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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

7)売るものがなくなる!? どうする?
【地殻変動の起こる時(前編)】

マーケティング講座

みなさん、こんにちは! 阪本啓一です。
自分の業界が明日なくなる、と言われたら、どうしますか?


ビジネスを廃業するにはどうすればいいか

 X社は、本、ゲームソフト・DVDなどのエンターテインメントソフト販売で255店もの店舗展開をしている大手です。ある冬の日の午後、会議室に集まった経営幹部たちが始めた議論は、何と「自分たちのビジネスを廃業するにはどうすればいいか」でした。自分で自分の店をぶっ壊そうというのです。

 「今あるビジネスモデルをゼロにして考えてみよう。そもそもウチのお客様は何にお金を支払ってくれているのだろうか」。

 どうしてこういう議論になったのでしょうか。何も経営的にゆきづまっているわけではありません。それどころか、今年から来年にかけて、これまでになかった大規模店舗を複数、立て続けに出店する予定です。手元資金も潤沢にあり、飛ぶ鳥をも打ち落とす勢いなのです。しかし、事業がうまくいっている今だからこそ自分たちのこれまでの成功のパターンを廃棄する必要がある。社長を始めとする経営幹部たちはそう考えました。何が彼らを、そう駆り立てるのか。まずは彼らが問題としている時代認識からお話しましょう。


電線ネットが市場に地殻変動を起こす

 日本では、2006年にも電線ネットが実用化する見込みです。家電でもパソコンでも、電源コンセントに差し込むだけで高速ネット通信できる次世代技術「高速電力線通信」(PLC)のこと。日本では松下電器産業、ソニー、三菱電機の3社が、PLCの普及と規格統一を目指す業界団体を、3月に設立する見込みです。私はこれをあらゆる業界に対してとてつもない影響を与える、地殻変動級の動きだと捉えています。冒頭のX社もこの点、私と問題意識が同じなのです。では、なぜPLCの影響が大なのでしょうか。

 PLCは、家で配線されている電線へ高速インターネットのデータを流すことが可能な仕組みです。通信用の新たな配線工事が不要なため、古いマンションや住宅でも既存の電線を使え、プラグをコンセントに差し込むだけで文字通り「家中をネットワークでつなぐ」ことが可能になるのです。部屋をちょっと見回してみてください。エアコンがあります。電灯、ラジカセ、テレビ、電子レンジ、冷蔵庫、掃除機…要するに、プラグを差し込んで使う家電はすべて、ネット家電になり得ることになります。もちろん、パソコンも、現在のADSL、光ファイバー、ケーブルなどのネット接続方法を使わなくても、ただ電源を差し込むだけでネット接続環境に入ることができます。文字通りユビキュタスになるわけで、ここに「地殻変動」の理由があります。


DVDがなくなる!?.

 X社が現在店頭で販売している映画ソフト(DVD)は家庭のリビングのテレビにネットを経由して「直送」されることになるでしょう。もちろん、オン・デマンドで、番組表の中から視聴したいプログラムだけを選び、その分だけ料金を支払います。おそらく1プログラム当たり100円から500円程度だと思います。場合によっては新作映画が劇場上映開始と同時に配信されることもあり得るでしょう。DVDそのものも低価格化が進んでおり、古典映画など駅のキオスクで380円で売られ始めています。X社の各店舗の数字を見ると、やはりDVD販売の数字は販売点数が対前年比トントン、といったところで、これから右肩下がりになることは間違いありません。

 顧客はDVDのハコを買っているのではなく、中身を視聴できればそれでいい、とX社は考えました。では、現在「ハコ」を売っている同社はどうすればいいのか。X社の議論で出たアイデアを1つ、ご紹介しましょう。


「店からの提案」に力を入れる

 新作や売れ筋ばかりを追うのではなく、旧作でも良質のものを定期的に編集して棚で顧客にプレゼンテーションする。例えば「黒澤監督特集」「幕末時代劇特集」など。

 棚編集の更新頻度を高め、顧客に飽きさせない工夫をする。これによって、同社は、「ハコの販売業」から、「顧客へのコンテンツ編集・提案業」へとギアチェンジする戦略を決定したのでした。

 さて、あなたの業界では、PLCの地殻変動はどんな影響をもたらすでしょうか。
*X社の事例は現実の事例をデフォルメしています。

(2005年3月1日号掲載)

【文・阪本 啓一