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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

16)ひと手間で顧客に刺さる
【1ミリの工夫】

マーケティング講座

みなさん、こんにちは! 阪本啓一です。
ビジネスはガーデニングのようなもの。
手間ひまをかけましょう。


■サプライズ! サプライズ!

 青山で評判のレストラン「カシータ」に行きました。クライアントがアレンジしてくれたディナーです。食前酒の席がダイニングとは別にあって(アメリカでは当たり前ですが、日本のレストランでは少ない)、食前酒専任の担当がテーブルについてくれます。「阪本様、ようこそカシータへ。お待ちしておりました。今夜はシャンパンをご用意しております」。

 出されたシャンパンを見て、驚きました。ラベルに「Mr.Sakamoto Cliquot Ponsardin」と書かれています。自分の名前が入っているとは!

 メインダイニングの席には、結婚式披露宴のように、名前の書かれたカードが置いてあります。「本日のメニュー」にも「Welcome to Casita!! Sakamoto-sama」と、名前入り。ナプキンを見て、またもびっくり。そこには「K.S」と、私のイニシャルが。ほかのゲストも全員です。実はサプライズはそこでは終わらないのでした。名前入りのカードを裏返すと、そこには会社のロゴが! Palmtree Inc.のロゴが、そのまま、描いてあるのです。隣の人のカードには、彼の会社のロゴが入っています。

 食事中も、驚くことが続きました。例えば、飲み物をオーダーしたときです。現代日本では、オーダーした飲み物を持ってきて、「ビールのお客様は?」「はーい」「ウーロン茶は?」「はい、こっちです」。まるで出欠を取っている先生と生徒状態になります。一体いつからこんな手抜きが許されるようになったのでしょうか。10人以上いるならともかく、3人であっても、いえ、2人であっても、いちいちゲストから教えてやらなければなりません。客単価5千円以上の立派なレストランでさえ、この有様です。ところが、カシータでは、持ってきた飲み物を確認することなく、テーブルにいた
6人全員分、正確に置いてくれました。現代日本全体のサービス業偏差値が低くなっているからだと言えばそれまでなのですが、素晴らしいです。ステーキの焼き加減も、オーダー時に1度言えば、あとは繰り返す必要がありませんでした。

 そして最後、食後のデザートは別室に行きます。ミルクコーヒーが運ばれてきました。そこには写真のように、Palmtree Inc. のロゴが爪楊枝で描かれているのです! びっくりしました。種を明かせば、今回の予約をアレンジしてくださったクライアントが、事前にレストラン担当者とメールのやりとりをしていたようですが、しかし、ここまでされると、本当に感動します。


■やる気があるか・ないか

 さて、ここでサプライズを整理してみましょう。シャンパンのラベル、メニュー、座席カード、ナプキン、オーダーを覚えること、コーヒーへのロゴ。いずれも、こう言ってはミもフタもありませんが、「たいしてコストがかかるわけではない」仕掛けばかりです。そこが大切です。例えばハリウッド超大作映画のように、とてつもない予算をかけているならば「お金がかかっているね」と、逆にあまり感動を呼ばないと思うのです。そのお金も結局は顧客が負担するのですから。ところが、このレストランのサービスは一つひとつが手作りで、「顧客を楽しませたい・この食事体験をいつまでも記憶にとどめていただきたい」というサービスを提供する側の「強い思い」を感じるのです。そして顧客は、この「思い」にこころを打たれます。簡単に言ってしまえば、「やる気があるか・ないか」の世界です。どうやればお客様を楽しませることができるか、サプライズになるか、常に考え続け、そして、「やる気」を出して実行するなら、大してお金をかけずとも、すごい体験を生み出すことが可能です。


■まえあじ・なかあじ・あとあじ

 『まえあじ・なかあじ・あとあじ』という教えがあります。

 「まえあじ」は期待感。「なかあじ」は提供するサービスそのもの。「あとあじ」は、サービスを体験したあとの顧客のこころの状態です。そして、リピーターを生むのは、言うまでもなく「あとあじの良さ」です。コーヒー表面に描かれた自分の会社ロゴを目にし、私の「あとあじ」は最高のものになったのでした。この1ミリの工夫、どんなビジネスにも通じると思います。

(2005年7月16日号掲載)

【文・阪本 啓一