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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

87)プロとしての悔しさ

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
人を成長させるのは「悔しさ」だと思うのです。


紙をくちゃくちゃさせて

 記念日を祝う食事会をしました。和食のお店で、大切なイベントなので、ある方のご紹介を戴いて予約を取った特別席です。個室、お料理はおいしく、その店の売りである日本酒も大変味わい深い、結構な味でした。

 問題は、和食会席コースの途中で起こりました。私たちの部屋には2人の和服のスタッフが担当でついてくれていました。1人は新人アルバイト、1人はベテラン風です。

 「この料理は何ですか?」と質問したところ、アルバイトは答えられず、ベテランに顔を向け、ヘルプを頼みます。ベテランは「ええーっと…」と言いながら、襟元から紙を取り出し、くちゃくちゃ音をさせてカンニングし答えてくれました。私はにこやかに御礼を言いながら、こう思ったのです。「彼女、これで悔しくないのかな?」。

 自分だったらどうするだろう。人間なので、つい忘れてしまうこともある。そういうときのためのカンニングペーパーだからそれはそれで構わない。しかし、問題はその使い方だ。接客マインドが先にあれば、「しばらくお待ちください。ただいま聞いて参ります」と席を外し、一旦廊下に出てからペーパーを見る。これがプロフェッショナルというものではないか。働く人である以上、悔しさや、それを支えるプライドは彼女も持っているはず。そのプライドが今回は、間違った方向に出てしまったのかもしれない。つまり、「聞いて参ります」のほうが、その場で(見苦しく)答えるよりも、自分にとって悔しい行動なのだ、と。


悔しさは成長の原動力

 働く人にとって、「プロとしての悔しさ」は、間違いなく成長のための原動力になり得ます。こんなエピソードがあります。以前このコラムでもご紹介した波動スピーカーをオフィス用に購入しました。ところが、現在あるオーディオ機器では接続できなかったため、これを機会に新しいものを買おう、そう思い、家電量販店に出向いたのです。オーディオ売り場で接客担当者の男性にこれこれこういう事情なので、スピーカーはある、アンプとプレイヤーが一体型になったものを探している、と説明しました。彼は、「ハドースピーカー?」と、ご存知ない様子。スピーカーに接続するケーブル端子の形状などを説明し、「それならここにあるどんなアンプでも接続可能ですよ」と言うものの、明らかに何だか様子がおかしいのです。

 彼のお奨めのオーディオを購入し、配送手続きのため用紙に記入していると、横から、「ちなみに、さきほどおっしゃったハドースピーカーって、どういう製品なのですか?」と質問してきます。「それはね、ハドーは波動のことで、通常LとRの2つ必要なスピーカーが1個で済むんですよ。それでいて、音はとっても広がりと奥行きがあって、すごくいいんです…」など、簡単に説明しました。「(ネットで)検索したら出てきますか?」。「出てくるよ、すぐに」。「勉強いたします! ありがとうございます!」。彼の全身から、オーディオのプロとしての悔しさがにじみでてきているのです。ああ、こういう人がプロフェッショナルとして成長できるんだな、いいな、と頼もしく思いました。


悔しさは美学につながる

 「伝説のサーファー御用達の店」があります。Jといい、鎌倉で23年間営業したのち、惜しまれつつ閉店、そしてその翌年JR逗子駅前に再開しました。今年25年目のJは、マスターの美学が店の隅々にまで行き届いています。

 マスターは、自店を「大人の食堂」と定義し、「大人が酒を飲みながら口にする食べ物だから、味はいずれもご家庭よりちょっと濃い目にしています」と言います。いつもバドワイザーを片手に、ご機嫌にいただくので、味の濃い、薄いは私には正直「おいしい」としか、わかりませんが(笑)。

 マスターの、店のスタッフに対する指導は徹底していて、例えば、コーヒーを供してくれるときも、取っ手が客に向って左側を向いていないと、その場で奪うように直します。何も客の目の前でやらなくても…と私は苦笑しながら眺めていますが、おそらくマスターは「どうしてちゃんとやれないんだ」と、悔しいのだと思います。だから思わず、手が出てしまう。そして、この「こだわりの先にある悔しさ」が、そのまま、マスターの美学の体現につながっているのだと思います。

 プロフェッショナルとしての悔しさ。いつまでも持ち続けたいものですよね。


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