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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

81)自分で動く

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
ネットで何でも調べられる時代だからこそ、現場に行き、
生の事実を自分の手でつかむ。そこにチャンスが潜んでいます。


ネット時代だからこそ

 今や、どんなことでもネットの検索エンジンで調べられます。翻訳していると、原書の描き出す時代風物、あるいは馴染みのない業界のしきたりなどに目配りをしなければならない場合があります。そういう時、検索してみると、ほぼ100%に近い率で、欲しい情報に到達することができます。今や翻訳も、ネット環境のない場所では成立しない仕事になりました。おかげで図書館や百科事典のお世話になることもなくなりました。

 しかし、私はある原則を自分に課しています。(1)必ず複数のソースを参照する、(2)すぐには無理かもしれないが、自分で調べることができるfactsは、自分で現場に当たる、の2点です。ネットにある情報は例外なく、人間の手や目を経由しています。そこに間違いや色眼鏡による偏光がない、とは言い切れません。ネット時代だからこそ、現場に当たる、この姿勢は、ビジネスにおいてとても重要なことだと思います。


現場で接客する意味

 日本の靴専門店業界で経常利益トップ(177億円)のABCマート(1990年設立)。全国に370店舗、従業員3500人、年間売上780億円と急成長を遂げています。同社の野口氏は、販売員からのたたき上げですが、社長になった現在も、自ら店頭に立ち、接客しています。理由は、「パソコンデータから読み取れない事実を得るため」。製品ごとの売上や、売れ筋商品はデータを見れば一目瞭然です。しかし、「なぜお客様がその製品を買ったのか・何のブランドと迷った結果、購買に至ったのか」がわかりません。だからこそ、現場に立ち、自ら接客するのです。


迷い度数

 これは、いわゆる私が謂うところの「迷い度数」です。以前、コンビニエンスストアのコンサルテーションをした折のこと。レジのPOSデータで「いつ・何が・いくつ売れたか」「どんな客層(性別と推定年齢)か」までわかります。しかし、「どういう購買プロセスを経て買うに至ったか」「何と何を手に取って迷ったか」まではわかりません。これを「迷い度数」と呼び、限られた棚のスペースに並べる商品の仕入れを決定する際、重要な指数になります。なぜなら、お客様には「迷う対象が複数あるからこそ買う」商品アイテムが確実に存在するからです。例えば、女性用のスキンケア商品などは1点しかない場合と、3点用意しておいた場合とでは、後者の方が売上がアップするのです。1点だと、「その店では買わない」行動を取ります。「選ぶ楽しみ」も添えて棚に並べる必要があるわけですね。

 「迷い度数」、店内に設置してある防犯カメラ映像をみんなでチェックして調べましたが、何よりライブ感があるのは、やはり現場でお客様の行動を観察すること。これに勝るものはない、という感想を持ちました。


渡辺謙さんの自ら動く主義

 今やハリウッドスターとして実績を積む渡辺謙さん。彼の仕事の仕方で大いに学ぶべきと思う点も、「自ら動く」主義です。

 『硫黄島からの手紙』(06年)で、栗林忠道中将を演じるにあたり、栗林氏の故郷長野県に足を運んでいます。結果、演じるための材料を得て、可能性が広がった由です。また、『明日の記憶』(06年)のエピソード。たまたまLAの日本書の書店で求めた原作を一昼夜かけて読み、読み終えたのが午前3時。是非映像化したい、という熱い思いが胸を支配して眠りにつけなかったそうです。そのまま原作者の荻原浩氏に宛てて「是非映像化をしたいと思います。1度お目にかかってお話をさせていただけないでしょうか」と手紙を書きました。これが映画化の出発点となったのです。その後も、若年性アルツハイマー病にかかった主人公の演技取材のため、神奈川県の老人介護施設に監督と一緒に視察に出かけたり、京都の陶芸家を訪ね、自らろくろを回したりしています。

学ぶことは日常の中にある

 弊社に新しく営業として入社するNが、オフィスの合鍵を作ってもらおうと、鍵屋さんに行きました。1軒目は「これは難しくて、無理です」と冷たく即答されて、ダメ。少し遠い場所にある2軒目の店主は相当な年配で、「おじいさん」と呼んでもいいくらいの人だった由ですが、「難しいけど、やりがいあるねえ」。ホッとしたN「3本入用なんですが…」「3本! ますます嬉しいねえ。やらせていただきますよ」。

 Nは、「少し遠いので、このお店には来たことがなかったけど、靴の修理もやってくれるらしいので、これからはここを贔屓にしようと思います。こんな日常生活の中にも、私が営業活動をしていくのに必要なヒントがいっぱいあるんですね」とメールしてきました。私はその文面を嬉しく読みながら、やはり、こういうところにも、現場を自分の手で触る重要性、必要性はあるのだな、と思いました。