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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

64)ビジネス2.0

マーケティング講座

皆さん、こんにちは! 阪本啓一です。
伝統的なビジネスの文法が通用しない世界になってきました。
前回ご紹介したパタゴニアに代表されるように、
新しいビジネスのフレームワークが生まれつつあります。


へりから舞い降りた男

 あるリゾートホテルの芝生でミーティングをしていました。会議室にこもっているより、初夏の風に吹かれながら、ウッドデッキとベンチで議論したほうが生産的、という意図です。確かに気持ち良く、議論は肯定的に進みました。

 と、突如頭上からヘリコプターが舞い降りてきて、芝生の上に着陸。予想もしない出来事に、周囲の人もみな、何事かと驚きながら顔を寄せます。と、ヘリから降り立ったのはスーツ姿のビジネスマン。いつの間にか出迎えてきていたホテル支配人と共に館内へ消えました。ヘリのパイロットと芝生でナビゲートしていた係員が、ゲストたちに「お騒がせして、申し訳ございません」と、謝って回っています。

 そのままミーティングを続けていたのでわかるのですが、くだんのヘリ男はそれから1時間ほど滞在した後、またヘリに乗り込んで、どこか西方向に向かって消えました。

 これを「さすが、忙しいエグゼクティブは違う!」と取るか、「そこまで忙しいのは仕事ができないからではないか」と考えるかはお任せします。しかし、確実に言えることは、ヘリ男は、古いビジネスの世界に住んでいる、ということです。支配人の、ゲストには向けないとびっきりの笑顔を見るに、投資家なのでしょう。

 その夜のニュースで、米国の投資ファンドが、日本企業の敵対的買収について記者会見をし、「日本の経営者を教育しに来た」と言っていました。彼もまた、昔のビジネス世界にいます。


新しい世界〜ビジネス2.0

 古いビジネスを1.0、新しいそれを2.0と呼ぶことにします。1.0の世界にいる人の動機は「1日でも早く会社を成長させ、太らせて、高く売却。あるいは世界一の売上高を誇り、地球市場を征服する」でしょう。ものさしは「大きければ大きいほど善、会社の価値は生み出すキャッシュ金額で決まる」。しかし、その結果が地球環境の破壊、貧富の差の拡大、エネルギーの奪い合いから端を発する戦争です。

 ビジネス2.0のものさしは、「地球、社員、地域社会を大切に。みんなのハッピーの総量が会社の成功尺度。量より質」。2.0にいるビジネスマンは、そもそも移動にヘリなど使いません。「エグゼクティブの最大の資産は時間。自家用ジェットやヘリがあればその時間をsaveできる」なんて、考えません。「そこまで忙しいのなら、ビジネスなんて、やらない」というのが彼らの言い分です。


海の見えるオフィス

 私自身、本社は神奈川県葉山町に置き、夏の2ヶ月は海の家を会議室にしています。社内メンバーはもちろん、クライアント社長、編集者との打ち合わせも、ビーチサンダル持参で来てもらい、裸足で砂を感じながら風を一緒に感じます。ミーティングの中身より、「一緒に海風に当たった」体験の方を重視しているからです。

 そして私だけではなく、周囲の起業家たちも、「いつかは六本木ヒルズにオフィスを」「都心に大豪邸を」というビジネス1.0ワールドの野望を持つことなく、「自分や社員、そしてお世話になっている地域の皆さんがハッピーになるように」という祈りにも似た経営理念を持っている人が増えてきました。


GNPからGNHへ

 インドと中国チベット自治区の間に位置するブータン王国は多くの国が指標とするGNP(国民総生産)に代わるGNH(Gross National Happiness国民総幸福量)を独自のものさしにしています。

 ビジネス2.0もこれに似ています。自分たちがなぜこのビジネスをやるのか、ビジネスを通して世界に何が貢献できるのか、どういう態度でビジネスに臨むべきか…。起業家なら誰しも持つ創業の志を「タテマエ」としてではなく、「ホンネ」で事業を続ける限り永遠に持ち続ける姿勢。

 これは決して1.0時代の「成長」を捨てた企業姿勢ではなく、プロセスを指しています。そしてそのプロセスをきちんと実行した先に、結果として、持続可能な実績を残すことができるのです。

 アトランタに本社を置くインターフェース社は商業用カーペットメーカーとして世界一のシェアを誇り(売上高10億7500万ドル)、同時に自然環境と親和性の高い経営を実行しています。原材料を可能な限りリサイクルに求め、エネルギーも太陽熱、風力、バイオを使う。企業利益とエコロジーの一見対立しそうな要素を両方実現しています。

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 皆さんのビジネスも、1.0から2.0へ、バージョンアップしませんか? そのために必要な作業は、「志=何のためにビジネスをしているのか?」の再確認です。

(2007年7月16日号掲載)