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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

153) ブランドを生きる

マーケティング講座

こんにちは!阪本啓一です。 会社と個人のブランド、 一致してますか?


トイレの神様

植村花菜さんをご存じでしょ うか。 『トイレの神様』 が大ヒッ トして2010年ブレイクし た歌手です (ご存じない方は YouTubeで検索してみてくだ さい。 曲を視聴できますよ) 。 幼 い頃の祖母との体験をもとにし た歌詞が感動的です。  

09 年秋、 植村花菜さんが所属 する事務所の社長が、 「約 10 分 (9分 52 秒) ある長い曲なので、 ラジオでかけてもらえるでしょ うか」 と、 大阪のFM 802 を訪問 して来られました。 FM 802 は 「全曲ノーカットでかける」 を ポリシーにしているので、 「大丈 夫ですよ。 『ホテル・カリフォル ニア』 2回分ですから」 とよく わからない太鼓判を押し (笑) 、 10 年1月7日、 FM 802 の番組で 初めてオンエアされました。 途 端、 番組のBBS (掲示板) に 100 件を超える書き込みが寄せられ ました。  

「今、 車運転しながら聞いて いましたが涙が止まりません。 思わず車を停めています」 。  

「あかん号泣して化粧がえら いことに…。 初めて聴いて泣い たの何年ぶりだろう」 。  

「洗濯もの干しながら何気な く聴いていたら、 大泣きしてし まいました」 。  

同時に、 放送直後から、 リス ナーからの多くの問合せとリ クエストが殺到。 放送を聴いた 神戸新聞記者が、 感動をコラム にしたり (1/ 26 『正平調』 ) 、 同 じく衝撃を受けたテレビ局 (M BS) 報道記者が特集番組を制 作(5/7『 VOICE』)、ド キ ュ メンタリー番組 『情熱大陸』 (7 / 25 ) 、 日経MJヒット商品番 付入り ( 10 年上期) 、 ノンフィク ション小説 『トイレの神様』 (宝 島社) 8万部突破、 絵本発売、 映 画化の話が複数社からオファー など、 ちょっとした社会現象に なりました。  

誰もが持っている幼い頃の思 い出、 故郷への郷愁、 家族との 「面倒だけど大切な絆」 …、 これ らの思いが共感を呼び、 「トイレ の神様」 は大ヒットしました。  

5月、 上海万博日本産業館の 総合プロデューサーを務める堺 屋太一氏も曲を聴いて感動、 「上 海万博でも是非演奏を」 とのオ ファーになりました。 結果、 7 月 13 日には植村さん初の海外公 演が実現し、 画面に流れる中国 語訳詞に2千人の中国人も涙し ました。 『トイレの神様』 は言葉 や文化を超えた共感を生み出し たようです。


逆転ホームラン

実は植村花菜さんにとって 『トイレの神様』 は、 野球でいう と9回裏2アウトの土壇場に出 た逆転ホームラン的な意味があ ります。 デビューしたものの、 6年間ヒットに恵まれず、 所属 レコード会社からは3月に契約 打ち切りと言われていました。 それがぎりぎりの1月にFM 802 で流れたことがきっかけでヒッ トとなり、 起死回生につながっ たのです。 3月 10 日発売のミニ アルバム 『わたしのかけらた ち』 は 10 万枚を突破するヒット に。 もちろん、 レコード会社と の契約は更新です。  

ここまで長々と植村花菜さん の話を続けたのには理由があり ます。 彼女のデビューにこの私 が薄く関わっていて、 そしてそ の背景にあるのが、 FM 802 の開 局以来変わらないブランド価値 (他局にはない、 とんがった価 値提供) なのです。 それは、 「新 人発掘」 。 開局以来一度もブレ たことがありません。


ブランドを生きる

10 年ほど前、 私が主催するビ ジネスセミナーにFM 802 のF氏 が参加されていました。 参加者 仲間にリフォーム会社経営のM さんがいて、 「今手掛けている仕 事のクライアントの家にいる女 の子」 の話題になりました。 「歌 が好きで、 ギター弾いてる子や ねん」 。  

F氏は、 「ブランドを生きる」 人です。 会社のブランド価値そ のものを彼自身が生きる生活を しています。 つまり、 無名の新 人がいたら、 会いに行き、 フォ ローする。 F氏は早速、 その 「歌 が好きで、 ギターも弾いている まだ学生の女の子」 に会い、 そ れ以降、 ずっとフォローしてい ました。 その 「女の子」 こそが、 植村花菜さんなのです。 それか ら 10 年間フォローし続ける、 と いうのは 「言うは易し、 行うは 難し」 の典型だと思います。  

コーポレートブランドと個人 のブランドとの一致、 言い換え れば会社と個人の 「あり方」 が 一致していなければできるもの ではありません。 FM 802 のブラ ンドとしての強さは、 F氏のよ うに、 「ブランドを生きる」 社員 がいることでなされています。 ブランドは 「○○でありたい」 といったお題目であってはなり ません。 リアルな行動に移して こそ価値として成立します。


阪本さんの新著書が9月に発売!
『共感企業〜ビジネス2.0のビジョン』(日本経済新聞出版社)
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(2010年12月1日掲載)