特色としては、アート、音楽、体育のフルタイムの先生がいる点です。これは、学校区から予算が出ているのではなく、この学校独自の予算で先生を雇っています。学校に積極的に寄付をしてくれる家庭が毎年多くあり、寄付によって、充実した授業を提供できているという背景があります。
確固とした信念を持ち、意見を受け止め長期で実現
小学校は、中学校・高校とは異なり、校長を補助するスタッフが少なく、多くのことを校長がアレンジしなくてはいけません。まず安全性は第一、それ以外のことは全て第二と考えます。特に昨年の新型コロナウイルスのパンデミック後には、学校内外での安全については、より慎重にならざるを得ない状況になりました。現在は、全ての生徒が学校での対面授業となりましたが、ある一人の生徒が感染すると、その周りの生徒も隔離が必要になります。そこで、生徒をグループに分け、教室での席順も、ランチを食べるのもそのグループごとに行動させることで、感染が拡がらないよう策を講じています。
また、校長として心がけているのは、「間違いを犯すことを許容する」ということ。子どもが間違いを起こすことは当然のことで、生徒を呼んで話をすることはありますが、そこで改善プランを立てられれば、家庭に連絡することはありません。繰り返し過ちを犯せば問題となりますが、一度であれば生徒と私の間で解決することなのです。
一方、難しいのはお金の面。さきほどのアートや音楽の授業の話のように、何にどうやってお金をかけていくのかを校長は判断しなければなりません。予算に関してはもともとプロではありませんでしたから、学校区の会計担当者と緊密に連携しながら進めてきました。
若い先生とも話をする機会が増えていますが、そこでも強調するのは、苦情に慣れること、そしてバランスを取ることです。本当にいろいろな意見が、保護者や地域から来ます。それに耳を傾けることは当然大切ですが、自分のコアの信念は変えないことも同時に大切です。極端な意見を持つ人はどこにでもいるものですから、全員を満足させることは不可能だと心得て、真ん中の75~80%の層を幸せにできればいい、という感覚が大切だと考えています。一方で、「Never say “No”」、意見に対して「No」とは言わない、まずは受け止めて、2~3年というスパンで実現が可能かどうか検討するようにしています。そして一度やると決めたら、途中で投げ出さずに実現させる。こうした思いで施策を打ってきたことが、今の学校の評価につながっていると思います。前述のアートや音楽の先生を雇うことになったのも、こうした保護者の声から始まったもの。今後も保護者や地域の声も取り入れて、よりよい学校作りを進めていくつもりです。
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【現地校】
Michael Watterさん
ニュージャージー生まれ。大学では映画について学び、大学卒業後、ロサンゼルスに移住。エンターテインメント業界で約5年働いた後、UCLAで教育を学び、2012年から中学・高校の数学の教員。現在はGlendale Unified School Districtの高校に勤める。
【ポイント①】多様なデジタルツールを活用
【ポイント②】以前と同じ学校環境まであと少し!
通学は再開したが、まだまだ制限は多い
私は今、Glendale Unified School Districtにある公立の高校で数学を教えています。このGlendale市の学校区には、金銭的に裕福なエリアの学校から、補助の必要な学校まで混在していて、私の高校は政府からの補助を受けている「Title1」というカテゴリーに含まれます。現在私たちの学校では、基本的には対面授業に戻っていますが、マスクの着用は必須、アクティビティーもかなり制限されていて、コロナ禍以前の状況に戻るのはもう少し時間がかかりそうです。
デジタルツールは教育の幅を大きく広げた
コロナ禍が、多くの先生に、興味深い影響を与えたのは間違いありません。もちろん大変な、マイナスの面はたくさんあるのですが、一方で、教育においては良い面もたくさんあります。一番大きなものは、言うまでもなくデジタルテクノロジーの活用の広がりです。Google Classroomのようなツールによって、授業を進めるにあたって必要なものを一元的に管理できるようになりました。私はコロナ禍前からいろいろなデジタルツールは使っていたのですが、「使わざるを得ない」状況になりました。私の使っているツールの中で特に便利なものや生徒に人気のものをいくつか紹介しましょう。
数式を組み合わせて、楽しい図形を作ることもできる「Desmos」。Image: Powered by Desmos
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Kami:先生はPDFをアップロードし、生徒はそれにPC上で書き込み、提出できるというインタラクティブなツール。あらゆる教科で活用できる、汎用性の高いサービスです。
Desmos:数学の関数の授業でこのDesmosのグラフ計算機ツールが重宝しています。数式を入れるだけですぐにグラフを作成してくれたり、グラフから式を求める問題をゲーム感覚で出題することができたり。各生徒の正否も一覧で表示されます。
あらゆるジャンルのクイズがそろう「Kahoot!」は、多くの生徒のお気に入り。Photo: ©Kahoot!
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Nearpod:パワーポイントに近いのですが、その中に問題を散りばめて生徒に解答させ、その結果もまとめて見られる、双方向のプレゼンテーションツールです。
Kahoot!:あらゆるジャンルのクイズが用意されているサイトです。アカデミックなものから息抜きに使えるものまで、対象学年・レベルも細かく分かれています。生徒たちも「Kahoot!をやるよ」と言うと大喜びの、とても人気のあるツールです。
コロナでの変化をポジティブな変化に
前述したような情報は、「Tech Specialist」と呼ばれるスタッフが中心になって集め、共有しています。私の学校では、先生のうち一の人が「Tech Specialist」を兼任し、全校の先生に情報発信してくれています。私自身は、コロナ禍になる前から、ある程度こういったデジタルツールを使っていたのでそれほど戸惑いはなかったのですが、特に年配の先生は苦労された方が多かったと思います。私にとって一番難しかったのは、Zoomを使った授業に慣れること。便利なツールとはいえ、どうしても実際に顔を合わせて授業をするのとは違いますから、コミュニケーションは難しいですし、多くの先生・生徒とも苦労しているところだと思います。
既に多くのことが変わりましたが、今後もこういった変化は続いていくと思います。生徒にとっては、表現するチャンスが増えると思いますから、ポジティブな動きだと捉えています。一方で、現在課されている制限については、少しでも早く緩和され、通常の学校運営に戻ってくれることを願っています。
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【現地校】
片島 幸さん
かたしま・さち◎2012~18年、ファウンテンバレーの高校に勤務し、現在はネバダ州・Clark County School District高校生(9~12年生)の日本語と数学のクラスを担当している。
【ポイント①】日本語を通して文化背景も伝えたい
【ポイント②】今後は日米の教室をつないだ授業を!
コロナの状況に合わせて対応する日々
私が今働いているのは、ラスベガスの公立高校で、全校生徒が約3300人ほど。私は現在は日本語を4クラス、数学を1クラス教えています。この8月の新年度から完全に通学しての対面授業に戻っていますが、コロナウイルスに感染した生徒が出ると、当該の生徒はもちろん、その周りの生徒もテストを受け、陽性が出ると自宅から授業を受けることになります。昨年は全員がリモートでしたが、現在は基本的には生徒は教室にいるので、リモートの生徒の対応は難しいですね。課題も対面授業と同じだけこなさなければならず、授業についてくるのは大変だと思います。
デジタルの進化を感じる一方、メンタル面の不安は大きい
コロナウイルスのパンデミック発生直後は、先生も生徒も大パニック。先生たちはみんな大変な思いをしていました。ただ、その時の頑張りの甲斐があって、登校するようになった今でも、うまくデジタルツールを活用しています。コロナで大変なことはもちろんたくさんありましたが、デジタル化は進み、表現する場は広がったと思います。
今までは手描きしか方法がなかったものが、デジタルツールを使って入力ができるようになり、こちらを使って完成度の高い作品を出してくる子が増えています。一方、絵が得意で手描きが好きな生徒は今まで通り手で描いてスキャンをすればいいわけです。アナログとデジタルのどちらかではなく、両方のいいところ、好きなところを組み合わせられるようになりました。
一方、心配なのはメンタル面。1年半、他の生徒と交流がなかったため、精神的に幼いままの子が多いです。特に昨年・今年で高校に入ってきた9~10年生にこの傾向が強く見られていて、各先生は苦慮しています。スムーズに学校に戻れる生徒もいますが、そうでない生徒もいるので、どうやってケアをしていくかが大きな課題。そして生徒だけでなく、メンタルの不調は多くの先生にも起こっています。メンタルケアをするサイコロジストは全校で1人しかおらず、絶対的に不足しています。
日本語を通して文化を知ってもらうことの面白さ
私の学校で日本語クラスができて3年目。実は私の提案がきっかけで開講したという経緯があります。ゼロから授業を作るのは本当に大変でしたが、今は合計150人ほどの生徒が受講してくれています。やはりアニメや漫画が好きというきっかけの子が多く、これらについては、私より遥かに詳しいですね。『鬼滅の刃』も、流行る前から生徒たちは知っていて、私は生徒から教えてもらいました。実際に日本のアニメを見てみると、着物や刀、日本的な色使いなど、アメリカ人の見る日本というものが詰まっている、外国人の心を揺さぶるエキゾチックさがあるのではないかと感じています。「この授業を取ればアニメが見られる」という気持ちで授業を取る生徒が一部いるのも事実で、そういう生徒は覚えることの多さに大変な思いをしているかもしれませんね(笑)。
日本のアニメを見ても、世界中で人気になったNetflixの韓国ドラマ『Squid Game』を見ても、「この国の言語のこの表現は、他のこの言語では表現できない」ということがたくさんありますよね。そういうことを知るところに、言語を学ぶ面白さがあると思いますし、そういう固有の表現が生徒の口から出てきたら、「ネイティブに一歩近付いたね」とうれしくなります。
授業の質の向上に向けて、常に試行錯誤の連続
デジタル化はもっと進めたいし、進んでいくと思います。私が日本語を教えた生徒が今、日本で先生をしているので、その学校と組んで、プロジェクトを立ち上げようと計画しています。具体的には、日米の生徒でグループを作って、ペンパルのようにやりとりをしたりビデオを送り合ったり、デジタルならではの、国境も越えたクラスができたらいいなと思っています。私の勤める学校は生徒の大学進学率が3割程度と高くないので、そういう生徒に合わせ、より実用的な日本語を学ばせてあげるのが重要だと思っています。例えばホテル勤務で日本のゲストが来た時にどう対応したら喜んでもらえるか、といったことです。
指導法について、研修や講習会はありますがあくまで任意。授業の質は各先生次第というのが実情です。私は2カ月に1回程度、教材や指導法のシェアをする会に参加しています。日本人以外の先生も少なくないので、違った視点からの話を聞けるのは興味深いです。そういったところでの学びも取り入れて、今後もよりよい教育環境を作っていきたいと、日々試行錯誤しています。
補習授業校・日本人学校の先生に聞きました!
あさひ学園
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【補習授業校・日本人学校】
平居 繁和さん
ひらい・しげかず◎滋賀県出身。2004~07年、サウジアラビア・ジッダ日本人学校派遣教諭、14~16年、メキシコ・日本メキシコ学院派遣校長。また、湖南市小学校校長、湖南市教育研究所所長を歴任。20年より、文部科学省からの派遣にて、ロサンゼルス補習授業校あさひ学園校補習授業校・日本人学校長を務める。
【ポイント】日本の教育で人格完成を目指す
補習授業校であるあさひ学園は「日本語学校」ではなく、「日本の教育をアメリカの地で行う」という役割を担っています。私は、日本の文部科学省から派遣されて校長を務めており、現在日本で行われている教育を伝えるのが責務です。大切にしているのは、単に能力の向上に留まらず、人格の完成を目指すこと、平和で民主的な国・世界を作り上げていくその一員としての素養を育てるということです。
授業面では、通常補習校というと国語(日本語)と算数・数学に重きを置く学校が多いのですが、本校では3年生から理科と社会科の授業も行っています。特に社会科は、日本の都道府県を学んだり、政治的なことを含む文化を学んだりする教科ですから、非常に意義がある教科だと考えています。現地校に加えて土曜日に補習校に通うのは大変ですが、家族で協力して歩んでほしいです。本校には約1万2000人の卒業生がいますが、その多くが「宿題はつらかった、でもそれを乗り越えたことは今役に立っている」と話しています。
日本の教育方針は今、思考・判断・表現重視に変わってきています。このことは、もともと自己主張を重んじるアメリカで学んだ子どもたちが、強みを生かせる環境になってきたと言えるでしょう。
コロナウイルスの影響で、現在も本校はオンラインでの授業を続けています(12月上旬から順次開校予定)。それをきっかけに、校舎を越えて4校合同のオンライン会議を行うようになりました。各先生たちのオンライン授業の技術も上がり、授業力全体が向上していると感じています。デジタルデバイスには、子どもたちの方がスムーズに順応していると思います。一方、「学びの場は学校である」という日本の教育方針の通り、やはり直接学校で他の生徒と触れ合って学ぶことこそが学校の役割である、という考えは変わっていません。生徒が学校に戻れる日に向けて、準備を進めています。
西大和学園
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【補習授業校・日本人学校】
金澤 峻さん
かなざわ・しゅん◎兵庫教育大学卒業。兵庫県内の学校で6年間勤めた後、渡米。サンノゼの学校で1年半勤務した後、2017年から西大和学園に勤めている。現在は平日校で4年生の担任と1~9年生に音楽を、補習校ではアーバイン校の教頭補佐と2年生を担当。
【ポイント】逆境を乗り越え成長する先生たち
西大和学園カリフォルニア校は、週五日の平日校と、土曜日補習校の両方があります。平日校と補習校どちらの子どもたちも、日本のカリキュラムを意欲的に学習しています。
2020年4月、新型コロナウイルスの影響で、ディスタンスラーニングを開始することになった際、私はGoogle ClassroomとZoomを活用した補習校のディスタンスラーニングシステムの構築を担当しました。会議に会議を重ね、テクニカル面のさまざまな実験を繰り返して、「誰にとっても分かりやすく」を目指して準備しました。
しかし実際に運営が始まると、トラブルの連続でした。事前の実験では見つからなかった、デバイスによる動作の違い、ファミリーリンクのGoogleアカウントのアクセス制限、ZoomやGoogleのシステムのアップデート、基本的な情報機器の不具合、アカウントの切り替えによる混乱などです。さまざまな可能性を考えて準備や研修をしても、やはり誰にとっても初めての経験なので、多岐にわたる問い合わせが殺到しました。しかし、「皆が円滑に気持ちよく仕事ができたり、学んだりできるようになってほしい」との思いで、迅速かつ丁寧に問題解決をしました。半年経った時には、先生も保護者も子どもたちも、安心してディスタンスラーニングができる状態になりました。先生方は新しいディスタンスラーニングのシステムの中で、自分の強みを生かした授業作りをすることができるようになり、録画を見てお互いに研修をし合うこともできました。
この9月から補習校でも登校が再開されました。対面授業になっても私たちの挑戦は続いています。その中で先生方は、ディスタンスラーニングという挑戦を乗り越えて得た発見や技術を生かして授業をしています。新しく見つけた子どもたちの特性、ICT(情報通信技術)の効果的な導入、ワークシートの見直しなど、全てを糧に、今日も子どもたちと一緒に成長しています。


