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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

33)シニア市場の捉えかた
【「塊」で捉えては間違う】

マーケティング講座

皆さん、こんにちは! 阪本啓一です。
シニアビジネスの、1つのヒントをさしあげましょう。


「2007年問題」は存在するのか?

 日本では「2007年問題」がビジネス界で話題になっています。07年に1947年〜51年生まれのいわゆる「団塊の世代」のうち、最も人数の多い47年生まれが定年を迎え、会社から家庭に戻る。すると時間とお金に余裕のある彼らが新しい市場として大いなる可能性を秘めている、という論理です。

 この話、「取らぬ狸」にはならないでしょうか。なぜなら、そもそも昨今の企業環境の中で、「60歳定年まで会社に残るor残ることができる」人が一体何人いるのか、という問題があるからです。とうの昔に会社を辞め、自分で起業するなり、転職するなり、あるいはリタイアしているなり、そういった人のほうが多いのではないのでしょうか。そこの統計的な裏づけが全くないまま、ただ年齢で切るとそうなる、という予測のもとにビジネスを考えるのは、非常にリスキーだと言わざるを得ません。

 また、ある世代を1つの塊としてとらえ、一元的な属性があるとするアプローチは、はっきり断言できますが、間違っています。たとえば私は1958年生まれですが、同世代の人と考えが全く同じかと言われると「よくわからない」と答えるしかありません。好きな音楽、作家、映画、服のタイプ、食べ物…、いずれも、「世代でひとくくり」にはできるはずがないのです。よって、私は、「2007年問題」は存在しない、と考えています。


画期的な発明

 では、ビジネスチャンスが全くないのか、というと、それも違います。新しい市場創造をした事例がありますので、お話ししましょう。

 東京都港区に本社を置く「フェアベリッシュ」(www.fairberish.co.jp)という会社は、リハビリ介護靴「フェアベリッシュ」の開発・販売をしています。製品の特長は、「甲の全面がファスナーでパカッと開くので、ただ足をあてがうだけで靴を履くことができる」というもの(特許取得済)。この画期的な機能デザインのおかげで、膝や腰が悪くて、座って靴を履けない場合でも、寝たままの状態で足裏に靴を合わせるだけで履くことができます。また、ベッドから床に置いた靴にそのまま足を乗せるだけで履くことができす。


おばあちゃんへのプレゼント

 この靴には、創業者の伊藤弘美社長自身の物語がたっぷりこめられています。伊藤社長の祖母が病院で寝たきりになりながら、「歩きたい、青空の下を散歩したい」と願っていたにもかかわらず、叶わないまま亡くなりました。足が不自由な人にとって、普通の靴を履くことは、とんでもなく難しい。車椅子の人で、サンダルは履けるが、靴は履けなくて困っている人は多いのです。

 ある日、伊藤社長の夢枕におばあちゃんが立ち、その夢の中で靴が明確なイメージとなって現れたのだそうです。当時伊藤社長は、家業が倒産し、気持ちの上でも、経済的にも、とても苦しい時期でした。実は伊藤社長、おばあさんと同じ時期にお母さんも難病で亡くしています。おかげで大学を中退、家業を手伝いながら2つの病院を掛け持ちで介護のため走り回る、という生活を続けていました。しかも12年も! その介護生活の経験と、おばあちゃんを散歩させたかったのにさせられなかった、という熱い思いが、靴に関しては素人の伊藤社長を商品開発へと駆り立てたのでした。その後の山あり谷ありの詳細は割愛しますが、この話に大メーカーの月星化成も協力し、遂に「おばあちゃんのための靴」が完成したのです。

 この、「たった1人のためのプロジェクト」で画期的な靴が開発され、結果、多くの同じような、靴を履きたくても履けない人たちの福音となったのでした。福岡県知事より福岡県環境福祉部門最優秀賞、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーなど様々な賞も受賞しています。東京都知事から、東京都福祉のまちづくり功労者として感謝状ももらっています。


足りないことを満たす

 フェアベリッシュは言ってみれば「靴」です。ありふれた製品の代表的なものです。しかし、「ありふれ」には往々にして、ユーザー側から見れば「足りないこと」があるものです。そこに光を当て、満たす努力をした。シニア市場に限らず、ビジネスチャンスの発見方法として、大いに参考にしたいものです。

*参考 伊藤弘美『青い空と大粒の涙』(大村書店刊)

(2006年4月1日号掲載)