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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

119) プロジェクトを完遂するために

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
プロジェクトに困難はつきものですが…。


いいアイデアはいい香りがする

どんなプロジェクトでも、最初は1人のアイデアから始まります。『ファインディング・ニモ』『トイ・ストーリー』『ウォーリー』など、斬新な3Dアニメ映画でスマッシュヒットを連発しているピクサー(Pixar)社でも、映画制作の第一歩は、映画化したい自分のアイデアをストーリーに仕立ててメンバーにプレゼンテーションするところからスタートします。まずは社内を巻き込めずして、不特定多数のオーディエンスに訴えることはできないでしょう。

映画作りに限らず、プロジェクトは社内、社外の複数のメンバーと進めていきます。自分のアイデアをメンバーに説明し、訴え、共鳴してもらい、実現したい・一緒にやりたい、という思いの温度を上げるのです。

この時、大切なことは何でしょう。よく耳にする用語に「フィジビリティー・スタディー
(feasibility study、以下F S と略)」があります。市場性、採算性などを論理的整合性のもと試算する作業です。しかし、FSの精度をいくら高めても、メンバーのやる気に点火し、何が何でも実現してやろう、というモチベーションの炎を燃やしつづけるのは、論理ではありません。そこが人間の面白いところで、人は理では動かないのです。では、何が人を動かし、プロジェクト実行過程で壁にぶつかっても乗り越えようとさせるエネルギーになるかというと、アイデアのもっている「香り」です。ナイスなアイデアはいいにおいがしているものです。一見非論理的ですが、経験を積んだ方なら素直に納得いただける経験則だと思います。そしてこの「いい香り」が、プロジェクトメンバーを最後まで牽引するパワーの源になるのです。



映画『レッド・クリフ』は
雨との戦いだった

ジョン・ウー監督、トニー・レオン、金城武、チャン・フォンイーなどが出演して大ヒットした映画『レッド・クリフ』。制作しているうち5時間を超える超大作になってしまったため2部構成になった傑作です。小道具・大道具を始め、すべてが本物志向のディテール、ジョン・ウー監督ならではのアクションシーン、何と言ってもストーリーの息もつかせぬ面白さでぐいぐい観客を巻き込んでいく一級のエンタティメントですが、この映画で重要な役割を果たすのが1千人を超えるエキストラ。野外ロケにおいて、1番の難題は天候でした。雨が降ると衣装が濡れ、地面も濡れ、何もかもが「おじゃん」になってしまいます。さっきまで乾いた大地の上で立ち回りをやっていたのに、次のシーンでは水たまりがあったらおかしいですよね。しかも、1千人分の衣装を何着も用意しておくことなどできません。予算の問題も当然ありますが、置く場所もそうそうあるものではない。だから、雨で濡れたら今着ている衣装を乾かさなければならないけれど、野外でどうすんの? という状態です。

そこで、専任のスタッフが撮影地から10キロ離れた場所で待機し、雨雲の流れを電話で報告していました。1千人の退避ですから、簡単じゃありません。ある時など、たった3キロしか離れていなかったので、雨雲の速度にエキストラの退避が間に合わなかったそうです。スタッフが語ります。「もう、今年の撮影は無理かもしれない、と思いました」。それほど大変な現場、苦労の多い現場なのですが、これなど、実際に野外ロケをやってみないことには、会議室の中で思いつくものではありません。このようにプロジェクトのぶつかる壁は予測不能です。FSをいくらやったところで、トラブルは必ず起こる。それでも『レッド・クリフ』スタッフが全員一丸となって実行し遂げた理由は何か。ジョン・ウー監督の最初のアイデアの香りがいいからです。初め、健康上の理由によりキャストを辞退したトニー・レオンが、クランクイン初日の主役の降板によって、困った監督に再度出演を受諾することになったのも、アイデアの香りが良かったからだと思います。



アイデアを良い香りにするには

「アイデアのいい香り」は表現を変えると、「胸に響く」。理ではなく、情に訴えかける力を持っているかどうか。その鍵となる感性は、日頃から美術、文学、演劇、音楽など、ビジネス以外の分野にも親しむことで、訓練可能です。あなたのアイデアの香りは、どうですか?