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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

73)未来を自分で決めない

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
成功するビジネスに必須の考え方を発見しました! 
それが今回のタイトル&テーマです。


ビーサンをヨーロッパに?

 拙宅は神奈川県の葉山にあります。葉山は言わずと知れた海の町。漁港に恵まれ、魚がおいしく名産ですが、もう1つ、名物があり、それはビーチサンダル、略してビーサン。げんべいという店が自宅徒歩圏内にあります。ユーミンこと松任谷由美さんも立ち寄るこのお店のビーサンは、素晴らしく足にフィットし、長く歩いてもズレてかぶれたりせず、痛くなりません。五代目の若き当主(1972年生まれ)が、がんばっています。 彼はヨーロッパにも進出を果たしたい野望がある由。私はこの話を新聞で読んだとき、その心意気に拍手を送りました。いいじゃないですか、ビーサンでヨーロッパ制覇。もちろん、「本当にヨーロッパにビーサンが必要なのか」とか「ビーサンの原材料は石油という有限な資源を使っている。それを無制限に広げる、いわゆるグローバリズムの発想は無条件には賛成できない」という視点も認めます。しかし、それらを別の論点として今日は脇に置き、焦点を当てたいのは、「未来を自分で決めない」という姿勢です。ヨーロッパ人にビーサンが売れるかどうかなんて、やってみないとわからないじゃないですか。そんな問いに対する答えなど、どこにもありません。

 やるか・やらないか。成功するビジネスは「未来を自分で決めず、信じて飛び込む」ことから生まれています。


お金がない人だからこそお金を貸す

 2006年度ノーベル平和賞受賞のムハマド・ユヌスは、1976年、バングラデシュでグラミン銀行を創業しました。銀行は通常、一定額以上の定収入があり、読み書きできる人に向けて融資しますが、グラミン銀行の戦略は、すべて伝統的な銀行の逆を行くものです。銀行が金持ちに貸すのなら、貧乏人に。(銀行が)男性に貸すのなら、女性に。大口融資をするのなら、小口資金を。担保を要求するのなら、無担保で。文字の読めない人もOK。銀行に来てもらうのではなく、こちらから出向く。ユヌスがさきがけとなったマイクロクレジット(小口無担保融資)は少額(150ドル以下)を比較的手ごろな利率で融資(最初は20%、返済毎に低下)、そのお金で小さな事業を起こさせ、経済的自立と自尊心を獲得させる、という仕組みです。借り手はこの資金で起業し、事業利益から借金返済に充て、結果、貧困から自立し、脱却していく。グラミン銀行はビジネスとしても成功しています。

 05年、1585万ドルの利益を計上、預金は4億8700万ドル、貸付残高は6億1050万ドル。グラミン銀行の調査によると、借主の58%が既に貧困から脱却しているといいます。即ち、「お金のない人に融資をして、ビジネスとして成立するわけがない」という「未来を自分で決めるブロック」は完全に打ち崩されてしまったわけです。


携帯電話が貧困をなくす

 バングラデシュの人口は1億4800万人、うち70%が電気のない生活であり、1人当たりのGDPは約1ドル。貧しい国なのです。「そんな貧しい国民が携帯電話を持つはずがない。電話がつながって、一体何を生むんだ?」、これが「未来を自分で決めるブロック」でしょう。このブロックを完全に壊してしまった起業家がいます。イクバル・カーディア。彼は、グラミン銀行の「個人事業と起業を促進する」というビジネス・エッセンス(ビジネスの本質)を見抜き、自分の温めているアイデア、即ち、「つながりは生産性を高める。携帯電話はつながりを生み、生産性を高め、ひいては人々を貧困から救い出すことが可能になる」との融合を図ります。政府の規制など様々な障壁との闘いの末、グラミン銀行の理解と支援を受けて、グラミンフォンという携帯電話サービスを開始しました。

 結果、現在ではテレフォン・レディと称する女性起業家たちが年間所得平均750ドル、バングラデシュ人平均所得の約2倍を稼いでいます。彼女たちはグラミン銀行からマイクロクレジットを受けて起業し、電話を持つ。これで村に1台の電話(ビレッジフォン)が誕生するわけです。利用者(村人たち)はその電話を借り、利用度数に応じて料金を支払う。テレフォン・レディはそのお金で融資の返済をする、というわけです。97年に開始したサービスは今や1千万人以上の加入者を獲得、売上は10億ドル以上、利益も2億ドルを超えます。ビレッジフォンは25万台。確実に携帯電話は貧困を克服するのに役立っています。

 未来は「予測」からは生まれません。「実行」と、「自分を信じきる勇気」が創り出すものです。

*参考:ニコラス・P・サリバン『グラミンフォンという奇跡』(英治出版)東方雅美・渡部典子訳

(2007年12月1日号掲載)