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現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

145) トレードオフ

マーケティング講座

こんにちは!阪本啓一です。
中途半端が一番いけません。


上質かお手軽か

面白い本に出会いました。ケ ビン・メイニー『トレードオフ』 (有賀裕子訳、プレジデント社) です。著者は『USA Today』のテ クノロジーコラムなどを書いて きた人。本書の鍵となるコンセ プトは、「顧客は上質か、お手軽 かの二者択一を求めており、上 質でありながらお手軽、あるい は、お手軽でありながら上質と いった中途半端なポジショニングはうまくいかない」というも のです。戦略とは捨てること。 あれもこれも、ではなく、上下いずれか1つでいく。

著者ケビンは、ヨコのX軸 に「手軽(convenience)」を、タ テのY軸に「上質(fidelity)」を 置き、多くの企業が陥りがち なワナは、その両方を満たす 右上の部分が幻影(the fidelity mirage)に過ぎない、と指摘し ます。「松竹梅」(上・中・下)戦略を取ると、真ん中のゾーン 「竹」は、上質でもなくお手軽で もない「不毛地帯(the fidelity belly)」になってしまう。だから 「竹」はやめなければならない。

思えば、この「上質か、お手軽 か」というトレードオフの考え は、ブランド戦略にも大いに関係します。価格決め(プライシ ング)の時、一番関係しますね。 価格はブランドが提案する価値を具体的に、わかりやすく示すマニフェストですから、「上質」 なのか「お手軽」なのか、態度をはっきりさせる必要がある。まずここがあいまいだと、顧客の記憶に粘り付くことができず に、ブランド化することができ なくなります。即ち、価値設計の焦点がきりりと絞りこまれているかどうか、です。


不毛地帯に陥ったネットブック

日本の家電量販店に行ってみると、人だかりと閑散としている所がはっきりしていて、前者はiPhoneやiPad、後者は ネットブックコーナーです。移動中などにネットへ接続し、簡単なメール処理やウェブ閲覧作業ができるネットブック。iPadが出現した今、この商品は 中途半端になってしまいました。パソコンほどの馬力もないし、といって価格がびっくりするほど安いわけではない。iPadなら、ネットブックのできることはほとんどできるだけでなく、美しい液晶画面、使い勝手の良さ、五感に訴えかける美的センスなどで圧倒的に優位 に立ちました。ネットブックは 「不毛地帯」に陥ってしまった のです。

現在の「モバイルコンピュー ティングの状況」を、「戦略の変曲点(strategic inflection points)」といいます(元インテルの伝説的CEOアンディ・グローブのネーミング)。パソコンという製品の戦略が大きく変わってしまったのです。ユーザーの立場からすれば、パソコ ンはオフィスや自宅のデスクの上でする作業用だけではなく、ドアを飛び出し、外のどこ かで仕事に使ったり、エンターテインメントを楽しんだり、電話やメールといった通信手段として使う道具になったので す。そうなると、わざわざ重いパソコンを持って出かけなくても、移動中のメールやウェブ 閲覧、Twitterなどの利用なら、 iPhoneで十分すぎるほど。だか ら、出張に重くてかさばるパソコンを鞄に入れる「しんどい習慣」を、iPadやiPhoneは「なかったこと」にしてくれる福音なわけです。しかもiPadの最上スペック「64Gバイト+WiFi+3Gタイプ」でも月々3220円で手に入ります。iPadは上質かお手軽かというと、提供価値はまったく新しいものであり、イノベーションです。その場合、既存の「上質」「お手軽」という基準そのものを吹っ飛ばしてしまうパワーになります。


電気・水道・ガス・ダイシン

東京・大森で、高齢者をメインターゲットとして繁盛してい るダイシン百貨店。ここは「お手軽」戦略を徹底的に貫いて繁盛しています。価格は周囲のスーパーと比較して安くはないのですが、店の立地半径 500 m圏内(つまり、徒歩圏内) 100 %シェ アを目標に、商品アイテム18万点を取り揃えています。中には 年間わずか4個しか売れない商品でも、「あの人が買ってくださるから」と顧客の顔がわかる仕入れ担当者のはからいで、高齢者のツボをストライクに押しています。来店者1日2万人、年間400万人、そのうち50%以上が60歳以上の高齢者です。買い物に来たけど、水やビールなど重 いものは持って帰れない高齢者のために無料宅配サービスをし ています。同社西山社長の掲げるスローガンは「電気・水道・ガス・ダイシン」。上質を捨てた地域密着戦略です。

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www.arikata.net

(2010年8月1日掲載)