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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

111)こころ合わせ

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
お客様との「こころ合わせ」が鍵!


こころのチップを合わせる

写真家の溝江俊介氏はキャリア35年の大ベテラン、長く風景を中心に作品を撮ってこられました。2年前に大病を得、その後写真に向き合う自分のこころのスタンスが変わったといいます。それは、「人物を撮ることが面白くなった」というものです。理由は、「人物を撮る時、被写体である相手のこころのチップと自分のこころのチップを合わせる必要がある。人間の表情は250分の1秒で変わるけれど、その変化の中、どこかでお互いのこころ
のチップがぴたりと合う一瞬がある。そのスパークがシャッターチャンス」とのことです。
 
狂言師の野村万作さんを撮る時は5分しか時間がなかった。その5分のうち3分を使って、万作さんの表情を必死に読み、それから瞬間を捉え、撮影に成功したといいます。仲代達矢さんからは、「これまでで一番よく自分が出ている」と喜ばれた由です。「こころのチップを合わせる」、これはビジネスの基本の基本ではないでしょうか。もちろん、相手はお客様のこころです。


バースデーだから…

ニューヨーク時代、家族でお世話になっていた歯科医師ドクター・チェン。彼は神業のような腕(ゴッドハンド)を持っていました。同じ日に親知らずを二本抜く、という治療をしても、患者の私は全く痛みを感じなかったのですから、今でも信じられないくらいです。

チェン先生にこんなエピソードがあります。その日私のパートナーの誕生日でした。それを知ったチェン先生「そうか、今日は君のバースデーだったんだね。OK、治療費10%引いておくよ」。

あれから10年以上たっていますが、今でもチェン先生の話題になるとパートナーはこのエピソードを口にします。彼女にとって、治療費が安くなったことはもちろん嬉しいことではありますが、それだけではなく、いや、それ以上に、チェン先生の「特別な一日を祝福してくれる気持ち」が、胸に熱く刻み込まれたのだと言います。「こころのチップが合った」ことに嬉しさを感じたのです。


35分何もしない

Mさんはメークアップアーティスト・ヘアデザイナーです。芸能人やさまざまなアーティストを手掛けています。縁あって、私もヘアスタイルをお任せすることになりました。髪の毛の絶対量が減少しているので(とほほ・・・)、一体どうするのだろう、とヘンなところで興味津々、青山のサロンに出かけました。

お店に入り、すぐに鏡の前の椅子に座るのかと思いきや、その後ろにあるデスクに通されました。デスクをはさんでMさんと向かい合う形です。それからえんえん私とMさんはいろんなことを話しました。音楽のこと、映画のこと、ビジネスのこと、今手がけている本のこと・・・。途中、私は理解しました。Mさんは私と「こころのチップを合わせようとしている」。35分過ぎた頃、突然「ではそろそろ始めましょうか」と、Mさんが立ち上がり、私も鏡の前の椅子へ移動しました。そうしてやっていただいたヘアスタイル、自分ではとっても気に入っています。周囲にも褒められます。


ポイントカードなんか
要らない

よくランチに利用するレストラン。ランチを一回食べる毎にスタンプを一個押すポイントカードをくれます。スタンプが20個たまるとランチ一回分無料にしてもらえます。ところが、私はカードを一度も提示したことがありません。フロアスタッフ始めみんな顔なじみなのですが、ある日お勘定の時、「そういえば阪本さん、スタンプ押しますよ、カード、お忘れですか?」と聞かれました。私の答え。「あのカードは、今度いつ来てくれるかわからないお客様に、また来てね、ひいきにしてね、という販売促進策でしょ? ぼくはそういうのがなくても放っておいてもよく利用するし、ひいきにしているから、要らないんです」。

私がこの店に来る理由は、料理がおいしい、価格がリーズナブルである、なじみのスタッフとの会話が楽しい。店の空気がゆったりしていてくつろげる・・・。要するに、私とこのレストランとは「こころのチップが合っている」から、マーケティングやプロモーションはする必要がない、ということなのです。商いの基本に戻りましょう。


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『HOPE!おばちゃんとぼく』
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