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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

126)海外に暮らすメリット

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
皆さんは恵まれています。


言葉を磨く

某企業の新人研修講師をしました。200人もの若いキラキラした瞳に見つめられながら話していると、彼らの希望や夢が1つの大きなパワーになって押し寄せてくる感じがし、とても元気をもらいました。彼ら若いビジネスパーソンに強調したことは「感性を豊かにしてほしい」という点。学生時代は「どれだけ賢くなるか」に焦点を当てていたかもしれないけれど、社会人になったら、頭脳もさることながら、いかに感情の襞を増やすか、いかに想像力の翼を広げられるか、がポイントになります。たとえば、製薬会社を例にとってみます。商品は当然ながら薬です。しかし、単に製品としての薬を売っているのではない、薬の向こう側にあるもの、それは即ち、病気を治したい患者さんと、その家族の気持ちへのケア、癒しを販売しているのです。そしてこのような想像力を豊かにするために必要な力は、日本語力なのです。日本語の語彙数を増やす、言葉の空気感を磨く、相手の言っているニュアンスを的確につかみ、自分の伝えたい内容を過不足なく表現できる力。これらが感情のシワを増やし、感性を豊かにしてくれるのです。


羅針盤

私自身、ニューヨークで暮らした経験から申し上げて、海外で暮らすことのメリットの1つは、「日本語が乱れない」ことが挙げられます。自分が使う日本語は、いわば自分が自分である羅針盤。現代日本に暮らしていると、情報はケータイやネットPCなどで指先へ簡単に入ってきます。その気になれば、電車に乗っている間もワンセグでテレビニュースを見ることさえ可能です。

しかし、ここが曲者でして、あまりに多い情報量、しかもその品質があまりに玉石混淆で、ついつい、知らぬ間に、肝心要の羅針盤たる日本語が乱れてしまいます。ところが、海外で暮らしていると、そのような、まるで激流に飲み込まれてしまうかのような情報洪水に遭わずに済みます。NYやLAで長く生活しておられる日本人や日系の方と話していると、その美しい、きちんとした日本語にホッとすることがあります。


絶対浮力と相対浮力

お椀を海に浮かべてみます。上手にソッと置けば、ひょっとするとしばらくは浮いているかもしれません。しかし、ちょっと波が来ればたちまちのうちにひっくり返り、沈んでしまいます。かたやゴムボールではどうでしょう。ボールは自分に浮力がありますから、いくら波が来ようと、ずっと浮かんでいます。このように、自身に浮力のあることを絶対浮力、お椀のように、自分にはなくて、手で支えてもらわなければ沈んでしまうことを相対浮力と呼びましょう。

ビジネスパーソンにとっての絶対浮力とは、互恵(人にお役立ちできる)能力、問題解決能力、本物の人脈など、要するに、たった1人で世間に放り出されても生き抜いていける力です。海外生活の場合、これに外国語能力も入るでしょう。相対浮力は、学歴、所属企業、出自、役職、免許、資格、容姿、財産によって決定されるものです。つまり、「泡沫(うたかた)の力」です。海外生活するメリットは、相対浮力からフリーになれることです。NYやLAでビジネスするのに、「英検一級もってます」(資格)、「東大出ています」(学歴)と言ったところで、目の前のアメリカ人と腹を割ったコミュニケーションができなければ、商談の1つもまとめられないでしょう。


古典を読む

冒頭の新人研修で、彼らが感性を豊かにするために私がお勧めしたのは、古典の読書です。古典といっても、あまりに古過ぎない、漱石あたりが最適です。漱石でも『坊つちゃん』『三四郎』『夢十夜』が良いと思います。『吾輩は猫である』は、見た目はやさしそうですが、実は相当に奥深い内容なので、初心者にはお勧めできません。漱石は活き活きした日本語を学ぶのに最適のテキストです。私はニューヨーク時代、マンハッタンの夜景を背景に『夢十夜』を読み、不思議にぴったりはまることに驚いた経験があります。LAのマリナ・デル・レイのカフェで読む『坊つちゃん』はまた格別でしょう。

美しい日本語に触れ、自分でも普段使いの言葉に気をつける。これが、動じない絶対浮力を身につける秘訣と思います。


(2009年9月16日号掲載)