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ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

53)スーパー経営者の決断
【先人に学ぶ】

マーケティング講座

皆さん、こんにちは! 阪本啓一です。
「ゆれない決断」、できてますか?


意思決定の瞬間

 私が個人的に尊敬する企業経営者の意思決定の瞬間を研究しています。理由は、次の3つです。

 第1に、意思決定をしなければならない時は、通常、企業への逆風が強い時です。逆風の乗り越え方として、勉強になります。

 第2に、逆風は、並の経営者にとっては「困ったこと」なのですが、私の尊敬するスーパー経営者たちにとっては「チャンス」に見えるようなのです。氷を触れば冷たいというような、物理的な意味における「困ったこと」というものがこの世に存在しない以上、すべてはものの見方、考え方なわけで、スーパー経営者の思考のフレームワークを知ることができます。

 第3に、意思決定は市場潮流における自社の座標を定め、来るべき流れを読みぬく作業が必須です。スーパー経営者の足跡は、学ぶべき教材にあふれています。


「売らない」決断

 「かんてんぱぱ」で有名な伊那食品工業(株)塚越寛会長の経営哲学は、「成長に見合った販売をする」です。何かの理由で前年比より桁違いに注文が殺到したとしても、それは企業にとっては好ましくない現象だと判断します。塚越氏の言葉を引用しましょう。

 「どんな商品にも、導入期と成長期、成熟期、衰退期があります。成熟期が長いほど、商品は大きな利益を生みます。お客様が自然に商品を支持してくださるようになり、ロングセラーになって売上が少しずつ伸びていけば、設備投資も社員の成長も間に合います。しかし商品が突然大量に売れるようになれば、臨時で人を雇ったり、にわかづくりの生産設備を設けたりしなければなりません。品質管理体制を良好に保つことさえ困難になるでしょう。(中略)一時的に無理をすると、あとで反動を招きます。しわよせは遠くない将来、必ず会社を襲い、永続をはばむことになります。商品をたくさん売ることは、目的ではないのです。」(*)


幸福なマッチング

 家庭向けの「かんてんぱぱ」ブランドの商品は、長野県と山梨県の一部でしか店頭販売をしていません。1981年、「カップゼリ-80℃」がヒットした際に、大手スーパーマーケットから全国販売のお誘いがきました。並の経営者であれば「大手の莫大な流通に乗れる!大チャンス!」と小躍りするところですが、塚越氏は「当社の身の丈に合わない」という理由で、断っています。そしてこの時に無理をしなかったことが、その後の会社の成長と、クチコミによる商品の伝播との幸福なマッチングを生み、当該「カップゼリ-80℃」は贈答品・土産品としてのポジショニングを得て、ロングセラー商品へと育ったのでした。


悪いものは、作れない、売れない

 無添加石けんの最大メーカー、シャボン玉石けん(株)光社長は、自身が合成洗剤が理由で皮膚病になったことをきっかけに、合成洗剤が人間の身体、ひいては地球環境を汚染していることを知り、ドル箱だった合成洗剤の製造販売を止め、無添加石けんでいく、と決めたものの、売上は99%減、月商8千万円あったのが75万円に。100名いた社員も次々と辞表を出して、ついには5名に。それでも「悪いものは作れない、売れない」信念のもと、無添加石けん1本で、経営しました。黒字転換したのは、何と18年目です。その後、皆様もご存知のように地球環境問題がクローズアップされたり、意識の高い生活者、いわゆるグリーン・コンシューマーの出現などの追い風もあって、順調に業績を伸ばしてきています。2004年には、EM菌(有用微生物群)を使ったEM石けんも開発、「海を汚さない」から、「使えば使うほどきれいになる」水質浄化機能のある石けんを発売しています。

3つの分岐点

 私の見るところ、森田社長にとっての意思決定のポイントは3つありました。第1に、合成洗剤を製造中止し、無添加1本でやるという決断。第2に、外部に依頼していた製造を止め、手元資金のない中、自社工場を建設するという決断。第3に、ずっと無添加でやってきた中で、EM菌を「添加」するという決断。

 いずれも、「先の保証」はだれもしてくれません。しかし、根底にあり、意思決定のゆるぎないものさしとなったのは、「悪いものは作らない、売らない」という経営哲学なのでした。哲学こそが、意思決定に何よりも重要な証左です。

*『いい会社をつくりましょう』塚越寛著、文屋、P74-76

(2007年2月1日号掲載)