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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

124)おごれるものは…

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
絶頂の時は下り坂の時です。



感動の味

5年ほど前、広島・宮島へ行きました。いつも一緒に旅に出る仲間との4人旅です。無料観光情報誌裏表紙に載っている「焼きがき」の店Hで牡蠣を盛大に食べてやろう。世界遺産厳島神社参道沿いに発達した商店街の中、目指す店はありました。雑誌広告に載っている写真そのままの姿で、おばちゃんが牡蠣を焼いていたからすぐにわかったのです。

「はい、4人さん? どうぞどうぞ!」。愛嬌たっぷりのおばちゃんに通され、早速焼きがきを注文。軽くつまむ程度のノリでいたのですが、やがて運ばれてきた焼きがきを一目見て、思わず、「すごい!」とみんなで叫んでしまいました。

一口食べて、その旨さに声も出ず。ぷりぷり、ジューシー、臭みがゼロ。思わずおかわりを頼み、一皿、また一皿と、際限ないほど食べてしまいました。運んでくるおじさんが「はい、3粒おまけしといたよ!」というのもトクした気分で、牡蠣を「粒」と数えるのも旅情を誘います。同行の私たちは全員、ノックアウトでした。それ以降、仲間内で折にふれ「焼きがき」の話題が出て、感動を話し合ったものです。

後日広島地方を巨大な台風が襲い、厳島神社が大被害を受けたニュースを見ました。私はいても立ってもいられず、Hに電話して、無事を確認したほどです。電話口のおばちゃんは変わらぬ良い愛想、みんなで胸をなでおろしました。



空気が変わっている

つい先日、倉敷に仕事があり、せっかくだからと広島に足を伸ばして例の店Hを訪問すること
にしました。同行者ははからずも前回一緒に行ったメンバーと同じ顔ぶれです。見覚えある店構えが目に入ってくるとワクワク、幸い、並ばずに席を確保することができました。5年前と比較して、店内はきれいに内装が変わっていました。私たちが入店してすぐ、長蛇の列ができました。大繁盛です。

早速焼きがきを注文。すると「現在、20分から25分くらいお待ちいただきますがそれでもよろしいでしょうか」。「いいですよ。じゃ、それまで何か頼んでおこうか。何が早いですか」「生がきとかカキフライなら早いです」。「じゃ、両方ください。あとビールもね」ホッとして、周囲を見回します。すると…。

何か空気が変わっているのです。前回いた焼き係のおばさんがいないからか、と思いましたが、どうもそれだけではなさそうです。

レジの上にモニターテレビ、店内の様子が映し出されています。入口自動ドアの店外フロアには黄色い線が引いてあって「ここから先で並ばないでください」と係の男性が並び始めたお客さんに注意しています。でも、お客さんたちは待っている間ショーケースで料理を選んでいるうちに、つい、その黄色い線を超えてしまいます。すると、あわてて係が飛んできて、また注意します。

店内に通されたカップル、「ここでお待ちください」と、入ってすぐのところに立たされていました。その目の前で、先のお客さんが立ったテーブル上の空いた皿やコップを片づけ。なぜ片づけてから通さないのか、不明です。

あるお客さんがレジのおやじさん(店長らしき人)に近所の観光について何か質問しました。「さあ、わからないですねえ」。おやじさんはお客さんと目を合わさず、どこか遠くを見ながら、あっさり答えました。



フレンドリーな魂が消えた

5年前にあった店内全体を包むフレンドリーさが消えてしまっています。この店の売りはもちろん焼きがき。それで取材もあり、店内大型テレビではグルメレポーターが訪問した際のビデオが繰り返し流されています。しかし、本当の売りは「フレンドリーな魂」だったはず。今は繁盛しているのでしょう。だから何をやっても当面の売上が下がったりする目に見えた変化はないはずです。しかし、山も頂に登ったら後は下るだけ。繁盛の時こそ一つひとつを虚心坦懐に見直さねばならないな、と改めてかみしめたものでした。

「代金は代表がまとめてお願いします。1人ひとりで支払わないでください」と大書されたレジでおやじさんに聞くと、以前いた愛想いいおばちゃんは定年退職した由。人1人が変わるだけでも、これだけ空気が変わる。つくづく、店舗は生き物だなあ、と思いました。


(2009年8月16日号掲載)