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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

113)ふーみんとどこが違うか

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
繁盛している店は特別なのでしょうか。


行列のできる中華店

知人に連れられ、青山骨董通にある中華風家庭料理店「ふーみん」に行きました。知人は顔なじみで、開店当時から通っています。ランチ時には長い行列ができてなかなか入れないこの店も、夜ちょっと遅めだったためか、ラッキーなことにカウンター席を確保できました。カウンターからは厨房がすぐそば、ふーみんことオーナーシェフ斎風瑞さんが懸命に中華鍋を振る姿を間近に見ることができます。いただいた料理「ねぎワンタン」「牛レバーの二色にら炒め」「五目やきそば」…いずれも絶品で、生ビールにぴったり合い、最高でした。話もはずんで、えんえん3時間も長居してしまったくらいです。


強烈なインパクト

美容師を目指していたふーみんさんは料理の専門的な教育を受けたことがなく、見よう見まねで始めたといいます。30年前、開店した当初のお店はお寿司屋さんだった物件を居抜きで借りたため、寿司ネタの魚を入れるガラスケースがそのままある造りでした。当時の東京では、中華風家庭料理といっても、だれもピン、と来ない状況で、お客様にどんな料理がいいのか教えていただきながらメニューができていったといいます。そのようにしてふーみんさんにアドバイスした人たちの中には、お店近くにオフィスのあったイラストレーターの和田誠さんや灘本唯人さんの顔もあったそうです。

ふーみんさんは、私がいた3時間の間ほぼずっと、中華鍋(めちゃくちゃ重いらしいですね!)を振っていましたが、途中、合間を見て挨拶に来てくださいました。おなじみさんに見せるのと同じ笑顔を見せ、料理の味はお口に合いますか、とか、どうぞゆっくりしていってください、といった内容の声をかけてくださいます。

実はこの「ふーみん」初体験から三週間は経っているというのに、色褪せない強烈なインパクトが私の中に残っています。


スーパーで会っちゃった

自宅近所のスーパーで、ひいきにしている居酒屋のご主人とばったり出会いました。彼は野菜を品定めしているようでしたが、「何か悪い現場に出食わしてしまった」ような、そんな気がしました。「うちでいつも使っている野菜と同じ野菜を使っているんだ…」というのは、理屈では納得できたとしても、「何ともいえないざらつき」となって胸に残ります。仕入れにも特別なノウハウを込めてほしいものです。

同じく自宅近所のラーメン店。久しぶりに行くとメニューが増えていました。ギョーザとラーメンのセットメニューのほか、何と、カレーライスも始めたようです。見違えたかと二度もメニューを見直しましたが、どうやらうどんも始めたみたい(笑)。しかし、お客さんは昼時というのに閑散とし、私以外の二人はいずれも近所の人ではなく、仕事でたまたま立ち寄った、といった風です。つまり、お得意様ではないのですね。私は今回で3回目、それでも2年近くの久し振りです。「メニューの数と客の数とは反比例する」という飲食業の法則を発見しちゃいました。メニューの数ではなく質が重要なのです。


ふーみんとどこが違うか

居酒屋もラーメン店も、残念ながら、ふーみんほどのインパクトを与えてはくれません。なぜでしょう。ふーみんが特別なのでしょうか。ノー。ふーみんさんは素人同然から料理を始めました。立地条件? ノー。仮に「ふーみん」と同じ場所に出店したとしても、店主の「心根」(お得意様と会う可能性の高いスーパーで仕入れする心根、ラーメンそのものの味をおいしくする努力をするのではなく、順列組み合わせのメニューをただ増やすだけにエネルギーを注ぐ心根)が同じなら、ふーみんにはなれません。しばらく考えました。なぜたった一回しか行っていないふーみんに惹かれ、ご近所のひいき目があるにもかかわらずこれらの店にがっかりするのか。

「料理にひと手間を惜しまない」「常に改良の気持ちで研究する」「お客様を愛している」という三つの条件がふーみんにはあって居酒屋にもラーメン店にもない。これが答ではないか。同じキャベツを茹でるにしても、ひと手間をかけるのとかけないのとでは味が違います。

どんな商売にも共通していると思いませんか?


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(2009年3月1日号掲載)